デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

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 長くなったので分割。
 前話読んでない方はそちらをお先にどうぞ。




USJ 下

 

 

 

「皆さん、こちらへ!避難します!」

 

 USJ襲撃。

 校舎から少し離れた演習場にて、僕ら1-Aは敵の襲撃を受けている。

 

 ヒーロー科と言えどまだまだ卵でしかない生徒(ぼくら)は、守られる側の責務として、先生(プロ)の指示に従って速やかに避難する。

 さすがは最高峰というべきか、みんな行動が迅速だ。とても理想的な“民衆”だね。

 

 けれど。

 

「させませんよ」

 

 獲物が逃げるのを指咥えながら静観してくれるほど敵は優しくない。

 

 敵への対処にはオールマイトが当たっていて、相澤先生がそれを援護している。

 大抵のヴィランを秒殺してしまえるであろうそのコンビは、けれど、黒霧の突破を許してしまっている。

 

 理由は単純、脳無が二体いる。

 原作と同じ【ショック吸収】と【超再生】の脳無だけでも厄介なのに、それに加え、見たことの無い脳無がもう一体。

 見知らぬ脳無は恐らく【自爆】と【自己増殖】を与えられていて、鼠算式に増えては自爆特攻を繰り返している。

 数の暴力を振り翳して僕らだけでなく仲間すらも自爆に巻き込もうとする敵に、オールマイトは手が足りていない。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら……」

 

 相澤先生が急いで戻ってきて黒霧を()()

 

 ……原作と違ってこの場には相澤先生がいるから、皆が誘拐される心配はあまり要らないかもしれない。

 けれど、相澤先生もずっと個性を封じ続けられるわけではないし、一瞬の隙をついてかっちゃん(だれか)が攫われるかもしれない。

 仮に原作通り皆が散らされたとして恐らくは誰も大怪我を負ったりはしないだろうけれど、それでも、楽観視するわけにはいかない。

 

「この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 斥力場を使って出入り口の扉を切断し、あえて大きな音を立てて吹き飛ばす。

 相手の気が逸れた隙に予め集めておいた圧縮空気を黒霧の真隣に持ってきて、解放。

 突如生じた爆風に晒されて、黒霧の体の霧状の部分が風に流され実体のある部分が露わとなる。

 すかさず実体部分に斥力場で強い力を与えて、上空に跳ね上げ、一度拘束。

 中央広場の方、入り口から離れる方向に、もう一つ用意しておいた圧縮空気で吹き飛ばす。

 

 ここまで5秒。

 いろいろと想定外があったけど、黒霧が立ち塞がる状況は原作通り。

 予想できていたのだから、当然対策は用意してある。

 

「みんな、今のうちに!相手は恐らく転移系個性、捕まったら誘拐されるかも!急いで外へ!!外に出られたくないってことは外は安全なはずだ!!」

 

 みんな呆けていて反応が悪いけど、構わず叫ぶ。……ちょっと気が急いちゃったかな?でも緊急事態だし……。

 

「……緑谷、お前後で反省文な。早く外へ!急げ!!」

 

「皆さん、こっちです!早く!」

 

 先生達に促されて、ようやく皆が走り出す。よし。

 吹き飛ばされた黒霧を“目”で追えば、吹き飛ばされながらも転移しようとしているのが視える。させないよ。

 

 黒霧の移動先に斥力場を展開して、直角方向に再度吹き飛ばす。

 黒霧の転移は恐らく相対座標が必要なタイプ。僕もそうだけど、高速で移動しながらってのは演算に負荷がかかるんだ。

 いつも自分でやっているみたいに、斥力場で黒霧をピンボールする。一つしかない死人の脳みそじゃ、その状況で転移はできないんじゃない?

 

「何をしている緑谷君!君も避難を!!」

 

「すっこんでろメガネ、テメーも避難すんだよ」

 

「待て爆豪君、君は幼馴染を置いていくのか!?」

 

「足手纏いは少ない方がいい。アイツなら死なねーよ」

 

「そういう問題ではないだろう!?何を言っているんだ!!」

 

「飯田の言う通りだ、避難しろ緑谷。飯田もだ、早くしろ」

 

「みんなの避難が完了したらそうします。先生、この距離でも個性を封じられますか?オールマイトがピンチです」

 

「チッ……飯田、さっさと避難しろ!緑谷は俺が見る!」

 

「飯田君、こちらへ!君には一足先に学校へ走ってもらって――――」

 

