体育祭編、二話くらいで畳むつもりだったのに倍にまで膨らんじゃった……って思ってたら堀越先生も似たようなこと書いてました。堀越先生も岸本先生からそのようなことを聞いていたそうで。なんか嬉しい(烏滸がましい)。
体育祭編、青春っぽい感じ出したかったんだけどうまくいきませんでした。やっぱ明るい話は筆を鈍らせますね。
天の御機嫌麗しく、空模様は五月晴れ。吹き抜けの天井からは白い雲が覗いている。
スタジアムの中には大歓声が充満し、あちこちぶつかって形を喪った大音声が抜けるような青空を貫いていく。
雄英体育祭、最終種目。
天下一武闘会のような1対1のトーナメントは、順調にプログラムを消化して、一回戦の最終試合。
『第一回戦、最後の第8試合!』
『これがホントの地雷系!?爆発的ヒロイン!爆轟樺月!!』
『
『フワフワ系の見た目に気をつけな!重い一撃貰っちまうぜ!?ゼログラビティガール!麗日お茶子!!』
『第八試合……START!!』
かっちゃんがんばえ~!
〇
この世界に目覚めて早十年。
僕とかっちゃんは倦まず弛まず、毎日のように訓練を積んできた。
この世界は少年誌のロジックでできている。
即ち、努力は裏切らない。
僕の個性が子供の頃に比して大きく伸びているように、かっちゃんもまた目覚ましい成長を遂げているのだ。
身体能力に関しては原作と同程度か、ちょっと見劣りするくらい。女性であることを鑑みれば十分すごいけれど、正直特筆するほどのものではない。
だけど、個性の扱いに関しては、原作とは比べものにならないほど大きく伸びている。
一番の違いは、かっちゃんが全身での爆破を体得している点。
原作のかっちゃんがこれを体得したのは終盤も終盤、何度も死線を潜り抜けた末のことだ。
僕には原作知識があるし、
そうして出来上がったのが、原作に比べ大きく実力を増した今のかっちゃん。
たぶん、今すぐにでもプロで通用すると思う。戦闘力に限らず、いろいろと
また、かっちゃんは全身爆破を体得しているのだから、当然、その前段階にあたる“クラスター”をも体得している。
クラスターというのは、原作においては、汗を一度溜めてから汗の玉として放ち、爆発を同時多発させる技のこと。
かっちゃんはこれをさらに発展させ、汗に引火させる際、汗の小さな粒を空気に混ぜてから引火させることで、粉塵爆発の要領で爆発力を高めている。
かっちゃんの驚異的なセンスを以てすれば、汗の粒の大きさを調整することで燃焼速度を操作し、爆圧にある程度の指向性を持たせることさえ可能。
準備に時間がかかるしスタミナもめっちゃ消費するので普段から使うわけではないんだけど、ここぞというときの本気戦闘ではガンガン使ってくる。
……まぁ、要するに。
「麗日さん、場外!」
『
『デカい声で言うことか……恐らく、やったことはシンプルだ。一瞬で接近し、服を掴んで、投げ飛ばした。だが、まさかこれ程とはな』
『一回戦突破は爆豪!これで一回戦が一通り終わった‼小休憩終わったら早速次行くぞー!』
ごめんね麗日さん、かっちゃん強いんだ。
かっちゃんには油断なんか一ミリもなく、与えられた準備時間は
ならば麗日さんに、勝ちの目はない。
「……なあ、緑谷」
「どうしたの上鳴君」
「爆豪ってこんな強かったん?」
「まだ本調子じゃないと思うよ。全力の七割って感じ」
「やべー……俺爆豪にセクハラしちゃったって……」
「……君が今無事でいるのなら、そういうことだよ。気にする必要ないんじゃないかな?」
「いや逆にこえーって!もし本気で怒らせたらどうなっちゃうの!?」
「上鳴君……お葬式には行くからね」
「やめて!?なんだよその優しい微笑み!?肩に手を置くなぁ!!」
「行きつく先が地獄だとしても……オイラは……!」
「峰田君、その場合はかっちゃんの前にまず僕が止めるからね?」
わいのわいの。なんか楽しいね、こういうの。
とかやってたら、瀬呂君と常闇君が戻ってきた。おかえり~。
