デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

10 / 20

 ようやっと雄英入学。前フリが長いねん。
 オリジナル要素が増えます。つまりその分ウンチクが増える。
 というわけでちょっと長めです。




入学、そして……

 

 

 

「出久、忘れ物無い?」

 

「大丈夫だよ母さん、ありがとう」

 

「本当に大丈夫?」

 

「うん、問題ないよ」

 

「出久、あのね」

 

「? どうかした?」

 

「その、えっと。制服、似合ってるわよ。いってらっしゃい」

 

「うん、ありがとう。いってきます!」

 

 

 春。

 

 それは桜の季節。

 

 出会いと別れの季節。

 

 そして今年の僕らにとっては、入学の季節だ。

 

 

「おはよう、かっちゃん。今日は一段と破壊力が高いね。制服姿すごくかわいいよ」

 

「ん、おはようイズク。ま、アタシだからな。お前もちったぁサマになってんじゃねーの。馬子にも衣裳ってか」

 

「あはは、ありがとう。髪型、結局ツインテールにしたんだね」

 

「まーな。また変えるかもわかんねーけど、しばらくはこの髪型で行こうと思ってる」

 

「そっか。かっちゃんはどんな髪型でもかわいいけど、僕ツインテールは特に好きだな。よく似合ってるよかっちゃん」

 

「はっ、トーゼン。いちいち当たり前のことを言ってんじゃねーよクソデク」

 

「それもそうだね。それじゃ行こっか、かっちゃん」

 

 

 いよいよ、雄英での一年が始まる。

 できる限りの準備はしてきたけど、万全と言えるほどじゃあない。

 原作通りに進行すればかっちゃんに大きな怪我はないはずだけど、それもどうなるかわからない。

 

 せめてかっちゃんだけでも、無事でいてほしい。そのためには僕のすべてを捧げなきゃね。

 

 

 

 〇

 

 

 

 雄英高校ヒーロー科。

 

 一般入試の定員たったの36名、推薦入試合格者を含めてもわずか40名2クラスの狭き門。

 毎年一万人に及ぶ受験者数を以て300に至る倍率は、トップヒーローへの道程の険しさを物語る。

 そんな中で主席の座を頂いた僕は、而して満足するわけにはいかない。

 僕は未だスタートラインの前段階にて僅か他より抜きん出ているだけであって、僕らの物語はまだまだこれからなのだ。

 

 まぁ、何が言いたいかって。

 

「聡明ぃ?クソエリートじゃねーの。『僕はエリートだから君たち庶民を導いてあげますよ』ってか。仕切ってんじゃねーぞメガネ野郎」

 

「なっ!?そ、そんなつもりは……僕はただ」

 

「あーいぃいぃ。アタシは仲良しするために来たわけじゃねーんだ。っつーかアンタ、一般入試ン時いたよな?」

 

「あ、あぁ……」

 

「アタシは次席で主席はコイツ。つまりテメーはアタシより下だ。弁えな」

 

「そこまでだよかっちゃん、あんまりケンカ腰にしないの。ごめんね飯田君。僕は緑谷出久、それから彼女は爆豪樺月。かっちゃんこう見えて初対面の人に緊張する(タチ)だからツンツンしてるだけなんだ。悪気はないんだよ、ホント。僕ら同郷で幼馴染なんだ。仲良くしてくれると嬉しいな」

 

「すっこんでろイズク、こーゆーのは最初が肝心なんだよ。っつーかテキトーこいてんじゃねーよ、信じたらどうする」

 

 かっちゃん、格付けとかどうでもいいから、仲良くしようよ。これから苦楽を共にするんだからさ。

 

 

 始業まではまだ時間があるので、1-Aのメンバーはまだ七割くらいしか揃ってない。

 僕らも結構早めに到着したんだけど、飯田君は更に早く登校していて机を綺麗に整列させるなどしていた。

 生真面目というか、なんというか。まぁ、原作の登場人物が原作らしい行動を見せるのは個人的に嬉しいものがある。彼には是非ともそのままでいてほしいところだ。

 

