デクの上位者アカデミア   作:ヤマカワ

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 感想ありがとナス!励みになります。
 雄英入学までもう何話か挟みます。「まだ?」って思ったそこの君!筆者もそう思います。

 改めて述べることでもないですが、当作品には「R-15」「残酷な描写」「アンチ・ヘイト」のタグが付いております。悪しからず。



帰ってきた海特訓~ゴミ山を添えて~

 

 

 

 

 ヘドロヴィランに襲われてしばらく。

 

 季節は夏。

 蝉たちがその短い青春を謳歌し、熱烈に愛を謳いあげる季節。

 あと、蚊などの羽虫がいっぱい湧いて出る季節。

 

 血を吸おうと僕に狙いを定めた蚊が僕の皮膚に着陸し、そのままずぶずぶと吞み込まれて儚い命を散らす。

 

 なんだかんだ、便利な体になったものだ。

 

「イズク、ちょっと冷やしすぎだ。汗が引っ込んじまう」

 

「あっ、ごめんねかっちゃん。……こんなもん?」

 

「ん」

 

「……ねぇかっちゃん、蚊対策って何かしてる?虫よけ以外で」

 

「……アタシの皮膚は分厚いからそもそも刺されねー。が、それはそれとして、リアクティブアーマーの要領で対策はしてる。個性の訓練も兼ねてな」

 

「リアクティブアーマーっていうと、蚊がとまったら自動的に爆破するってこと?それ日常生活に支障出ない?」

 

「だから訓練になるんだろーが。チリや埃には反応せず、人間とかが普通に触れるのにも反応せず、ちょうど蚊くらいの大きさのものが触れたときにだけ、ちょうどいい大きさで爆破する。それを自動的に、四六時中やんだ」

 

「なるほど、それで時々パチパチさせてたんだね。良い訓練だ。さすがだねかっちゃん」

 

「ただ、まだ調整が難しくてな。実際にはあんま蚊をヤれてねぇ。アタシが皮膚を鍛えてなかったら今頃全身虫刺されだらけだろーよ」

 

「それはマズいね、乙女の危機だ」

 

「美容もそうだが、羽虫如きに負けたんじゃアタシの尊厳にかかわる。リアクティブアーマーもすぐに完成させるさ」

 

「そっか。応援してるよ、かっちゃん」

 

「他人事みたいに言いやがって……。テメーはどうなんだ、液化はもう自由に扱えるんか」

 

「いやぁ、まだまだだね。液化のon/offは自在で、寝てる間に液化しちゃうこともなくなったんだけど、液化した体の扱いは模索中。とりあえず全身から【吸食】することはできるようになったけど、今んとこそれだけ」

 

「アタシの髪とかを吸収したやつは?」

 

「うまくいってないね。単純に量があればいいってわけでもないみたい。髪とか爪とかだと相当な量がないとダメそう。血液なら一滴でも数分だけど個性が使える。ただ、【液化】みたいに自分のものにするってなると、やっぱり体の半分とかを貰うんじゃなきゃダメっぽい」

 

「ふーん……テメーが【爆破】を手に入れりゃ丁度いいハンデになると思ったんだがな。まぁいい。新しい能力、さっさと使いこなしてみせろよクソデク」

 

「言われなくても。かっちゃんこそ、僕に勝てないからって泣いちゃダメだよ?」

 

「ハッ、誰に言ってんだ」

 

 

 現在夏休み。

 相も変わらず、僕らは個性訓練に明け暮れている。

 雄英の入試までは半年切っているから、普通なら今頃は追い込みの時期だ。

 だけど僕らは十年前からヒーロー目指してコツコツ努力してきてるから、今更焦るようなことはしない。

 焦らず騒がず、コツコツと。十年も続けてればこんなものだろう。

 

 訓練は、実はまた多古場海浜公園でやっている。

 