 ♢

 

 広場を見下ろせば、そこは脳無の海だった。

 ぜんぶ【自爆】の脳無だ。あんなにたくさん、もし一斉に爆発したらUSJごと吹き飛びかねない。

 オールマイトは【ショック吸収】脳無と殴り合いつつ、【自爆】脳無に囲まれながら、気絶したヴィランの山を背に戦っている。

 ……なんであの状況で、むしろ圧倒しているように見えるんだろう。さすがとしか言いようがない。

 

「自爆攻撃のみならず、仲間を人質として利用するなど……っ!人間のすることではないぞ!ヴィラン!」

 

「だぁから人間じゃねぇっての。そろそろヘバってきたんじゃないかい、ヒーロー?」

 

 オールマイトは【ショック吸収】のヴィランと殴り合いながらも背後のヴィラン達に気を配り、爆発しようとしている【自爆】の脳無を次から次へと殴り砕きながら生徒(ぼくら)の方に脳無が来ないように陽動のようなことをしている。人間業じゃないね。

 殴り砕かれた【自爆】の脳無は()()()と泥のように溶けて消えている。複製されたものは壊しちゃっていいのか。

 ……どれが本物かわからないけど、見る限り複製が複製を生み出すこともできるみたいだ。だからこそオールマイトが対処できないほどの増殖速度が実現できているのだろう。

 

 たぶん、あの中に本物はいない。オリジナルはアジトで大事に保管されているはずだ。僕ならそうする。

 だったら話は簡単だ。みんな壊してしまえばいい。

 

 斥力場を展開して、【自爆】の脳無を次々に()()()いく。

 念のため、というか言い訳のために、一応急所は外して手足を落とす程度の損傷に留めつつ、“目”に視える【自爆】脳無を一掃していく。擬音で表すなら「ブワーッ」とかかな。

 視界を埋め尽くさんばかりに溢れかえっている【自爆】の脳無が次々に溶け消えていく光景は、ちょっとした爽快感があって楽しい。なんか、掃除動画みたいな気持ちよさがある。

 

 僕の個性は対多戦闘に向いている。そういうふうに鍛えた。

 ちょうど、あんな感じの増え方をする敵と対峙する予定があったから。

 だから、いくら鼠算式に増え続ける脳無と(いえど)も、僕の前じゃ無力だ。

 

 そろそろ死にそうな黒霧のピンボールを止め、改めて噴水の方に吹き飛ばした時には、もう【自爆】の脳無は一体たりともいなかった。やっぱりみんな複製だったね。

 

「……申し訳ありません、死柄木弔。生徒達を逃がしてしまいました」

 

「あー、うん。それはまァ、いいんだけどさ。……あーあ、結局こうなんのかよ。せっかくいろいろ準備してきたのにさぁ。辛いね、ヴィランってのは」

 

「……観念することだ、ヴィランよ。初犯とはいえ、これだけのことをやらかしたんだ。相応の刑罰は覚悟しておくんだな」

 

 何やら話し始めたので、オールマイトに駆け寄る。相澤先生が捕縛布を伸ばしてきたけど、“目”を開いていれば簡単に避けられた。

 

「緑谷!いいかげんにしろ!」

 

「オールマイト!」

 

「……緑谷少年。さっきのは君だね。正直助かったけど、まだ近づいちゃダメだぜ」

 

「……出たな、主人公。俺の敵。知ってるぜ、全部お前のせいなんだろ?」

 

「何の話かわかんないね。君は何を言ってるんだい、ヴィラン?」

 

「……イラつくなァ、マジで。オリジナルのお前も嫌いだったけど、お前はもっと嫌いだ」

 

「死柄木弔、ここは一旦退却を……」

 

「させてくれると思うか?……いや、頼んでみるか。言うだけならタダだもんな。つーわけでイレイザーヘッド、改め相澤センセイ。俺ら逃げたいからさあ、ちょっと退却させてくんね?」

 

「……させるわけないだろ。すぐに応援も駆けつける。逃げられると思うなよ」

 

「ヒュー!かっくいーねぇ、相澤先生!俺アンタのファンなんだ、サインしてくれよ」

 

「……そいつはどーも。面会くらいは行ってやるよ」

 

「いらねぇよ、バーカ。……なぁオールマイト、平和の象徴。聞きたいことがあったんだ」

 

「そうかい。私も面会に行くから、その時に聞こうかな」

 