瀬呂君は結局骨抜君に負けちゃったんだよね。他は原作通りの結果で、第6試合は常闇君が勝ち、第7試合は引き分けで、たった今腕相撲によって切島君の勝ち上がりが決まった。概ね原作通りの流れになりそうで何よりだ。
さて、そろそろ行かなきゃ。ヒーローは遅れて来るものだけれど、ヒーロー科は十分前行動なんだ。
〇
『二回戦、第一試合!』
『一回戦じゃ最強格の夜嵐相手に謎の個性で大金星!普通科、心操人使!』
『
『誰かコイツを止めてくれぇ!ヒーロー科、緑谷出久!』
「なんだか晴れやかな顔だね、心操君。良い事あった?」
「ま、ちょっとな。……アンタのことは嫌いだが、一応感謝しとくよ。おかげでイイ
「それは何より。だけどごめんね」
『START!!』
「ここまでだ」
全力で身体強化を掛け、合図と共に突進。
心操君は反応できず、反射的に手を掲げ、目も半分閉じてしまっている。それじゃあダメだよ、心操君。
反射で上がっただけの、何もしない手を掴んでブン回す。ハンマー投げの要領だ。
『緑谷、ジャイアントスイング!心操は為す術無し!グルグル回して……投げたァ!!ハンマー投げならぬ人間投げだ!!』
『まんまじゃねーか。……心操は戦闘能力に関しちゃ一般人並み。搦手が通じなければ、当然こうなる』
「心操君、場外!緑谷君、三回戦進出!!」
投げ飛ばされてあちこち打ち付けたのだろう心操君が、担架に乗せられ呻きながら運ばれていく。
うーん、彼相手ならもうちょっと優しくできたな。力加減はまだまだ修練が必要だ。
とはいえ、順調に勝ち進んだ。これでいい。……はずだ。多分、きっと、メイビー。
〇
第二試合、轟君vs飯田君。原作と同じような流れで轟君の勝利。
第三試合、骨抜君vs常闇君。常闇君が地面に沈められて骨抜君の勝利……と思いきや、地下の闇で力を増した
そして二回戦第四試合、かっちゃんvs切島君。
「HEAT」
――――KABOOOOOM!!!
「ガッ……!?」
『ボンバァアアア!爆豪、切島の【硬化】を……ブチ抜いたァ!!』
「っのヤロッ……――――」
「HESH」
――――BOOOOM!!
「ッガアアアアアアアア!!」
かっちゃんは切島君を圧倒していた。
【HEAT】は成形炸薬弾を参考に、爆圧を一点に集中させる技。かっちゃんの狂気的な爆風操作技術が実を結んだひとつの結晶。
【HESH】は粘着榴弾を参考に、掌や足の裏を密着させた状態で爆破し、衝撃を内部に伝える技。どちらも僕考案で、最近になって漸く形になったかっちゃんの必殺技だ。
かっちゃんは試合開始と同時、麗日さんの時にも見せた高速機動で切島君の背後に回り、【HEAT】で表面を破壊。【硬化】が綻んだところに【HESH】で内部破壊をして、ノックアウトを狙っている。
「――――って感じだと思うよ」
「え、えげつねぇ……」
「樺月さん、片鱗はありましたけれど、容赦ありませんわね……」
「だが、その容赦の無さは切島への評価の高さの裏返しでもある。実際、相性的には切島の方が若干有利だ」
「轟君、鋭いね。かっちゃんの必殺技は……正確には必殺技を出せる状態を保つことは、かなり体力を食うんだ。あの無慈悲な攻撃は、かっちゃんの側にも相応のリスクを強いるんだよ」
「なるほどなー。一方的に見えて、実はギリギリって事か……」
「……それ、教えていいのか?」
「もちろん。君がかっちゃんと戦うことはないからね」
「……そうか」
「うおお……めっちゃバチバチ」
「緑谷って結構……かなり好戦的だよな。優男風の見た目のくせに……」
「……先、行ってる」
「うん、行ってらっしゃい。また準決勝で」
『爆豪、エゲツない連撃で三回戦進出!これでベスト4が出揃った!!』
〇
『準決勝!ここまで来れば勝ち負けは関係無ぇ!胸を張りな!テメーらは紛れもなく金の卵だ!!』
『しかぁし!!だからって白黒付けずに終われねぇ!行くぞ第一試合!!』
『轟
『START!!』
合図と同時、轟君の右足から氷が伸びて襲い来る。
反撃として、斥力場を上空に
――――STOMP!!
