異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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悪意

「……ふぅ、やっぱり昨日の疲れが残っているな」

 

 『雨切大鴉』との戦闘から一日がたったが、肉体の倦怠感は残っていた。

 

 あれから何とかHPを1残して体の傷を治したアタルは、ルルを抱えて疲労の残る体を引きずりながら何とか拠点に帰ることができた。

 

 戦いが終わった後に周囲の『濡れ羽鴉』たちが襲い掛かってくるかと身構えていたが、何故か彼らは襲ってこなかった。

 

「でも、とりあえず体の傷は治ってよかったよ」

 

 心配そうに見上げながら隣を歩くルルの頭を撫で、アタルは自身のステータスを開く。

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP9/14 MP11/11

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 

 

 

 拠点に戻ってすぐに眠ってしまい、起床してから食事もしたが、HPが全回復しなかった。

 

 それが短期間でのHPの回復に上限があるのか、回復方法に限界があったのか、或いは体に疲れがたまっているせいなのかはわからない。

 

 だが、たとえHPが全回復してなくても、アタルたちのやるべきことは変わらない。

 

 今日も今日とて、代わり映えしない街の中を探索する。

 

 いまだに、探索においてこれと言った成果は出ていないと思わず考えてしまうアタル。

 

 しかし、それを頭から振り払い自分を元気づけるように口に出す。

 

「まぁ、昨日は結構収穫があったしな」

 

 そういって自分のさしている傘、『雨宿り』を見上げる。

 

 昨日手に入れた『望みの大結晶:風』で強化された『雨宿り』は、以前よりもかなり強化されている。

 

 だが、本題はそれではない。

 

「それに、こいつも使えるようになったしな」

 

 そういってアタルは首から下げたネックレスに手を触れる。

 

 『濡羽石のネックレス』、いや『カラスの要石』は以前よりも濡れ羽色の宝石が輝いていた。

 

「来てくれ、『濡れ羽鴉』」

 

 アタルがそうつぶやくと、『カラスの要石』が淡く光り輝きアタルの肩に何かが現れる。

 

「カアァー!」

 

「いきなり呼び出して悪いな」

 

 アタルの肩に乗っているのは、半透明の『濡れ羽鴉』だ。

 

 その『濡れ羽鴉』は少々不服そうにしているが、特にアタルに危害を加える様子もなくおとなしくしている。

 

 これが昨日の激闘を制した成果、或いは報酬。まるで魔法使いの使い魔のように、『濡れ羽鴉』を呼び出すことができるようになったのだ。

 

 たとえ一匹だけとはいえ、人数の少ないアタルたちにとっては十分な戦力の向上になる。

 

「これからよろしくな、『濡れ羽鴉』」

 

「……カァ」

 

 アタルの言葉に渋々と言った風に返事をする『濡れ羽鴉』、それに苦笑しながらもアタルは歩みを進める。

 

「……それにしても、こんなに雨ばっかりだとさすがに気が滅入るな」

 

 『濡れ羽鴉』を肩に乗せながら空を見上げるアタル。

 

 この町では、今日も雨が降っている。雲行きも雨量も、風の強さも変わらない。唯々緩やかな雨模様。

 

「そろそろお天道様が恋しいよ」

 

 アタルは曇り空を眺めながらそこに太陽を幻視する。

 

 今となっては彼にとっての太陽は、かつての日常の象徴のようになっていた。

 

 太陽の下を歩きたい、朝や昼や夜を味わいたい。そして太陽のある場所に戻る、つまり元の世界に戻ることさえできれば……

 

 そんなことを考えているとなんだがしんみりしてきたアタルは、気を紛らわすようにルルの方を見る。

 

 するとルルは不思議そうに首をかしげていた。

 

「どうしたんだルル? ……あぁ、もしかしてお天道様がわからないのか?」

 

 アタルの指摘に首を縦に振るルル。そんな様子に微笑ましさを感じながらも、アタルはどう説明しようかと考える。

 

「そうだな…… お天道様っていうのは太陽って言われてて、今は空が雲に覆われているけど、その上にとっても明るくて丸いものがあるんだ」

 

「それがあるとあったかくて、明るいからよく周りが見える。ここは昼も夜もないけど、太陽は勝手に動いて隠れたり出てきたりするから町が明るくなったり暗くなったりするんだ」