「残念ながら、俺は捕まらない。今じゃなきゃダメなんだよ、オールマイト。今のアンタに聞きたいのさ」

 

「……なんだい?」

 

「オールマイト、アンタは偉人だよ。誰もがアンタを讃える。最高のヒーロー、正義の味方ってな。……お前は常に肯定される。オールマイト、アンタは今、世界で一番正しい男だ」

 

「……過分な評価、痛み入るよ。私はそんな大した人間じゃないんだけどね」

 

「黙れ。……なぁオールマイト、例えばさ。……例えば、悪として生まれ、悪として育てられた奴がいたとして。そいつはどうやったら正しく在れる?」

 

「死柄木 弔……?どうしたのです?」

 

「答えろ、オールマイト。悪人として生まれたら、もう正しくなることはできないのか?一生踏みつけられて生きていくしかないのか?」

 

「……まずは罪を償うことだ、すべてはそこからさ。君はまだ若い、まだまだいくらでもやりようはある」

 

「……そうかい」

 

 死柄木は肩を落とし、項垂れてしまった。

 

 ……今のうちに、斥力場で【ショック吸収】の脳無を拘束しておく。

 オールマイト並みのパワーを持つアイツも、動きの起こりを抑えれば何とかなるかもしれない。

 

「ガッカリだよ」

 

 瞬間、斥力場に凄まじい力がかかる。脳無が暴れだしたんだ。

 だと思ったよ!そのままずっと下向いてればいいものを!めんどくさいなぁもう!

 拘束しておいて正解だったけど、マジで力が強い。全身の細胞の一つ一つが丁寧に磨り潰されているようで、なんというか、溶けそう。

 ……全力で自己治癒を施し続けてるけど、反動が抑えきれない。そう長くは保たないぞ、これ。

 

「先生、今のうちにヴィランを!長くは保ちません!」

 

「……緑谷、お前には後で話がある。逃がさんからな」

 

「グッジョブ、緑谷少年!でも後で私からもお説教だ!」

 

 オールマイトが死柄木に殴りかかり、相澤先生が黒霧を拘束しにいく。言葉を交わさずに見事な連携、さすがはプロだ。

 一方の僕は拘束の維持にいっぱいいっぱい。情けなくって涙が出るね。

 

「ホンっと―に何もかもうまくいかねぇなあオイ。なあ主人公、テメー偽物のくせに邪魔してんじゃねーよ。ヒーローごっこは楽しいか?なあ!さぞ楽しいんだろうなァ正義の味方ってのはよォ!!」

 

 よほど鍛えてきたのだろう、死柄木はオールマイトを前にして僕に噛みつく余裕がある。

 オールマイトから逃げ回りながら僕に暴言を吐く姿は滑稽だけど、その実、オールマイトの猛攻をかわし続けるその能力は驚嘆に値するものだ。頑張ったんだね。

 時折オールマイトに触れようとするなど、反撃する様子すら見せている。それで触れさせてくれるほどナンバーワンは甘くないけれど。

 それでも、最後の花火とばかりに粘る、粘る。すごいガッツだ、まるで原作の僕みたいだね。

 

 とはいえ、詰みだ。

 死柄木の腹にオールマイトのパンチが決まって、人体が枯れ枝みたいに吹き飛ばされる。あれじゃ当分動けないだろう。

 オールマイトがこちらを振り向いたので脳無の拘束を解き、大人しくお任せする。

 

 オールマイト、結構長い時間戦い続けているはずなんだけど、限界なんて露ほども見せずに脳無と激しく殴り合う。すごい風圧だ。

 黒霧を()()続けている相澤先生はちょっと辛そう。ドライアイですもんね。

 

 死柄木はダウン、黒霧も相澤先生が抑えてる。

 そして、今。

 

「PLUS …… ULTRA!!!」

 

 【ショック吸収】の脳無が吸収しきれない圧倒的パワーで以て、脳無は吹き飛び、USJの壁と二つの雲をブチ抜いてお星様になった。

 

 完全勝利だね。これがゲームならA評価は固いだろう。僕自身の働きはC評価ってところだけど……。

 とはいえ、めでたしめでたしだ。もうこのまま平穏な学校生活送れたりしないかな。

 

 

 

「……うぅ……」

 

 のそりと、死柄木が身を起こす。……もう復活したのか、すごいタフネスだ。

 

「まったく、老いというのは残酷だね。あの程度のヴィラン、全盛期なら5発も殴れば十分だったろうに……。やはり衰えた。100発以上も殴ってしまったよ」

 

