デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

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 今更ですが、本作に「信頼できる語り手」は存在しません。
 主人公は真実のすべてを語りませんし、知らないことは知りません。勘違いしていることもあります。
 会話は時に噓を含みます。会話場面をセリフだけで構成するのもここら辺が理由だったり。
 当然、筆者も同様です。嘘を語ることはありませんが、ギリギリ噓にならない範囲でテキトーほざいてます。
 先の読めている話ほどつまらないものはないですからね。結果よくわかんない作品が出来上がってもまあやむなし。



イベントは準備段階が一番楽しい

 

 

 

 

 暁光に照らされて紫に光る雲、遠く聞こえる小鳥の囀り。

 神秘的な沈黙を保つ街並みに、僕の鳴らす足音だけが響く。

 

 僕は早朝が好きだ。

 

 別に昼も夜も好きなんだけど、早朝は特に好きだ。

 早朝の時間帯に特有の静けさは特別感があって、神秘的で、なんだかテンションが上がる。

 早起きは三文の徳というけれど、これは早朝の楽しさを伝える諺だったのかもしれない。

 

 早朝の学校というのもまた、人が少なくて、ちょっとした特別感がある。

 人影のない校舎は異世界みたいで、実際に異世界に来ている僕としてもけっこう楽しい。

 

 

「失礼します」

 

「来たか。お早う、緑谷」

 

「おはようございます、相澤先生」

 

 今度からもうちょっと早めに登校してみようかな。

 

 

「おい緑谷、聞いてるのか?」

 

「もちろんです、先生」

 

 例えお説教のためだったとしても。

 

 

 

 〇

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 礼をして職員室を辞し、1-Aに向かう。

 いやあ、朝から話し込んでしまった。もう結構いい時間だね。

 

 教室に戻ると皆は既に席に着いていて、僕が最後だった。

 

「ム、緑谷君、早く席に着きたまえ!HRが始まるぞ!」

 

「いやあ、話が長引いちゃって……」

 

「なんだよ、緑谷遅刻か?爆豪に起こしてもらえなかったのか?」

 

「違う違う、USJの時の件で早朝からお小言貰ってたんだ」

 

「USJ?そういや緑谷オールマイトに助けられてたな。大丈夫だったん?」

 

「緑谷、救急車で運ばれてたよな!心配したぜ俺ぁ!」

 

「心配してくれてありがとう。なんとか無事で済んだよ。でも僕じゃなきゃ危なかったかも」

 

「すごい爆発だったよねー!死ぬかと思ったよ私!」

 

「わかる。ウチ走馬灯見えたもん」

 

「それなー!よくみんな無事だったよマジで!」

 

「USJはボロボロになっちゃってたけど」

 

「あんだけの爆発で死者ゼロだぜ!十分奇跡だって!」

 

「お早う」

 

 相澤先生が現れた瞬間、和気藹々とした賑やかな教室が一瞬で引き締まる。早くも訓練されてるね。

 

 後処理とかで寝不足なのだろう、気持ちフラついている相澤先生は、しかし、教壇に立つと凄まじい気迫を見せる。

 

「諸君らが全員無事でここに揃っている事、嬉しく思う。……だが、戦いはまだ終わってねぇ」

 

 先生の不穏なセリフに、皆が騒めく。

 まさかまだヴィランが――!? ……なんて空気が漂うけれど、なんのことはない。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「クソ学校っぽいの来たあああ‼」

 

 体育祭である。

 

 

 

 雄英体育祭。

 

 単なる高校の体育祭という枠を大きく超えたそれは、今や日本のビッグイベントの一つ。

 

 超常以降、“人間”の規格は大きく変化し、社会は混乱した。

 変革の巨大な()()()の中で旧来のスポーツは意義を失い、次第に廃れていってしまう。

 かつては全国を熱狂させたスポーツの祭典、オリンピックとて例外ではなく、規模も人口も縮小し、形骸化した。在りし日の熱狂はもはや影も形もなく、今は単なる外交儀礼の一環としてその名残が残るのみ。かなしいね。

 

