「入学早々他中とのトラブル。この事案に間違いはないな?」
「…ねぇな。」
とある中学校の生徒会室。ここには2人の男がいた。片や気だるそうに、面倒臭いといった気持ちを隠しもせず、生徒会長と書かれたプレートがある机の前で立っており、片やその机で両肘を置き口元の前で指を組んでいる。
「先生より通常であれば謹慎等の処置が取られると聞いているとは思うが、この事案について目撃者、かつ当事者が当校におり証言の元お前の処置について生徒会預かりという形になった。」
「…はっ。先公に随分信頼されてるんだな。わざわざこういったことに対してたかが一生徒に委ねられるなんてよぉ。」
おかしすぎる話である。龍園とて処分を免れたのはプラスだが、なぜ生徒会長がこの件を預かっているのかまるで理解ができなかった。
「お前は他中の生徒とトラブルを起こした。しかし同時に当校の生徒を救ったのもまた事実だ。やや素行に問題はあるが、矯正ということも兼ねている。生徒会雑務としての仕事がお前に与えられたということだ。」
「伊達に歴代最高の生徒会長と呼ばれてないってことか?それを俺が受ける保証もどこにもないよな?」
「受ける受けないの話では無い。これは仕事だ。社会に馴染むためには上の命令を聞くのも大切なことではないのか?」
「それこそお門違いだな。だがまあ…俺を従えるってんならそれ相応の実力ってもんがねえと話にならねえな。…意味はわかるよな?」
龍園はそう言い返し、中指を突き立てる。その行動を見た堀北学は立ち上がり眼鏡を整えた。
「勝者の言葉であれば従うのだな?」
「あ?寝言は寝て言えよ。まだ日は沈んでねえぞ?」
両者になんとも言えない空気が漂う。その空気を切り裂くかのように、龍園が先手上等と言わんばかりに堀北学の顔面に向けて拳を繰り出す。その拳を片手で受けた堀北学。そのまま掴んだ龍園の拳を自分に引き込み逆の肘を龍園の顔面に叩き込む。
「…なんつう反応だよ。」
「ほう、お前も中々にやるじゃないか。」
間一髪その攻撃を避けた龍園は、掴まれた手を振り払い距離を置く。その様子を見た堀北学は素直にそう答えた。
「その気があるなら話は早え。覚悟しやがれ。」
そう言って龍園は再び堀北学へと向かう。その姿はまるで何かに取り憑かれた龍の様だった。
「初日からここに来るとはな。何の用だ。」
「何の用だとはよう言うぜ、1年間も雑用させやがって。」
堀北学の言葉にそう返す龍園。その言葉には恨みがだいぶ込められていた。
「勝者に従うのではなかったのか?」
「…ちっ、しょうもねえことまで覚えてやがる。」
堀北学の言葉に苛立ちを隠せない龍園。しかし龍園には堀北学に聞きたいことがあった。
「A~Dのクラス分けはどういった意図で行なってるんだ?」
「ほう…。」
龍園の言葉に感嘆の声でそう返す堀北学。堀北学のその反応に龍園はある程度その意図に気づいた。
「答えてもらおうとは思ってなかったが、その反応…俺の想像とあまり変わらないみたいだな。」
恐らくA~Dは実力順に分かれている。順当に考えるのであればCクラスは下から2番目ということだ。かつ、あの100%の恩恵を受けられるのも1クラス…それもAクラスのみ。龍園はそう考えた。
「…龍園、携帯を貸せ。」
龍園は堀北学のその言葉に大人しく携帯を差し出した。返ってきた携帯を見るとそこには驚きのものが映った。
龍園のその反応を見た堀北学はそのまま続けた。
「俺の連絡先と…それは餞別のようなものだ。これをどう捉えるかはお前の自由だ。」
そう言い残し堀北学は自分の仕事へと取り掛かる。その反応を見た龍園は生徒会室を後にし、すぐその廊下で龍園は改めて携帯を見た。そこに書かれていたのは30万ポイント。元々10万ポイントがあったため、堀北学から20万ポイントが振り込まれていた証拠であった。
「こいつは確かに色々捉えようがあるな。」
そう言い残し、去っていった。
「察して黙ってもらっていて悪かったな、橘。」
「いえ、初めは注意しようとしましたが、会長の反応を見てやめました。会長いつもより嬉しそうでしたね。」
橘と呼ばれたその女は堀北学の言葉に笑顔でそう答える。
「…ふっ、そうか。今年の1年も楽しくなりそうだな。」
そう言い堀北学はさっきまで龍園がいた場所を見た。
数日経ったある日。
「(石崎はちゃんとやってくれているみたいだな。)」
