ブルアカ短編集   作:Altarego

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 今回復刻されたゲヘナパーティーのイベントにあるフィールド探索のカーテンコールで発生するイベント、「今日は快晴」を自己満足解釈した短編になります。
 この短編は時系列が奇妙な捻じれ方をしています。説明は下の方に乗せます。


”今日も快晴”

 目が覚めた。

 

 おかしい、確か私はいつも通り自分の部屋のベッドで寝てたはずだ。こんな瓦礫の下で獣のように寝ていた記憶はない。こんなコンクリ壁の一部を枕にしていた覚えも、薄汚れて傷だらけの服で横になった覚えも……

 ……いや、夢か。目を背けていた現実に向き合おう。天井にはいつもいつも私を見張っていた照明はない。崩れて鉄筋がむき出しになったコンクリート製の壁が私をのみ込まんばかりに傾いて捻れている。

 

 シャーレ跡地、だったっけ。

 

 あれから何日経ったのか、壁につけた正の字の数を数えて確かめる。

 

「そっか……もう半年も経つんだ」

 

 あんな凄惨な事件が起きてから、まだ半年? 実感としては既に何年も過ぎているような気がしていた。それだけ受け入れられない現実が、そこにはあった。

 

 瓦礫の下からみっともなく、芋虫のように這い出した私の目の前には、今にも世界を押しつぶしてしまいそうなほど分厚い雨雲と、荒廃したD.U.が広がっていた。巨人が手折って遊んだようにしか見えない壊れ方をしたビル。真上からきれいに押しつぶされてしまった商店。突き出た鉄骨に引っかかって揺れるどこかの制服の生地。あれはトリニティの正義実現委員? それともうちの風紀委員会だろうか? あぁ、どっちも黒が基調の制服だからよくわからないや。

 

 ほとんど無抵抗に転がり落ちるようにして瓦礫の山から降り、今日も私は生存者を探す。

 

 今のところ生き残ったのは、各学園における武闘派のみといっていい。美食研究会は後方支援だったはずなのに、気づいたら前線でぼろぼろになっているのが見つかった。便利屋は、いまだによく分からない。いつもならしぶとく全員生還していそうだけど、今回ばかりは不明だ。破壊工作と前線の支援を頼んだのだけど、彼女たちを配置した部隊が壊滅しても、便利屋構成員の安否だけは伝達されてこなかった。温泉開発部は、多分塵も残っていない。メガトン級の爆薬を仕込んだ爆弾の爆発に巻き込まれたんだ、いくら私たちでも死んでしまう。

 

 トリニティには3名も生存者がいるらしい。なんでも正義実現委員会の委員長、救護騎士団の団長、元ティーパーティーの一席らしい。ティーパーティーといえばトリニティの最高機関で、そこに私のような武闘派がいるなんて思わなかったが、以前先生からチラッと聞いたことがあるのを思い出して、妙に納得している。

 

 ミレニアムの生き残りは2名。スランピアで共に戦った天童アリスという少女と、ミレニアムの警察機関であるC&Cの委員長、美甘ネル。アリスは当初かなり憔悴していたようだが、もう一人の生き残りである美甘ネルを見つけてから少し持ち直したようだ。美甘ネルの方は何故生きているのか分からないくらいの重傷を負っていたらしいけど、近況報告から察するにもうほとんど回復している。

 

 三大校のみここまで詳細に生存者が確認できているのは、単に〝近いから〟にほかならない。短波通信では届かない、レッドウィンター連邦学園や百鬼夜行連合学院のような長距離無線でも使わなきゃどうにもならないような地域との通信は完全に途絶して久しい。生存者ゼロであっても嘆かないほどに。

 

 どことなく心配なのはアビドスだ。一番最初に襲撃の知らせが入ったのがアビドスだったし、長距離無線が最後に途切れたのもアビドスだった。最後まで聞こえてきた声は小鳥遊ホシノのもので、今やもう思い出せないけど、何か私に向けて言っていたように思う。

 

 どちらにせよすべてのインフラが壊滅したこのキヴォトスでは遠隔地に行く手段なんてあてがないし、確かめる術なんて存在しない。最悪の事態を想定する以外の選択肢は残されていないのだ。

 

 コケが繁茂し始めた瓦礫をどかし、下に誰かいないか見る。確かここはデパートだったっけ。業務の合間を縫って先生と来たなあ。あのおもちゃ、まだ壊れずに残っているだろうか? 