 そして、日本に於いて今「かつてのオリンピック」に代わるのが、雄英体育祭。

 お茶の間の市民はもちろん、全国のトップヒーローも注目するこのイベントは、ヒーロー科にとって最大のチャンス。

 ヒーローを志すなら、この体育祭でトップヒーローの目に留まり、サイドキックとしてスカウトされるのが最短経路。

 年に一回、計三回だけしかないこのイベントは、ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。

 

 敵の襲撃があったばかりだし、普通なら延期なり中止なりするところだけど、だからこそ開催する。

 そうすることで雄英の危機管理体制が盤石だと示す考えらしく、警備は例年の五倍に増やすそうだ。

 

 正直ストーリー的にはあんまり重要なイベントでもないんだけど、だからって手を抜くわけにもいかない。

 目的を達成するためには、弛まぬ努力が必要だ。大した危険のない文字通りのイベントであろうとも、全力で臨む必要がある。

 すべては平和な世界のために、主人公の責務を全うするために。がんばらなくっちゃね。

 

 

 

 〇

 

 

 

「落ち着いたか、お茶子」

 

「う、うん。なんかごめんね、お恥ずかしいところを……」

 

「恥ずかしくなんかねぇさ、なあ?」

 

「そうですよ!燃えてるお茶子ちゃん、カァイかったですよ!」

 

「あはは……ありがとう、樺月ちゃん、ヒミコちゃん」

 

 昼休み、学食。

 体育祭に向け皆が燃える中、一際気合いの入っていた麗日さんは食事を摂りながらクールダウンしている。

 いやあ、すごく()()()()じゃない顔してたね麗日さん。ヒーローに相応しい凛々しさだったよ。

 

 

「お金、ですか?」

 

「そんな理由でヒーロー目指してたんか。……なんつーか、意外だな」

 

「その、究極的に言えば……。なんかごめんね不純で……!飯田君とか立派な動機なのに、私恥ずかしい……あー……」

 

「何故⁉生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」

 

「そうだよ、何も恥ずかしくなんかないさ。お金は大事だよ」

 

「不純も何も、私なんてあんまりヒーローに興味ないですからねぇ。樺月ちゃん、お金目的ってダメなんです?」

 

「ダメなわけあるか。金は大事だぞ、実際。オールマイトなんかすげぇ額の資産があるって話だ」

 

「やっぱりそうですよね。ステ様そういうの嫌いだったから……」

 

「ステインはまあ、そうだろうね。でも、専業ヒーローとして食べていくなら、お金は大事だよ。贅沢をしなくたって生きてるだけでお金は減るし、装備とかコスチュームとかの出費もバカにならないからね」

 

「ですよねぇ。私もいろいろあって、お金の大切さは身に染みてます。なのにステ様ったら、『ヒーローは報酬を求めてはならない』なんて常々言ってて……。ステ様のことは大好きですけど、アレはよくわかんなかったです。だってステ様、そんなこと言う割にお金の管理とか自分じゃなんにもしないんですよ!?ぜーんぶ愛美さん*1に丸投げしてて、ワガママだと思いません?」

 

「いるよなぁ、そういう男。自分の理想しか見えてないやつな」

 

「そう、そうなんです!……まぁ、そういう所もカァイくて好きなんですけど」

 

「物好きだね、アンタも。……意外と()()()な、ヒミコ」

 

「樺月ちゃんこそ。……その原因の方は分かってないみたいですけど」

 

「言われてるで、緑谷君」

 

「えっ、僕?」

 

 トガさんの暴露話にニコニコしてたら急に僕の方に矛先が向いた。なんで?

 それにしても、今日もランチラッシュの唐揚げがおいしい。家でいろいろと試してるんだけど、どうやっても再現できないんだよねこの味。

 

「でもヒミコちゃんもお金で苦労してるんやねぇ、ちょっと親近感」

 

「お茶子ちゃんもあんまり余裕ない感じです?」

 

「まあ、うん……。ウチ建設会社やってるんだけど、全っ然仕事なくて、スカンピンでね。泥花市にいたヒミコちゃんほどじゃないかもしれないけど……」

 

「お金ないのにまっとうに生きてるだけで偉いですよ。ましてやヒーロー目指してるなんて」

 

「ありがとう。……それでね、ヒーローんなって、お金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげたいな、って」

 

「麗日君……!ブラーボ―‼」

 

「ステキですねぇ。……素敵な、キレイな家族愛です。いいなぁ」

 

