それから日が経ったある日。
Cクラスは龍園指導の元、5月末のテストに向けて取り組んでいた。元々低かった学力よりかは多少改善されたものの、1週間2週間程度では学力は向上しない。
だが、勉強する癖を着けていっているCクラスの生徒は成長していた。
金田が作成したテストを2回受けた生徒は、最低でもギリギリ赤点回避のレベルまではきていた。
この日全ての授業が終わり、ホームルームにて坂上からとあることが宣告された。
「毎日範囲内をしっかり勉強して下さっているみなさんには申し訳ないのですが、テスト範囲が変更されました。」
そう言って、新たに変更となったテスト範囲のプリントが配られる。今まで抑えてきたテスト範囲と、全くといって違うものだ。今まで習ってきた範囲ではあるが、要点すら抑えられていない箇所である。
「テストまで残り2週間を切っていますが、みなさんなら必ず乗り越えられます。」
坂上はそう言うが、Cクラスの生徒は驚きを隠せない。
しかしそんな中でも、この男だけは言葉を発する。
「本当に申し訳なく思ってんのか?思ってるならそれなりの謝罪ないし、お詫びがあってもおかしくはないよなあ。」
龍園のその言葉に坂上はこう返した。
「…テスト変更がされる可能性はある、とお伝えしていたつもりでしたが、もう既に決まってしまったので、どうしようもありません。」
「…はっ。よく言うぜ。どうせまた1週間切ったら変更とか吐かすんだろ?まだ1年生になったばっかりの俺たちを弄ぶのが好きみたいだな。まさか実力主義を謳っている学校が、こうも陰湿だとはなあ。」
龍園のその言葉を聞いた坂上は続けてこう言った。
「もう変更されることは絶対にありません。信用がないのであれば私が今からボイスレコーダーで録音しましょう。これで証拠になります。」
そう言ってボイスレコーダーを取り出した坂上。そうまでされてはこちらも何も言い返せないと思った生徒たちは、素直に坂上の言葉を受け止める。
しかし、龍園だけは言葉の違和感に気付いていた。
「絶対だ…?そういや5月の始めにも同じことを言っていたが、必ず乗り越えられるってのは、どう言う意味だ?」
「言葉通りの意味です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
龍園の言葉にそう冷静に返した坂上。するとここで龍園は突拍子もないことを言った。
「…なら坂上。テスト当日、全ての教科をカンニングする権利は何ポイントだ?」
龍園のその言葉に驚愕するCクラス。まさか堂々とカンニング…ましてやその権利を購入すると宣言した龍園に、Cクラスの生徒たちはざわざわとし始める。
そんな龍園の言葉に坂上は、口角を上げながらこう答えた。
「この学校で買えないものは無い…それをしっかり覚えてましたか。流石です龍園君。」
拍手をしながらそう言った坂上に龍園は苛立ちを隠せなかった。
「そんな御託はいい。買えるのか?買えないのか?それだけを伝えろ。」
龍園がそう言うと坂上はメガネを整えこう言った。
「もちろん購入できます。しかしカンニングを黙認するとなると、相当のポイントが必要です。…そうですね、1教科60万ポイント。5教科全てなら、300万ポイント…といった所ですね。」
坂上の言葉に龍園は舌打ちをした。払えるわけがない。1教科ぐらいであれば、クラスのポイントを集めれば出来なくもないが、高すぎる。たかがテストに、これからも行われていくであろうクラス闘争に支障をきたす。
「もちろん値下げは出来ません。もしその手を使うのであればテストの3日前までに申告してください。…以上でホームルームは終わります。」
そう言い残し、坂上は教室を出た。
龍園は腕を組み、至急対策を練り上げるために思考した。
その様子が不安に感じたのか、Cクラスの生徒は龍園へと集まる。
「ど、どうしましょう、龍園さん。俺めっちゃギリギリだったっすのに
こんなのあんまりです!」
石崎の言葉を皮切りに各々が不安の声を漏らす。ただでさえ退学がかかったテストだ。その不安も龍園は充分に理解していた。
「…ゴタゴタ言っても始まらねえ。このままテスト勉強をしろお前ら。…金田!今配られた範囲を徹底的に頭に叩き込め。」
「安心して下さい龍園氏。少しですが保険をかけていました。ある程度は頭に入っています。」
金田のその言葉に関心する龍園。それと同時にとあることが頭の中で浮かんだ。
