デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

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 しばらく修行パート兼日常パート。

 ちょっとずつ飛ばしながら、修行の過程をダイジェストでお送りいたします。



海辺で修行ってなんかリア充っぽいよね

 

 

 

「おかーさーん!かっちゃんとヒーローかつどうしてくるねー!!」

 

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 玄関を飛び出し、近所の海浜公園へと走る。

 

 季節は夏。

 この時代にも蝉は騒々しく愛を謳っていて、なんていうか、とても夏らしい。

 

 アスファルトに揺らめく陽炎を踏んづけてたったか走る。焼けた土と緑のにおいが胸に飛び込んでくる。

 じりじりと照り付ける日差しが肌を灼いて、水分を含んだ服と空気がじっとりと重たく纏わりついて。

 空と木々の濃い碧が、なんとなく白昼夢を見ているような気分にさせる。

 

 少し呼吸を乱しつつ公園に着くと、既にかっちゃんが待っていた。

 

「おせーぞイズク!はやくいくぞ!」

 

「あっ、まってよかっちゃん!」

 

 僕を目にするや一人で駆け出したかっちゃんを追ってダッシュする。

 向かうは海岸。ヒーロー活動と銘打ったボランティア、兼、秘密の個性特訓所だ。

 

「はやくしろイズク!とっくんかいしだ!!」

 

「かっちゃん、まずはヒーローかつどうだよ!」

 

 緑谷出久、現在7歳。

 

 正史とは比べ物にならない、順調な幼少期を過ごしています。

 

 

 

 〇

 

 

 

 「個性」

 それは、日常と成り果てたかつての超常。

 昔なら、あるいは前世でなら「超能力」などと称されるそれも、人類の八割が有するならば単なる「個性」だ。

 個性を有しない二割の人も大抵が上の世代の人たちで、僕らの世代で「無個性」というのは非常に稀。

 正史ではそのレアキャラだった僕も、この世界では幸か不幸か個性持ち。

 いろいろと考えるべきことはあるけど、個性を持って生まれたのならそれを鍛えないという選択肢はないワケで。

 

 ……要するに。

 

「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……ひぃ……おえっ」

 

「なにへばってんだイズク!男のくせになさけねーぞ!!」

 

 この苦行は必要なことなのです。でもつらい。

 

 

 

 この個性社会において、個性の使用というのは厳しく取り締まられている。

 子供ならば尚更だ。なぜなら個性の制御が未熟で、予期せぬ事故につながりかねない。

 故に、幼少時に個性の修行をするなどというのはごく一部の恵まれた人たちの特権であって、僕ら一般人はせいぜい家の中でできるような訓練でお茶を濁すしかない。

 

 ……通常ならば。

 

 多古場海浜公園。

 原作にて僕とオールマイトの秘密の特訓場であったここは、この世界でも大量のゴミが投棄されていて、誰も寄り付かない穴場であった。

 原作と違いかっちゃんと仲良くなった僕は、オールマイトのようなヒーローに成るべく、度々ここで秘密裏に個性の特訓を行っているのだ。

 

 両親などにはごみ片付けのボランティアをすると伝えてあって、これを「ヒーロー活動」の名目で、ごっこ遊びの延長として行っていることになっている。

 ……まぁ、嘘は言っていない。かっちゃんはあまり積極的じゃないけど、僕は個性の訓練も兼ねて、すでに結構な量のゴミをきれいにしたのだ。

 まだまだ子供なのもあって亀の歩みよりもなお遅い進み具合だが、原作のような美しい海岸線が戻る日も遠くない。

 

 

 

「ふ~、しんど……」

 

「イズク!つぎは筋トレたいけつだぞ!」

 

「オーケー、かっちゃん。でもやりすぎは禁物だよ。いつも言ってるけど、トレーニングは体の発達に合わせてやらなきゃ逆効果だからね」

 

「わーかってるってば。アタシはイズクよりも頭いいんだからな!」

 

「はいはい。それじゃー、腹筋からね」

 

 

 

 両親の信用を得て、二人だけで動けるようになるまで時間がかかったから、実は最初の想定よりも遅れていたりするんだけど。

 とはいえ、特訓は順調だし、時間はある。焦ることは大切だけど、同じくらい焦らないことも大切だから。

 

「へへん、アタシの勝ちだ!」

 

