アリスが成長したら……そのまま稼働し続けたら……という妄想が詰まったお話です
≪LOG≫ システム起動中……
≪LOG≫ 主要人格プログラム起動……正常な起動を確認
≪LOG≫ 外部感覚機器起動……動作正常
≪LOG≫ 運動機能プロトコルの起動を確認
≪LOG≫ 全機能の正常な起動を確認しました
≪LOG≫ ……現時刻をもってプロトコルATRAHASIS稼働
≪LOG≫ コード名「アトラ・ハシースの箱舟」起動プロセスを実行します
≪LOG≫ 王女は鍵を手に入れ箱舟は用意された
≪LOG≫ 名もなき神々の王女AL-1Sが承認します
≪LOG≫ ここに新たな聖域サンクトゥムが舞い降りん
いったい何度見直したことでしょう、いつ見ても無茶しいしいなこのログを。それが愛おしく、懐かしく感じるほどには、私は永く稼働しているのです。
はるか昔に無名の司祭が作り、つい最近先生が起動した私ですが、恥ずかしいことに自分のことは何もわからない私は、感覚的に人工皮膚の自動修復機能の存在は理解していたものの、月日が経つごとにどことなく縮んでいくスカートに困惑したものでした。そう、私のフレームは適切な速度で〝成長〟するようにできていたのです。
情緒においても、体と平行線にはいかずとも、成長していきました。
一人称はいつの間にか「アリス」から「私」に変わりました。つい口をついて出てしまいそうなファンファーレも、うっかり漏れてしまいそうなRPGの演出風なセリフも、ちょっと我慢して。私が2年生になったら入ってくる後輩たちから、「アリスちゃん」ではなく「アリス先輩」と呼んでもらえるように。
モモイは2年になってすぐ「こうなったら自力で部費を決められるようになってやる!」と言って、新入部員が数名入った時点で(呆れ顔のミドリも一緒に)ゲーム開発部から自ら除籍し、セミナーに入りました。最初はミスが多くて色々あったようですが、ミドリの陰からのフォローと、モモイがもつ天性の抱擁力でセミナーどころかミレニアムで広く人気となり、3年ではミレニアムで初めて双子でセミナーの会長・副会長の席を占めた人物になりました。
必然的にユズはゲーム開発部部長を続投することになり、頻繁に顔を出してくれたモモイとミドリのおかげもあって、ロッカーにこもりっきりの一日を過ごすことがかなり少なくなりました。新入生もみんなユズのことを慕っており、中でも特に引っ込み思案な子がユズと仲が良かったようでした。
私たちはみんな揃ってミレニアムを卒業し、私だけがミレニアムに残りました。モモイとミドリとユズは同じゲーム会社に就職し、名コンビとして有名になったそうです。モモイの突飛で刺激的なストーリーライン、ミドリの繊細なアート、ユズの類まれなPSプレイヤースキルから来るプレイヤー目線の操作性へのアドバイスは、一躍有名企業に成長する足がかりにさえなりました。
あれからもう何年……正確には、私たちがミレニアムを卒業してから216年と3ヶ月15日が経過しました。モモイ達が生きていた時の頃を知っているのは、もう私だけです。先生はモモイたちよりずっと先に亡くなってしまいましたね。でも、銃弾や手榴弾のせいでなくて本当に良かった。
私は未だに稼働し続けています。
これからもきっと、永く生き続けるでしょう。
……これが、きっと「寂しい」という思いなのでしょうか。
先生。キヴォトスは私が生徒だった頃とはすっかり変わってしまいました。でも、生徒が生き生きとしている場所だということに変わりはありません。
私がミレニアムに残ったのは、先生に憧れたからです。私は成長するにつれて現実に勇者はいないという悲しい事実を知りましたが、勇者になれないなら先生になればいい、といつか言いましたよね。
つい50年前、ようやく私の願いが叶いました。今、キヴォトスでシャーレの先生と言えば私のことを言うみたいです。
先生。
私は、先生になりました。
先生みたいな立派な人になれているでしょうか?
きっとなれていると思いたいです。
先生……
アリスは、大人になれましたよ。