異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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空を見上げて

「こいつが、呪いから生まれた存在……!!」

 

 人と同じほどの大きさの、巨大な鴉。人々への呪いから生まれた悍ましき怪物、『雨切大鴉』。

 

 それはアタルたちを赤黒く濁った眼で睨みつける。

 

「カアァァァ!!!!」

 

 『雨切大鴉』はその両翼を広げると、雄たけびにも近い鳴き声を上げてアタルたちに向かって羽ばたかせる。

 

「っ!? ルルっ!!」

 

 アタルはビジネスバッグを投げ捨てすぐにルルを自分の元へ引き寄せると、開いたままの『雨宿り』を盾として『雨切大鴉』に向けた。

 

 突風と共に濡れ羽色の羽根がアタルたちを襲い、『雨宿り』がそれらを拒み、弾き返す。

 

 周囲を見ると、羽根の付け根の部分がコンクリートの地面に突き刺さっている。まともに喰らったらまずそうだと、アタルに緊張が走る。

 

「クエェェェェ!!!!」

 

 次に『雨切大鴉』は空高く舞い上がると、空中で強く翼を羽ばたかせて羽根を飛ばしてきた。

 

「なっ、ふざけるな! 卑怯だぞ!!」

 

 空から降り注ぐ、濡れ羽色の羽根の雨を『川の主の寵愛』による滑走でジグザグによけながら避けようのないものを『雨宿り』で防ぐアタル。抱えられたルルは『雨切大鴉』を見上げることしかできなかった。

 

 『濡れ羽鴉』たちになかった『空に飛ぶ』という利点を生かした攻撃になすすべのないアタルたち。それを見て大いに盛り上がる周囲の『濡れ羽鴉』たち。

 

「これ、『雨宿り』は大丈夫なのか!?」

 

 念のため『詳細』にて耐久値を調べるも、耐久値は減少していなかった。どうやら数字以上に耐久性が向上しているようだ。

 

「攻撃は暫く大丈夫だとして、こっちの攻撃も相手に届かないじゃないか。いったいどうすれば……」

 

 高速で移動しながら打開策を考えるアタル。今まで戦いの縁など漫画やアニメ、ゲームくらいしかなかった人生だ。そう簡単に有効打を思いつくことは中々に難しい。

 

「いや、待てよ……」

 

 そこで、ふとひらめく。

 

 何も、相手の特異な土俵で戦う必要などないのではないかと。

 

「やってみるか……」

 

 このままどうしようもない千日手を続けるよりも、多少リスクを負ってでも現状を打破する選択を取る。

 

 そう決意したアタルは、滑走をやめてその場に止まった。

 

「くっ!!」

 

 空から降り注ぐ羽根の雨を、『雨宿り』ですべて受け止める。

 

 豪雨を超えて濁流を受けたかのような衝撃が『雨宿り』を伝ってアタルを襲う。

 

 その衝撃にじりじりと体を後退させながらも、何とか羽根の雨を防ぎきる。

 

 そして羽根の雨が止んだ後、アタルは傘を差しながら上空の『雨切大鴉』を見上げる。

 

「どうした? 早くかかって来いよ?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、手招きをして『雨切大鴉』を煽る。

 

 『雨宿り』の耐久値が減ったことに内心ビビりながらも、それを表面に出さないように気を付けるアタル。

 

「キエェアアァァァァ!!!!」

 

 遠目ではそれがわからなかったのか、『雨切大鴉』は怒り狂ったかのように雄たけびを上げる。

 

 上空からの攻撃をやめ、急下降を始める。

 

「うおっ!?」

 

 迫りくる『雨切大鴉』をすんでのところでよけるも、その巨体の通り抜けた後の突風によろめき、舞い散る羽根で視界を塞がれてしまうアタル。

 

 すると肩への痛みと共に浮遊感を感じるのであった。

 

「痛っ!? うわっ、ちょっと待っ……」

 

 『雨切大鴉』に肩を掴まれ空を飛んでいることに気が付いたアタルは、高度が上がりきる前にすぐルルを手放した。

 

「くそっ! ……ぐっ、かぎ爪がっ」

 

 アタルの肩に『雨切大鴉』のかぎ爪が深々と食い込み、血がどくどくと流れ出る。

 

 旋回するように上昇していく『雨切大鴉』が上空でどのようなことをするのか、アタルはいくらでも自分の末路が想像できた。

 

「一か八か…… 『暴風来』っ!!」

 

 風にあおられながらも何とか手に持ったままの『雨宿り』を閉じることに成功し、そのまま傘の先を『雨切大鴉』に向けてから勢いよく開く。

 

「ぐおおぉぉぉ!!!!」

 

 『雨宿り』から発生した突風が、『雨切大鴉』に直撃し至近距離で発動したアタルもろとも荒れ狂う風の渦に巻き込む。

 

 その衝撃でかぎ爪がアタルの肩から外れるも、そのまま宙に投げ出され落下していくアタル。

 

「……っ!?」

 

 するとそれを見ていたルルがアタルの落下地点に大きな水球を作り出し、クッションのようにアタルを受け止める。

 