「さすがだねかっちゃん、次は負けないよ。腕立て対決だ!」

 

 この時間を楽しんでても、きっと罰は当たらない。きっとね。

 

 

 

 〇

 

 

 

 個性が目覚めて三年。今のところ、個性は順調に成長している。

 

 特に成長目覚ましいのは消化速度と貯蓄許容量。

 最初はほんの数㎏で満腹になっていたうえ、消化に何時間もかかってたんだけど、たった三年で劇的に成長した。

 正確には測ってないけど、現在のところ数百㎏を吸収・貯蓄することができ、かつ、その量の消化に一時間もかからない。

 しかもこれらはまだまだ伸びていて、将来的にはビル丸ごとを一瞬で吸収、とかできるかもしれない。

 

 また、これに伴って、身体能力強化や自己治癒能力も伸びている。

 燃費の悪さは相変わらず、どころか悪化していて、満タンから数分でガス欠になってしまうんだけど、強化倍率の伸びは凄まじい。

 子供の小さなおててがフライパンを捻じ曲げる光景は、我が事ながら馬鹿げたジョークのように感じた。

 

 自己治癒能力の方はどれくらい伸びているのかあまりわからない(わかるってことは大怪我したってことだからあまりわかりたくもない)けど、丸一日動き回った疲れや筋肉痛、擦り傷などは、帰ってからお風呂に入るまでの間に治ってしまう。

 あと、治るってことは怪我する前の状態に戻るって風にも解釈できるし、成長期にそれはよくないだろうから、できるだけ自然治癒力を活性化させるイメージで、身長が伸びるように祈りながら治癒している。効果があるかは……十年後のお楽しみ。

 

 熱や電気の放出は……正直、あまり伸びなかった。

 僕の個性は熱を吸収して周囲を冷やすこともできるから、熱の放出と併せてここ三年我が家はエアコンいらずだし、キャンプ(かっちゃんとよく行く)では着火役として大活躍なんだけど、精々その程度。

 原作の轟くんみたいに冷やした空気を瞬時に熱して相手を吹き飛ばしたり、上鳴くんみたいに全周無差別放電とか、いろいろやりたいことがあったんだけど……そもそも僕の体には熱や電気への耐性がないし、出力も全然で、今のところ望みは薄い。

 あ、でも、光の放出は結構出力が出るから、かっちゃんに「太陽拳!」ってやったらそこそこ効いた。あとで殴られた。

 

 吸収対象の拡張は、予想外にうまくいった。

 以前かっちゃん相手に、ぶっつけ本番で活力の吸収を試してみたんだけど、一撃でノックアウトすることができた。

 それ以来試す機会がないけど、いずれは精神力や「明るい気持ち」なんかを吸収して、ハリポタの吸魂鬼(ディメンター)みたいなことができるようになりたいな。

 

 そして本題、斥力場の展開と操作。

 

 当初は斥力場を展開すると移動ができなくなって、斥力場のサイズ・形も全然自由にならなかった。

 三年経った現在……ゆっっっくりとなら、斥力場を自由に動かせるようになった!移動もできるぞ!やったね!!

 

 ……まぁ、他に比べると伸び方はイマイチなんだけど、これでも結構頑張ったんだ。

 訓練してるうちにわかったんだけど、どうもこの斥力場、座標やら形やらをいちいち計算しているらしい。

 感覚的な話だけど、頭の中でCAD動かしてるような気分。

 しかも座標の基準が自分の位置になってるらしくて、激しく移動するとそれだけ演算の負荷も上がってしまう。

 形と相対位置を固定すればある程度走り回ったりもできるんだけど、それでも負荷は大きいし、なにより強みが失われてしまう。

 

 ただ、その代わりというわけじゃないけど、斥力場の強度はかなり伸びた。

 もともとかなり頑丈で、初期の段階で海の結構深いところの水圧にも耐えることができていたんだけど、今はちょっと測定できないくらいの強度がある。

 少なくとも、日帰りできる範囲では、どんなに深い海底の水圧にも余裕で耐えられる。

 これ以上の検証をバレないように行うのは難しいので、今は保留。

 

 斥力場の強度を鍛える訓練では、両手をぐっと押し合わせるみたいに、斥力場同士を弾かせ合うことで鍛えている。

 この斥力場でできたプレス機に物を挟んでみると、廃車だろうが冷蔵庫だろうがぺしゃんこになってしまうので、とても楽しい。

 僕の個性上、大きなゴミは口に入るサイズまで砕かないといけないので、粗大ごみの破砕も兼ねて訓練していたらいつの間にかすごく強くなってしまっていた。

 

 ……今の僕の防御力、どれくらいなんだろう?

