デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

5 / 20

 かっちゃん視点。
 口調が若干主人公に寄ってるのは仕様です。筆者が書き分けられてないわけじゃないよ、ホントだよ。

 本作は基本的に主人公の一人称で進みますが、たまーに他キャラ視点にも挑戦します。



爆豪樺月:オリジン

 

 

 

 アタシ、爆豪樺月には幼馴染がいる。

 

 緑谷出久という名前のそいつは、端的に言って変な奴だ。

 

 

 

 昔、個性が発現してアタシが調子に乗ってた時。

 

 理由とかキッカケとかは覚えてねーけど、アタシは弱い奴をいじめてた。

 「男のくせに情けない」とか言って、近所の悪ガキ従えて、恨みもねぇのにボコボコにしてた。

 

 その時、止めに来たのがアイツだった。

 

 イズクは個性の発現が少し遅くて、その時点ではまだ無個性だった。

 無個性のくせに、涙浮かべて、震えながらも、アタシの前に立ちはだかって見せた。

 

 それはすごいことだと、今になって素直に思う。

 だけど当時のアタシは無個性のアイツは自分より劣ってるって決めつけてて、アタシの方がすげーんだぞって、思い知らせてやろうとした。

 

 その時に、あいつの個性が目覚めた。

 

 病院で「無個性」って診断されたって聞いてたから、最初は騙されたんだと思って腹を立てた。

 でもすぐに「個性があってもアタシの方がすごい」って思って、ボコしてやろうとした。

 

 だけどアイツは見えないバリアみたいなのを張って、その中に引き籠りやがった。

 当然バリアを破ってやろうとしたんだけど、どれだけ頑張っても全然破れなくて、ムキになって攻撃し続けたのにビクともしなくて、引き連れてた悪ガキ共は早々に諦めたからアタシひとりだけがゼーゼー言ってて。

 何というか、衝撃だった。

 

 結局あいつが酸欠で気絶するまでバリアを破ることはできなくて、ヒーローに見つかって、イズクは病院に運ばれて、アタシはメチャクチャ怒られて……。

 

 

 後日、ママに連れられてイズクん家に菓子折り持って謝りに行ったとき。

 

 出てきたアイツは、別人みたいに落ち着いてた。

 

 個性が発現すれば人格も変わるんかってくらいの変わりようで、中身が入れ替わったと思うくらい大人っぽくなってた。

 

 けどアタシは、イズクの変化を「アタシに勝ったから調子に乗ってる」って解釈して、ちょっと一回勝ったくらいでナメやがってって腹立てて、もう一回勝負しろって吹っ掛けた。そんでママにゲンコツ落とされた。

 

 アイツはそんなアタシを見て、ケラケラ笑いながら「いいよ」って返してきて。それがまた頭にきて、噛みついて、もっかいゲンコツ落とされたっけ。

 

 

 だけど結局、あの日以来、あいつに勝てることはなかった。

 個性ナシならまだまだ負けねーけど、個性アリだともう勝てる気がしない。

 いや、もちろんいずれは勝ってやるつもりでいる。勝つつもりでいるけど、ちょっと今んとこ見通しが立たない。

 ……イズク勉強できるから成績じゃ勝負付かねーし、アイツあれで結構モテるから人気でも若干押され気味だし、ああ見えて結構料理できるしまぁまぁ器用でマメで気が利いて……。

 

 話が逸れた。

 

 ……そんで、何回目かの勝負の時、イズクが「一緒に訓練しよう」って言いだしたんだ。

 

 最初は何回か付き合ってやるだけのつもりだった。

 だけど訓練は意外と本格的だったし、確かな効果があった。

 大人っぽくなったイズクは話してて楽で、一緒にいて苦痛じゃなかったのもあり、ずるずると関係を続けていた。

 

 

 

 転機があったのは、小3の時。

 

 緑谷家(つっても父親はいなくてイズクと引子さんだけ)と爆豪家でキャンプに行ったときのことだ。

 

 夏に家族ぐるみで一緒にキャンプするのは毎年の恒例行事で、アタシら子供組は結構自由に遊ばせてもらってた。

 その日もアタシはさっさと酒盛り始めた大人達を置いて、イズクを従え大自然に繰り出していた。

 毎回おんなじキャンプ場を使うから遊び場も自然と決まってて、大体川か山なんだけど、その日は前日の雨で川が濁ってたから山で遊ぶことにしたんだ。

 