「……ねえトガさん、トガさんって体術とか得意だったりする?」

 

「突然ですね。……まぁ、結構強いですよ、私。ステ様ほどじゃないけど……」

 

「実はね、体育祭に向けて放課後に演習場借りたんだ。1-A名義で提出したからクラスの人ならだれでも来れるんだけど、トガさんもどうかな?」

 

「……私、体育祭出ないですよ」

 

「え、そうなん!?」

 

「というか、待ってくれ。演習場って借りられたのか?」

 

「あんまり知られてないけどね。それで、委員長の飯田君から伝えてもらって、皆を誘おうと思ってるんだけど……言い忘れてたね、飯田君と麗日さんはどう?」

 

「それは、是非もないが……」

 

「参加したいけど、その前に。ヒミコちゃん体育祭出ないの?」

 

「大人の事情だそうです。別に、元々あんまり興味ないからいいかなって」

 

「そんな!」

 

「たぶんヒーロー公安の意向だろうね。トガさんの存在って結構センシティブで、USJの件もあって余計に難しくなってるんだと思う。そもそもトガさんが雄英生に交じってるってだけでも、物議を醸しかねないわけだし……」

 

「そんなのって……。ヒミコちゃんはそれでいいの?」

 

「……さっきも言ったけど、元々あんまりヒーローには興味なかったのです。体育祭は、まあ、ホントはちょっぴり出たいけど、こうやってみんなとお話できてるだけでも奇跡みたいなものだから……」

 

「ええっと、それでさ。体育祭本番には出られなくても、その雰囲気を味わうことはできるんじゃないかなって思って……」

 

「それで、放課後訓練に誘ったと……。だが、参加してどうする?トガ君は何を訓練するんだ?」

 

「皆さえよければなんだけど、トガさんに体術を教えてもらえないかなって思ってさ」

 

「体術を……私が皆に、ですか?」

 

「そう。どうかな?」

 

「……私、誰かに教えた事とか無いです。そもそも我流だし……」

 

「トガさん、誰かに変身して戦う機会とかあったんじゃない?」

 

「え?それはまあ、はい」

 

「なるほど、トガ君が相手に変身して、その上で戦い方を教授すれば……」

 

「そう。他人の肉体で戦うことに慣れたトガさんは、実は最高の指導者なんだ。“人間”の規格が変わって格闘術は廃れちゃったけど、トガさんなら色々と教えられるんじゃないかなって」

 

「……アタシは賛成。教えてくれるか、ヒミコ?」

 

「ええっと……私からもお願いしていいかな?」

 

「……その、えっと……。私で、よければ」

 

「決まりだね!皆への告知は頼んだよ、委員長」

 

「うむ、任された!」

 

 

 

 〇

 

 

 

 そんなこんなで、放課後。

 

「うおおお……何ごとだあ‼⁉」

 

 教室の前を群衆が埋め尽くし、僕らは上野動物園のパンダみたいになっていた。見世物じゃないよ、まったく。

 

 あったなぁこんなイベント。どうしよう、特に何も考えてないんだけど。

 

「ようこそ皆さんお越しくださいました!雄英動物園へようこそ!今ご覧いただいているのが1年A組、ヒーロー科の学生たちです!かわいいでしょう?触れ合うこともできますよ!」

 

「突然何を言い出すんだ緑谷!?いろいろアウトだぞ!?」

 

「やめろアホ」

 

「あいたっ」

 

 即興コント「動物園」は大滑り。みんなポカーンとしてる。かっちゃんナイスツッコミだね、おかげで致命傷で済んだよ。

 ……うーん、どうしよう。マジで何も用意してないんだよね。放っといたら勝手に解散してくれないかな?