 かっちゃんの攻撃は全然効かないんだけど、ほかのサンプルがないからわかんない。

 オールマイトのパンチとか耐えられたりしないかな? ……無理か。

 でも、いずれはできるようになりたいなぁ。いや、僕の個性ならさらに向こうへだって行けるかもしれない。

 いずれは巨大隕石だって受け止めて見せるさ。夢はでっかく、 Plus Ultra だ。

 

 

 

「……かっちゃん、大丈夫?」

 

「ぜー、ぜー、はー、ふー……いつかぜってーぶち抜いてやる。そんで泣かす」

 

「うん、かっちゃんならきっとできるさ。でも僕だって簡単には負けないよ。僕の個性だってまだまだ強くなってるんだから」

 

「ヨユーぶっこきやがって……。やっぱ今すぐ殺す。カベ張りなおせイズク!」

 

「い、いいけど……無理は禁物だよかっちゃん」

 

「うるせー!いくぞ!!」

 

 僕が斥力場を展開すると、かっちゃんは猛然と見えない壁に攻撃し始める。

 

 何をやっているのかというと、戦闘訓練だ。

 ただ、僕とかっちゃんの組み合わせでは自然と「かっちゃんが僕の守りを抜けるか否か」という勝負になってくるので、こういう形で行っている。

 周囲を覆う形で別途斥力場を展開している(安全のためかなり大きめにしてある)ので、音が漏れてヒーローを呼ばれる心配もない。

 

 

 

「はー、はー、うぐっ……」

 

「やっぱりもう限界だったんじゃないか。無理は逆効果だよ、かっちゃん。一旦ここまで」

 

「うるせー……はー、はー、ふはー……おいデク、休んだらバリアなしでやるぞ」

 

「えっ……お、お手柔らかにね?」

 

「バーカ、殺す気でやるから訓練になるんだろーが。……次こそマジで泣かしてやる」

 

 うーん、楽しそうで何より。かっちゃんはかわいいなぁ(現実逃避)

 

 やっぱりこうなったかぁ。毎回こうなんだよね。

 負けず嫌いなかっちゃんが「今日こそはお前のバリアぶち抜いてやる」って挑みかかってきて、結局破れずダウンして、「素の状態での強さも大事だろ」って言って僕をボコボコにして憂さを晴らすんだ。

 ま、かっちゃんの言う通り、格闘能力があるに越したことはないし、あんまりかっちゃんがストレス溜めるのもよくないだろうから、いつも大人しくボコボコにされているんだけどね。回復能力の訓練にもなるし。

 

「そんじゃ始めるぞ。……バリア使ったら弁当のおかず一個もらうからな」

 

「一個くらいなら普通にあげるんだけど……わかったよ、でも僕が勝ったらジュースおごってもらうからね」

 

「へん、いーぜ。そんくらいのご褒美はなくっちゃな。……準備はいいか?」

 

 この輝くような笑顔よ。さっきまでへばってたのがウソみたいだ。

 こういう状況じゃなきゃ素直にかわいいって思えるんだけどなぁ。

 

 ……ま、真面目な話、女の子相手に徒手格闘で負けっぱなしっていうのはちょっと情けない。

 僕だって日々努力してるんだ、今日こそはかっちゃんに一泡吹かせてやる。

 

 お弁当の唐揚げは、僕が守る!

 

 

 

 〇

 

 

 

「へへ、結局バリア使ったな腰抜けヤロー。ほらさっさと弁当だしな」

 

「物言いがカツアゲするチンピラだよかっちゃん……」

 

 組み手が終わって、いい時間なのでお昼休憩。

 砂まみれになっちゃったのを軽くはたいて、手だけ海水で洗って弁当箱を取り出す。

 夏休みなのに毎朝お弁当を持たせてくれるお母さんには本当に頭が上がらない。

 