『CRASH!!突如砕けた轟の氷!犯人は一体!?』
『緑谷しかいねぇだろ。恐らくだが、障害物競走でロボットを吹っ飛ばした技だろうな。少し弱めてはあるみたいだが、不可視の遠距離攻撃ってのはそれだけでかなりの脅威。これをどう攻略するか……』
正確には別の技だし、こっちの技を研究してるときに偶然あの技が生まれたんだけどね。
威力はアレより弱いし対象物を切り刻む能力もないんだけど、こっちの方が出が早いし、ヒト相手に使うなら弱い威力も丁度いい。
次々に襲い来る氷の波濤を、テンポよく踏み潰していく。気分はリズムゲームだ。
「……騎馬戦の時みたいに、上空に逃げねぇのか?」
「そんなことをしても仕方ないじゃないか。体育祭の目的は実力のアピールでしょ?」
「ああそうかい。じゃあ
瞬間、轟君の左半身が燃え上がる。
……もしかしたらとは思ってたけど、狙ってたか。
轟君の氷で冷凍庫みたいになったステージ、中央部分には僕が砕いてできたコンクリート片。
「焦凍ー!やっちゃえー!!」
スタジアムのどこかからエンヴィーのでっかい声が聞こえる。
チラリと“目”を向ければ、ピョンピョン飛び跳ねて応援しているエンヴィー。隣のエンデヴァーも今ばかりは試合に見入っている。いや仕事してくださいよ。
「膨冷熱波!!」
――――WHAKOOOOOM!!
原作ではこの瞬間に生まれるはずだった【膨冷熱波】。エンヴィーや轟君の様子を見るに、既に開発された技だったらしい。
威力は原作よりも増しているかな?暴風に乗ったコンクリートの破片がビュンビュン飛んできて、なかなかに危険だ。
斥力場で自分を覆って身を守りつつ、観客席の保護も忘れない。小さいお子さんとかが飛ばされちゃったら大変だからね。
『すげぇ爆発……なのに爆風が無い……なんで……?』
『……まさか緑谷の奴、観客席を保護したのか?』
『ハァ!?なんだそりゃ!?オイどうなったよ、何も見えねー!』
煙が晴れて、ステージの上には無傷の僕と、少しセクシーな格好になった轟君。
さあ、仕切り直しだ。次はどうする?
「……無傷かよ。口だけじゃ無ぇってことか」
「そりゃあね。打つ手無しかな?」
「お前こそ。さっきから守ってばっかじゃねーか」
「そう?それじゃあ……」
お言葉に甘えて。
「ぐっ……!?」
『おおーっとぉ!?なんか轟が吹っ飛んだぁ!!キョーレツな一撃!さっき氷を砕いてた技か!?見えないから分かんねぇ!!』
『……最初からこれをやらなかったのは、威力の調整に自信が無かったからか?』
『轟の大技にビビって解禁したってか!?ウケる!』
増強系でない彼相手にこの技を直当てするのは少しやりすぎな気もするけれど……大丈夫でしょ。轟君だし。
現に彼は、氷で壁を作り場外を回避している。暴走トラックに撥ねられるくらいの衝撃はあったはずなんだけどなぁ。さすがだね。
「大丈夫?死んでない?」
「……おかげさまでな。追撃しないのか?」
彼の凭れ掛かる氷ごと、今度は逆方向に吹き飛ばす。今度はギリギリで躱される。
「おお、すごい。見えないのによく避けられたね」
「ゲホッ……ナメてんのか?わざわざ氷を挟んで、避けさせるつもりだったろうが」
「そんなことないよ、単なる僕のミスさ」
「そう……かよ!!」
――――WHAM!