 

「どんなもんかと見に来たけど……ずいぶんおちゃらけてるんだな」

 

 あ、よかった。イベント進んだ。

 

「こんなのでもヒーロー科に受かれるのか。ちょっと幻滅するなぁ」

 

 現れたのは心操人使君。個性【洗脳】の持ち主で、強力な個性を持ちながら入試が対ロボットであったためにヒーロー科に落ちてしまった不遇な人だ。

 彼とは是非とも仲良くしておきたい。ここで交流が持てたのは思わぬ収穫だ。スベった甲斐があるね。

 

「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったってやつけっこういるんだ。知ってた?」

「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって」

「その逆もまた然りらしいよ」

ヒーロー科(あんた)がそんな調子なら、下剋上も楽そうだ」

「忘れるな、体育祭には普通科(おれら)もいる」

「調子のってっと足元ごっそり掬っちゃうぜ」

 

 ステキな啖呵だ、痺れるね。

 

「ご丁寧な宣戦布告をどうもありがとう。それじゃあ、僕からも」

 

 こういうの、一度やってみたかったんだ。

 

「体育祭、勝つのは僕だ。下剋上?大いに結構。是非とも頑張ってくださいな。応援しているよ」

 

「何言ってんだ緑谷!?」

 

「緑谷お前そんなキャラだったか!?」

 

 体育祭というイベントは、あまり今後に影響しない、重要度の低いイベント。

 なら、少しくらいハッチャケちゃってもいいかな。せっかく学生の身分があるんだし。

 

「……余裕綽々ですってか。腹立つな」

 

「おうおうおうおうおう!隣のB組のモンだけどよぅ‼敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ‼エラく調子づいちゃってんなオイ‼」

 

 おっと、B組の鉄哲君がご登場だ。彼とは、うん。仲良くできるといいな。

 

「本番で恥ずかしい事んなっぞ‼」

 

「恥ずかしい事、ねぇ……。できるものなら、お好きにどうぞ。僕は負けないよ」

 

「もういい加減にしとけって緑谷!」

 

「樺月ちゃん、緑谷君ってあんなんだっけ?」

 

「……あそこまで剥き出しなのは珍しいな。普段はもうちょい隠してる。ああ見えてアイツも燃えてんだろうよ」

 

「……元からああなんだ……」

 

 さて、いいかげん時間がもったいないね。

 

「そろそろ通してくれるかな、僕らこれから訓練なんだ」

 

「訓練?」

 

「あれ、知らなかったの?雄英の演習場って申請すれば放課後借りられるんだ。普通科も借りられたはずだよ。時間は有限、こんな所で油売ってないで、体動かさなきゃね。でしょ?」

 

「……それ、ヒーロー科だから知ってたんだろ」

 

「そんなことないさ、下調べの有無の違いだよ。それじゃ」

 

 USJではいろいろあったけど、得たものもある。

 体育祭までの2週間でモノにしなきゃね。

 

 

 

 〇

 

 

 

 USJで得たものはいくつかある。

 

 まず、【ショック吸収】と【超再生】について。

 死柄木が自爆する寸前、一か八かで吸収した脳無の体組織だけど、無事、僕は【ショック吸収】と【超再生】を獲得できていた。

 これに関しては本当に賭けだったんだけど、運よく賭けに勝てた。想像通り、脳無はとうに()()()()()いたらしい。

 

 【ショック吸収】は脳無の肉体ありきだったんだろう、僕が使ってもあれほどの性能は発揮しなかった。残念。

 とはいえ効果は小さくなくて、打撃への耐性が増したのはもちろん、いつも移動に使ってるセルフピンボールの速度を上げられるようになったし、斥力場の反動にも前より耐えられるようになった。

 【ショック吸収】に【液化】も併用すれば、もう僕に打撃は通用しないんじゃないかなってレベルだ。油断は禁物だけどね。

 

 【超再生】に関しては、効果絶大だった。

 元々僕は【液化】と【吸食】の併用で高い自己再生能力を有していたんだけど、ここに【超再生】が奇跡的なマリアージュ。

 以前は再生に結構なエネルギーを消費していて、再生しながら動き回るとすぐガス欠になるうえ、再生自体の速度も遅かったんだけど、ここに【超再生】が組み合わさることで再生に必要なエネルギーが激減し、再生速度が超向上。

 以前にも増して不死性が高まったし、それによって以前よりもムチャが利くようになった。

 

 これらの個性を獲得できたのは本当にラッキーだったね。特に【超再生】は、有ると無いとで今後の予定が大きく変わる。

 もしも個性の獲得に失敗していたら予定に大幅な遅れが生じる可能性もあったから、心底安堵したよ。

 