 だけど、もはや状況は覆らない。オールマイトも相澤先生も健在で、僕だってまだまだ戦える。

 

 さらに。

 

「1ーAクラス委員長、飯田天哉‼ただいま戻りました!!」

 

 増援だ。

 

 チェックメイトだ、転生者(イレギュラー)

 ずいぶんこの世界を引っ搔き回してくれたようだけど、もう好きにはさせない。

 君のいない世界でなら、僕は学校生活を満喫できそうだよ。

 ヴィランに生まれたのは同情するけど、最後に勝つのはヒーローだ。

 この世界は、そういうふうにできている。残念だったね。

 

「……あ~あ、ホント、クソみてぇな世界だよ」

 

「……君は歓迎しないだろうが、暇を見つけて面会に行くよ。君の話を、聞かせてくれ」

 

「ありがたい申し出だな、ヒーロー。だけどお断りだ。俺は捕まらない」

 

「まだ諦めてなかったのかい?諦めの悪さはヒーローの素質だけど、時には諦めることも肝心だぜ」

 

「あいにく、もう止まれないもんでね。……知ってるかいオールマイト、素粒子の質量って物質に対して軽すぎるらしいぜ?」

 

「……何をするつもりか知らないけど、させないよ。大人しく投降するんだ」

 

 死柄木は胡坐をかいて座り込んだまま、手近な石ころを拾い上げ、掌の中で弄び始めた。

 

 ……なんだか嫌な予感がする。この状況じゃ何もできないはずだけど……。

 

「俺の個性は【崩壊】ってやつでね。どんなものでも崩壊させるんだ。原子核でさえも」

 

「まさか……っ!死ぬ気か!?」

 

「救ってみろよ、ナンバーワンヒーロー。辺り一帯吹き飛ぶぜ?」

 

 ……なんというか、楽はさせてもらえないね。

 

 勝ちを確信したらこうなるって、お約束なのに気を抜いてしまっていた。

 挽回しようのない大ポカだ。ホント、救いようがないね。

 

 オールマイトが皆を避難させようとしているけど、さすがにこれは間に合わない。せっかくの増援もこうなると逆効果だ。

 スナイプ先生が死柄木を撃ってるけど、四肢に風穴が開いても止まる様子はない。たぶん頭をブチ抜いたって爆発しちゃうだろう。

 

 体感時間が引き延ばされる中、斥力場で死柄木の周囲を円筒状に囲う。

 ()()()()()()()【ショック吸収】の脳無の体組織を吸収する。

 

 気休めにもならないけど、少しでも爆風が上空に逃げてくれればいいな。

 

 

 強烈な閃光が目を焼き、激烈な反動が全身を襲う。

 

 意識の薄れる中、かっちゃんの無事ばかりを祈っていた。

 

 

 

 〇

 

 

 

「知らない天井だ」

 

 またこれを言うハメになるとは思わなかったなぁ。

 爆発オチなんてサイテー!ってやつだ。いやぁ、やっちゃったね。

 

 周囲を確認。白く無機質な壁にうっすら漂う消毒薬のにおい、場所はおそらく病院。

 病室には僕一人。時計が見当たらないので時間がわからないけど、窓の外が暗いからたぶん夜。

 ……死んでないのは何よりだけど、ここヒロアカの世界だよね?イヤだよ、今更現実に戻るとか……。

 個性を使ってみたらできたので、たぶん大丈夫。ベッドのサイズや機械類の仕様がヒロアカ世界のソレだから、ここは現実じゃない、はず。たぶん。

 いけない、忘れてた。ナースコールをポチっとな。動揺して真っ先にやるべきことを後回しにしちゃってたね、反省。

 

 待っている間、“目”を開いて周囲を確認する。

 ……なるほど、間違いなくここは低次(マンガ)の世界だ。

 いろいろと、……本当にいろいろと思う所はあるけれど、とりあえずは新たな能力に目覚めたことを喜ぼう。

 ……いつまでも「目」呼ばわりじゃ不便だね。名前つけなきゃだけど、どうしよう。……【鳥瞰(ちょうかん)】とかでいいかな、安直だけど。

 

