6月1日。
Cクラスは、ポイントが振り込まれていないことに対して困惑を極めていた。Cクラスだけではない。他クラスも、なぜ今回ポイントが振り込まれていないのか、という声が上がっていた。
朝のホームルーム時、坂上が教室へと入ってきたが、担任が入ってきたにも関わらず、そういった声は止まっていなかった。
「みなさん、おはようございます。……おやおや、お気持ちは理解出来ますが、少し落ち着いてください。とある事情により、ポイントの支給が遅れているだけですよ。」
坂上の言葉に、よく分からないといった態度を取るCクラスの生徒。無理もない。どういった事情があればポイントの支給が遅れるのか、といった顔である。
「事情に関しましては後ほど説明致しますが、まずはこちらをご覧ください。」
坂上はそう言いながらフリップを見せる。先月も確認したAからDクラスまでの、クラスポイントである。そこにはこう書かれていた。
Aクラス 1004
Bクラス 663
Cクラス 652
Dクラス 87
「この通り、いきなりみなさんが0になったのではなく、きちんとポイントに反映されています。……Bクラスまでもう少しでしたね。ですが、素晴らしい結果です。この勢いで頑張ってほしいものです。」
Bクラスまであと10ポイントもない、本当に僅差の結果であった。この結果にCクラスは、Bを追い抜くことが出来る、ととても盛り上がった。しかしとある生徒がこう言った。
「それで先生、事情というものはどういうものなのですか?」
生徒の言葉に坂上はこう答えた。
「実は、我がCクラスとDクラスでトラブルがありました。実際見てもらってもわかると思いますが、石崎くん、小宮くん、近藤くんの3名が怪我を負っています。相手はDクラスの須藤くんのようですが、この3名は先程、須藤くんに殴られた、これは問題では無いのか。といった訴えを起こしました。我々教師は彼らの証言に基づき、本人たちから聞き取りを行った所、事実であるという確認を取りました。ですが、場所が特別棟だったということ、双方意見の食い違いがあったため、このトラブルが解決されるまではポイントの支給は行わないと判断しました。みなさんも何か見た等ございましたらお聞かせ願います。」
坂上はそう答えたが、Cクラスの生徒は初耳だ、と言わんばかりに石崎たちを見た。そしてその後、このクラスの王である龍園の方にも目を向ける。龍園はそんな視線を1ミリたりとも気にせず、静かに坂上の話を聞いていた。
「以上でホームルームを終了します。みなさん今日も一日頑張っていきましょう。」
そう言い残し、坂上は教室を去った。
「俺は呼び出されただけだ。なんでか俺が呼び出し、気に入らないと言ってやつらを殴ったことになっている。……頼むみんな、助けて欲しい。」
須藤は茶柱から聞かされたことに対してみんなにそう訴えた。どうやらそういった理由があったみたいだ。
「本当なの?須藤くんの普段の姿を見ている私たちにとっては、全く信じられないんですけど。嘘でもついてるんじゃない?」
軽井沢がそう発言し、周りもつられてそういった反応へと変わった。確かに無理もない、須藤は喧嘩っ早く、誰対してもオラついているようにしか見えない。
「……私は、そうは思わない。みんなも見てきたでしょ?テストの時だって、部活にも行かず、必死に勉強してきた姿を!」
櫛田はクラスに訴えかけるようにそう言った。
「僕も、信じたい。これが本当であれば、僕たちはCクラスに貶められた、ということになる。須藤くんのことは見てきたし、彼を信じたいと思う。」
平田もそう発言したことにより、クラスのみんなも須藤が多少変わったことを理解していたのか、そういった声は出なくなった。
「ついに仕掛けてきたわね……。」
隣の席の堀北が俺に向かってそう呟く。だがその顔色はあまり優れず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「……なあ堀北。聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「……龍園くんのことでしょう?」
「話が早くて助かるな。」
俺は堀北にそう返した。すると堀北は少し間を置いたあと、俺に向かって話始めた。
「以前私が、櫛田さんと同じ中学だった、というのは覚えているわよね?」
「ああ、だがその中学はマンモス校で、存在ぐらいしか認知していなかったと言っていたな。」
堀北は頷き、さらに続けた。
「……龍園くんもなのよ。そして彼は、櫛田さんとも同じクラスだったはずよ。」
俺はその言葉を聞いて腑に落ちた。テスト勉強を図書室でしていた時、龍園という言葉に、堀北、そして櫛田も反応していた。そういうことだったのか。