…必ず乗り越えられる、もしやそれは毎年同じことをしているのでは?といったことである。同じこと…といった言葉にさらに違和感を感じた龍園。
「(…同じこと、毎年それが変わらないとすると、…そうか!…クク、なるほどなあ。)」
突然笑い出した龍園が気になるCクラスの生徒。だが龍園は思考を止めない。
「(堀北には頼めねえな。この前貰ったポイントを要求される可能性もある。…わざわざ上のクラスのやつに頼む必要は無い。2年や3年にもポイントに困ってるやつがいるはずだ。…それこそ…。)」
思考がまとまった龍園は突然立ち上がる。その行動に驚く一同であったが、龍園はそのまま歩き出した。
そして、とある女子生徒の前まで行った。
「お前にも手伝ってもらうぞ。全員で乗り越える試験だからな。…もちろん嫌とは言わせねえぞ?」
龍園の言葉にその女子生徒は少し嫌な顔をし、しぶしぶながらも了承したのだった。
「いいか、ひより。お前にかかっている。さっき伝えたこと、忘れてねえよな?」
次の日の昼休み。龍園はひよりと呼んだ女子生徒と共に食堂へと向かっていった。
「…はい。あまり気は乗りませんが、私もCクラスの一員ですのでご協力します。あの日私は反論をしませんでしたので。」
龍園が王になると宣言した日。反抗する者や王に取って代わろうとする者はいなかった。
つまりそれは、龍園に従うという意味にもなる。
「お前にも参謀…そして俺がいない時の代理をしてもらいたいんだがな。王が男で、代理が女子というのもいい。ヘイトの分担がしやすい。お前には期待しているんだぜ?2位さんよぉ。」
先日のテストでは龍園のすぐ下に名前があったひより。95点…つまりあの2問を解けたということである。金田ですら1問だったと考えると、代理にするにはもってこいの頭脳である。
「クラスメイトとして協力はしますが、自ら戦いへ身を投じることはありません。」
はっきりとそう言ったひより。
そうなのである。龍園はあの日からひよりのことを調べさせていたが、闘争本能がなく、いつも図書室に引きこもっているとのことだった。それを聞いた龍園は、無理に引き込み、いずれその高い知能で裏切り等をされるよりも、利を得させた方がいいとも考えていた。
「…ちっ。まあいい。ある程度自由にさせてやる。勉強会にも参加しろとは言わねぇ。だが、こういった試験ではある程度力を発揮してもらうぞ。」
そう言いながら歩いていると目的の場所へと着いた。
「いいか、ある程度の出費は俺が払う。お前には事前に10万ポイントを預けたが、キリのいいラインを見極めろ。わざわざ高いポイントを必要はねえ。」
「はい、わかっています。高いポイントを吹っかけられれば他の人と取り引きをする、そう伝えます。」
龍園の言葉にそう返したひより。
「お前もDクラスだと言うんだぞ。そしてDクラスであろう男に言うんだ。…頼んだぞ。」
龍園のその言葉に少し驚くひより。まさか最後の一言が聞けると思っていなかったからだ。
「…はい。では行ってきますね。」
そう言い残し、ひよりは歩いて行った。
その日の放課後。
カラオケルームに4人の男と2人の女がいた。
「てめぇは呼んでねえんだが?」
「こんなむさ苦しい男4人の所に、女子を1人で行かすわけないでしょ。アンタたちが何するかたまったもんじゃないから。」
龍園の言葉にそう続けた1人の女子生徒。名を伊吹と言う。
「あん?お前はそういうことを望んでいたのか?…それならそうと早く言えよ。もう一室借りて、そこでキメるか?…クク。」
そう言いながら舐め回すような視線を送る龍園。その態度に腹を立てた伊吹はそのまま龍園へとハイキックを放つ。龍園は避けることもせず、顔付近に来た足をそのまま片腕で受け止めた。
「…ほう。石崎よりかはできそうだな。ただ、こんな煽り程度で王に手を…いやこの場合は足か。…覚悟は出来てんのか?」
威圧とともにその言葉が放たれ、伊吹は冷や汗を流した。すぐさま足を戻し龍園を睨みつける。
「…チッ、あんたが余計なこと言うからでしょ。自業自得。」
少し強気にそう言った伊吹であったが、内心心臓はバクバクであった。
「力量を知るというのはいいことだ。勉強になったじゃねえか。後で可愛がってやんよ…クク。」
龍園の言葉を聞いて、余計に虫の居所が悪くなったのか、再び龍園へと向かっていこうとするが、巨漢な男に止められる。
「離せ!山田アルベルト!こいつを殺せない!」
いくら振りほどこうにも、圧倒的な体格差、実力差の前では無力である。