龍園は心の中でそう言った。ちらほら話し声や寝ている者がいるものの、最初に比べて授業態度がある程度改善されていた。どれくらい減点されているかは分からないが、このままいけばある程度の評価は得られるであろうと考えていた。
「(最初のように浮かれさせていてもよかったが、もし評価が低すぎた場合、無理をしなければならない場面が多すぎるのもよくない。俺がこのクラスを率いることは確定だが、力を示すためにもこの程度でいい。)」
そう思い、龍園は授業へと再び集中するのであった。
それからさらに数日経ったある日。
今日この時間は国語であったが、何故か坂上が教室へと入ってきた。
「皆さん、よく聞いてください。本日は国語の予定でしたが、小テストを実施します。内容は中学校まで習った五教科を含む20問。1つ5点のテストになります。」
その言葉を聞いて明らかに不満の声を上げるCクラス。このクラスだけではなく、この時間全てのクラスで同じことが行われているということだった。
「安心してください。このテストは皆さんの個人成績には1つも反映されません。あくまで皆さんの今の実力を試したいということです。もちろんカンニング行為は厳禁です。それ相応の処分となりますので、お気をつけください。」
そう言うとほっとするCクラス。しかしこの男だけは今の言葉に違和感を覚えていた。
「(個人成績か…含みのある言い方すぎるな。何かの指標に使われるかもしれんが、このクラスは間違いなく点数が低い。ここで高いやつを把握するのも大事だな。)」
龍園はそう感じ、配られてきた小テストへと意識を向けた。
始めの問題は本当に中学までやってきた内容らしく、そこまで難しいものではなかった。しかし残りの3問、この3問だけは明らかに中学生のレベルを超えている。
「(…なんだこの問題は?公式を何個も駆使しないと解けない問題だぞ。堀北の野郎に文字通り学んでなければ、俺も解ける訳がなかったなこれは。)」
問題の難易度に驚きながらも答えを埋める龍園。しかし龍園と言えど簡単に解くことはできず、何とか時間いっぱいで埋めることができたのであった。
5月1日。
入学から始まり1ヶ月が経った。アラームで目が覚めた龍園は、アラームを切りそして自分の残高ポイントを確認した。
「36万ポイント…つまり振り込まれたのは6万ポイントか。これが個人によって変わるのか…いやクラス全体だろうな。」
なんと龍園は入学からこの1ヶ月間ポイントを1ポイントも使っていなかった。それにより自分、または自分のクラスに振り分けられたポイントであると確信した。ちょうどその時携帯がバイブし、石崎とかかれた画面が出てきた。龍園はそのまま通話ボタンを押す。
「龍園さん、おはようございます。ポイント見たっすか?」
「ああ、お前は何ポイント振り込まれていた?」
「龍園さんの言ってた通りになりましたね。6万ポイント振り込まれています!」
「石崎お前も6万か、わかった。」
そう言い残し、龍園は通話を切る。
「思った通りだったな。まあこれで正式に動き出せるってもんだ。」
そう言い龍園は支度を始め、教室へと向かうのであった。
「ん?あれは…確か綾小路だったっけか。」
教室へと向かう途中Dクラスの近くで入学の時に会ったやつを見かける。周りにもDクラスと思わしき男どももいた。なにやらポイントが振り込まれていないや、学校のミスだろといった声が聞こえる。
「…は?Dクラスは振り込まれていない?そんなことが有り得るのか?…いや違うな、あいつらは0ポイント振り込まれたってことか。」
龍園は1人そうごちる。まさしくDに相応しい結果とも言うべきか。しかし龍園は先程見かけた男やとある女子生徒2人のことを思い浮かべた。
「(綾小路…あいつは本物だ。このシステムに気づかないわけが無い。なにを考えてやがんだ?…それと鈴音に桔梗もだ。このくらいなら思いついてもおかしくないはず…。よくわからん。)」
龍園はそう思慮しながらも、自クラスへと歩いて行った。
教室へ入ると、やはりCクラスでも6万しか振り込まれていなかったことに不満をぶつける者もいた。皆すぐにでも坂上に確認したい、という気持ちが全面に出ている。それは他のクラスでも同じことであろう。実際に先程目にしたDクラスでもそういった声があった。そんな中、目的の人物が現れ皆一同席へと戻る。