 

「特に雨上がりの空には、太陽のおかげで虹っていう綺麗な橋が空にかかるんだよ。七色に光り輝くんだぞ?」

 

 アタルの説明を聞いて、大はしゃぎするルル。

 

「いつかお前にも、見せてやれるといいな……」

 

 この常に雨の降る町で、太陽をルルに見せてやることができるかはわからない。

 

 それでもいつか見せてやれたらいいなと、思うアタルだった。

 

「おっ、もうここか……」

 

 気が付けば昨日『雨切大鴉』と戦った交差点まで来ていた。昨日の戦闘で道路に『雨切大鴉』の羽根が突き刺さったりしていたはずだが、何故かきれいさっぱり元の状態に戻っていた。

 

「……っ!? カァー!!」

 

「えっ? どうしたんだ? ……っ!?」

 

 交差点の中心まで来たところで、突然『濡れ羽鴉』が大声で鳴き始めた。

 

 それに対してどうしたのだろうかと不思議に思っていたアタルだったが、次の瞬間に何かに囲まれていることに気が付いた。

 

「……えっ?」

 

 周囲を確認したアタルは、自分たちを囲んでいる相手に気が付いて、思わず呆けてしまった。

 

 周囲にいたのは今まで戦ってきたり、逃げたりしていた怪物たちではなかった。

 

「……人間?」

 

 そこにいたのは、ただの人間だった。

 

 今まで出会って来た老人たちは、一目で人ではないと感じられたが、彼らからはそのような異様な雰囲気は感じ取れなかった。

 

 ようやく生きた状態で会えた人間に、思わず泣きそうになるアタル。

 

 ……だが、人間だからと言って友好的とは限らないようだ。

 

「よう兄ちゃん、ちょっとお話いいかな?」

 

 ダボダボのズボンにラフなシャツ、銀色のアクセサリーをジャラジャラと身に着けている男がアタルに声をかける。年齢はアタルと同じか少し上だろうか? 筋肉質で体格もよく、身長もアタルより高い。

 

 左手にその体格には合わない子ども用の傘を持ち、右手には鉄パイプを持っている。

 

「……なんですか?」

 

「いや~さぁ、実は俺たち、近所のコンビニ行こうと思って財布だけもってったら途中で雨に降られちゃってさ」

 

「そんで急いで走ったんだけど…… 気が付いたらここにいたわけ」

 

 アタルの言葉に反応して正面のアクセサリー男が反応するが、途中で右側の男も会話に反応する。彼もその体格に似合わない子ども用の傘をさし、もう片方の手には金属バットが握られている。

 

「そんで俺たちなんも持たずに来ちゃったからさ、色々と入り用なんだよね」

 

 アタルの左側の男が口を開く。その手にも子ども用の傘が握られており、反対側にはバールを担いでいる。

 

「と言うわけでおにいさんに色々と融通してほしいんだけど…… おにいさんらっき~☆」

 

 アタルの背後からやってきた女は少し楽しそうに身振り手振りをしながら話している。もちろんその手にも子ども用の傘が握られており、何故か左肩には赤色のランドセルがかけられていた。

 

「実は俺たちさぁ、そこの『雨童』? 狙ってるんだよねぇ」

 

「そいつの落とす結晶の水の奴、あと一個で全員分揃うんだよ。服に使ったら雨弾くから濡れなくて快適になるんだよねぇ」

 

「つ~わけで、兄ちゃんちょっとそのガキ置いていってくれないか? そしたら見逃してやるよ」

 

「……」

 

 アタルを囲み、威圧してくる四人組。そんな状態でもアタルは顔を俯かずに、相手の顔を見据える。

 

「残念ですが、ルルをあなた達に渡すわけにはいきません」

 

「……えっ? もしかしておにいさん、そいつに名前なんて付けちゃってんの~!?」

 

「ルルちゃんって、ペットにだってもうちょっとましな名前つけるっての!!」

 

「ルルちゃ~ん、俺たちが有効活用してあげるから、こっちに来ましょうねぇ~」

 

「……こんな化け物共に名前つけるなんて、頭おかしいんじゃないのか?」

 

 女性の言葉を皮切りに、四人組が笑いながら好き勝手に言い始める。

 