「ところで緑谷君、君は目や耳がたくさん付いた頭部の持ち主に心当たりはないか?」

 

「というと?」

 

「それが、俺のいた試験会場にとんでもない実力者がいてな。彼が落ちているとは考え難いし、俺はてっきり彼こそが主席だとばかり思っていたから、君が主席だと聞いて意外に思ってしまったんだ。何か知らないか?」

 

「何かというか、それ僕だね。ほら」

 

「なっ!?……す、すごい個性だな。変身系か?」

 

「そんな感じ。僕も君のこと覚えてるよ、すごい速さで駆け回っていたよね。とても印象的だったんで覚えてるんだ」

 

「そ、そうか?そう言って貰えて光栄だが……そうか、君が主席なら納得だ」

 

「なになに、君主席なの?」

 

「あー、まぁうん、一応。僕は緑谷出久、よろしく」

 

「私、葉隠透!よろしくね緑谷君!」

 

「おいテメェ……緑谷っつったか……」

 

「う、うん。緑谷出久です、よろしくね」

 

「よろしくするつもりになれねーよこの野郎……イケメン高身長でその上主席でさらにかわいい幼馴染までいますってか……?ちったぁ分配しやがれこの野郎!せめてずっとさっきのキモ頭でいろよぉ!!」

 

「そ、そんなこと言われても……アレ本気で戦闘行動するときの本気フォルムだし……」

 

 うーん、こっちも解釈一致。ブレないなぁ峰田君。

 

 そうこうしているうちに始業の時間が迫ってきていて、結構席も埋まっている。麗日さんも来てるし、そろそろかな。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

「ここは……」

 

 ヂュッ‼

 

「ヒーロー科だぞ」

 

 

 おお、すごい、ホントに小汚い。原作通りで安心するね。

 あれ、でも寝袋に入ってない。バタフライエフェクト的なサムシングだろうか?

 徹底した合理主義の相澤先生は、些細な隙間時間も睡眠時間として有効活用すべく寝袋を常備していて、本来ここでは寝袋に入った状態での登場だったはずだけど……。

 まぁいい、初登場のヒーローを解説するのはヒーローオタクなナード君たる僕の役目だ。

 

「抹消ヒーロー イレイザーヘッド!?メディア嫌いの実力派アングラ系ヒーロー!もしかして僕らの担任って……」

 

「そ、俺だ。名前は相澤消太、よろしくね」

 

「イレイザーヘッド?聞いたことある?」

 

「俺知らない」

 

「私聞いたことあるわ」

 

「静かにしろ、席に着け。早速で悪いが、諸君に転校生を紹介する」

 

「転校生!?入学初日に!?」

 

「静かに。質問は受け付けん。……入っておいで」

 

 おっと、知らない展開だ。

 まずいな、何が起きるかわからないぞ。

 

 元気よく「はいっ!」と返した声になんとなく嫌な予感を覚えながら、入ってくる人物を見守……る…………

 

 

 ……いやぁ、さすがにこれは想定外。

 

 

渡我(トガ)です!渡我被身子(トガヒミコ)!今日からここに通うことになりました!よろしくお願いします!」

 

 

 ……うーん、マジか。

 

 どうやら、1-Aはトガさんを迎え、21人体制でやっていくことになるらしい。

 この展開はちょっと予想してなかったなぁ。僕もまだまだ修行が足りない。

 

 ……ホント、どうしよう。

 

 

 

 〇

 

 

 

 ダークヒーロー。

 

 それは、組織的に活動するヴィジランテを指す言葉であり、あるいは特定の団体の通称でもある。

 

 数年前、「個性解放」を謳ったデストロに触発された、リ・デストロ率いる【解放軍】が蜂起。

 同じく「個性解放」を掲げ、泥花市を占拠するとともに同地を「解放特区」として「解放宣言」なるものを発布、集団で公有地での個性無断使用などを繰り返した。

 また、これに触発された各地のヴィランが一斉に蜂起、「ここは今から解放特区だ」などと叫びながら破壊活動を繰り返した。

 当然警察及びヒーローたちは鎮圧を試みたが、日本中で同時多発的に混乱が起きていたことと、複数の刑務所が()()()により襲撃されて多数の凶悪ヴィランの脱走を許してしまったこと、当時()()()活動を減じていたオールマイトの影響もあり、日本社会は大きな混乱に陥った。