 当時アタシは登山に目覚め始めてて、だからってんじゃないけど、ちょっと魔が差した。

 整備されたハイキングコースを外れて、獣道を開拓しようとした。もちろん、イズクを連れて。

 地面はぐちょぐちょに泥濘んでて、アタシたちはあっという間に泥だらけになって、それがなんだか楽しくて。

 アタシはイズクの制止を無視して、どころか強引に引き連れて、どんどん山の奥に進んでいった。

 

 ……だからまぁ、必然だったんだろう。

 

 アタシたちは大規模な地滑りに巻き込まれて、重く湿った土の下に閉じ込められた。

 

 

 『かっちゃん、大丈夫?』

 

 でっかい地響きが鳴ったと思ったら突然真っ暗になって、正直、半ばパニックだった。

 だから、何でもないようにそう声をかけられて、少し冷静になれたし、すごく安心した。

 

 『地滑りに巻き込まれたみたい。でも大丈夫だよ、バリアの展開が間に合って、僕らは無事だ』

 

 真っ暗なのが突然明るくなって、全周を隙間なく埋める土と、発光するイズクが見えた。

 

 『あっ、できれば話したり動いたりは最小限にね。ある程度余裕は持たせてあるけど、空気穴があるわけじゃないから』

 

 アタシは浮足立ってて、不用意に何かを話そうとして、イズクに釘を刺された。

 当時のアタシはまだツンツンしてたけど、自分のせいでピンチになってるってぐらいは理解してたから、大人しく黙ってた。

 

 アタシが従う意思を見せると、あいつは緊急時だってのににっこり微笑んで、それからゆっくりとバリアを上昇させ始めた。

 外の土壁がゆっくりと下に移動する様子が見えて、でも音は遮断されてるから、お互いの静かな呼吸音だけが聞こえて。

 だんだん冷静さを取り戻したアタシは、できる事もないから、発光したまま目を閉じて集中するイズクをじっと眺めてた。

 

 

 ふつう9歳児は、というか大人でも、土砂崩れに巻き込まれて土に埋もれたらパニックになると思う。

 だけどイズクはずっと冷静で、自ら発光してアタシを安心させる余裕まであって、おかげでアタシも落ち着いていられた。

 イズクのバリアの強固さはよく知ってたから、普段は憎らしい防御力がその時ばかりは頼もしくて、それがなんだか複雑だったのを覚えている。

 

 

 『……イズク』

 

 『どうしたの、かっちゃん?』

 

 『……わりぃ』

 

 『なんで謝るのさ。かっちゃん、謝る必要なんてないよ。何も悪いことなんてない。こんなの何でもないさ、大丈夫』

 

 『……イズク、明かり消せ。エネルギー無駄遣いしてんじゃねーよ』

 

 『えぇ? うん、まぁかっちゃんがいいなら……』

 

 いつもの調子を崩さないイズクが頼もしくて、それに引き換え自分は惨めで。

 ちょっと泣きそうだったのを見られたくなくて、光を消させた。

 

 

 しばらくの間、光の一切ない空間で、呼吸の音だけでお互いの存在を確かめ合っていた。

 

 どれくらいそうしていたか、だんだんウトウトしてきた頃。急に強い光が差して目が覚めた。

 

 

 『おはようかっちゃん、お疲れ様。外に出られたよ。待たせちゃってごめんね』

 

 気が付けば、目の前にはイズクが立ってて、アタシに手を差し伸べていた。

 

 

 ガキの頃、イズクがまだ無個性だった時。

 

 足を滑らせ川に落ちたアタシを心配して、イズクが手を差し伸べてきて。

 ガキのアタシは見下されたと思って、ひどく腹を立てたのをよく覚えている。

 

 

 イズクは昔よりも少しだけ頼もしくなった顔で、昔と変わらず心配そうな顔で、アタシに手を差し伸べた。

 

 事ここに至って、アタシはようやく理解した。

 

 ヒーローになる奴ってのは、こういう奴のことを言うんだ。

 

 アタシは黙ってイズクの手を取り立ち上がった。

 アタシを引き上げるイズクの力が思ったよりも強くて、イズクの努力を感じた。

 

 『大変なことになっちゃったね。でも、かっちゃんに怪我がなくてよかったよ』

 

 何でもないように笑うイズクの横顔が夕日に照らされていて、やけに精悍に見えた。

 

 

 イズクは、ヒーローになれる。

 