「おぼぼぼっ…… ぷはぁ!! 助かった、ありがとうルル!!」

 

 何とか水球の上に落ちるも至近距離からの『暴風来』に巻き込まれた傷とそこそこの高さから落ちたことによる衝撃、その後水球の中に入ったため息ができなくなるという二重の災難に一瞬パニックになったアタル。

 

 そんなアタルを見てすぐに水球を解いたルルは、すぐにアタルの傍に駆け寄っていった。

 

「いててて…… 『治療』! これで何とかなったかな?」

 

 HPを消費し肩の傷と全身の痛みを治療したアタルは、自身のステータスを確認してHPの残りが10であることを確認する。

 

「グアッ!?」

 

「落ちてきたか…… 『修復』」

 

 暴風に巻き込まれた『雨切大鴉』は、そのまま空中で体勢を立て直すことができずに墜落してきた。

 

 それを見たアタルはボロボロになった『雨宿り』をHPを消費して修復し、一気に距離を詰める。

 

「喰らえ!! って、なにっ!?」

 

 倒れ伏す『雨切大鴉』の顔に『雨宿り』を突き立てようとするも、その瞬間を狙っていたのか『雨切大鴉』はいきなり起き上がりその嘴でアタルを貫こうとする。

 

「危なっ!?」

 

 迫りくる嘴を何とか滑走でよけるも、『雨切大鴉』も負けじと何度でも嘴を突き立てアタルに迫り、アタルはジグザグによけながら後退する。

 

 すると、『雨切大鴉』の顔面に水球がぶつかり、一瞬よろける。

 

「ルルっ!!」

 

 ルルが作り出した隙を見逃さず、『雨宿り』で思い切り『雨切大鴉』の顔面を殴りつけると、再びふらついた。

 

「グエェェッ!!」

 

「効いてる…… このまま畳みかけるぞ、ルル!!」

 

「……!!」

 

 顔面を殴打したアタルに憎しみの目を向けながら再び嘴を振り下ろす『雨切大鴉』の横顔にルルが水球をたたきつけ、次はルルに狙いを変えたその横っ面に『雨宿り』の一撃をお見舞いする。

 

「げっ、ルルっ!!」

 

 よろけた『雨切大鴉』が左の翼を広げたかと思うと、勢いよく一回転して周囲に羽根をまき散らす。

 

 急いで『雨宿り』を開いて盾にしたアタルだったが、ルルが羽根をよけきれず体に刺さったのを見て、急いで『雨切大鴉』に体を向けながら半円を描き迎えに行った。

 

「大丈夫か!? 『癒しの霧雨』!!」

 

 急いでルルを回収したアタルは、そのまま『雨切大鴉』を注視しながらルルを『雨宿り』の中にいれて『癒しの霧雨』を発動させる。

 

 これは『雨宿り』をさしている間だけ使えるスキルだ。ルルの身体から羽根が抜け落ち、徐々に傷跡がふさがっていく。

 

「ルル、休んでいてくれ…… 『霊術:霊傘』」

 

 ある程度傷口が癒えたことを確認したアタルは、交差点の端までルルを運ぶとそこにそっと寝かせて、念のため周囲の『濡れ羽鴉』たち除けにある程度魔を退ける『霊術:霊傘』をかけてやる。

 

 そして再び『雨切大鴉』に目を向けると、ゆっくりと歩きながら近づいていく。

 

 向き合う『雨切大鴉』をよく見てみると、右翼の様子がおかしい。

 

 先ほどから動かしていないし、ボロボロで変な場所から曲がっている。おそらくは先ほど墜落した際に折ってしまったのだろう。

 

「ここからはサシでやろうか」

 

「……ガアァァァアァアァ!!!!!!」

 

 アタルの言葉に応じて、『雨切大鴉』も雄たけびを上げる。

 

 周囲の『濡れ羽鴉』たちも大盛り上がりで、アタルに罵声の鳴き声を上げる。

 

「行くぞ!!」

 

 『雨切大鴉』の飛ばす羽根を『雨宿り』で防ぎながら、道路を滑走して急接近するアタル。

 

 残りのHPは5、『暴風来』を使ったとして『修理』すればちょうど0になる。

 

 HPが0になったときどうなるか知らないアタルにとって、この場面で確かめるわけにもいかず『暴風来』を使用できるのは実質あと1回だ。

 

 それゆえにタイミングが重要、『雨切大鴉』の猛攻をしのぎながらチャンスをうかがっていく。

 

「くっ!」

 

 とはいえ、一度『暴風来』を受けている『雨切大鴉』はもちろん警戒をしている。いつでもよけれるように警戒をしながら羽根を飛ばして牽制し、隙を突いて急接近して本命の嘴攻撃や左翼による打撃攻撃を打ち込んでくる。

 

 あまりに近すぎれば、先ほどと同じように自分もまきこんでしまう。そこを狙って器用にインファイトを仕掛け、距離を開ければ羽根による遠距離攻撃を防御するために傘を開かせ『暴風来』を防いでくる。

 

「なんで一回しか使ってないのに『暴風来』の弱点がわかるんだよ!?」

 