 僕らが一度綺麗にしたおかげで一時期カップルのデートスポットとして賑わっていたこの公園だけど、漂着物が多いのは相変わらずで、不法投棄する人が捕まったわけでもないので、せっかく綺麗にした海岸は再び汚れ、人気(ひとけ)は遠のき、また僕らの訓練場になっている。

 一度綺麗にした場所が再び汚れてしまったのはちょっと複雑だけど、おかげで海での訓練ができているのでよしとする。

 

 やっぱり夏といえば海だよね。特訓場にも適してるし、何より風情がある。

 砂浜で訓練していると、水平線の向こうに立派な入道雲が見えて、とても夏っぽくて良い。かっちゃんが水着になる頻度も増えるしね。

 

「うっし、そろそろ再開するか」

 

「そうだね。午後は何する?」

 

「滞空機動平衡訓練」

 

「あの空中でグルグルするやつ?食後に?吐いちゃわない?」

 

「だからこそだろ。ヒーローなったら食後に本気で飛び回ることもあるだろうし」

 

「そっか、わかった。万が一吐いちゃったときは僕に任せて。綺麗に証拠隠滅してみせる。かっちゃんの乙女の尊厳は僕が守るよ」

 

「……ぜってー吐かねぇ」

 

 

 

 〇

 

 

 

 さて、新たに発覚した僕の能力について。

 かっちゃん全面協力のもといろいろ実験した結果、「相手の体組織を取り込むことによって一時的に個性をコピーする」ような能力であることはわかった。

 ただ、単に体組織を取り込めばいいというものでもないみたいで、髪とか爪とか古い角質とかの老廃物は、結構どっさり摂取してもダメだった。

 逆に血液とかは一滴摂取しただけでも数分間だけ個性が使えて、摂取した量に比例した時間相手の個性を使える。

 

 ただ、面白いのが、摂取の仕方によって個性をコピーしていられる時間が変わるところ。

 例えば汗や角質なんかは、普通に摂取するんじゃダメだけど直接舐め取ればごく短時間ながら個性をコピーできる。

 あと、何故かお風呂の残り湯を摂取するんでもコピーできた。お風呂ってそんなに大汗かくっけな……?

 血液に関しても、傷口から直に舐め取ると時間が長くなったし、逆に廃棄された経血とかは摂取しても時間が短かった。

 

 さらに、体外に排出される前に体内で摂取すると爆発的に時間が伸びることも分かった。

 例えば、排泄物は普通に吸収するとエネルギーになるだけなんだけど、体内の排泄物を吸収するとかなり長い時間個性を扱える。

 前述した経血に関しても、体外に排出されたものは傷口から摂取するより時間が短くなるんだけど、体内の経血を直に摂取するとすごく長い期間相手の個性をコピーしていられる。

 

 推測だけど、体組織を取り込むのは単なるトリガーで、重要なのは“僕が何を得たか”でなく“相手が何を失ったか”なんだと思う。

 たぶん、同じ唾液でも口に指突っ込んで摂取するよりキスして直に啜る方が効果的なんじゃないかな。さすがにやらないけど。

 

 なお、【液化】みたいに相手の個性を完全に僕のものにする条件は分からなかった。ヘドロヴィランがピンピンしてる辺り、相手を殺害したりする必要は無さそうなのが救いだけど……。

 

 

 ……余談だけど。

 

 経血やら排泄物やらに関してもかっちゃんのを摂取させてもらった。下水やら生ゴミやらを漁るという選択肢もあったんだけど、見ず知らずの人のを進んで摂取したくはないし、相手の個性がわからないと実験にならないしね。

 ただ、さすがに怒られるだろうと思ったので、本人には内緒で実験してたんだ。

 

 ……が、さすがに体内に()()して直に摂取するのはやりすぎだったらしい。

 

 

 

 その日はかっちゃんが女の子の日で、ああ見えて結構重い方なかっちゃんは、自分からは「訓練を休みたい」とは絶対言わないだろうから僕の方から「今日は勉強会にしよう」と申し出たんだ。

 