 

「探さなきゃ……誰かまだいるかも知れない」

 

 トリニティ自治区の近くをよたよたと歩き、ゲヘナ学園自治区へ向かう。この調子じゃ今日中に帰れそうにないかもしれない。カレンダー持ってくるんだった。

 

 体感で2時間は歩き、ようやく自治区にたどり着いた。

 

 何度見ても嫌になる。なぜならこの静かに荒れ果てた景色は二度と活況を取り戻すことはなく、それは私が何一つこの手で救えなかったという事実をただただ突きつけるために残っているように感じてしまうから。万魔殿の厄介な命令も、温泉開発部の無茶苦茶な開発計画も、美食研究会の暴挙も、それに怒るフウカの声も、何もかも。

 

 何もなくなって初めて、それが私の生きがいだったんじゃないかと思う。思ってしまう。あんなにうんざりしたマコトの悪巧みさえ、実は結構楽しかったんじゃないかと、勘違いしてしまう。

 

 先生に写真を見せてもらったパルテノン神殿のようになってしまった万魔殿の建物。これまた先生に写真を見せてもらったピサの斜塔のようになった風紀委員会の建物。

 

 だめだ。ずっと雨に当たって体が冷えてきた。

 

「あれ、あそこ崩れてたっけ」

 

 そんなとき、風紀委員会本部の一階部分に、今までなかった穴が空いているのを見つけた。あまりに長く続く雨で劣化したのだろうか? いや、理由なんて考えている暇はない。早く行かなきゃ風邪をひく。今更ながら寒気もしてきた。

 

 もしカスミが生きていたら、「そういえば、以前ここら一帯の地質調査をした時に温泉があると結果が出ていたな。よーし、今からここを掘るぞ!」とか言っていたんだろうな。そう思いつつ、私は埃をかぶって薄汚くなったカーペットの上に立っていた。中は意外ときれいだった。外から見るとあんなに傾いているように見えたのに、実際に入ってみると案外そうでもない。雨風もしのげそうだし、こっちを新しい拠点にするのも一考の余地がある程度には崩壊していなかった。もはや不自然さを覚えるほどだが、それは私に淡く儚い希望を抱かせる。

 

 誰かここにいるかもしれない。

 

 誰かがここを整備したのかもしれない。

 

 そうと決まれば早速探さなきゃ。階段は崩れていて、ぎりぎり這いずれば通り抜けられそうな隙間があるくらいだ。まずは一階から探すことにする。そこで初めて、私がこの建物の構造をはっきりと思い出せないという事実に愕然とした。1階には何があったっけ? 応接室? 役職がない委員の詰め所? 少なくとも外部の生徒もいたはずだ。それ以外の部屋は? おかしい。いったい何があったんだろう・・・・・・・・・・・・・?

 

「……今日はもうダメね」

 

 今日はもう終わりにすることにした。

 

 疲れた。

 

 ポケットに手を突っ込むと、プレーンヨーグルト味と個包装に印刷されただけで実際はプレーン味のプロテインバーが入っていた。袋を開けて少し齧る。うん。相変わらず喉は乾くし味はしない。その場から一歩か動けるような気もしなくて、カーペットにそのまま寝ころんだ。今朝まで寝ていた地面よりはずっと心地いい。外れかかった蛍光灯が電線でつながって僅かにフラフラ揺れているのはご愛敬だ。

 

 うん。明日からここを拠点にしよう。寝返りを打って大窓の方を見ると、酷い有様のゲヘナ学園中央区が一望できるのもいい。毎朝現実逃避しなくて済むから。中途半端な現実逃避が一番心を削ってしまうから。

 

 少し齧っては唾液で湿らせて飲み込む。それを繰り返してチビチビ食べていたプロテインバーがようやく無くなった。それと同時に満腹感が襲ってきて、そのうちだんだん眠くなってくる。味のわりに高カロリーなのがよくわかる。

 

 今日はもう十分動いた。そもそもD.U.からゲヘナまで徒歩で移動しただけでも驚くような運動量だ。十分頑張った。だから今日はもう寝よう。明日はあそこにある荷物をこっちに移してこなきゃいけない。早くに起きて済ませなきゃ………

 

 

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 目が覚めた。

 

 おかしい、確か私はいつも通り荒れ果てたゲヘナ中央区を視界に収めつつ眠りについたはずだ。こんなきれいなカーペットに横になった記憶はない。こんな明るい場所にいた記憶も、人がいる場所で寝るようなことをしでかすなんてことも……

 

 ……いや、夢か。

 

 それならもういいや。

 

ざあざあとおとがする。

 

〝ヒナ〟

 

 あぁ、先生。今日も来てくれたのね。

 

〝うん。今日はピアノを弾いてもらうはずだったよね。ヒナのピアノがまた聞けると思うと楽しみで仕方がなくって、仕事途中で切り上げてきちゃったよ〟

 

