異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~ 作:名無しの権兵衛
「それにしても、商店街に大きめのリュックがあってよかったな」
アタルの言葉をききながら、ルルが嬉しそうに頷く。
あの後商店街を探索したアタルたちは、ビジネスバッグも入りそうなリュックサックを見つけたのだ。
それをレジで購入しようとしたところで、なぜがお金を返されリュックも渡されたのは不思議であったが、たまにはそういうこともあるだろうと無理やり自分を納得させた。
「……よし、飯も食べ終わったし、そろそろ行くか」
『補充』した焼きそばパンを食べ終わり、自分のステータスを確認する。
『雨野 中』
HP12/15 MP10/13
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』
状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』
全回復とは言えずとも、結構HPもMPも回復することができた。
HPを消費して食べ物を出して、その食べ物を食べるとHPが回復する。本当にそれでいいのかと思いながらもそういうものだと自分を納得させ、ステータスの画面を消して歩き始める。
「はやく地下鉄を見つけたいな、ルル」
アタルの言葉に、楽しそうに頷くルル。
そんなルルを見て、アタルはどこか心が温まる気持ちになりながらルルの頭を撫でてやる。
地下鉄さえ見つかれば、今までは変わり映えのなかったこの町ともおさらばだ。
そんなことを考えながら、二人で歩いていく。
代り映えのない街並みであっても、見当たるメンツはどんどん変わっていく。
最近では『濡れ羽鴉』たちは友好的と言うか、普通にアタルたちに近づいてきて餌をねだってくる。
しばらく歩いていくと、時たま『ヤマイマイ』の狩りをする『ヤマイマイカブリ』を見ることもあった。
どの個体もアタルが倒した『ヤマイマイカブリ』より大きいことから、もしかしたら『ヤマイマイ』との共生関係にあったものは貧弱であったあの個体だけだったのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いているアタルの耳に、曲がり角の先から誰かの話声が聞こえてきた。
「……ルル、隠れていてくれ」
その声を聴いて、曲がり角に隠れて様子をうかがうアタル。
この場所で出会う人間が、必ずとも友好的とは限らない。
事実、アタルたちが最初に出会った人間は友好的とは言えない存在だった。
そのことを考えながら、曲がり角からこっそりとその先を覗くアタル。
「……なっ」
思わず叫びそうになって、何とか押しとどめる。
アタルが目にした光景は、信じがたいものであった。
「……でさぁ」
「へぇ、それで……」
曲がり角の先では、人の営みがあった。
大きな道路のいたるところにテントが張り巡らされ、様々な人が過ごしていた。
若い男の人に年老いたおばあさん、小学生くらいの子に高校生くらいの女の子まで、老若男女様々な人々が笑顔で、思い思いに生活をしている。
「……」
その光景を見て、思わず喉を鳴らすアタル。
まさかこの町にこれほどの人間がいるとは思えず、アタルは中々信じることができなかった。
そして、ここで色々な人たちが生活しているという事実を置いておいても、アタルはどうすべきか悩んでしまう。
人の集まるこの場所で地下鉄のことを聞けば場所がわかるかもしれない。しかし、以前のように相手がルルに対して敵対的かもしれないし、あの親切な中年の忠告通り人に会わないようにした方がいいかもしれない。
「……いや、やめておこう」
あの親切な中年の鬼気迫る表情を思い出し、アタルは彼らとの接触を諦めた。
おそらくあの人は、ルルのためを思ってあまり人と接触するなと教えてくれた。
「行こう、ルル」
ルルの手を引いて引き返すアタル。
しかし、そんなアタルの目の前に立ちふさがるものがいた。
「……よう兄ちゃん、探したよ」
「……っ、アナタたちは」