今度は炎。固く鋭く練り上げられた、炎の槍が僕を貫く。あつい。
『ファイヤー!!轟のアツいのが緑谷を貫く!大丈夫なのかアレ!?』
『お前の発言が大丈夫じゃねぇよ。緑谷は極めて強力な自己再生能力を持っている。あれくらい掠り傷みたいなもんだろうさ』
うーん、吸収しきれない。炎の勢いが強すぎて、吸収する前に通り抜けていってしまう。
上鳴君との戦いをしっかり見ていたんだね。僕の弱い所を的確に突いている。
……まあ、素直に負けを認めよう。僕は未だ、炎熱系・電気系個性に吸収だけで対抗できない。精進しなきゃね。
課題が見えたところで、そろそろ幕を引こう。
――――CRASH!
ステージの地下に斥力場を展開、轟君を足場ごと吹っ飛ばし、上空に打ち上げる。
空中で無防備な姿を晒す轟君は、さながら俎上の鯉だ。この場合鯉のぼりかな?紅白で縁起がいいね。
鯉のぼりの轟君はそのまま空中で斥力場にブン殴られ、為す術なく水平方向に飛んでいく。
「轟君、場外!緑谷君、決勝戦進出!!」
さあ、残すは決勝。気張っていこう。
〇
「トコヤミ」
「なんだ、爆豪」
「一応謝っとくよ、悪ぃな」
「?」
『START!!』
「
――――BOOOM!!
「ぐアっ!?」
『煙幕ばっかだな……‼どうだどうだ‼?』
――BBBBBBB……
「……知っていたのか」
「騎馬戦ン時、テメーの騎馬の周りだけ少し暗かった。イズクがやってたんだろ?暗い方が嬉しい奴が居るってんなら、消去法でお前がそれだ。……後であの大マヌケをブン殴ってやんな」
「…………まいった……」
「常闇君降参!爆豪さんの勝利!!」
『よって決勝は!緑谷 対 爆豪に決定だあ!!』
原作通り、かっちゃんvs常闇君はかっちゃんの勝利。光を苦手とする常闇君の特性上、かっちゃんに小規模な爆発で光を浴びせ続けられてしまえば身動きは取れない。……まあ、こればっかりは相性が悪い。条件や相性によっては最強格なんだけどなぁ。
二人で何か話しているけれど、マイクは彼らの声を拾わない。どうせ原作と同じような遣り取りをしてるだけだろうけど。
決勝を前に観客を煽るマイク先生のMCを聞き流しつつ、焼き菓子の封を切る。これはコラボ商品とかじゃないんだけど、エンデヴァーが差し入れてくれたちょっといいやつだ。……うん、おいしい。
やっぱりヒトの食品は安心するね。さっきトイレから下水道に侵入して汚泥を回収したんで、マトモなものを食べたくなっちゃったんだ。……必要もないのにお菓子を一つ減らしちゃったな、もったいない。
けどまあ、ここまでの試合で思ったよりもエネルギーを消費しちゃってたんで仕方ない。空気ばっかり減らしちゃうのも環境に良くないだろうし、緊急時に何を吸収してエネルギー源とするかは今後の課題だね。
美味しいお菓子に舌鼓を打っていると、扉の外から聞き慣れた足音が近づいてくる。……あったなぁ、こんなイベント。
やや乱暴に開かれた扉の向こうには、ムスッとしているかっちゃん。相変わらずかわいいね。
「やあ、かっちゃん。お菓子食べる?」
「……もらう」
おや、意外。
お菓子を受け取ったかっちゃんはひとつ離れた椅子に座り、もそもそと食べ始める。おいしい?