 その日、アタシにとってイズクは、最も身近で具体的なヒーローのイメージになった。

 

 イズクのようになりたい。

 

 口が裂けても本人には言わないが、それがアタシの偽らざる本音だった。

 

 

 その後、ヒーローが駆けつけてアタシたちは救助され、勝手に山奥へ侵入したことを怒られた。

 イズクは庇ってくれようとしたけど、悪いのはアタシだから大人しく怒られた。

 念のため病院も行ったけど本当にかすり傷すらなくて、改めてイズクをすごいと思った。

 

 

 

 この事件があってから、アタシはイズクという身近な目標を手に入れ、追いつけ追い越せで努力した。

 それと同時に、妙に抜けたところのあるイズクの世話を焼くようになって、以前より人間関係とかで気を遣うようにもなった。

 イズクは成績は良いけど不器用で、素行は良いけど大人しそうで、実際大抵のことは笑って許してしまうから、イジメの標的になりそうになってたりもした。

 そういうのを対処したりしてるうちに必要以上にベタベタするようになって黒歴史作ったりもしたけど、まぁ、いい思い出だ。

 

 

 

 〇

 

 

 

 ベッドの上で寝返りを打つと、目の前にイズクの顔がある。

 常夜灯の微かな光に照らされて、イズクの安らかな寝顔が見える。

 

 ……イズクは昔から、アタシの後ろをちょこちょこ追いかけてくるような、ヒヨコみてーなやつだった。

 そしてイズクに個性が目覚めたあの日以降、こいつはアタシの隣を歩くようになった。

 

 アタシはイズクみたいなクソボケではないのでわかる。こいつはアタシのことを好きなんだ。

 

 この鈍感男は自分の気持ちにすら気づけないほどのクソボケだが、何年も一緒にいればバカでもわかる。

 アタシもまぁ、吝かではないというか、知り合いの男の中ではこいつが一番マシかなって思ってる。

 

 だけど、だからこそ、関係を進めるのはもっと後だ。

 

 今は全力でヒーローを目指すべきだし、プロになる前に妙な噂が立つのもよくない。何より、アタシはまだこいつを追い越せてはいない。

 それにまぁ、イズクは毛髪入りチョコレートを「嫌がらせ」と解釈するド級のクソボケだ。

 多少足踏みするくらいがちょうどいいだろう。どうせ他の女にアプローチされたって気づきやしない。

 

 

 よくわからん言い訳を誰へともなくしていると、寝ぼけたイズクがアタシを抱き寄せた。

 

 ……この抱き着き癖、ぜんぜん治んねーな。アタシだからいいけど、そうじゃなかったら問題だぞ。

 

 胸板に顔を押し付けられると、よく鍛えられた筋肉を感じる。

 こうも密着していると嫌でも体格の差を実感してしまって、いつまで徒手格闘でマウントを取っていられるだろうかと少し不安になる。

 性別の差というのは理不尽だ。個性社会にあっても性別の壁は決して低くなくて、女性ヒーローは前線で切った張ったやるより補助とか救助で活躍することを選びがちだ。……もちろん例外はいるけど。ミルコとか。

 だけどミルコくらい実力があれば、女でも前線で戦える。イズクの隣に立っていられる。

 

 ……こいつ、中学に入ってからタケノコみてーに背ぇ伸びたんだよな。すっかり抜かされちまった。

 並んで歩くとき、ちょっと上向いて話すのも慣れてしまった。時間の流れって残酷だ。昔はもっとちっちゃくて可愛げがあったのに。

 

 

 ……アタシは、爆豪樺月は、このバカの幼馴染として、あるいは保護者として、隣に立ち続けなければならない。隣を譲る気はない。

 だから、頑張らなきゃな。こいつのためにも、アタシ自身のためにも。

 

 

 





 結構いろんなイベントが発生していますが、主人公はあまり気にしていません。なんならあんまり覚えてない。バカがよ。

 かっちゃんは主人公を「自分より強い奴」として認めていますが、一方で「いろいろ抜けてて手のかかる奴」とも思ってます。
 彼女は根本的に負けず嫌いなので、将来的には主人公を追い抜いて、サイドキックとして扱き使ってやろうとか思ってます。いろいろ世話を焼いたり保護者面してるのも彼女なりのマウンティング。
 なお、主人公は「かっちゃんは世話焼きだなぁ」くらいに捉えてます。バカがよ(二回目)。

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