「後でかまってやるって言ってんだろ。…それとも、今死ぬか?」
そう言い龍園は圧倒的な殺気を叩きつける。その殺気を受けた伊吹は身体が言うことを聞かない。アルベルトが押さえているからではない。動きたくても身体が言うことを聞かない。それはまるで、ライオンを前にした小動物のようだ。
「なんだ…ちゃんと待てができるじゃねか。大人しく座ってろ。…俺に歯向かおうとしたその努力だけは評価してやる。これからも励め。」
その言葉を聞いた伊吹は、ようやく席へと着いた。
「お前らを呼んだのは他でもねえ。これを見ろ。」
そう言いながらとある用紙を見せる。
「…なんすかこれは?問題がいっぱい書いてるっすけど。」
石崎を含め、アルベルトも伊吹も、そして金田もその用紙を見る。その用紙を見た金田は言った。
「…もしや龍園氏、それは過去問ではないですか?」
「あぁ、そうだ。ひよりはうまいこと、この用紙を買えたみたいだ。」
金田の言葉に頷きながらそう答えた。
「…買う?アンタ坂上からカンニング黙認を買おうとしてたんじゃないの?」
龍園の言葉にそう言った伊吹。記憶が正しければ、龍園は坂上にそのようなことを聞いていた。
「あんな権利を何かある度に買ってたら破産する。勝つためにの代償にしてはデカすぎる。これからを戦うには、ある程度ポイントに余裕を持たなければならない。…後々お前らからも回収するがな?」
龍園の言葉を聞いた伊吹は突然立ち上がり、反論した。
「はあ?アンタクラスからポイントを回収しようとしてんの?」
すぐにでも龍園に飛びつきそうな勢いであったが、金田がそれを諭した。
「違いますよ伊吹氏。龍園氏はクラス同士の戦いに備えて、ポイントを貯蓄していくという意味ですよ。」
「そうならそうと言いなさいよ。紛らわしい。」
そう言い改めて席に着いた。
「そんぐらい分かるだろ…。まあいい、この話はまた今度だ。今はこの用紙についてだ。」
龍園はしっかりと切り替え、そして5人に向き直る。
「俺は坂上の言葉に違和感を抱いていた。いきなり範囲が変更されたのに、さも俺たちが乗り越えて当然のように言っていた。しかも、…必ず、とな。」
龍園の話を黙って聞く5人。それから龍園は続けた。
「もしかして、毎年同じ問題が出ているのでは…?と考えた。そしてひよりにDクラスと偽らせ、Dクラスの生徒と話をさせた。…上級生でもDクラスはやはり金欠らしい。そして、この用紙を3万ポイントで売ってくれた。」
改めてその用紙を見せつける龍園。
「俺が欲しかったのはこれだけだが、ひよりが上手く機転を利かせてくれた。そして、こいつも一緒に持ってきた。」
そう言いながらもう1枚別の用紙を見せた。
「これは俺たちが受けた小テストだ。問題分が一言一句違わない。…クク。やはりいい女だな、お前は。」
口角を上げながらひよりを見る龍園。ひよりは龍園の視線などお構い無しに本を読んでいる。
「…ったく、お前は相変わらず本の虫だな。このことから、間違いなく今度のテストはこのまんま出る。だが、今すぐこれをクラスにはばら撒かない。」
「勉強させる習慣を付けているところですしね。私も龍園氏に同意で、3日前ぐらいに配るのがいいでしょう。」
龍園の言葉にそう付け加えた金田。やはり金田も龍園の意図を汲み取っているらしい。
「そういうことだ。…石崎、アルベルト、そして伊吹。お前らには渡しておく。なるべく高得点、いやこの時期なら…満点は取れるよな?」
そう言いながら3人を見る龍園。
「お前らは傍から見れば俺の幹部だ。伊吹は成り行きだが、この際仕方がない。必ず満点を取れ。お前らの評価が俺の評価にもなるからな。…あいつらに隙を作らすんじゃねえ。」
龍園の言葉に強く頷く石崎とアルベルト。伊吹も、貰ったからにはしっかりとするみたいだ。
「間違っても他クラスに見せるんじゃねえぞ。これは家でやれ。勉強会にも参加しなくていい。」
「わかりました!」
「Yes Boss」
龍園の言葉にそう答えた2人。
「金田、お前はこれを元に問題や解説を作って勉強会で使え。似たような問題でいい。文章はそのまま、変えるのは数字や記号だけでいい。」
「承知しました。」
そう言ってメガネを整えた金田。
「ひより…お前は、言わなくても問題ないか。…よし、解散だ。」
龍園のその言葉で、一同はカラオケルームを後にしたのであった。
伊吹との納得できる出会いが想定できず、ある程度妥協かつ、自然な方がいいかとこんな感じにしました。