 かっちゃんの部屋でしばらく勉強して、休憩にかこつけてかっちゃんを膝に乗せて放熱することで温め、かっちゃんがウトウトし始めたタイミングで「少し仮眠がとりたいな。一緒に寝てくれる?」って言って、一緒にベッドに横になって。かっちゃんに布団をかぶせつつ僕も放熱することでダブルで温めかっちゃんを安眠させるという、いつもの流れだった。

 毎月のことだから光己さんも協力的で、部屋の電気を消すなどして手伝ってくれた。

 かっちゃんは完全にぐっすりで、ちょっと実験しても気づかれないだろうと思って、魔が差した。

 

 

 

 翌朝、一晩経っても僕は【爆破】が使えるままだった。

 

 そしてかっちゃんは恐ろしいほどの無表情で、ただ一言「なにした?」って問いかけたんだ。

 

 

 そこからのことは、あんまり覚えてない。

 とにかくめっちゃくちゃ怒られて、もう本当に烈火のごとく怒られて、ああかっちゃんは本当に怒るとこうなんだ、なんて逆に冷静になってしまうほど怒られた。

 曰く「妙にお腹がスッキリしていた」ことで気づいたらしいかっちゃんはひどく傷ついた様子で、僕がいつの間にかかっちゃんの強さと優しさに甘えてしまっていたことを気づかされた。

 一応、液化して()()したから()()()()()は傷つけてないって弁明したんだけど、余計に怒らせてしまうばかりだった。

 最終的には泣かせてしまって、かっちゃんがちゃんと泣いてるところなんて初めて見たから、驚いたやら申し訳ないやらでフリーズしてしまった。

 結局「何でもする」という言質を取られたうえで「ぜってー責任取らせてやる」との宣言を頂いたことで一旦は終わったんだけど、それはただ単にかっちゃんからのお話が終わっただけだった。

 

 その日の夕方には爆豪家・緑谷家合同緊急家族会議が開かれて、そこでも僕は懇々と説教された。

 普段は気弱な感じの勝さん(かっちゃんのお父さん)も珍しくしゃっきりしていて、事の重大さを理解させられた。

 夜、家に帰ってからも、改めてお母さんからありがたいお話を賜り、お母さんから事のあらましを聞いたお父さんも出張先から電話をかけてきて、僕は夜遅くまで電話口からありがたいお話を聞き続けていた。……反省してます。

 

 

 なお、その後約一ヶ月間、僕は【爆破】を使い続けられた。

 

 せっかくならってことでかっちゃんに扱い方を教えてもらい、意外と教え上手なかっちゃんのおかげで、短い期間ながらも結構【爆破】の扱いは上手くなったと思う。

 こんなに長期間個性をコピーし続けられたのは初めてで、【液化】みたいな完全コピーに成功したんじゃないかとも思われたんだけど、不思議と“まだ”だという確信があった。

 ……本当に完全コピーの条件が謎だ。これ以上“奪う”ことができるものなんてそうそうないぞ。

 

 

 まぁ、そんなこんなで。個性コピー能力に関しては、ある程度は分かったけどまだまだ分からないことだらけで、とはいえこれ以上実験をするわけにもいかないので、現状保留。

 現時点では物間君の劣化版みたいな感じだから、実戦でこの能力が活きることはまぁないかなって感じ。今後に期待だね。

 

 ……正直、この程度のことを確かめるためだけにかっちゃんを傷つけちゃったのは本当にやってしまったなって反省している。

 女の子の体内をまさぐるなんて完全にライン越えだ。かっちゃんが強くて優しいからって、いつの間にか甘えてしまっていた。

 どれだけ強かろうと優しかろうと一人の女の子。今後はあまりベタベタすることは控え、距離感を弁えて、自分にできることを模索していく所存だ。

 

 

「だからこれくらいはやらせて欲しいんだ、かっちゃん」

 

「うるせぇ……はぁ、ぜぇ……なんで人のゲロ欲しがってんだド変態ヘドロヤロー……」

 