 【鳥瞰】で自分の体を視てみる。

 ……うーん、わかるけどわからない。この世界の事物を見るのとは違う感覚。……なんというか、中身が視えないな。ガワは視えるんだけど……。

 やっぱり、これ便利だけど万能ではないね。

 新たに僕の得た視界は、【鳥瞰】と名付けたとおり、別の方向から見ることができるもの。ゲームとかでいうTPSみたいな感じ。

 前を向いたまま周囲を観察したり、壁や床の向こう側を覗くことはできるけれど、それだけと言えばそれだけ。

 一応、体の状態とかが視えたりもするけど、なんというか、顔色とかみたいな「状態を代表する外見的な情報」が一つ増えたような感じで、わかることは増えたけどそれだけでどうこうってのはない感じ。

 透視のようなこともできるけれど、実際に透視しているわけではなくて、言葉にするのは難しいけど、障害物の無い方向から覗き込んでる感じ。

 頑張れば服とかの透視もできなくはないのかな?さすがにやらないけど。

 

 ……現実逃避もそろそろ辛くなってきた。かっちゃんは無事だろうか?

 至近距離にいた僕が生きてるんだから無事なはず……だと思いたいけど、不安でたまらない。死傷者がいないといいんだけど……。

 

「目が覚めたかい。まったく、無事で何よりだよ」

 

「リカバリーガール!皆は!?」

 

「落ち着きな、みんな無事さね」

 

 悶々としていたら扉が開いて、リカバリーガールと相澤先生、それから塚内さんが入ってきた。

 相澤先生と塚内さんは扉の傍に控えて、静観の構え。まずは診察ってことらしい。

 

「それじゃ、まずは自分の生年月日と名前言いな」

 

「ええっと、7月15日生まれの15歳で、緑谷出久です」

 

「よろしい。ここがどこかわかるかい?」

 

「病院、で合ってますか?」

 

「合ってるよ。気を失う前に何があったか覚えてるかい?」

 

「確か、ヴィランの主犯が自爆して、それに巻き込まれたはずです。正直、目覚めたときはあの世かと」

 

「結構。意識はハッキリしてるね。体の検査で異常は見られなかったから、アンタは今から健常者だ」

 

「つーわけで、説教の時間だ。リカバリーガール、ありがとうございました」

 

「あーはいはい、程々にね」

 

 さっさと診察を済ませて、リカバリーガールは退室してしまった。ええ……?

 体の検査は済んでたみたいだし、本当に一応ってことなんだろうけど、手短すぎてちょっと困惑する。いや、まあ、いいんだけどさ。

 

「初めまして、緑谷出久君。僕はこういう者です」

 

「警察の……。塚内さん、ですね。初めまして、緑谷出久といいます。ベッドの上から失礼します」

 

「これはご丁寧にどうも。早速だけど、君が対峙したヴィランについて聞かせてほしい」

 

「承知しました。……けどその前に、教えてください。皆は無事でしょうか?死傷者は何人でしたか?」

 

「安心してくれ、君が一番の重傷者だよ。……()()()()()()()、爆風はほとんど上空に逃げてしまったみたいなんだ。USJの天井に大穴が開いたのと、崩落した瓦礫で数名のヴィランが軽傷を負ったけど、精々その程度だよ。後でオールマイトにお礼を言っておくといい、彼が君を庇ったそうだから」

 

「よかった……。ありがとうございます。それで、ええっと、何から話せば?」

 

「緑谷、お前あの手だらけの奴に絡まれてたな。主人公とかなんとか。面識があるのか?」

 

「いえ、面識はないです。あの時が初対面ですね」

 

「そうか。なぜ絡まれたのか心当たりは?」

 

「ないです。たぶん、学生の分際で出しゃばった僕がヒーロー気取りに見えたのではないかと」

 

「……自覚があるようで何よりだ。本当に面識は無いんだな?」

 

「はい、ありません」

 

「……そうか。黒霧とやらが立ち塞がった時、やけに対応が早かったな。準備していたのか?」

 

「準備というか、そうですね。敵の侵入手段が転移系個性であることは推察できたので、介入してくるとしたら逃走のタイミングだろうと思っていました」

 

「……そうかい。ま、今回の件については全面的に雄英の責任として扱われる。お前の独断専行も罪には問われん。が、それはそれとして後日改めて指導してやる。覚悟しておけ」

 

「わかりました。……ちなみに、仮に僕がヒーロー免許を持っていたとして、今回の行動はどう評価されますか?」

 

「反省してないだろ、お前。……あの脳がむき出しの、脳無といったか。アレを問答無用で破壊したのは減点だ。急所は外していたようだが、もし本物が紛れていた場合重大な障害を負わせていた可能性がある。独断専行して連携を怠ったのもよろしくない。他にもいろいろと粗が目立つが、総評としては『未熟』の一言に尽きる」