 それから、想定外の収穫だった【鳥瞰】。これの獲得は大きい。

 【鳥瞰】は僕の上位者としての知覚を用いる技術で、技というよりは身体操作の延長に近い。つまりノーコスト。これだけでも強い。

 【鳥瞰】を使えば弱点だった情報力もある程度補えるし、場合によっては大きな情報アドバンテージを取れる。

 

 さらに、この【鳥瞰】を得たことで分かったことがいくつかあるんだけど、特に重要なのが【吸食】の斥力場について。

 

 ……ずっと疑問ではあったんだ。僕の個性の中でも斥力場だけ()()()()から。

 【鳥瞰】を得てから気づいたんだけど、僕が用いている斥力場、この体由来のものじゃない。

 この体が本来有する斥力場は、恐らく初期のバリアみたいなもの。展開中は移動できないし、バリアの形も弄れない。

 それに僕の、上位者としての本体みたいなものの力が作用して、今の便利すぎる斥力場が爆誕しているんだと思う。

 ニュアンスとしてはATフィールドとかが近いかな。僕の本体の精神とリンクしてる感じ。

 

 ついでに言うと、先日の自爆を凌げたのも多分これのお蔭。

 本来、僕の斥力場じゃ核爆発なんて抑制できない。オールマイトだって無理だったろうから、僕は今死んでなきゃおかしい。

 それが今生きているのは、あの時上位者としての自覚が芽生えたことで、一時的に斥力場の強度を向上させることに成功したからじゃないかなって思う。あの時はホントに死にかねなかったし、何よりかっちゃんの身に危険が迫ってたからね。

 

 とにかく、USJで得たものは大きく3つ。

 【ショック吸収】と【超再生】、そして【鳥瞰】だ。

 体育祭までは2週間しかないから、これら3つに絞って鍛えていくことにする。

 

 たかが体育祭、されど体育祭。手を抜くわけにはいかないし、将来の為にも早急にモノにしておきたい。

 まあ、やることは変わらない。努力、努力、努力だ。頑張ろう。

 

 

「というわけでかっちゃん、そろそろ降参しない?」

 

「げほっ……ぬかせ、クソデク……!」

 

 現在地演習場、かっちゃんと個性アリ(斥力場縛り)の組手中。

 最近はお互い個性が強くなってきて個性アリの組手はできてなかったから、こういう機会が得られてよかった。

 早朝からお説教された甲斐があるってものだね。演習場借りたいって言ったら更にお説教が長引いたけど。

 

「死ねぇ!!」

 

 かっちゃんが身を低くして、足裏を爆破させ突っ込んでくる。

 膝蹴りで応じると、地面に爆破を叩きつけて煙幕を張りつつ上へ。

 そちらを向くと閃光弾(スタングレネード)で目潰しされるけど、残念、この目は飾りだ。

 頭上を越えて背後に回ろうとするところを足を掴んで咎め、そのまま力任せに地面に叩きつける。

 

「がはぁっ!」

 

 身体強化は程々に抑えてるけど、これは効いたろう。

 とはいえ、かっちゃんはこれくらいで寝てくれるほど()()()()()()人じゃない。

 即座にマウントを取り、両手を束ねて持ち、尻で腰を抑えて右手を首元に添える。チェックメイトだ。

 

「ねえかっちゃん、降参しない?」

 

「ハッ、バーカ」

 

 言うや否や、拘束されている部位を重点的に、全身を爆破させて抵抗する。自分も痛いだろうに、よくやるなぁ。

 これはオトさないと止まんないかな。首元に添えていた右手を進め、そのほっそりとした首を掴む。

 当然首を爆破させて抵抗されるけど、残念ながら【ショック吸収】を手に入れた僕には効かないよ。

 首を爆破なんて芸当ができるようになったかっちゃんに感慨深さを覚えつつ、ゆっくりと締め落とす。

 

 ……この締め加減もすっかり慣れちゃったなぁ。良いんだか何なんだか。

 しばらくジタバタしていたかっちゃんも、一分も経つ頃には大人しくなった。一旦休憩だね。

 

 

「お、おい、緑谷。大丈夫なんか、それ?」

 

「うん、気絶してるだけだよ。かっちゃん、気絶するまでやらないと納得しないんだ」

 

「そ、そうか……合意ならいいのか……?」

 