「みなさんおはようございます。…おや?どうやらみなさん私に聞きたいことがある顔をしていますね、よければお答えしますよ。」
坂上はある程度質問を投げかけられるのを想定していたのか、特に気にした様子もなく声をかける。
「…毎月10万ポイント振り込まれるのではないのですか?」
どこかでそういった声が上がった。
「私は毎月10万ポイントが振り込まれる、とは言っていませんね。毎月1日にポイントが振り込まれるとしか言っておりません。10万ポイントはみなさんがこの学校に入学できたお祝いのようなものです、という説明をしました。気になるのあれば、当時の私の言葉をお聞かせできますよ?」
そう言ってレコーダーのようなものを出す坂上。それを見せられては反論の余地がないと理解したのか、それ以上言葉を発する者は居なかった。
「ふむ、理解が早くて助かります。続いてこちらを見てください。」
そう言い、フリップのようなものを出す坂上。そこにはAからDクラスの横に数字が書かれていた。
Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 600
Dクラス 0
「これは皆さんの1ヶ月の評価となります。授業態度、学校内の生活態度を基準に数字を出しています。みなさん入学時はそれぞれ10万ポイントを貰ったので、気づいた人もいると思いますが、全クラス1000…これをクラスポイントと言います。1000クラスポイントからスタートしています。」
そう言いながら坂上は黒板に文字を書き始める。
「クラスポイントは1ポイントにつき、100プライベートポイント。すなわちみなさんに支給されるポイントへと変換されます。今回Cクラスは600クラスポイントなので今月みなさんには6万プライベートポイントが支給された形となります。」
その言葉にCクラスの生徒は愕然とする。てっきり10万ポイント貰えると思い込んでいた生徒は坂上の言葉を受け止めづらい。だが、減ったポイントが400程度で済み、こうして6万ポイント所持できていることに安堵しているようにも見える。
「そしてみなさんにもう1つ伝えなければならないことがあります。自分の進路や希望についてはAクラスで卒業した生徒のみに与えられる権限です。」
その言葉がさらにCクラスを愕然とさせる。ざわざわとし始め、驚きを明らかに隠せていない。
「みなさんがもし940クラスポイントを残せていればAクラスへと昇格していました。ちなみに評価の内容に関しましては開示することができません。ですが不正のないよう、こちらでしっかりと管理しております。」
坂上はそう続けるが、突然増えた情報量に頭がついていかない生徒が多数である。
「そして最後に、先日行いました小テストの結果を貼り出します。必ず自分の点数を確認してください。」
そう言いながら黒板に小テストの結果を貼った坂上。
「平均点は65点ですね。つまり33点未満の人は退学になっていました。今回は影響がないと伝えておりましたので、退学等はありませんが、本番のテストであれば1教科でも平均点の半分を取れなければ退学となります。」
-退学。その言葉を聞いた生徒は一斉に黙り込んだ。ポイントが増える減るの話では無い。その恩恵すら受けることが出来なくなってしまう言葉だ。
「みなさん改めてこの学校の特異性が理解できましたか?みなさんであれば必ずこの試練を突破出来ると自負しています。頑張ってAクラスを目指してください。」
そう言い残し立ち去ろうとする坂上。
「…おい、坂上。」
その言葉を発した男に皆が注目する。もちろん坂上もその内の1人である。
「龍園君ですか…先生をきちんとつけなさい。今回はこの後みんなで話し合っていただきますので、今のは減点には含みません。」
そう言いまた立ち去ろうとする坂上。
「何帰ろうとしてやがるんだ坂上?お前今言ったよな、みんなで話し合うって。もちろんお前も含まれてるぞ。」
龍園のその言葉を聞き坂上は少し驚いた顔をしたが、その後すぐ切り替え、龍園へ向き直った。
「…ほう。いいでしょう。私からは何も申し上げられませんが、ここに残るとしましょう。」
そう言って坂上は壇上をおり、少し離れた所から黙って静観した。それを見た龍園は立ち上がり、先程まで坂上が居た壇上へと上がる。