 

 解決のきっかけは、端緒となった解放軍の内部崩壊。

 

 もともと、解放軍には穏健派と過激派の二つの派閥が存在した。

 過激派は世間一般のイメージと違わぬ破滅的な一派で、単に個性を使って暴れたいだけのヴィラン予備軍みたいな連中の集まり。

 しかし穏健派は過激派とほぼ真逆で、主に個性を使わないことによる精神的・肉体的苦痛に耐えきれなかった人たちによって構成され、個性さえ使えるのならむしろ平和と安定をこそ好んだ。

 そういった中で、穏健派の中でも比較的戦闘を得意とする人たちがヴィジランテとしての活動を開始。

 ()()()()()()()ステインを筆頭とする武闘派の彼らは、過激派とそれに触発された者、及び脱獄した多数のヴィラン達を一掃。泥花市に一応の平和を取り戻し、「ダークヒーロー」と呼ばれるに至った。

 

 物語ならここで拍子木を打ってめでたしめでたし、となるところだけれど、残念ながらそううまくはいかない。

 

 泥花市に平和を取り戻したダークヒーロー達は引き続き泥花市を占拠、泥花市を「解放特区」として公的に追認するよう要求した。

 当然ながら政府はこれを拒否。なけなしのヒーロー戦力を絞り出して泥花市を占拠するダークヒーロー達の鎮圧に向かわせるも、失敗。

 そうこうしているうちに事態は動き、解放軍に触発・()()された全国のヴィラン達が泥花市に集結。戦力が一所(ひとところ)に集まってあわや内乱かと思われたものの、ダークヒーローたちはこれをヴィランと認定、排除に動く。当然、せっかく持ち直した泥花市の治安は地に落ちた。

 皮肉なことに、全国のヴィランが泥花市に集まったおかげで全国的には治安が回復し、解放軍蜂起に始まる難局を脱した。けれど、それは泥花市が代わりにすべてを背負っただけ。

 

 地獄も斯くやとばかりの絶望的な治安にダークヒーロー達は過激化していった。ヴィランの手足を欠損させてしまうくらいならまだいい方で、殺してしまうこともザラ。

 さらに、ダークヒーローたちの内部にも市民の信頼を利用して不逞を働く輩が現れ、ステインはこれを粛清。

 結果として泥花市の治安は多少回復したものの、今の泥花市は「犯罪をすれば手足を失う」「ダークヒーローに属する者が犯罪行為を働けば即刻粛清」などという世紀末的な状況にある。

 

 全国的には混乱が収まっていることもあり、何度かヒーロー達が合同で鎮圧に赴いたんだけど、未だ「解放特区」を求めて全国からヴィランが集まり続けていることもあり、完全な鎮圧には至らず。

 鎮圧できないだけならまだよかったんだけど、泥花市のヴィラン達は日夜ダークヒーロー達と殺し合っている分凶悪で、泥花市鎮圧作戦にあたって何人ものプロヒーローが殉職した。

 悲劇はそれだけに留まらず、「解放特区なら俺だって」などとヒーロー志望の少年少女が勝手にダークヒーローを名乗って泥花市内に侵入し、ヒーロー活動の真似事をして殺害されるなどという痛ましい事件も起きている。

 

 警察やヒーロー達は何とか泥花市の治安を元に戻そうと奮闘しているようだけど、もう「泥花市では個性を自由に使っていい」という認識が広まってしまっているし、厄介なことに現地の市民もこれを認めている。

 他の地域でヴィランとして追われていた者が泥花市では大人しくしていたり、泥花市以外の治安はむしろ以前よりも良くなっていたりなど、良い面も無いではないから余計に手出しが難しい。

 一応、現状で治安が安定していると言えなくもないので、現在は泥花市周辺を封鎖し、人の出入りを監視するとともに、定期的にヴィラン鎮圧を兼ねて査察が入り、ダークヒーロー達を牽制しつつ現地住民との話し合いを進めるなどしているらしい。

 

 他にもいろいろとあるみたいだけど、結果として。

 

 紆余曲折を経た末に、現在泥花市は「解放特区」として事実上黙認されている。

 

 

 で、だいぶ脱線したけど、トガさんはダークヒーローのメンバー、それも幹部格だ。

 なんで彼女が僕らと同じクラスに入ることになったんだろう……っていうか彼女僕らの一つ上じゃないっけ……?