「おい緑谷……爆破で()()()た女子をお姫様抱っこたぁいい御身分だなぁ……?オイラに代わりやがれこの野郎!」

 

「……次の組手は峰田君とだね。わかった、ちょっと待っててね」

 

「えっ?あっ、ちょっ」

 

 峰田君の言う通り、全身を爆破しまくったせいでかっちゃんの体操服がパンクな感じになってしまっている。

 このまま放置するのもアレだし、かといって保健室に連れてっちゃうと起きたときに怒られてしまうだろうから、八百万さんに毛布でも出してもらって、ついでにトガさんの様子も見て来ようかな。

 

 みんながあちこちで思い思いに特訓しているのを横目に、先ずは八百万さんを探す。

 八百万さんは麗日さんと一緒にトガさんの体術教室で教わっていたはずで、確かこの辺に……ああいた。

 

「八百万さーん!ちょっといい?」

 

「緑谷さん?まあ!爆豪さんが!」

 

「えっ、樺月ちゃんそれ大丈夫なん?保健室行った方が……」

 

「すぐに起きるし、保健室連れてった方が怒られちゃうよ。でもこんな格好で放置するのもアレだから、毛布か何か出してもらえないかなって」

 

「まあ。そういうことでしたら、替えの体操服をご用意いたしますわ」

 

「うーん、替えの体操服は用意してあるはずだし、ここで着替えるわけにもいかないから、布一枚で十分だと思うよ」

 

「そうですか?それでは……」

 

「ありがとう。どう?トガさんの体術教室。何か困ってたりしない?」

 

「困ってるなんて。とっても丁寧にわかりやすく教えて頂いておりますのよ」

 

「ヒミコちゃんすごいんよ!こう、フワッってなって、気づいたら寝かされてるの!」

 

「そうなんだ。さすがだね、トガさん。どう、何か困ってたりしない?」

 

「んー、特には。いっぱいちうちうできて楽しいです」

 

「それはよかった。誘っておいて自分のことばかりやってたから、気になってたんだ」

 

「気遣いさんですねぇ。心配しなくても、大丈夫ですよ。泥花の女は強いのです」

 

「あはは、そっか。それじゃあ、かっちゃんが目覚めたらそのまま相手してあげてほしいな。トガさんに教わりたがってたから」

 

「わかりました。イズ君はこれから何するんです?」

 

「何って、まあ、組手だよ。峰田君に申し込まれたんだ」

 

「峰田さんが?意外に好戦的ですのね」

 

「ね。正面戦闘とか苦手そうなのに……」

 

「だからこそ鍛えたいってことなんじゃないかな。それじゃ、また後で」

 

 女性陣にかっちゃんを預け、元の場所へ。

 峰田君は隠れてしまっていたけど、見つけ出して組手を強行。

 泣き言言ってた割に結構手強くて、ポテンシャルの高さを感じた。普段からそうやってればモテるだろうに……。

 ま、それも彼らしさかな。今回は3分も保たなかったから、5分くらいを目標に頑張ろうね。それじゃあ峰田君、もう一本だ。

 

 

 

 

*1
相場愛美=ラブラバ





 ヒロアカ二次界隈で広く採用されている「申請すれば学校の演習場を借りられる」という設定、本作でも採用しています。
 アニメ見返してみても明らかに学校の施設で訓練しているので、たぶん明示されてないだけで公式でも似たような設定があるはず。

 本作において、トガちゃんはかなり強めの設定。原作ステインくらいの腕前です。
 当然、その師匠にあたるステインも本作では強化されてます。「史上最強の弟子ケンイチ」のマスタークラス辺りを想像していただければ大体合ってます。つまり人外ってコト。
 トガちゃんの家とか生活費とかは公安が用意してます。監視も兼ねてるけど。女の子のプライベートを監視だなんて、ヘンタイ!

 組手のシーン、最後かっちゃんが組み伏せられたところ、かっちゃんは本気出せば抜け出せました。
 そうしなかったのは、本気で暴れれば体操服が耐えられないから。……と、本人は言い訳してます。が、それだけではありません。

 断っておきますが、作中イチのド変態は主人公でもトガちゃんでもなくかっちゃんです。
 なんつーか、そうならざるを得ないです。まあ創作物のヒロインなんて大体みんな変態だから……。


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