異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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嘘つき

「……う~ん、良く寝た」

 

 今日も拠点となっているコンビニの仮眠室で目を覚ますアタル。

 

 昨日は中年の男性のおかげで出口に関する情報を手に入れることができた、これはこの場所に来てから初めての進展だった。

 

 それゆえにはやる気持ちを抑えて拠点へ戻り、万全の状態で探索に出ることにしたのだ。

 

「さて、ステータスはどうなってるかな…… おっと」

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP14/14 MP11/11

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 

 

 

 確認できた情報を見て、思わず声が出てしまう。

 

 MPどころかHPまで全回復している。昨日のHPがギリギリだったことを考えると、少なくとも回復に上限がある説は可能性が低くなったことになる。

 

「それにしても、だいぶHPもMPも成長したなぁ」

 

 今までの経験から、戦闘をしたらHPが、霊術を使えばMPが成長すると考えている。もしかしたら他にも成長方法があるかもしれない。

 

「まっ、別にそこまで育てる気はないけどね」

 

 もちろんあればあるだけ生存率も上がるだろう。

 

 だがそのためにむやみに戦闘をしたり、検証のために時間をかけようとは思わなかった。

 

 すでにこの場所に来てから一週間以上経っている。元の世界に戻れたとして、仕事や諸々がどうなっているか考えて、少し億劫な気持ちになるアタルであった。

 

「よし、それじゃあ行くか、ルル」

 

 以前教えた準備運動をしてやる気満々のルルを連れて、拠点の出口へ向かう。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

 仮眠室で待っている、『失せ物たち』に向かって手を振る。

 

 最近は戦闘をする際に邪魔になるため、ビジネスバッグを拠点に置いておくようにしている。

 

 あの中年の男性のように背負うタイプのバッグが欲しいところだと考えているが、この町で見つけるのは難しそうだ。

 

 ちなみに目標を見つけた時には、一度拠点に戻って取りに戻ろうと考えている。

 

「今日も一日、頑張るか」

 

 拠点を出て空を見上げる。

 

 今日もいつも通りの雨模様が続いていた。

 

 

 

 

 

「……それにしても、地下鉄なんてどこにあるんだ?」

 

 今までこの町を結構見回ってきたが、地下鉄の入口らしきところは見当たらなかった。

 

 そもそも、特徴的な建造物も橋くらいしか見たことがない。本当にそんなものが見つかるのだろうか心配になってくる。

 

「まっ、何とかなるか!」

 

 思考が負のスパイラルになりそうだったので、アタルは考えるのをやめて気持ちを前向きに切り替える。

 

 少なくとも明確な目標が見つかったのだ、諦めなければそのうち見つかる。そう信じて歩み続ける。

 

 ちなみに、滑走による高速移動は目標を見逃す可能性があるため、探索済みの場所以外は歩いて探すようにしている。

 

「……あれ?」

 

 そんなとき、アタルは今まで見たことのない建造物を見つけた。

 

 道路に面して続く大きな道、その上には大きなアーケードがかかり屋根になっている。

 

「……もしかして、商店街か?」

 

 久しぶりに見たなじみ深い施設を見て、思わず商店街に歩み始めるアタル。

 

 本来なら地下鉄を探せばいいのだからここを探索する必要はないだろう。

 

 しかし、何か手掛かりでもあればいいなと商店街の中に入っていくアタル。

 

 その後ろを楽しそうにルルがついてくのだった。

 

 

 

 

 

「うーん、シャッター商店街か……」

 

 車が余裕で2台は通れそうな横幅に、少なくとも200m以上はありそうな商店街の店舗は、ほとんどがシャッターが閉まっていた。

 

 そこにどことなく哀愁を感じながらも、商店街を探索していく。

 

 あいている店の探索もしたいところだが、アタルにはそれより先に確かめたいものがあった。

 

 それが商店街の中心あたりに高く積み上げられた何かだ。

 

 何か瓦礫のようなものが積み上げられているが、それにしてはどこか丸っこいものばかりであった。

 

「一体あれは何だろうか?」

 

 薄暗い商店街の中では、遠くのものは良く見えなかった。

 

 そのため少しでも近づこうとして、アタルは異変を感じた。

 

 なにか、異臭がするのだ。

 

「うっ、なんだこの匂い……」

 

 例の積み上げられたものに近づけば近づくだけ匂いが強烈になっていく。

 

 それは何年も掃除していない側溝を掃除した時のドブの様な強烈な匂いだ。

 