 

 先生に聞いてはみたけど、「いろいろあったんだ。詳しいことは知らんし言えん」との返答を頂いて、結局何もわからないままだった。

 

 

 

 〇

 

 

 

「個性把握……テストォ!?」

 

「入学式とかガイダンスとかは……?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。……ただでさえ転校生紹介なんてやって時間が押してるんだ、さっさとやろう」

 

 うーん、相澤先生フルスロットル。原作の僕はこんな気持ちだったのかなぁ。

 あ、体操着のかっちゃんかわいい(現実逃避)。

 

 “転校生”の衝撃が抜けきらないまま、僕らは体操服を着てグラウンドにいる。

 原作通りの流れではあるんだけど……実際に体験してみると、急展開すぎて付いていけないや。

 僕の場合は皆より“転校生”インパクトが強く効いてるから尚更だ。ちょっとまだ心の準備が……。

 

「中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト」

「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ文科省の怠慢だよ」

「緑谷」

 

 おっと、僕の番か。

 まぁ、想定外はあったけど、ここの流れは想定内……というか原作と同じ。

 予定通り、うまくやろう。大丈夫、準備はしてきた。大丈夫だ。

 

「中学の時、ソフトボール投げ何mだった」

 

「70ちょっとくらいだったはずです」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい、早よ。……思いっ切りな」

 

 さてさて、こうなることは予想していたので、ちゃあんと準備はしてある。

 

 取り出したるは、あらかじめ用意しておいた大量の圧縮空気。

 上空に待機させておいたそれを目の前に持ってくるとともにますます圧縮し、さらに熱エネルギーをも与える。

 こうして用意した超高温・超高圧の空気を、斥力場で作った砲身(と称するにはフラスコみたいな形だけど)の底部に装填し、その上からボールを詰める。実際の銃や大砲と違って装薬(高圧縮ガス)詰め放題だからよく飛ぶんじゃないかな。

 このとき、砲身の内径をボールより少し小さく設定しておくのがミソだ。僕の斥力場はあくまで触れた物質に斥力を与えるだけなので、摩擦とかが生じるわけではない。だからガス圧を減じないためにもボールを少し圧縮する形で詰めておくと良いのだ。

 

 準備ができたら、あとは簡単。

 ボールを斥力場で弾いて初速を与えつつ、圧縮空気を解放してガス圧で加速。ライフリングとかは無いしそもそも(たま)(たま)だから空力特性なんかは微妙だけど、単に遠くへ飛ばすだけならこれで十分だろう。

 

 強烈な破裂音と共に飛んで行ったボールは遥か彼方へと消え、無事11.7㎞の大記録を叩き出した。

 傍から見たらボールが独りでに浮いたかと思えば突如爆音と共に吹っ飛んでったわけで、みんなびっくりした顔をしている。こういうのちょっとニヤニヤしちゃうね。掴みは十分ってやつだ。

 

「まず自分の『最大限』を知る……それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「なんだこれ‼ すげー()()()()!」

 

「10キロって!マジかよ!」

 

「思いっきり個性使っていいんだ‼ さすがヒーロー科‼」

 

 おお、すごい盛り上がり。そしてそれに反比例するような先生のテンション。

 ちょっと不安だったけど、ここら辺の流れは原作通りに進んでくれそうだ。よかったよかった。

 

「……面白そう……か」

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し……除籍処分としよう」

 

 さて、原作通りに進んでくれるなら、というかそうじゃなくても、僕にできる事は一つ。

 

 今目の前にある壁を全力で乗り越えていくこと。Plus Ultraってやつだね。

 