アタルの目の前に現れたのは、この町で初めて会った人間であるあの3人組だった。
予想外の再会に、アタルは彼らが生きていたことを喜ぼうとして、どうにもそういう雰囲気ではないことを察する。
彼らの表情は、すべて怒りに満ちていた。
「え、えっと……」
「……お前のせいで、お前のせいでてっちゃんは死んだんだ!!」
「……えっ?」
男の言葉を、アタルは理解することができなかった。
彼らがてっちゃんと呼んだ男性を殺したのはあの巨大なワニであり、アタルは彼らを害すどころか助けた側である。
しかし、目の前の男たちにとっては命を助けられた恩よりも、友を失った怒りの方が勝っていたのだ。
「あの時、あの時お前がさっさとそのガキを渡しておけば、てっちゃんはあんなことにならなかったのに!!」
「そうすれば死ぬのはあんただけで済んだのよ! この人でなし!」
「あのワニもお前が連れてきたんだろうが! この疫病神が!!」
てっちゃんと呼ばれた男が死んだことは、ここにいる誰のせいでもないだろう。しいて言えば、運が悪かったのだ。
しかし彼らはそれを認められなかった。それゆえに、彼らは敵を作った。
自分たちでは絶対に勝てないであろうワニよりも、明らかに倒しやすそうなアタルたちを敵とすることで心の均衡を保とうとしたのだ。
それゆえの罵倒、それゆえの不義理。
だが、彼らはそれだけでは終わらなかった。
「みんな! きてくれ! 危険な『雨童』がここにいるぞ!!」
三人組のうちの一人が大声を上げる。
そしてその声と共に、曲がり角の方からドタバタと走る音がする。
「なっ!?」
彼らが呼んですぐに表れたのは、先ほど見かけた人々であった。
鉄パイプや角材のほかに、フライパンや箒などで武装しているものたちもいる。
前後を挟まれるような形となったアタルが戸惑っていると、集落を築いていた人々の中央から一人の中年男性が現れる。
あの親切な中年とは違い、随分といやらしい表情を浮かべる、意地の悪そうな男であった。
「おいおい、そいつが『怪異』に名前を付けやがったバカやろうか?」
「……なんですか、貴方は」
たとえ囲まれていたとしても、対話の意志があるのであれば答えるべきだ。そう考えながらアタルは、怒りに狂う3人組に背を向けることに躊躇いながらもその男性に顔を向ける。
その中年男性も背後の人々も、どうにも友好的とは言えない表情をしていた。
「俺はこの『失せ物漂着場』に集落を作った、いわば村長みたいなことをやっているものだ。どうしても俺の名前を呼びたかったら村長と呼んでくれや」
「それでよぉ、どうにもこの『異界』において名前の重要性も知らないバカが、まさか『怪異』に名前を付けたなんて話を聞いたから、ぜひともそのバカ面を拝んでおきたいと思ったわけさ」
男の安い挑発に、アタルはなるべく冷静であろうと努める。
アタルにとって自分のことを馬鹿にされることはさして問題はない。むしろこのおしゃべりな男の会話から少しでも情報を得ようと意識する。
「それで実際拝んでみたらこの通り! やっぱり知性ってのは顔に出るものなんだなぁ!? バカ面すぎて、笑いをこらえるのに一苦労だよ!!」
そういってアタルの顔をニタニタと笑いながら見つめる村長を名乗る男。
その顔に不快感を覚えるも、何とか彼と会話をしようとするアタル。
しかしアタルが口を開いた瞬間に被せるように、村長を名乗る男が言葉を発する。
「あまりにもバカ面過ぎて、親の顔が見てみたいものだ!? だってそうだろう? こんな傑作顔がどんな親から生まれるんだよ?」
「……いや、やっぱりいいや。お前みたいなマヌケな親だ、きっと会話もできないくらいバカであったら苦労しそうだもんなぁ?」
「……貴様っ!!」
しかし、たとえどれほど安い挑発であっても、それが自分の親に向けられるものであったならば、アタルは我慢することができなかった。
自分をここまで育ててくれた尊敬すべき両親である。その両親のことを何も知らない目の前の男に侮辱されて黙っていられるほど、アタルは大人ではなかった。
「おい村長! こいつ今動いたぞ! さっさとぶっ殺そうぜ!?」
