異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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雨宿り

「うおっ!! なんだ!?」

 

 あれからどれほどの時間がたっただろうか?

 

 一日のたまった疲れを癒すべく、ぐっすりと熟睡していたアタルの顔面に謎の衝撃が加えられた。

 

 軽い衝撃だったものの状況が状況であるため急いで抱き枕にしているルルごと体を起こしたアタルは、顔面から何かが勢いよく吹き飛ばされる姿を目撃した。

 

「……って、なんだお前らか」

 

 先ほどアタルの顔面から吹き飛ばされたものは、幼児用靴の『失せ物たち』だった。

 

 枕元には手袋とイヤホンの『失せ物たち』がいたが、他の『失せ物たち』は見当たらない。気が付けば残ったのはこの3体だけのようだ。

 

「おっと、悪い悪い、吹き飛ばしちゃってな」

 

 いまだぐっすり眠るルルと布団に寝かせ、幼児用靴の『失せ物たち』を撫でてやる。先ほどまで抗議するように飛び跳ねていたが、頭を撫でてやると手のひらを返したようにおとなしくなった。

 

「さて、結構長い間寝てたのかな」

 

 大きく伸びをして、体の具合を確かめるように動かすアタル。どうやら完全とまでは言い切れなくても、疲れを癒すことはできたみたいだ。

 

「おっ、もう服も乾いているみたいだな」

 

 ハンガーにかけておいた服を確かめると、結構濡れていたはずが完全に乾いていた。どうやら結構長いこと眠っていたようだ。

 

「それにしても、こいつらはどうしようか」

 

 服の乾き具合を確かめているときにポケットの中に入っていることを思い出し、二つの結晶を取り出す。

 

 一つは『想いの結晶:癒し』、もう一つは『悪意に濡れた獣の呪い結晶』だ。

 

 

 

 『悪意に濡れた獣の呪い結晶』

 

 『悪意に濡れた獣』の人間への憎しみが呪いとなって固まった邪悪な結晶。

 

 使用すればその者は『悪意に濡れた獣』に呪われることとなり、特定の対象であればその呪いはより強大になる。

 

 かつて『濡れ犬』だった獣たちは、無抵抗のまま何人もの人間に囲まれ、嬲り殺された。

 

 そのいくつもの無念は人間たちの嘲笑う声で憎しみへと変化し、人間の悪意に対抗すべく自らも悪意に濡れて人間を襲う怪物を形作った。

 

 呪われれば常に周囲から悪意や害意を向けられることとなる。

 

 使用者がもしその無念を晴らすことができたなら、獣はその恩義に報いることだろう。

 

 

 

「さすがにこっちは使えないな……」

 

 呪い結晶は『濡れ羽鴉』のものと同じようにビジネスバッグに突っ込む。

 

 説明文を読む限り、この無念を晴らすということはそういうことだろう。起きたことは残念に思うが、だからと言って人を手にかけるつもりは、アタルにはなかった。

 

「さて、それならもう一つだけど」

 

 そういって見つめるのは、残ったもう一つ、『想いの結晶:癒し』だ。

 

 こちらはおそらく文面通りのシンプルなものだろう。使ったものに癒しの力を与える、この町の探索においてかなり有用だ。

 

「でも、何に使うかだよな?」

 

 今までの結晶は、すべてビニール傘に使っている。とはいえ、文面通りなら常に身に着けている服などに使った方がよさそうだとも考える。

 

 何なら自らの肉体に使用することも考えたが、さすがにそれはリスクが大きく感情的にも嫌だと候補から除外するアタル。

 

 逆に何かデメリットがあった時のために、ビニール傘にリスクを集中させるのもありだろうかと、悩んでしまう。

 

 もちろん使わずに置いておくという選択肢もあるが、これほど有用そうなものを使わずに死んでしまったら元も子もない。

 

「……そうだな、やっぱりこいつに使うか」

 

 そして悩みに悩んだ結果、アタルはビニール傘に使用することに決めた。

 