「石崎、アルベルト、扉の鍵をかけろ。誰も出ないようお前らはその前に立っておけ。」
龍園の指示にすぐ様反応し出入り口を塞ぐ2人。石崎はおろか、山田アルベルトまでも龍園の指示に従っていることに驚く生徒たち。一体いつから…そんな声まで聞こえてきそうな雰囲気である。
「…お前ら、よく聞け。今日の結果から分かるように俺たちは負け組だ。Dクラスは話にならんが、それを省けば最下層。つまりはドベってことだよ。」
龍園の言葉に苛立ちを隠せない生徒たち。しかし龍園は周囲を見渡した後更にこう続けた。
「…ほう。それでもお前らはそういった反抗的な態度が取れるんだな。お前らは今日まで何をして、何を成した?」
その言葉に誰も言い返せない。
「俺は少なくともお前らよりは行動している。ここまで600クラスポイントを残せたのは誰のおかげか?石崎から注意をされなかったのか?」
龍園のその声に石崎を見る生徒たち。心当たりのある生徒は罰が悪そうな顔をしている。
「もちろん俺が指示を出し、誰が反抗的だったのかも聞いている。そしてアルベルトだ。俺はこいつさえも屈服させている。」
龍園のその言葉は今になってはより重く、そして深くCクラスの生徒に突き刺さる。
「俺がこのクラスの王になる。…王といっても独裁なんざ興味は無い。お前らを導いてこそ、真の王と成る。」
もはや圧倒的であった。邪悪さ、謙虚さどちらも兼ね備えた、カリスマとも呼べるほどの威圧であった。
「…それと、このポイント表を見て何か気づいたやつはいるか?」
龍園の言葉に一同は理解ができていなかったが、ただ1人手を挙げるものがいた。
「…ほう。お前は確か…小テスト90点だった金田か。いいぞ、言ってみろ。」
「発言の許可ありがとうございます龍園氏。Dクラスは例外ですが、何かまとまりのようなものを感じます。」
龍園はその返しを聞いて口角を上げた。
「よくわかってんじゃねえか、いいだろう。お前は参謀に任命する。」
「龍園氏ほどではありません。」
そう返し金田は席に座った。
「まとまりがあるってことは他クラスでもある程度頭角を現したものがいるということだ。確かに初めからAクラスやBクラスに入る者は基本的なことができていると言っても不思議では無い。だが、こうもしっかりまとまっているとなると、明らかに率いている者が居てもおかしくない。」
龍園の言葉を食い入るように聞く生徒たち。
「そしてどうやらこの学校はAクラス争奪戦をさせるつもりらしい。A以外は負け組。そういった戦いだ。」
龍園の言葉を聞いてなおまだ信じきれていない者もいる。
「我こそは王というやつがいればいつでも相手するぜ?暴力はもちろん、頭でもな?」
そう言いながら小テストの結果を指差す。1番上に龍園とあるが、その横には100点という文字が輝いている。
「前置きが長くなったが俺から言えることは1つ。俺はお前らを…このクラスをAクラスへと導いてやる。俺に従える者には飴をやるが、従えない者がいるなら…わかっているな?」
もう誰も何も言えない。龍園は誰よりも早く違和感に気づき、そして行動した者だ。1歩2歩以上先に進んでいる。
「まずお前らに足りていないのは頭だ。さっきも坂上が言ってた通り赤点を取れば退学だ。死ぬ気で勉強しろ。とにかく復習だ。できるできないじゃない、やれ。やってから文句を言え。」
龍園の言葉に嫌な顔をする者もいるが、退学がかかっている以上やるしかない。
「週に1回金田から問題を作らせる。もちろん勉強した範囲内でだ。お前ら最低でも1時間は勉強しろ。する習慣を身に付けるんだ。」
もはや他人事ではなくなってしまっている。
「俺からは以上だ。文句のあるやつは今すぐ出ろ。それ以降は受け付けない。これが最後の警告だ。…わかったな?」
そう言い残して龍園は自分の席に戻る。それに合わせて石崎、アルベルトも自分の席へと戻る。
「…荒い言葉も多かったですが、私は応援していますよ。是非みなさんで頑張ってください。」
そう言って坂上は教室を出た。
坂上本人は気づいていないかもしれないが、龍園の演説中、口角が上がりっぱなしであった。
「…おもしろいクラスになりそうですね。」
そう言いながら坂上は職員室へと戻るのであった。
よう実二次創作を読む人であれば多少の説明を知っていると思っているので飛ばしています。
誤字脱字多かったかも。