「欲しがるなんてそんな、僕はただかっちゃんの乙女の尊厳を守ろうと……」

 

「オメーほんっとーにズレてんなクソボケ野郎。今ここに他人の目なんかねーだろーが」

 

「う、うん。だから誰かに見られる前に証拠隠滅をって……」

 

「ちげぇ……はぁ……アタシはアンタの目を気にしてるんだよクソナード」

 

「? 僕は気にしないよ?」

 

「アタシが気にすんだよクソデクァ!!」

 

 

 ただ、今のところあんまりうまくいってない。乙女心って難しいね。

 

 

 

 〇

 

 

 

 だいぶ話が逸れたけど、新たに手に入れた【液化】の能力について。

 とりあえず、【液化】してもあの下水臭さが体から発せられることはなかった。どうやらあの時ヘドロヴィランが下水臭かったのは、単に下水道を移動してきたかららしい。一安心だね。

 

 それでこの個性、わかっていたけどかなり強い。

 

 能力の構成としては、

①肉体をアメーバ状に分解する。この時細胞の一つ一つが独立した僕になる。

②任意の数の細胞を用いて、任意の大きさの器官を再現する。目だろうが手だろうが増やし放題。

 って感じかな。大まかだけど。

 

 もちろんデメリットもあって、本体から分離した僕は何もできなくなるし、器官を構成しない単体の細胞だけだと呼吸とか養分の消化・吸収とか最低限のことしかできない。複雑なことをするには器官を作らないといけなくて、特に脳は必須。ないと話にならない。目も手も脳とセットじゃないと役に立たない。

 

 正直、強個性ではあるもののかなり癖が強い。自分という存在が無数に分割されて群体の総体としての自分に置き換わるのは、なんとも表現しづらい違和感と不快感がある。

 

 だけどこの【液化】、僕の【吸食】とすこぶる相性がいい。

 まず、【液化】した状態だと全身のすべての細胞で【吸食】が使える。これだけでもう強い。

 次に、任意の大きさの器官を作れる。つまり大きめの脳をいっぱい作れる。

 

 僕の個性【吸食】の能力の一つ、斥力場の展開。

 これの制御にはかなり脳のリソースを要するので、以前まではあまり重い演算処理ができなかった。

 しかし、【液化】を使って大きめの脳を複数用いれば、この問題は解決する。

 幸いというべきか、【液化】と【吸食】のおかげでいくつかの臓器は不要になっている。呼吸も消化も全身で行えるし、老廃物は【吸食】してしまえばいいからね。

 結果、僕は本来内臓のあるべき場所に脳みそをたっぷり詰めた化け物になってしまうけど、代わりに斥力場を使ってピンポン玉みたいに跳ね回ることができるようになった。もう斥力場の制御は自由自在だ。なんだってできる。

 

 また、【吸食】と【液化】を組み合わせることで、体の体積も自由自在だ。

 【液化】した体で自己治癒を施すと、傷病部分が癒えるのではなく、体細胞が増える。

 たぶんアメーバ状の体では、傷ついた僕を癒やすより交換した方が早いということなのだろう。相応にエネルギーは消耗するけど、治癒のスピードと効率は以前とは比べ物にならない。

 これの応用で、自分自身を【吸食】して体積を減らしたり、逆に【吸食】の自己治癒で僕を増やして体積を増やすことが可能となる。

 今のところ使い道はないんだけど、なんとなく面白いので増えたり減ったりして遊んでいる。なお、多少エネルギーのロスがあるので増えたり減ったりしてるだけでそれなりに消耗する。

 

 あと、【液化】した体は念動力みたいな不思議パワーで動いているので、スライム状態で動く分には素の身体能力はあまり関係ない。

 だからせっかく鍛えた体も意味ないじゃんって思ってたんだけど、どうやらそういうわけでもない。

 というのも、【液化】で再現される器官は原則僕本来のものを参照するらしく、目や脳をたくさん作っても、その一つ一つは僕がもともと持っていたものと同程度のものでしかないんだよね。サイズを変えれば多少性能は変動するけど、あくまでもともと持っているものに準拠する。なので頑張って鍛えた熱耐性や電気耐性もそのままだ。