「黙ってろ新入り! 物事には順序ってものがあるんだよ!! ……まったく、せっかく人が気分よく煽っていたっていうのによ」
背後から3人組のリーダー格の男の怒声が響き、それに劣らない怒声が村長から発せられる。
そして先ほどとは打って変わって、無表情に近い冷淡な表情がアタルに向けられる。
そのどこまでも冷たい村長の目を見て、アタルは怒りで我を忘れそうになっていた頭が急速に冷え込んだ。
「……えーっと、お前その『雨童』に名前つけたんだよね? 確かルルって名前」
「……え、えっと、そうだけど」
基本人に対して礼儀をもって対応するアタルであったが、目の前の村長を名乗る男に対してはその念を抱けず多少無礼な言葉遣いになる。
しかし男は特に気にした様子もなく淡々と話し始める。
「はぁ、それで? そいつはお前の後ろの奴らに攻撃したって聞いたけど、本当か?」
「た、確かに攻撃はしたけど、それは……」
「あぁ、事実確認したかっただけだから、そういうのはいいんだって」
アタルの弁明を軽くあしらいながら、男は口を開く。
どうやらアタル側の意見を聞く気は一切ないようだ。
「お前さん、それがどれほど危険な状況かわかるか?」
「……は? 危険な目に合ったから抵抗したことのどこが危険なんだよ? それにあれは怪我をさせるような威力じゃ……」
「『雨童』はね、攻撃しねぇんだわ」
村長の言葉に、アタルは思わず口を閉ざす。
『雨童』が攻撃をしない? しかしルルはその攻撃で今まで幾度もアタルを助けてくれている。いったいどういうことだ?
アタルの中の疑問は、すぐに解消される。
「そもそも『怪異』ってやつらはさ、自分たちの在り方から外れられないんだよ。わかるか?」
「ビビりな奴はビビッて反撃すらしてこねぇし、狂暴な奴はどんな時だって人間に襲い掛かってくる」
「カタツムリ食べるやつはカタツムリしか食べないし、飛べない奴はどんだけ頑張っても滑空するまでしかできない」
「『怪異』はな、自分の種族の特性から外れられないんだ」
「……本来ならな」
男の言葉が、徐々にアタルの頭の中に入ってきて、じわじわと恐怖がせりあがってくる。
話の着地点が、見えてくる。その事実が判明することに、恐怖を覚える。
「なぁ、なんで『怪異』に名前を付けたらいけないかわかるか?」
「言いたいことは分かってきたよな? そう、外れるんだよ。その『怪異』の在り方からさぁ!」
男は仰々しく、身振り手振りをしながら、演劇でもするように語り続ける。
周囲の人間たちも、アタルたちも、男から目が離せなかった。
「名をつけるということは、ありふれた、替えのきく奴らから替えの効かない一つの個として認識されるということだ!」
「その結果、そいつは本来の在り方から徐々に徐々に離れていく。それがいわゆる『個性』ってやつだ!」
「それで、そいつが手に入れた個性はなんだ?」
「そう、『攻撃的な個性』だ!!」
「そんな奴、生かしておいていいわけがないよなぁ?」
男が再びニタニタといやらしい表情に戻っていく。
アタルはそんな男の視線を受けて、冷や汗を流す。
もしかしたら自分のせいで、ルルが変わってしまったかもしれないという不安。
そして自分のせいでこんなことになってしまったという後悔。
村長を名乗る男はそんなアタルの表情を見て、心配そうな顔をわざとらしく作ってアタルに近づく。
「俺たちは別にお前に危害を加えたいわけじゃないんだ。むしろ逆、お前が危険な目に合う前に助けてやりたいんだ」
「俺は村長の様な立場として、いずれ人々を襲いかねない存在を見過ごせないだけなんだ」
「だから……」
「私にお前を助けさせてくれ」
『雨野 中』
HP12/15 MP10/13
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』
状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』
『失せ物漂着場の天気』
失せ物漂着場の天気は二種類ある。
小雨と、■い雨の日である。