 

 

【第1種目:50m走】

 

 これに関しては入試の時と同じ要領だ。

 全力で身体強化を施して、僕に耐えられるギリギリの強さで僕を吹っ飛ばす。

 

「2秒18!」

 

 うーん、時速80キロくらい?まだまだ足りないね。

 

 

【第2種目:握力】

 

 こういうシンプルな種目はやりやすくていいや。

 掴むところを斥力場で挟み込んで、思いっきりプレスする。

 

 グシャッ

 

 あ。

 

「すみません先生!握力計壊しちゃいました!」

 

「そうか、測定不能って書いとけ」

 

 

【第3種目:立ち幅跳び】

 

 実はこれ超得意分野だ。持久力はよく鍛えてあるぞ、僕は。

 斥力場で自分を保持し、持ち上げる。

 

 ……えーっと、どうしよう。落下することはないし……。とりあえず浮遊したまま砂場の上を往復する。

 

「緑谷、それどんぐらい飛んでられる?」

 

「宇宙空間でもない限りはずっと。僕は飲まず食わずの不眠不休で動けるので、本当にずっと飛んでられます」

 

「そうか、羨ましい限りだ。お前の記録は無限でいい」

 

 

【第4種目:反復横跳び】

 

 これはちょっと苦手分野。とはいえやりようはある。

 両脇に斥力場の壁を設置し、交互に僕を吹き飛ばさせる。気分はピンボールのボールだ。

 

「お、おい、それ大丈夫なのか?」

 

「普通なら死んじゃうね。僕は大丈夫」

 

「そ、そうか。ならいいのか……?」

 

 

【第5種目:ボール投げ】

 

「緑谷、お前もう一回やるか?」

 

「やらなくてもいいんですか?」

 

「好きにしろ。評点は変わらん」

 

「うーん……じゃあ遠慮しときます」

 

「そうか」

 

 

【第6種目:持久走】

 

 距離は5000m、400mのトラックを十二周半だ。

 50m走の時と同じ要領で、自分を吹き飛ばしながら進む。現状これが一番速いんだよね。

 みんなの邪魔にならないように外の方を大回りで周ったけど一位になれた。やったね。

 

 ところで八百万さん、それ原付?免許って……あ、私有地だから。なるほど。それはそれとして免許も持ってるんだ。すご。

 

 

【第7種目:長座体前屈】

 

 これもまぁ、得意な部類の種目だね。

 伸ばした手を液化させ、どんどん伸ばす。体積が足りなくなったら補充する。

 手から手を生やして腕を支えながら、ついには体育館の反対側まで到達した。

 

「緑谷、それはどれぐらい伸ばせる?」

 

「試したことないのでわかんないです。でも無限じゃないと思います。とはいえ、数百mくらいならイケるかと。感覚ですが」

 

「そうか、記録は測定不能としておけ」

 

 

【第8種目:上体起こし】

 

 これはあんまり得意じゃない種目。

 反復横跳びの時の要領で、体の前後に斥力場を展開して僕をシェイク。なくなりかけのマヨネーズってこんな感じで振られるよね。

 

「……見てて不安になる動きだな」

 

「実際、普通なら死んじゃうと思うよ。足持っててくれてありがとう、大丈夫だった?」

 

「おう、平気だぞ。すげーなお前」

 

 

 

「んじゃ、パパっと結果発表」

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 全種目を終えて、たぶん最下位は峰田君。

 明らかに運動に適した個性じゃないから除籍されることはないだろうけど、峰田君って言動も行動もアレだからなぁ……僕の言えたことじゃないけど。

 “転校生”のおかげで今のA組は21人という中途半端な人数だし、マジで除籍されちゃう可能性もある。

 もしそうなったらどこにどう影響するか読めないから、できれば除籍は勘弁してあげてほしいけど……。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

「君らの最大限を引き出す……合理的虚偽」

 

 ホッ。

 