「……イズク」
「なに?」
「なんでアタシを常闇に勝たせた?……違うな、なんで常闇を負けさせた?」
「……相性的にも実力的にも、勝つのは君だ。僕が何もしなくたって君は勝っていたよ」
「“必要なこと”ってか?」
「必要ってほどじゃないかな。何て言うか、既定路線みたいな」
「上から語りやがって……アンタのそういう所が嫌いだよ。なあイズク」
「なに?」
「何企んでるかはもう聞かない、ただ一つ教えてほしい。アンタはどこを目指してる?アタシ達をどこに連れて行きたいんだ?」
「どこって言われてもねぇ……。強いて言うなら、楽園かな」
「は?楽園?アンタそれシラフで言ってんの?」
「うん、大真面目だよ。僕は完全な世界を造りたい」
「完全な世界ぃ?誰もいないだろ、その世界」
「まさか。みんないるよ」
「……あー、なんか分かったわ。その『みんな』の中にいないだろ、アンタ」
「そりゃもちろん。僕はヒーローを目指してるからね」
「あんたヒーローを何だと……いや、いい。よく分かった。つまりアタシの力が足りないんだな」
「えぇ……?なんでそうなるの?」
「アンタが自分を一人だと思ってるのも、そのせいでイカレてんのも、元を辿ればアタシの力不足ってことだ。よく分かったよ」
「そんなことはないよ。かっちゃんが今よりずっと強くたって、僕は自分一人の力で何とかするさ」
「んじゃ聞くけどな。アタシがアンタよりもずっと強くって、アンタは今まで一度たりともアタシに勝てたことが無いくらい無力だったとして。アンタはプランを変えないのか?」
「それは……」
「……はぁ。嘘の一つも吐いてみせろよ、バカが」
溜息を吐き、心なし消沈した様子のかっちゃんは、振り返ることなく控室を出て行ってしまった。
鉄製のやや安っぽい扉が壁にぶつかって、ヒトの居ない控室に鈍い音が響く。
お菓子は食べかけのまま放置されていて、それが妙に物悲しく見えた。
〇
『雄英高体育祭もいよいよラストバトル‼』
『一年の頂点が この一戦で決まるゥ‼』
「イズク」
「なに?」
「テメーはアタシんだ」
「うん、そうだね」
決勝だというのにかっちゃんは少々顔色が悪く、若干フラついている。
呼吸は荒く、よく見れば
彼女が【
激しく体力を消耗する代わりに大きな戦闘能力を得る、正真正銘の切り札なのだ。
『いわゆる――決勝戦‼』
『ヒーロー科、緑谷 出久!』
『
『ヒーロー科、爆豪 樺月‼』
『今‼』
「なあイズク」
「なに?」
「目ぇ覚まさせてやるよ」
「うん、おねがい」
ここまでの試合で疲労が蓄積しているのだろう、やや朦朧とした様子のかっちゃんは、それでも不敵に笑って見せる。
本当に、さすがとしか言いようがないね。きっちり調整して
スロースターターの彼女は、疲労で動けなくなる直前、つまり今の状態が最も強い。今の彼女のコンディションは、100%中120%といったところ。決して油断はできない。
『START!!』
「アタシが自力で開発した新技だ、たっぷり味わいな」
両手を前に突き出して、花を象ったような構え。
「かめはめ波」の発射ポーズのような構えは【HEAT】のそれと同じだけれど、どうも違うらしい。
「
―――― KABOOOOOM!!