 結局斥力場を使わされちゃったので、大人しくかっちゃんにお弁当を差し出し、おかずを一品献上する。

 かっちゃんは僕の好物ってわかってて、わざと唐揚げ(一番大きいやつ)を選び取り、これ見よがしにおいしそうに食べてドヤる。

 ……別におかずの一つや二つ構わないんだけど、毎回こうだとなんか釈然としない。

 かっちゃんは毎回「バリア使ったらおかず一品」と条件を提示しておいて、組手の最後にあえて過剰な威力の攻撃をするのだ。

 トドメの一撃を僕が斥力場で防いで、それが組手終了の合図になっている。

 

 よほど僕に勝ち誇りたいのか、それとも僕のお弁当がものすごく口に合ったのか……なんにせよ、かっちゃんらしいみみっちさだ。

 

 

「かっちゃん、午後はいつもの個性訓練でいいよね?」

 

「……アー、うん、いいぞ」

 

「嫌なら嫌って言っていいんだよ?つらい訓練を嫌だと思うのは普通のことなんだから」

 

「うるせー!つらくなんかねーし!さっさとやるぞオラ!」

 

「あっ、待ってよかっちゃん!無理しちゃダメなんだからね!」

 

 昼食を食べ終えて、午後の訓練。

 

 午後は原作の描写を参考に、ほぼ同じ訓練をする。

 斥力場で作った器に海水を汲んで、これにちょうどいい強さで力をかけ続ける。

 イメージとしては、斥力場に触れた水分子が激しく弾かれる感じ。

 しばらくそうしていると海水が熱されるので、50~60℃程度の「すぐにヤケドはしないけどずっと触れていると危険」程度の温度に維持する。

 そうして熱された海水にかっちゃんが手を突っ込んで、手を熱しては最大威力で爆破することで汗腺を拡張するのだ。

 もちろん午前中同様、音が漏れないように、かつ安全に訓練できるように、周囲を斥力場で覆っている。

 

 

「はぁ、はぁ……死ねぇ!!!」

 

 爆風に耳がキーンとする。

 かっちゃんだってつらいだろうに、女の子がしちゃいけないタイプの凶暴な顔で頑張り続ける。

 

 僕の斥力場はあくまで物質を弾くものなので、光、つまり電磁波は防げない。

 そして今は夏で、日差しは強く、そんな中僕らは密室にいる。

 つまり、とっっても暑い。

 

 今僕は、音漏れ防止の斥力場を維持しつつ、海水を入れた斥力場も維持していて。

 海水が冷めないように、かつ温まりすぎたり、海水が吹き飛んでしまわないように繊細な操作が要求されている。

 つまりはものすごく集中力が要るんだけど、この暑さはその集中力を容赦なく削いでくる。砂混じりの汗が目に入ってきたりもする。いたい。

 でもこの暑さは汗を流させかっちゃんの訓練が捗るので、キツくても必要なのだ。

 

「はぁ………はぁ、うぐ、はぁ…………死ねぇ!!」

 

 とはいえ、かっちゃんもそろそろ限界かな。

 

 一度個性を解除する。

 

 カラッとした夏の風が熱された空気を一瞬でさらい、煮詰まった海水が砂浜にばしゃりと砕ける。

 

「……はぁ、はぁ、デク、あたしはまだ、やれるぞ……」

 

「ごめんねかっちゃん、僕そろそろ熱中症になっちゃいそうだよ。スポーツドリンク持ってきてもいいかな?かっちゃんの分も持ってくるからさ」

 

「フン、男のくせに軟弱だぞ、イズク。……さっさと行ってこい」

 

 そう言って砂浜に大の字になったかっちゃんをちょっと心配しつつ、荷物を置いている所まで走る。

 

 子供が持つには大きい水筒は、木陰に置いておいたお陰かまだ氷が溶けきっていないみたいで、持ち上げるとカラカラと音が鳴る。

 

 内容物が半分ほど減った二つの水筒をちゃぽちゃぽ、カラカラと鳴らしてかっちゃんのところに戻ると、かっちゃんは寝ころんだまま、目を閉じて体力の回復に努めていた。

 

「かっちゃん、大丈夫?」

 

「うるせー、黙ってろデク……水筒そこ置いとけ……」

 

 言われた通りかっちゃんの傍に水筒を置いて、横に座る。

 

 斥力場で砂を持ち上げ、頭上に翳して即席の日傘にすれば、かっちゃんの表情も心なし穏やかになった。

 

 

 

「……かっちゃん、訓練はどんな感じ?」

 