 そして、筋肉と骨があると【吸食】の身体強化の通りやすさが全然違う。

 つまり、鍛えた筋肉と骨格は全然無駄になったりはしていない。流体の体を動かす不思議パワーはまだまだ鍛えられていなくて少々非力だし、たぶん不思議パワー鍛えるより筋肉と身体強化を鍛える方が効率的で効果的だ。

 

 だから、僕は以前とは中身が別物になってしまったけど、見かけ上以前と変わらない姿をしている。

 それは僕が人間らしい見た目にこだわってるってのもあるけど、それ以上にそっちの方が強いから。

 まったく、頑張って鍛えておいてよかったよ。素の身体能力でだいぶ最終的な強さが変わってくるぞ、【液化】の個性。

 

 それから、【液化】の最大のデメリット。

 【液化】している間、素の体を変化させることができない。つまり成長しない。

 

 ……ずっと不思議だったんだ、なんでこんな強個性持ってるヴィランがあんな程度の低い犯罪をしてたのか。

 多分だけど、彼は個性が発現したときの、最大でも四歳児の脳を使い続けていたんだ。

 【液化】してしまった体のスペックは、それ以前の素の肉体のスペックに依存する。

 

 ……僕を襲い、かっちゃんをも襲いかねなかったヘドロヴィランだけど、少し哀れに思う。

 個性が発現した時点で「個性を鍛える」以外の選択肢(コマンド)がほぼ失われてしまうなんて、あんまりだ。

 今更僕がどうこうできるわけでもないんだけど、改めてこの世界は理不尽だと思う。

 

 

 ともかく、今後の話だ。

 今後の訓練の方針として、【液化】の、特に流体の体を動かす不思議パワーを鍛える。

 もともと、従来の訓練もマンネリ気味だった。ちょうどいいといえばちょうどいい。

 今までやっていた訓練は、

1.【吸食】の消化・吸収速度向上及びエネルギーの貯蓄許容量増大による継戦能力の向上

2.筋力トレーニングによる身体能力の向上と組手による戦闘技術の錬磨

3.身体強化の許容強度上限拡大と、過剰放熱/放電による熱/電気耐性の向上、これに伴う治癒能力増大と肉体改造

4.斥力場の強度向上

5.斥力場操作の精度・練度の向上

 といったところだろうか。

 このうち、1と2は今後も必要なので継続するとして、3,4,5は一考の余地がある。

 3に関しては、【液化】の獲得によって自己治癒能力が格段に増したので、かなり強めに身体強化をかけても耐えられるようになった。熱耐性や電気耐性は伸ばせるだけ伸ばすべきだけど、ダメージに対する耐性そのものが向上しているので後回しにできる。

 4の斥力場の強度向上は、続けるべきなんだろうけどこれも後回しでいい気がする。既に測定不能なほどの強度があるのに、これ以上強度を増しても使い道が限られると思う。訓練は継続するけど、優先順位は下がるかな。

 5の斥力場の操作精度向上は、内臓を脳に置き換えれば解決するので、これも優先順位がかなり下がる。訓練をやめはしないけど、片手間でいいかなって感じ。

 

 総じて、【吸食】の身体強化と自己治癒、斥力場の訓練に充てていた部分を【液化】の訓練に充てることになるかな。

 ついでに言えば、1の継戦能力向上のためのトレーニングは毎朝のランニングの()()()にやっているし、斥力場を使った訓練は普段から片手間にしているので、実質筋トレと組手以外のすべての時間を【液化】の訓練に充てることになる。

 