 アタルはその様子に想うところはあれど、これからどうすればいいかを考える。

 

 おそらく彼らと話し合いで解決することはできないだろう。彼らの様子から、ルルやこの世界の怪物たちの命を奪うことに躊躇しなさそうだ。

 

 もちろん戦うことも論外だ。このような異常事態とはいえ、相手は人間。暴力を振るおうとは思わないし、すでに囲まれている。アタルの傘が強化されていることもあって戦えばどうなるかわからないし、お互いに無事では済まないだろう。

 

 なら、隙を突いて逃げるのが得策だろう。アタルはルルの手を掴む。

 

「……おい、今逃げようとしただろう?」

 

 だが、その考えは正面の男に見透かされていたようだ。

 

 正面の男がアタルの胸ぐらをつかむ。

 

「ぐっ!?」

 

「てめぇ、せっかく見逃してやろうと思ったのに、随分と舐めてくれたなぁ…… ぐほっ!?」

 

 胸ぐらをつかまれたアタルが苦悶の声を上げルルの手を離す。男は胸ぐらをつかんだままアタルに顔を近付けた威圧したが、その体が横に吹き飛ばされる。ルルが水球を放ったのだ。

 

「なっ、こいつ攻撃しやがった!?」

 

「今までどんだけボコっても反撃すらしてこなかったのに!?」

 

「ひっ!?」

 

「……てめぇ、ふざけやがって!!」

 

「ルル、逃げるぞ!!」

 

「逃がすか!!」

 

 アタルはルルを抱えるとすぐに濡れた道路を滑走して彼らの包囲から脱した。

 

 金属バットを持った男が傘を手放してアタルの腕を掴もうとするも、その手が空を切る。

 

 ……それが、アタルにとっては思わぬ幸運を招き、金属バットを持った男にとっては不運を招いた。

 

「……えっ? おっ、おい…… なんだよこれ!?」

 

 先ほどまでアタルがいたところに何かが通過したかと思ったら、アタルを掴もうとしていた男の腕がどこかに消えていた。

 

 あまりの出来事に呆然としながら消えた腕を見つめる男、残った腕の断面からは、血がピュッピュッと噴き出している。

 

 そしてそのままそこから動かなかったのが、彼の命運を分けた。

 

「がっ」

 

「……えっ?」

 

 再び緑色のナニカが男のいた場所を通過すると、彼の姿は消えていた。

 

 悪寒を感じたアタルが周囲を見渡すと、そいつはいた。

 

 ぶよぶよと太った、緑色の巨体。ごつごつとした表皮に長い口。太い尻尾……

 

 それは長い口で先ほどの男を咥えながら、楽しそうにゴロゴロと転がっている。もちろん鋭い歯で咥えられた状態でそんなことをされれば、咥えられた男がどんな風になるかなど想像に容易いだろう。

 

「……わ、ワニ?」

 

 そこにいたのは、あまりにも大きいワニだった。

 

 アタルがかつて見た動物園のワニを優に超える大きさのそれは、食べやすい大きさに引きちぎった肉を美味しそうに食べている。

 

「……いっ、いやあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 やがて状況を飲み込んだ女性の悲鳴が上がり、惨劇の開始を合図した。

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP9/14 MP11/11

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 




『カラスの要石』

 『濡れ羽鴉への挑戦状』を乗り越え、『雨切大鴉』に認められたことで『濡羽石のネックレス』が変化したもの。

 以前よりも美しさと輝きが増し、純粋に人々の目を引く美しい宝石とかした。

 これを使用すれば『濡れ羽鴉』の霊体を召喚することができる。現在は1匹しか召喚できないが、育てれば複数匹召喚できるようになるかもしれない。

 MPを使えば、さらに力を引き出すこともできるやも……



 『濡れ羽鴉』たちは、恨みの連鎖を断ち切るアタルの選択に驚愕し、胸打たれた。

 そして彼らの恨みから生まれて、そのためだけに生きた『雨切大鴉』はアタルのことを恨めなくなり、存在意義を失い消える定めとなった…… はずだった。

 今彼はこの宝石の中にいる。これから彼と共にあるために。

 今は自由に飛べない『濡れ羽鴉』でも、いずれはきっと、自由に空を飛べるだろう。彼と一緒なら……
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