『大☆爆☆発!!またしても爆煙で何も見えねぇ!どうだ、勝負あったか!?』
すごいな、上半身が吹っ飛んだ。
やられた感触や名前からして、使った技は恐らく【HEAT】の発展形。
爆圧を一点に集中させて穴を空け、そこに汗の玉を押し込んで内部破壊も狙う、って所かな?いい技だ。
悠長に考察なんかしてるのは、余裕とかじゃなくて動けないから。僕の脳は主に上半身に詰め込んであるから、胴体をブチ抜いて上半身を吹っ飛ばされちゃえば動けない。僕の弱点をよく理解した攻撃だ、さすがだね。
……一応身体強化全開だったし、【ショック吸収】もあるはずなんだけどなぁ。紙みたいに引き裂かれちゃったよ、とほほ。
「まだまだァ!!」
『ラッシュ、ラッシュ、ラーッシュ!!爆豪猛攻!緑谷無事か!?見えないから分かんねぇ!!』
『恐らく、緑谷に再生の隙を与えないつもりだろう。緑谷相手に持久戦は無謀、狙うなら短期決戦での場外勝ちだ』
息も吐かせぬ連撃で、再生する間もなく吹っ飛ばされまくる。
脳の大半を吹っ飛ばされたせいでうまく斥力場が展開できないし、かっちゃんがすごい早さで飛び回っているので狙いも定まらない。斥力場に籠ろうにもあちこち吹っ飛ばされまくっていて、場外を避けるので精いっぱい。
「イズク!アタシは強いぞ!!」
すごいね、かっちゃん。本当に強い。絶体絶命だよ。
でもまぁ、今回は僕が優勝する予定でいたから。
実質僕の負けみたいなものだけど、ごめんね。
今回優勝するのは僕じゃなきゃダメなんだ。
――――BOOOM!
ぐちゃぐちゃになった僕が、場外に吹っ飛ばされる。
「緑谷君、場外――――」
肉塊が
――――THOOOOM!!
その刹那。巨大な腕がステージを吹っ飛ばして地下から現れ、かっちゃんを襲う。
不意打ちにも関わらずギリギリで避けて見せるかっちゃんは流石だけれど、ステージに空いた大穴からは続々と巨大な腕が現れ、次から次へと亡者の如くかっちゃんに掴みかかる。
『WHAAAAAT!!??オイオイ何事だよ!?なんなんだあのでっかい腕!?アレ緑谷なのか!?イミわかんねぇ!!』
『地下から現れているのを見るに、場外に叩き出されたのはデコイか。本体は地下で機を窺っていたワケだ』
『今度は緑谷のラッシュ!蝶のように避ける爆豪だが、蜂のように刺すことはできるのか!?徐々に上空に追いやられちまってるぞ!イッツカンダタ!!』
実際にはデコイなんて高度なものじゃないんだけどね。場外に吹っ飛ばされる瞬間に飛び散る血肉のひとつを本体として、肉体の大部分を乗り捨てただけだ。
皆の視線が僕の抜け殻に集中している間にステージのコンクリートを吸収しながら体積を補充して、反撃の準備を整えた。
ただぶっちゃけ、でっかい腕ってのは単なる演出に近い。大きさだけのハリボテで、身体強化を全力掛けしても動かすだけで精一杯。
正直もう勝ち確なんだけど、入学直後くらいの僕だったらあのまま負けてしまっていたと思う。
USJで【鳥瞰】を得る前の僕なら、飛散する小さな肉片に本体を移すなんて芸当はできなかっただろう。
いやぁ、ホント、思っていたよりもずっとかっちゃんの成長がすごい。喜ばしい事この上ないね。
現にほら、僕の周囲には何やらキラキラとしたものが漂っている。
「MOAB」
――KABOOOOOOM!!!