 【液化】の不思議パワーを鍛える訓練は……どうしようかな、普通に筋トレの要領でいいんだろうか。

 まずは自重トレーニングってことで、全身を液化させた状態で骨や筋肉を使わずに動き回ってみよう。余裕ができたら、錘を持ち上げる訓練に移行していく感じかな。よーし、目的がスッキリしてやる気が出てきた。

 

 雄英入試まで残り半年。纏まった時間のとれる機会はもうあまりない。

 十年間コツコツ頑張ってきたんだ、ここでコケるわけにはいかない。

 「僕らはコツコツ頑張ってきたから今更焦ったりはしない」とか言った気もするけど、ちょっと訂正。

 焦りはしないけど、それでも追い込みの時期。若干無理する程度に頑張ろう。

 

 

「というわけで、暗くなるまで訓練するなら一緒に怒られるけど、どうする?」

 

「あん?……もうこんな時間か。どーすっかなぁ……」

 

「明かりをつけると目立っちゃってバレるリスクも高まるから、居残り訓練するなら暗くてもできるメニューじゃなきゃいけないよ。あ、それか、暗くなきゃできない訓練する?夜間隠密訓練的な」

 

「ん、いいなそれ。ルールどうすっか」

 

「今日は準備も何もないから、簡単なやつにしよう。そうだね、お互い離れた地点から決まった時間にスタートして、お互いを探す。相手に気付かれないままタッチできたら勝ち。タッチする前に気づかれたら仕切り直し。これを繰り返して、最終的な勝ち数の多い方が……なんかする。どう?」

 

「なんかするってなんだよ」

 

「思いつかなかったんだよ。何か要望とかある?」

 

「……じゃあ、負けた方がマッパで帰る」

 

「ダメ」

 

「なんで」

 

「女の子にそんなことさせられません」

 

「勝つ前提かよナメやがって……ま、ジョーダンだ。いつも通り命令権一回分でいいだろ」

 

「やっぱそうなるか……いい加減バリエーションが欲しいね。いつも同じじゃ張り合いがないや」

 

「いーからやろーぜ。どこでやる?」

 

「波打ち際の、大きめのゴミが多い辺りかな。海に入るのはアリ?」

 

「アリだろ。なんでもアリがいい」

 

「そうだね、でも個性の使用はナシにしよう。隠密訓練だしね」

 

「……テメーは個性使えよ。手加減のつもりか?デク」

 

「まさか。個性に頼らない隠密技術は、あるに越したことはないでしょ?」

 

「……チッ、後悔すんなよ」

 

「もちろん。負けたら『何でもする』よ、かっちゃん」

 

「フン、いーぜ。泣かしてやるよ、イズク」

 

 

 夏の夜、日中の暑さがなりを潜め、ヒグラシの鳴き止む頃。

 

 人目のない夜の波打ち際で、静かな戦いが幕を落とす。

 

 妙に楽しそうに息を潜めるふたりを、まるく大きな月だけが見つめていた。

 

 

 





 なーにやってんだこのクソボケ主人公(呆れ)
 もぅまぢバケモンぢゃん笑 これがヒーローを目指す者の姿か? たまげたなぁ……。

 主人公は人畜無害そうな顔のわりにぶっ飛んでます。必要とあらば吐瀉物だろうが排泄物だろうが躊躇なく触れるし摂取できる。緑谷出久の意志の強さが変な方向に働いてますね。

 評価・感想等下さった方、本当にありがとうございます。
 感想返しとかはめんどくさ時間が取れなくてあまりできていないのですが、たま~に裏設定とか裏話とか投下するのでよかったら見てやってください。



Q:“相手が何を失ったか”ってなんか曖昧じゃない?そんなんでいいの?
A:「見る」とか「話す」とかも曖昧っちゃ曖昧だからへーきへーき。……ちょっと正確に言うと、“相手が何を失ったか”ってより“どれだけの精神的ショックを受けたか”ってのが正しいです。体組織を取り込むのはトリガーにすぎません。「個性(アイデンティティ)が揺らぐほどの精神的ショック」って、ないわけじゃあないですからね。


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