 カラスは賢いとは聞くが、これは理不尽ではないかと憤るアタル。そもそも『暴風来』の弱点自体、今気が付いたのだ。怒りたくなるもの無理はない。

 

「……なら、やってやる」

 

 アタルは『雨宿り』で羽根を防ぎながら再び『雨切大鴉』に接近する。

 

「ガアアァァァァァ!!!!」

 

「ふっ」

 

 アタルが接近したことにより、『雨切大鴉』も距離を詰めインファイトに移行する。

 

 傘を閉じ迫りくる左翼を受け流し、滑走して啄み攻撃をよけて右翼側の懐に入る。

 

「これで…… っ!?」

 

「ギィヤアァァァァ!!!!」

 

 そこでアタルの目の前に迫りくる右翼。『雨切大鴉』の痛みをこらえるような叫びと共に繰り出された一撃を、アタルはギリギリのところで『雨宿り』で防ぐ。

 

「ぐっ」

 

 しかしそのせいで右腕に激痛が走る。おそらく骨にひびが入ってしまったのだろう、利き手では傘を持てないと悟ったアタルは痛みにのたうち回りたいところを我慢して左手に持ち変える。

 

 何とか隙を突いて腕を回復させたい、だが相手は待ってくれない。アタルの目の前に黒い羽が迫りくる。

 

「……っ!!」

 

 そこでアタルは覚悟を決めた。

 

 己の右腕を盾に羽根を防いで接近し、『雨切大鴉』の意表を突く。

 

 右腕は変な方向に曲がり、確実に折れた。

 

 予想以上の衝撃と激痛で意識が飛びそうになるも、興奮状態によるアドレナリンのおかげで何とか意識を保つことができた。

 

「ガアアァァァア!!!!」

 

「……吹っ飛べ、『暴風来』」

 

 そして懐に入ったところで、確実に当てるために自爆覚悟で『暴風来』を放つ。

 

 その瞬間、両者は弾けるように吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

「グゥ…… ガァ……」

 

「……ぐっ」

 

 『雨切大鴉』とアタル、両者が地面に倒れ伏す。

 

 互いにボロボロになりながらも起き上がろうと、必死に体を動かしている。

 

 周囲では『濡れ羽鴉』たちが祈るように鳴き、ルルが倒れながら顔を向ける。

 

「……っ、はぁ、はぁ」

 

 やがて、立ち上がったのはアタルだった。

 

 ボロボロの身体を引きずりながら、自身の身体を回復させることも忘れて『雨切大鴉』に近づいていく。

 

 その姿を目に焼き付けながら、『雨切大鴉』は必死に立ち上がろうと体を動かす。

 

 どんどん近づくアタルだが、その手にはボロボロの『雨宿り』しかない。

 

「……『霊術:霊傘』」

 

 しかし、『雨宿り』を手放したアタルは半透明の傘を閉じた状態で出現させると、まだ無事な左手で掴む。

 

「クゥ、カァ……」

 

 アタルが目の前まで来た時には、『雨切大鴉』は体を動かすことをやめてじっとアタルのことを見上げていた。

 

 アタルが半透明の傘を持ち上げる。周囲の『濡れ羽鴉』たちの悲痛の叫びが聞こえる。

 

 起き上がることをあきらめた『雨切大鴉』は、それでも最期まで目は閉じなかった。

 

 己の敵の姿を、その目に焼き付けるために。

 

「……悪いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり俺は、この術を誰かを傷つけるために使いたくないんだ」

 

 半透明の傘が開き、『雨切大鴉』の顔に降り注いでいた雨が遮られる。

 

「俺の勝ちだ、『雨切大鴉』」

 

 呆気にとられる『雨切大鴉』と『濡れ羽鴉』たちを差し置いて、アタルが勝利宣言をする。

 

 やがてつきものが落ちた様な顔つきになった『雨切大鴉』は、差し出された傘越しにアタルの顔と大空を見上げた。

 

 『雨切大鴉』の身体が光に包まれ、緩やかに散っていく。

 

 どこまでもどんよりとしていて、ゆるやかに流れる、灰色の空。

 

 そんなこの町の空を濡れずに見上げたのは、彼らにとって初めての経験だった。

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP5/14 MP8/11

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 




『望みの大結晶:風』

 手のひらに収まらないほどの、大きな結晶。

 この結晶を使用し物品や肉体を強化すれば、風の力をさらに大きく増幅させることができる。

 使用の際には強化したいものに結晶を合わせて念じれば成功し、確率で効力を大きく高めることができるだろう。

 大空を自由に飛ぶことに憧れた『濡れ羽鴉』たちから生まれ、その空を飛ぶ能力を手に入れた『雨切大鴉』。

 それが初めて空を飛んだ時、怒りと憎しみに囚われていた。

 やがて憎しみの対象にすべてをぶつけ、倒れた後。

 見上げた空を瞳に映して、後悔がよぎる。

 もっとこの大空を楽しめばよかった、と……





 だが案ずることはない。

 これからはきっと、もっと自由に空を飛べるはずだ。
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