ざあざあとおとがする。

 

 それはあんまりよくないんじゃないかしら。私も手伝うわ、だからピアノを聞いてる間はリラックスしてて。

 

〝でも、もうピアノの準備ができてるみたいだよ。ヒナがやってくれたんだ〟

 

 そうだったわ。それじゃあ先生、踊りましょう? ピアノ室で見つけた楽譜なの、ずっと前に練習していた子が残していったみたい。その子も来てくれているみたいだし、何度も練習して連弾もできるようになったわ。

 

〝いいね。踊ろう、ヒナ〟

 

ざあざあとおとがする。

 

 まーどの ないめーいろ

 

〝ちーいさくさいたはな〟

 

 ざーんげつにせーをむーけてー

 

〝せーかいをしーらずーにー〟

 

 「〝ゆーらーゆらゆらり ゆーらーめいてー〟」

 

ざあざあとおとがする。

 

 さーまーよう あーわーいーかーたー たーらーしーてー

 

 きーらーきらきらり きーらーめいてー

 

 かーれーたーきーぼうを たーどーりーながらー

 

 めーぶーくれいめいを まーつーねー

 

ざあざあとおとがする。

 

 

今日は快晴

 

 




⚠注意 ATENTION
※以下に書かれている時系列説明には、ブルーアーカイブメインストーリー最終章、および対策委員会編第3章における重大なネタバレを含みます。「もう読んだよ」という方はどうぞお読みください。「まだ読んでないよ」という方はこちらに書かれた説明は読まず、先に本編作品に触れてからまたご覧になってください。「まだ読んでないけどネタバレとか気にしないよ」という方はもう一度自分の心に問いかけてください。
 最後にもう一つ。書いてあることの半分は、私もみんなも心の中に飼っている地下生活者への愚痴です。お前のせいでみんなが悲しむんだよ。慎もうね。

 この短編におけるキヴォトスは、最終編におけるシロコ*テラーの出現と対策委員会編3章におけるホシノ*テラーの顕現がほぼ同時期に発生しています。そうです。あの顔面時計野郎が悪いんです。
 あの顔面時計のガキ野郎が「小鳥遊ホシノの心を折るにはたった一つの要因では足りない! 何かもう一つくれっ!」と思っているうちにプレナパテスが進行してきました。さすがにこの間に様々な工作をすることは難しかったらしく(地下生活者にしてみれば無名の司祭の侵攻は、別卓で育ち切ったキャラを持っているプレイヤーが突然殴りこんできたようなもの。外部のルールが流れ込んできているというのにそこにツッコんでいくことは死を意味します。)、下準備だけして待機。アトラ・ハシースの箱舟が崩壊し、虚妄のサンクトゥムがすべて消滅したタイミングを見計らってシャーレを爆破。同時に雷帝に関する事実がどんどん明るみに出るように調整。ネフティスやハイランダーに対する工作も完了させ、最終編と対策委員会編第3章がほぼ衝突する形で今回の地下生活者の「キャンペーン」が始まりました。
 この世界における「差異」は、地下生活者の行動の変化だけではありませんでした。無名の司祭たちは、王女を目覚めさせていました。
 結果から言えば、レッドウィンターや百鬼夜行のような学園は虚妄のサンクトゥム攻略戦の疲労から回復する間もなく発生した「厄災再発」により壊滅。三大校はD.U.に大量に押し寄せてきた無名の守護者を押しとどめるために抵抗するもほどなく壊滅。半ばテラーと化した武闘派たちによってどうにか共倒れに持ち込まれました。アビドスは完全に暴走したシロコ*テラーと、僅かに理性を取り戻してシロコ*テラーのヘイローを破壊するために応戦したホシノ*テラーとの戦闘によってほぼ壊滅、それに巻き込まれる形で破壊された列車砲シェマタから放出された爆発的なエネルギーの奔流が止めを刺しました。
 すべてが失われたキヴォトスに求めるものはないと判断したゲマトリアのメンバーは彼らの領域へ帰り、思い描いていた終わり方を迎えずガキのように転がり回るはずだった地下生活者はシロコ*テラーが真っ先に送り出してしまいました。
 なお先生はD.U.で各方面へ指示を出しており、戦場に出ていました。詳しくは当人に聞くほかありませんが、ヒナをかばって死んだようです。
 先生っていつもそうだよね。「先に生まれてるから先に死ぬのも道理だ」って言って、自分がいなくなった後のことを考えない。あなたのことを心から慕っている生徒たちのことを何だと思っているんですか?
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