「こ、これは…… あれ? なんだあいつ?」

 

 そしてある程度近づいて積み上げられていたものがようやくわかる。

 

 それは、数々のカタツムリの殻であった。

 

 しかも、ただの殻ではなく、明らかに大きな、下手したらアタルの胸くらいの大きさのものまである大小様々なカタツムリの殻だ。

 

 そして、そのカタツムリの殻に頭を突っ込んでいる巨大な虫が一匹。

 

 真っ黒で光沢のない体表に模様はなく、腹部は背中側がドーム状に膨らんでおり全体的にひょうたんの様な形に見える。

 

 アタルの言葉に反応して表示された画面には、『ヤマイマイカブリ』と書かれていた。

 

「……」

 

 それはアタルたちに背を向けていて、こちらに気づいていない。

 

 ならば無用な戦闘は避けようと、アタルはルルにアイコンタクトを取って徐々に下がり始める。

 

「うおっ!?」

 

 しかしその時、偶然か神の悪戯か、『ヤマイマイカブリ』がお尻から噴き出した黒い液体がアタルの左腕にかかってしまう。

 

 その際に思わず声を上げてしまうアタル、そしてその声に反応したのか、『ヤマイマイカブリ』はピクリと体を動かすとカタツムリの殻から頭を抜き出そうとしていた。

 

「まずっ」

 

 アタルは周囲を確認し、近くのシャッターが閉まっていないお店にルルを連れて逃げ込む。

 

 こっそり入口から身を隠しながら確認すると、どうやら『ヤマイマイカブリ』は周囲を警戒しているらしい。

 

 しばらくはここから動けないかもしれない。

 

「いてっ」

 

 そこで、先ほど黒い液体を受けたアタルの腕がヒリヒリと痛む。

 

 もしかしたらあれに毒でもあったのかと『治療』しようとしたところで、アタルはどこからか声が聞こえることに気が付いた。

 

「……けてくれぇ」

 

「ど、どうしたんだ? どこにいるんだ?」

 

 『ヤマイマイカブリ』が音に反応するかはわからないが、なるべく声を潜めて呼びかけてみる。

 

 すると、店の奥の方からバスケットボール大のなにかが這いずってきた。

 

「た、助けてくれぇ~」

 

「……っ!?」

 

 店の奥からやってきたのは、巨大なカタツムリだった。

 

 しかし、ただ巨大になっただけではない。それの顔は、明らかに人の形をしていた。

 

 どこかくたびれた様な中年男性の顔をしたカタツムリは、泣きそうな表情でアタルに助けを求めている。

 

「たすけてくれぇ~」

 

「……えっと、貴方はカタツムリにされてしまったのですか?」

 

「たすけてくれぇ~」

 

「……ふぅ」

 

 カタツムリの反応を見て、アタルはある程度現状を理解した。

 

 おそらく彼は、かつて見送った幽霊のようにまともな言葉を話せなくなってしまったのだろう。

 

 そして、助けてくれとは、あの『ヤマイマイカブリ』を倒してくれということだろうか。

 

 この殻の大きさからして『ヤマイマイカブリ』が食べていたのは彼らだろう。それを食べられたくないと助けを求めていると……

 

「えっと、あの『ヤマイマイカブリ』を倒せばいいのか?」

 

「あぁぁ…… たすけてくれぇ~」

 

「たぶん正解かな? そういうことなら、わかったよ」

 

 目の前のカタツムリが人間が変化させられたものか、そういう存在かはわからない。だが助けを求めているものを見捨てるのは、あまり気分がよくないのだ。

 

「よし、そういうことなら…… どうしたんだ、ルル?」

 

 その時、ルルが慌てたようにアタルの袖を引っ張っていた。

 

 いったいどうしたのかと思って目を向け、ルルがアタルの左腕を叩いたところで、異変に気が付く。

 

「……これは、俺の腕が!?」

 

 アタルの左腕は、ナメクジのような質感に変化していた。

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP14/14 MP11/11

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』

 

 状態 『川の主の寵愛』『ヤマイマイの呪い』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 




『消えゆく商店街』

 かつて全国にあった商店街は、徐々に消えゆく存在となってしまった。

 様々な要因で潰れ、時代と共に消えゆく商店街たちの想いが、この町に流れ着いて形作られていく。

 そんなどこか哀愁を漂わせる商店街は、こんな町でも、人を求めてしまう。

 あの時の活気を求めて、それが悪しき者たちに利用されるということも知らずに……
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