 よかったぁ、原作通りだ。

 かっちゃんは4位かぁ、僕が1位な分原作より一つ下がってるね。原作よりも強くなってるかっちゃんだけど、さすがにこういうシンプルな競争じゃ差はつかないみたいだ。

 トガさんは11位。ほぼ素の身体能力でこれかぁ、やっぱり相当鍛えてるね。

 あと八百万さん、先生は本気だったと思うよ。原作と違って個性を制御できていない(ヤツ)はいないけど、先生が見込み無しと判断すれば誰であれ除籍されてたんじゃないかな。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」

 

 なんであれ、とりあえず今日はここまでだ。

 なんかいろいろあった気もするけど、ひとまずは初日を無事に乗り切ったことを喜ぼう。

 

「あぁ緑谷」

 

 おや?

 

「お前ちょっと残れ」

 

 原作にない展開だ。

 

 どうも、まだ気を抜くわけにはいかないらしい。トホホ。

 

 

 

 校舎へ向かうみんなと反対に、先生に歩み寄る。何の用だろう?

 今日はもう結構いっぱいいっぱいだから、できればやさしくしてほしいな。

 

「緑谷」

 

「はい」

 

「お前、今日の体力テスト、特に反復横跳びと上体起こし。自傷しながらやってたな」

 

「そうですね」

 

「お前は苦痛を感じないのか?」

 

「まさか。めっちゃ痛くて苦しいです」

 

「じゃあ何故あんなムチャをした」

 

「そりゃ、全力ですから。そのためにあんな発破かけたんでは?」

 

「そうだが、そうじゃない。……緑谷、覚えておけ。負傷を勘定に入れる奴は大成せん。当然長続きもしない」

 

「しかし、負傷を恐れていて良いヒーローになれるでしょうか?」

 

「負傷を恐れないことと、負傷を避けないことは全く別のことだ。……お前も知っているだろう、あの暑苦しい新任教師を。ソイツが傷つくところを想像できるか?」

 

「……傷を見せないことも良いヒーローの条件ということですか?僕は傷を見せてませんし、痛がる素振りも見せなかったはずですが……」

 

「そういうことが言いたいんじゃない。……思っていた方向じゃなかったが、これは問題児だな。いいか、よく聞け。自分の痛みに鈍感な奴は、いずれ他人の痛みも分からなくなる。ヒーローを目指すならそれは致命的な欠点だ」

 

「……なるほど?」

 

「……わかってないな。まぁいい、これからじっくり教えてやる。……話は以上だ、お前も戻れ」

 

 

 

 〇

 

 

 

「イズク、センコーと何話してたんだ?」

 

「うーん、なんか注意された。自傷前提で動くなって」

 

「自傷?」

 

「ああ、ほら、自分を吹っ飛ばすやつだよ。あれ毎回死にかけながら自己修復でなんとかしてるの。言ってなかったっけ?」

 

「聞いてねーよ。テメーそんなことしてたんかクソデク」

 

「いやぁ、かっちゃんなら知ってるとばかり。実際、車に跳ね飛ばされるようなもんだからね。衝撃がすごいんだ」

 

「……至極妥当な説教だな。全然響いてねぇみてーだが。先生も可哀想にな、こんな問題児掴まされて」

 

「あっ、あれトガさんじゃない?話聞きたかったんだ。おーい!」

 

「チッ……」

 

「? なんですか?」

 

「トガさんだよね、僕緑谷。緑谷出久っていいます。あっちで睨んでるのが幼馴染の爆轟樺月。お話聞きたかったんだ。トガさんってダークヒーローの幹部だよね?なんで雄英に?」

 

「ええっと……なんで雄英に通うことになったかは私が知りたいくらいです。発端は確か、ジェントルが『君は()()()()にヒーローを目指すべきだ』とか言い出して、愛美さんがそれに乗っかったことだったと思いますけど……。詳しいことは分かんないです。なんか公安の人がすごく乗り気だったらしいですよ。……それと」

 

「ああごめん、『ダークヒーロー』はあくまで通称であって、正式名称じゃないんだよね。【模範的市民の会】だっけ?」

 

「知ってるならいいです。改めて、渡我被身子です。よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく。……あぁそれと、僕は個性柄丈夫だから、血が欲しくなったらいつでも言ってね。何リットルでも大丈夫だよ」