 今でこそ武器として使用しているビニール傘だが、元々はなるべく壊れないようにするために結晶を使おうとしていたのだ。

 

 愛着のあるビニール傘を、ただの武器として扱うことに少し抵抗感があったアタルは、死者を弔う『霊術:霊傘』のように誰かの助けにもなれる傘になってほしい、そんな思いを込めて結晶を使うことを決意する。

 

「それじゃあ行くぞ…… 『強化』」

 

 結晶をビニール傘に使用すると、淡く輝いて結晶が溶け込む。おそらくは成功したのだろう。

 

「うまくいったかな? 『詳細』」

 

 試しに詳細で確認してみると、名前は『暴風のビニール傘』のままだが、耐久の最大値が1上昇しており、スキルに『癒しの霧雨』が追加されていた。おそらくは成功だろう。

 

「おっ、うまくいったけど…… やっぱり名前がちょっと武骨だよな? う~ん……」

 

 さすがにいつまでも名前が『暴風のビニール傘』では、ちょっと物騒すぎる。

 

「あっ、そうだ!」

 

 そこで何か名前を付けられないかと珍しく名づけに前向きになっていたアタルは、結構な時間を使ってようやく名前を思いつく。

 

「お前の名前は『雨宿り』だ! 俺たちを雨から守り、敵からも守ってくれる…… そんな頼もしい、俺の傘だ」

 

 アタルが名前を付けた直後、ビニール傘が淡く光り輝き、詳細画面の名前が『雨宿り』に書き換わる。

 

「……おぉ、なんかルルの時みたいだな」

 

 そういいながら雨宿りを握るアタル。うまくは言えないが、どことなく頼もしくなったように感じるのであった。

 

「おっと、悪い。起こしちゃったか?」

 

 先ほどの光で目が覚めたのか、ルルが起き上がりアタルの元に歩いてくる。寝起きなのか少しふらふらしていて危なっかしく見えた。

 

「よし、もうちょっとしてから探索に戻るか」

 

 ルルがちゃんと目覚めるのを待ってから外に出ることにしたアタル。

 

 しばらくの間ルルや『失せ物たち』と一緒に遊んだり、食事をしてから服を着て探索の準備を始める。

 

「よし、それじゃあ出発するか」

 

 アタルの言葉に、ルルも嬉しそうに頷いて隣に並ぶ。『失せ物たち』はビジネスバッグの中に潜り込み自分で歩くつもりはないらしい。

 

「それじゃあ、行ってきます。仮眠室を使わせてくれて、ありがとう」

 

 コンビニに出たアタルは、誰もいないレジに向かってお礼を言う。仮眠室では、明かりが2度瞬いだ。

 

「もしよかったら、またここにきてもいいか?」

 

 アタルの問いかけに、再び明かりが2度瞬く。

 

「ありがとう」

 

 アタルは心の底からの感謝を伝えて、コンビニを出るのであった。

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP12/12 MP4/9

 

 術式 『霊術:霊傘』

 

 状態 『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 




『雨宿り』 耐久値 5/5

 スキル 『暴風来』『癒しの霧雨』

 アタルが今待て使ってきたビニール傘を強化し、二度の死線を共に乗り越えたことでかけがえのないものとして扱われその名をつけられた。

 名を与えられたこの傘は、その瞬間に有象無象のビニール傘から一つの個として確立した。

 傘を勢いよく開くことで耐久値すべてを消費してその分の威力の暴風を発生させる『暴風来』と、傘をさしている際に周囲の望む相手に癒しを与える霧雨を降らせる『癒しの霧雨』の二つのスキルを所持している。なお、ここで発生する霧雨は『雨宿り』由来のものであり、アタルが発生させるものではない。

 また、『想いの結晶:癒し』の影響で、時間はかかるが自動的に自身の耐久値を回復させることもできる。

 誰かを守るために名をつけられたその傘は、これからも持ち主のことを守り続けるだろう。

 たとえ自身がボロボロになり続けたとしても、主を守れれば、それでよいのだ。
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