 

「……ありがとうございます」

 

「そう酷評なさらずとも。最後の自爆攻撃、被害を抑えられたのは半ば彼のおかげなのでしょう?ヴィラン相手の立ち回りも、一年生とは思えないものだったと伺っていますよ」

 

「……そこらへんは伏せる方針だったんじゃ?」

 

「ここにパパラッチはいませんからね。緑谷君、君の活躍に関して大々的に取り上げられることはないだろうし、あまり褒められたことでもないんだけど、君の実力自体は多くの人が認めていたんだ。自信持っていいと思うよ」

 

「ありがとうございます。……でも、相澤先生の仰る通り、僕はまだまだ未熟です。先生、今後ともご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します」

 

「……今日はここまでだ。明日は臨時休校だからゆっくり休め」

 

 ぶっきらぼうに言い放ち、先生と塚内さんは病室を去った。……一人の病室は静かだね。

 お説教と言いつつ、軽い事情聴取で終わってしまった。起きたばかりってことで配慮してくれたのだろうか。

 

 

 何はともあれ、皆が無事だったようで何よりだ。あそこで主要キャラ全滅とか……っていうか、かっちゃんが死ぬとか許容できないもんね。

 しかし、本当に今回はやらかした。イレギュラーがあったとはいえ「追い詰められた敵が自爆」なんて、使い古されたオチを許してしまった。

 準備に十年も費やしておいてこれかぁ……。自分に失望するね。所詮は偽物ってか。

 

 とはいえ、落ち込んでばかりいるわけにもいかない。まだまだ始まったばかりなんだ。

 ……正直、原作とは大きくズレてしまったこの世界で、どれだけうまくやれるか。

 自信は全くないけれど、それでも頑張らないとね。

 

 決意を新たに、ベッドに潜り込む。

 

 病室の無機質な天井だけが無言で見守る中、日課の夜訓練が静かに始まった。

 

 

 

 





 爆発オチなんてサイテー!(天丼)
 崩壊→質量崩壊→大爆発ってのは「魔法科高校の劣等生」からパクリお借りしました。
 死柄木君は死んでないです。彼はラスボスなのでね。

 アニメ一期分終わったんで、ここからちょっとネタバラシ。自分で考察したい方は読み飛ばしてね。


 主人公の異常行動について、実にたくさんの御意見を頂きました。感想書いてくださった方ありがとうございます(たぶんもう読んでないだろうけど)。
 一番多かった考察が「主人公がヘドロヴィランの人格を取り込んでしまったのではないか」というもの。相澤先生も同様に考察してましたね。
 が、この考察は間違いであると明言しておきます。ちょい役に侵食されるほど上位者の精神はヤワじゃないです。

 主人公の行動原理について、筆者はいくつかの答えを用意しています。
 そのうちの一つが、「主人公が上位者だから」というもの。
 早い話が、「他人をキャラクターだと思ってる奴がマトモに振る舞えるわけないじゃん」ってことです。
 主人公が「キャラ」だの「イベント」だのメタ発言を繰り返してたのはこれの伏線のつもりでした。わかりにくいね。

 もうちょっと明かすと、主人公は意図的に「自分も他人もキャラクターで、この世界は作り物である」と思い込もうとしてる節があります。なんかある度いちいち主人公がちょっとナイーブになってるのはこのせい。
 ここら辺もいろいろ理由があるんですが、まあ、ある日突然「今日から君は主人公です。世界を救ってね!」ってなって正気でいられる方が異常かなって。
 人は()()物語の主人公として切った張ったする覚悟なんかありませんし、世界の命運を預けられたらプレッシャーに感じます。
 精神的に追い詰められた末に「この世界は所詮作り物だからどうなったっていいんだ」みたいな開き直り方をするのは、ごく“普通”の反応でしょう。主人公らしくはないですけどね。

 ……こういう「筆者の意図」みたいなの自分で明かすのはサムいと思ってるんで、ここらへんの裏設定とか最後まで明かさずに完走するつもりでした。
 が、さすがに不親切かなってのと、感想でここら辺言い当ててる方がいたんでやめました。バレてるなら隠す意味ないじゃんね。

 とはいえ、筆者は今後とも読者に不親切な作品作りを心掛けてまいります。
 可能な限り情報を絞りながら進行するんで、時間のある方は考察しながら読んでみてくださいな。


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