 

「……そこまで知ってたですか。それは、とても素敵なご提案です。ぜひお願いしたいです」

 

「うん、遠慮はいらないからね。……あぁでも、僕はともかく他の人から血を貰うときは、注射針やナイフは新しいのを使ってあげてね。感染症とかが怖いから……」

 

「……それ、愛美さんとかからも言われてたです。ステ様は使い回してるのに……」

 

「あれはほら、敵に使うやつだから……。ナイフはともかく、新しい注射針は頼まれた側も受け入れやすいと思うんだ。だから、ね?」

 

「……考えときます」

 

「イカれた会話してんじゃねーよ正門前で。テメーら一応ヒーロー科だろーが」

 

「かっちゃん。でもほら、錆びたナイフ持って『血ぃください』って言われるより、清潔な注射針持って『血を採らせてください』って言われた方がよくない?心理的に」

 

「そうだけどそうじゃねーよ」

 

「お三方~!駅まで?待ってー!」

 

「麗日さん。飯田君も」

 

「あれ、知ってた?自己紹介したっけ?まぁいいや、麗日お茶子です!」

 

「俺も自己紹介しておこう。改めて、飯田天哉だ。爆豪君はともかく、渡我君も一緒か。緑谷君は渡我君と知り合いだったのか?」

 

「ううん、さっき話しかけて、僕が一方的に話を聞かせてもらってたんだ。泥花市の正確な情報は手に入りにくいから……。飯田君こそ、麗日さんと知り合いだったの?」

 

「ム、いや、それがな」

 

「あ、そうそう!お礼言いたかったんよ!」

 

「お礼?」

 

「そう!緑谷君アレだよね、変な頭の!」

 

「ああ、うん。アレ僕だね」

 

「それで、0ptロボが出てきたときにさ、落ちてくる瓦礫受け止めてくれたやん?」

 

「ああ、そのことか。無事だった?」

 

「おかげさまで!だからお礼言おうと思ってたんよ!そしたら飯田君が知ってるっていうから、教えてもらって、追いかけてきた!」

 

「そうだったんだ。えーと、どういたしまして?」

 

「ねぇねぇ、一緒に帰ってもいい?」

 

「僕は良いけど……」

 

「私は大歓迎ですよ!こういう高校生っぽいことしてみたかったです!」

 

「フン、好きにしな」

 

「ありがとう!それでね……」

 

 

 

 

 





 というわけでトガちゃん登場。
 何を隠そう、筆者が原作で一番好きなキャラは彼女です。
 いいですよねトガちゃん、生き辛そうで。

 主人公の出したソフトボール投げの記録は適当です。大体こんなもんやろ(鼻ほじ)。
 すまっしゅ参照するとヤオモモが28㎞出してるんですけど、現代的な自走砲の最大射程がちょうどそれくらいなんですよね(参考:99式自走155㎜榴弾砲/M107弾、出典:Wikipedia)。実際の砲弾よりも小さく低密度(空気抵抗で減速しやすい)であろうソフトボールで、しかも見る限り一昔前(江戸時代とかにあったような型)の小型の砲で、どうやってそんな記録を出したのか……。
 筆者の予想では、ボールを金属製の容器などに封入し、これを砲弾として撃ち出したんじゃないかなって思ってます。大砲が古そうな見た目なのもヤオモモの趣味で、実際は現代的な金属で砲身を形成し、現代的な火薬で撃ち出したんではと。
 一発撃てればいいわけですから耐久性やら整備性やら無視できますし、可搬性(運びやすさ)の要求も厳しくないですし(ヤオモモは車輪付けるなど工夫してるけど。……これはこれで強度とかどうなんだろう?)、ヤオモモならオクタニトロキュバン(中二病患者御用達の最強爆薬)とかみたいな高価な火薬も使いたい放題ですしね。
 砲があまりに小型なのは……まぁ、ほら。目の錯覚ですよ、きっと。

 今回はまた一段とウンチクが長いですね。バカは要約できないから話がなげぇ。


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