猛烈な熱と圧力、酸素欠乏が僕と観客席を襲う。ハリボテの巨腕は簡単に吹っ飛ばされてしまった。
俗に空間爆発などと呼ばれる現象に近いだろうか?厳密には違うんだろうけど、とにかくすごい威力だ。
『……すげー爆発……イレイザー、お前のクラスどうなってんの?』
『……恐らく、緑谷の攻撃を避けながら爆発性の汗をバラ撒いていたんだろう。空間に漂うくらい微細な汗の玉を作って散布し、爆風を操作してそれらを緑谷の周囲に集めつつ、引火しないようにしつつの大立ち回り……。尋常じゃないよ、学生の技量じゃ無ぇ。プロを含め、同じ事の出来るヤツが果たしてどれだけいることか』
まったく、観客も居るっていうのに、こんなのぶっ放したら危ないじゃないか。もちろん観客席の保護は怠っていないけどさ。
信頼してくれているのか、気にしてないのか……。単に観客席のヒーローに丸投げしてるだけかもしれないけど。
斥力場を展開し、遥か上空で落下しつつあるかっちゃんを受け止める。
上空にいたから、酸素の欠乏した空気を吸入しちゃったのかな?らしくないミスだね。
……まさか今の技、即興だったりする?だとしたらとんでもないけど……。
シータみたいにゆっくりと降りて来るかっちゃんを、大穴の底でしっかりと受け止める。僕は炭鉱夫じゃないんだけどな。
かっちゃんの体操服は激しい戦闘でタンクトップ&ホットパンツ状態。ここは紳士らしく、僕の上着を掛けてあげたい処だけど……。
残念ながら僕の体操服はかっちゃんによって穴だらけの消し炭状態、ついでに肉体ごと場外に捨てられてしまっている。つまりZENRAだ。
今は僕の空けた深い穴の底にいるから一旦大丈夫だけれど……。このままじゃ外に出れないね、どうしよう。
「緑谷君、爆豪さん、無事?」
おお、穴の淵からミッドナイトがひょっこりと。ありがたい、助かった。
物理的に後光が差しているせいか神々しくすら見えるよ。助けてヒーロー!
「えーと……爆豪さん行動不能‼よって――緑谷君の勝ち‼」
『以上で全ての競技が終了‼』
『今年度雄英体育祭 1年優勝は――――』
『A組 緑谷出久!!!』
「体操服ね、すぐに持ってくるわ。私がいないからって、彼女にイタズラしちゃダメよ?」
ええから早よ持ってきてください。エセ関西弁が出ちゃうよ。
まったく、締まらないなぁ。こんな所まで原作再現しなくたっていいのにね。
観客の歓声が穴の底へと流れ込み、わんわんと反響する。
お楽しみ頂けたようで何よりだ。
さて、これで体育祭は完了だ。
大きな問題は無く、目的は概ね達成された。十段階評価で七って所かな。
とはいえ、この後には職場体験が待ち受けてる。
体育祭なんかで気を緩めず、シャンとしなきゃね。
……けどまぁ、その前にまず表彰式だ。
ミッドナイト先生まだかな。
メダル授与は全カット。めんどくさい蛇足になっちゃうのでね。
主人公のムーブがラスボスのそれで笑う。君同級生だよね?
主人公の出したでっかい腕とかは単に【液化】を応用したものです。
【液化】には自身の器官を再現する能力がありますが、この時サイズを調整することができ、頑張ればMt.レディみたいなサイズの腕が出せます。
あまりに小さくしすぎると機能しませんし大きすぎると自重で潰れてしまいますが、【吸食】の身体強化などを組み合わせれば作中のようなラスボスムーブも可能。
主人公がこれを普段使いしないのは、シンプルに弱いから。今回はエンタメのためにやりました。
ニトログリセリンには血管拡張作用があります。だからってんじゃないですが、本作のかっちゃんは自分の汗の薬理作用で汗ダラダラになる素敵仕様。
原作でも血中に汗の玉が紛れ込む描写はありますが、その薬理的作用についてはノータッチでした。つまりオリ設定を滑り込ませる隙ということ。やったぜ。
ここからちょっとだけネタバラシ。
勘のいい方は既にお察しでしょうが、本作では緑谷と爆豪の立ち位置を一部入れ替えています。
正確には、主人公が原作爆豪の立ち位置に居ようと努めています。理由はまぁ、またいずれ。
なお、暴行+器物損壊+自殺教唆と不同意性交では後者の方が罪が重いです。ウケる。