「私の兄さんいるでしょう?兄は中学でも、当然生徒会長だった。そんな
兄の元で、彼は役員として在籍していたのよ。」
その言葉に俺は全てのパズルが組み合わった感覚があった。堀北が生徒会長と密会していたとき、俺に向けて放った言葉には違和感があった。
「実力を隠すのもいいが、あまり楽観的では居られないぞ。お前にも期待しているが、―――あいつに飲み込まれるぞ。」
堀北学が指していたあいつとは恐らく、龍園のことだったのではないか。そう考えれば考えるほど、全てが上手くハマっていく。
「私は兄が関心を向ける龍園くんが気になったわ。当然理由を龍園くんにも聞いたわ。……でも彼はこう言ったの。「―――成り行きだ。聞きたきゃ本人に聞け。わざわざ俺を介して聞くたあ、…まあその程度ってことなんだろうな―――。」とね。それ以来私はことある事に龍園くんを敵視していた。それでも彼は1ミリもこっちを向いてはくれなかったわ。」
堀北はそう言い残し少し俯いた。見れば拳を握りしめて憤っているようにも感じる。……兄から関心を持たれた男と持たれなかった女か。確かに堀北からすれば龍園の存在は気にせずには居られない。兄妹とは、そういうものだろうからな。俺は知らんが。
「なるほど、堀北学からも一目置かれているのなら、この戦いは俺たちには不利だな。」
「それだけではないわ。須藤くんが殴った、という事実があまりにも痛すぎるわ。」
その言葉に俺は同意する。むこうは3人係りとは言え須藤は無傷。相手に怪我を負わせている時点でかなり厳しいものである。
「……この問題は、あくまでDクラスの処分をどこまで軽くすることができるのか。それにかかっているわ。」
「……ほう?」
堀北の言葉に俺は少し感心した。堀北の性格であれば、無罪を主張するために戦うと、そう思っていたからだ。
「なにが、ほう?なの?あなたももちろん手伝ってくれるのよね?なんせ兄に関心を持たれているもの。まさか、自分は事なかれ主義を貫くとまだ考えているのかしら?……コンパスはどこにあったかしら。」
「……俺にできることならやるから、それはしまってくれ。」
堀北はそう言って筆箱の中をあさり、そしてコンパスを手に取った。俺は、はい以外の選択肢を残されてはいないのだった。
「おいおい、櫛田ちゃんからの呼び出しだぜ?これは行かないてはないぞ!」
「おいおい、大丈夫なのか?石崎。審議会まで時間が無いぞ。……それに、罠の可能性だってあるだろ。」
小宮の言葉にそう答えた石崎であったが、石崎は特に気にした様子もなかった。
「罠だったとして、それが何になるんだ?俺たちの言うことは変わらないだろ。脅されてもそれを更に訴えたらいい話だ!」
石崎はそう言いながらも歩く足を止めない。小宮と近藤は、そんな石崎に着いていく他なかったのであった。
「…確か、ここを曲がれば、―――あ、いた、櫛田ちゃーん!」
そう言いながら櫛田の元へと走っていく石崎。小宮と近藤もそれにつられて石崎を追いかけた。
「それで、呼び出しって何かな、櫛田ちゃん!」
「石崎くん、来てもらってありがとう!ちょっと質問したいことがあってね…。」
石崎の言葉にそう返した櫛田。
「質問?なんの「―――私たちもいいかな?石崎くん。」……ちっ
一之瀬まで。なんの用だよ。」
一之瀬、さらに男が1人、一之瀬に続いて出てきた。
「私から話すね、石崎くん。……これ見覚えはあるかな?」
櫛田がそう言いながら天井を指差す。そこには、監視カメラがあった。
「―――なっ、あの時しっかり確認したはず……。」
「場所、間違えてたんじゃない?ほら、この暑さだし。ここは理科室があるよね?実験で使う薬品とかも保管されているのに、カメラがないわけないでしょ?……これは、生徒会も知っていると思うんだ。Cクラスが意図的に起こした、ってこと。その結末を私たちがどう迎えるか、実力主義を謳っているからこそ、試したんじゃないかな?」
櫛田はさらに続ける。
「だって、生徒会がわざわざ数日も猶予を与えると思う?もう決まってた結果なら、延ばす意味もないはずでしょ?」
櫛田の言葉ににも返せない石崎、小宮、近藤。
「私たちBクラスは、Dクラスと調査を続けていくうちに気づいた。このままではCクラスの訴えを起こした3人に、何かしらの罰…もっと言えば退学なんかもあるんじゃないかって。」
―――退学。その言葉を聞いた3人は、明らかに動揺した。
「まずいって、石崎。退学にでもなれば、俺たちはどうにもならない!訴えを取り下げよう!」
「そうだぜ、石崎、龍園さんにも迷惑がかる!」
小宮と近藤の声を聞いた石崎は、深く考えているようだった。それに追撃するように櫛田はこう言った。