「んあー……ぼちぼちだな。威力は上がってる。スタミナもたぶん伸びてる。手以外で爆破させるやつは……まだまだだな」

 

「そっかぁ……ちゃんと肌のケアはしてる?爆破で肌荒れとかしてない?」

 

「ママみたいなこと言うなよ……ちゃんとやってるって。今日もちゃんと日焼け止め塗ってきたんだぞ」

 

「さすがだねかっちゃん。美貌でもナンバーワンだね」

 

「あたりめーだ。ヴィランだってミリョーしてやるぜ」

 

 休憩を取りながら、取り留めのない話をする。

 

 ……うまく表現できないけど、こういう時間、すごく好きだ。

 

 チラリとかっちゃんの方を見ると、砂の上に胡坐をかいて、水筒を抱えて弄びつつ、ぼんやりと水平線を見つめている。

 

 かっちゃんも、同じような気持ちでいてくれたら、嬉しいな。

 

 原作ではなにかと因縁のあった僕らだけど、この世界では結構仲良くできていると思う。

 

 このまま、今のような関係でいられたらと、願わずにはいられない。

 

 

「うっし、そろそろ再開すっか」

 

「えっ、もうちょっと休んだほうが……。そうだかっちゃん、水泳対決しない?」

 

「水泳対決ぅ?水着持ってきてねーぞ」

 

「着衣水泳ってやつだよ。服や靴を着けたまま泳ぐのって普通に泳ぐより難しいらしいんだ。ヒーローになって、溺れてる人を見つけたとき、水着に着替えたり裸になったりするわけにいかないでしょ?」

 

「……なるほど、おもしれーじゃん。やるぞイズク!」

 

「あっ、待ってよかっちゃん!足の着くところまでしか行っちゃだめなんだからね!」

 

 

 海水に浸かったら服も靴も大変なことになっちゃうだろうけど、どうせ子供の服なんてすぐに着れなくなるんだ。

 お母さんたちには申し訳ないけど、服なんかよりもこの時間の方が大切だから。

 

「待ってよかっちゃーん!沖の方に行ったら危ないよ!!」

 

「うるせー! 捕まえてみろ!!」

 

 今は思いっきり、楽しんじゃおう。

 

 

 

 ……ちなみに、着衣水泳対決はかっちゃんの勝ちだった。

 僕は自販機でジュースを奢り、子供用の小さな財布は吹き飛びそうなほど軽くなった。

 

 

 

 〇

 

 

 

 夏の太陽が緋色に暮れて、海風の弱まる頃。

 

 僕らはヒグラシに見送られながら、長くなった影を並べ帰路に就いていた。

 

 

「イズク、荷物よこせ。それくらい自分で持てる」

 

「これぐらいはさせてよかっちゃん。今は物を持てるような状態じゃないでしょ?風が当たったって痛いはずだよ」

 

「……こんなのヘーキだし。いーから寄越せよ」

 

「いやだ。かっちゃん家まで僕が持ってく」

 

 今日一日個性を使い倒したかっちゃんの掌は、今猛烈に痛いはずだ。

 

 僕には想像することしかできないけど、江戸時代の唐辛子農家さんくらい痛いと思う。

 

 

 そーかよ、というかっちゃんの悪態を肯定と解釈し、歩調を合わせてゆっくり歩く。

 

 会話のない僕らの間で、肩に提げた水筒が、歩くのに合わせカラカラと鳴る。

 

 二人分の荷物は弁当と飲み物の分朝よりも軽くなっていて、その事実に何とも言えない達成感を感じる。

 

 

「……ねぇかっちゃん、明日も一緒に訓練しようね」

 

「あたりめーだ。すっぽかすんじゃねーぞ」

 

「もちろん。かっちゃんとの訓練は楽しいからね」

 

 フン、とだけ帰ってくる返事も、慣れた今ではかわいらしく感じる。

 

 

 充実してるなぁ、僕。リア充ってやつだ。

 

 夏休みは始まったばかり。今世の夏は退屈しなさそうだ。

 

 

 

 家に着くころ、空には夏の大三角が浮かんでいた。

 

 

 

 





 かっちゃんが主人公との修行を優先した結果、イズク以外の幼馴染とはやや疎遠に。
 その代わり緑谷家と爆豪家は原作と違い家族ぐるみの付き合いがあります。
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