「……私、せっかくでみんなと出会えたのに、退学になってもう会えなくなるとか、悲しい。お願いだから、訴えを取り下げてはくれないかな?」
櫛田の言葉を聞いた石崎はこう答えた。
「……龍園さんに1本電話させてほしい。」
「ああ、だが早くしないと審議会が始まってしまう。」
1人の男……綾小路がそう答えたと同時に、石崎は、龍園とかかれた画面を開き、通話ボタンを押した。
その時、どこからともなく着信音が響き渡った。ここにいる誰のものでもない。
全員がその着信音の出処を向く。理科準備室、と書かれた教室から、着信音と共に1人の男が現れた。
「……なんだ、石崎。俺になにか用か?」
そう言いながら携帯を操作し、それと同時に着信音が止んだ。その場に現れた男に驚きを隠せない一同。
「ダミーカメラとは、よく考えたものだな。……一之瀬、お前らBクラスも協力しているとは聞いていたが、まさかここまで手を貸すとは。馴れ合いがそんなに楽しいか?仲良しこよしはいいでちゅねえ。」
そう煽りながら言った龍園。龍園の登場にまるで神が現れたかのように反応する石崎、小宮、近藤。
「りゅ、龍園さん!こいつら俺たちを嵌めようとして…。」
石崎がそう話始めたが、龍園は咄嗟に手を石崎の前に出した。
「……お前ら、もう帰っていいぞ。今頃審議会は中止になっているはずだ。」
龍園のその言葉に一同は、頭の上にハテナが出てきそうなほど、不思議な反応をした。それと同時に綾小路の携帯に1つのメールが届いた。
それは、堀北からのメールであり、審議会はCクラスの申し出により、中止となった旨が書かれていた。
「で、でも!」
小宮がそう発言したが、直ぐに龍園は言葉を返した。
「つべこべ言わず早く帰れ。」
そう言いながら、シッシッ、と手を振る龍園。それを見た3人は龍園へと会釈し、そのまま帰って行った。
「……さてと、なあ。この程度の問題、もっと早く解決して欲しかったところもあるが、及第点だな。」
龍園はそう言いながら一之瀬、櫛田、綾小路を順番に見た。
「あ?一之瀬、お前もまだいたのか。これはCクラスとDクラスの問題だ。部外者は早く立ち去るんだな。……それともなんだ?俺と遊んで欲しいのか?かまってちゃんってのはどいつもこいつもめんどくせえな。」
再び一之瀬を見て龍園はそう言った。
「私たちBクラスはDクラスと協力関係を結んでいたからね。部外者ではないよ?……まあでも解決したなら私も帰ろうかな。じゃあね!櫛田さん!綾小路くん!」
一之瀬はそう言いながら特別棟を去って行った。
「―――久しぶりだな、桔梗。そして、入学式以来だったか?綾小路。」
龍園は一之瀬が去った後そう言った。龍園の言葉を聞いた櫛田が表情を崩す。この雰囲気は、以前屋上で櫛田の秘密を知ってしまったあの日と重なった。
「……なにが久しぶりよ。アンタが周りに誰もいないからって薦めてくれた学校なのに、堀北も…なんでアンタもいるのよ。」
ドスの効いた、櫛田から出たとは到底思えないような声が俺の耳に入ってくる。
「お前……綾小路にもバレてんのかよ。わざわざその仮面を剥いだってことは。」
櫛田のその声を聞いても龍園は特に驚きもせず、むしろ心配するような表情をしている。
「大丈夫。綾小路くんには絶対秘密にしてもらうって約束してる。もし破っても対策してある。」
龍園の言葉にそう返した櫛田。
「それは、どうだろうな。お前が太刀打ちできる相手ではないと思うがな。」
そう言いながら俺を見る龍園。そしてさらに続けた。
「綾小路……お前を一目見て俺は恐怖を感じた。今まで感じた恐怖というものが霞むぐらいにな。―――お前は一体何者だ?」
龍園のその言葉に1番驚いてきたのが櫛田だ。目を見開きながら、俺の事を見ている。
「何者と問われても、Dクラスの生徒、としか言いようがないな。」
俺はそう龍園へと返した。
「はっ。あくまでそういうスタンスってことか。……まあいい。俺はDクラスであろうと油断しない。これからも行われるであろうクラス闘争…精々俺を楽しませてくれ。」
そう言いながら立ち去ろうとする龍園だったが、1度立ちどまり、そして俺たちの方へ向き直った。
「桔梗、綾小路、そして鈴音。お前ら3人は、俺に頭を垂れるのなら歓迎してやっても構わんぞ。…クク。」
そう言い残し、特別棟を去っていった。
「……アンタ何者なの?あいつに目をつけられるのはよっぽどのこと。」
「いや、俺にもさっぱりだからな。」
「まあいいわ。それじゃあ―――」
櫛田は俺にそう問うたが、俺の返事を聞いて、どうでもいいと感じたのか、
「―――帰ろっか、綾小路くん。」
教室でいつも見る櫛田がそこにいた。
そーいや暴力事件編龍園ほとんど出てないやん!と思って書きました。この前の章で一旦入学編が終わりと言いましたが、暴力事件編も終わっちゃいました。