異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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赤い瞳に魅入られて/現代地下迷宮
落とし物


 『現代地下迷宮』

 

 危険度 ★・・・・

 

 

 

 どうやらそれが、この場所の名前のようだ。

 

 アタルはそんなことを考えながら、不気味な地下道を歩いていく。

 

「なんかあっちと違うけど、いったいどういう違いなんだ?」

 

 危険度の☆が・になっている。

 

 アタルはそのことについて疑問に思うも、ここで考えても答えは出ないかと考え直して歩みを続ける。

 

 地下鉄特有の薄暗さと湿った空気、そして吹き抜ける冷たい風が妙な不安を掻き立てる。

 

 茶色いレンガ風の壁に、等間隔に並ぶタイルの床。道の真ん中には点字ブロックが置かれ側溝には汚れた液体がちょろちょろ流れており、天井から道を照らしている電灯は切れかけなのかチカチカと点滅している。

 

「……なんというか、さっきまでとはずいぶん雰囲気が違うな」

 

 先ほどまでいた『失せ物漂着場』は、常に雨が降り薄暗いものの、ここのような閉塞感はなかった。

 

 向こうに比べてこの『現代地下迷宮』はかなり不気味で、妙に冷える空気が漂っている。

 

 そんな空間を歩いていくアタル。

 

 電灯はチカチカと点滅し、妙に冷たい風が吹いてくる。

 

 アタルの足音以外には風の吹く音が聞こえるだけで、その静けさもどこか不気味さを強めていた。

 

「……曲がり角か」

 

 しばらく歩くとようやく曲がり角が見えてくる。

 

 曲がり角に警戒し『雨宿り』を構えながら角の先を覗き込む。

 

「……何もいない」

 

 曲がり角の先には何もいなかった。

 

 しばらく同じような道が続き、その先はどうやら広い場所に続いているようだ。

 

 警戒心は残しつつ、角を曲がって道を進んでいくアタル。

 

 どうやら道の先は広めの通路となっているようで、先ほどまでと違い白を基調としたタイルや天井になっている。

 

 道の端は本来お店などがあったのだろうがシャッターが閉まっており、チカチカと点滅している電灯はあるものの、全体的にはまだ明るい雰囲気をしていた。

 

「……行くか」

 

 気を引き締めて広い通路を歩いていく。

 

 通路の間には等間隔に柱が立っていた。

 

 普段は人混みや広告で気にならない柱であったが、現状のアタルにとっては存在感のあるものであった。

 

 等間隔に並ぶ柱は、アタルにとって怪異たちによる奇襲の可能性を高める厄介なものであった。

 

 前回の『失せ物漂着場』での探索と違い、今のアタルにはルルがいない。

 

 新しい場所を一人で探索する際の精神の擦り減りは、ルルと一緒にいたころとは比べ物にならないものであった。

 

「……いないな」

 

 念のため柱から離れながら移動し、柱の裏まで確認して歩いていくアタル。

 

 いくらHPによる回復があるとはいえ、可能な限り負傷は避けたい。

 

 結局自身への強化はしていないのだ、いくら『雨宿り』や『るるのれいんこーと』があるとはいえ、奇襲で即死したらどうしようもないのだ。

 

「……なっ!?」

 

 ある柱の裏を確認したところ、そこには死体が転がっていた。

 

 明らかに無残に食い殺された死体。

 

 しばらく時間が経っていたせいか年齢や男女の区別もつかず、服も血に汚れたのか赤黒く染まっていた。

 

「……どうか安らかに、『霊術:霊傘』」

 

 アタルは迷うことなく『霊術:霊傘』を使い無縁仏を弔った。

 

 無縁仏は光と共に消えていき、その場には小さな肩掛けバッグだけが残されていた。

 

「あの人のものだろうか?」

 

 失礼だとは思いながらも、身元だけでも確認しようと中身を確認するアタル。

 

 中から財布を見つけ、免許証を確認すると『和泉 広子』というアタルと同い年の女性であることが判明した。

 

「……そうか」

 

 自分と同年代の女性も被害にあっている。

 

 やるせなさを感じながらも、そのバッグを自分のリュックサックに入れる。

 

 せめてこれだけでも、彼女の肉親に届けようと考えながら。

 

「よし、行くか」

 

 リュックを背負いなおして、再び歩み始めるアタル。

 

 人がいない分先の方まで何があるか見ることができるため、この通路の先の広場のようになっているところをとりあえず目指してみる。

 

 柱に警戒しながら道の先の広場の様な場所を観察する。

 

 周囲を囲むような柱に、中心にはひときわ目立つねじれた柱が一つ。

 

 中央の柱を中心に天井には藍色の円が広がり、そこらかキラキラと何かが反射して床に光の模様が映し出されている。

 

「……なんかおしゃれな場所だな」

 

 いかにもデートスポットの待ち合わせ場所になりそうな場所がこんなところにあるのかとアタルが驚いていると、さらに驚くべきものが目に入る。

 

 そこに、人が立っていたのだ。

 

 その人物は上品な赤色のコートを身に纏い、長い黒髪からおそらく女性だとアタルは判断する。

 

 そしてその女性はアタルとは別方向の、アタルから見て左側の通路の方を向いてじっとしている。

 

「どうしたんだ…… なっ!?」

 

 アタルの口から疑問が漏れた時、彼女の向かう方面から何かが飛び出してきた。

 

 ……それは、ぐちゃぐちゃになった肉塊だった。

 

 所々に腕や足などのパーツが飛び出していることから、かろうじて人間を素材にしているであろうことがうかがえる。

 

 それが元々人間だったのか、犠牲者の成れの果てなのか、それとも最初からそうデザインされた怪物なのかはわからない。

 

 とりあえず今分かっているのは、目の前の彼女がそれに襲われようとしているという事実だけだった。

 

「危ない、逃げろ!!」

 

 アタルの声に女性は反応しない。

 

 おそらく目の前の脅威に怯え、動けないのだろう。

 

「くっ、間に合え…… 『暴風来』!!」

 

 アタルは彼女を救うために、自分の背後に『暴風来』を放ち、その風圧で自らの身体を吹き飛ばし距離を縮める。

 

「『修復』、『暴風来』!!」

 

 その勢いのまま彼女の目の前までたどり着いたアタルは、肉塊に『雨宿り』を向けて再び『暴風来』を解き放つ。

 

 すると肉塊は暴風によって切り刻まれ、吹き飛ばされながら灰となって消えていった。

 

「大丈夫ですか!? ……って、えっ?」

 

 肉塊を倒したアタルは、振り返って背後の女性に声をかけ、その顔を見て絶句してしまった。

 

 綺麗な黒髪に可愛らしい顔。

 

 死んだ魚のような目をしているが、その顔は間違えなく……

 

「和泉、広子さん……?」

 

 先ほど拾ったバッグの持ち主である、和泉 広子だった。

 

「……えっ?」

 

 アタルの声に反応して、瞳に生気を取り戻した彼女は声を上げる。

 

 その瞳は、喜びと困惑が入り混じっていた。

 

「あの、なんで私の名前……」

 

「あっ、すいません。先ほどこれを拾ったのですが、もしかして貴女のですか?」

 

 そういってアタルは背負っていたリュックを下ろし、中から先ほど拾ったバッグを取り出す。

 

 すると広子はそのバッグを受け取ると、嬉しそうにそれを抱きしめた。

 

「よかった…… どこかに落として、どうしようかと思っていたんです」

 

「そうですか、見つかってよかったです」

 

 先ほど無縁仏を看取った際に拾ったものだが、その人物も拾ったのだろう。

 

 それが巡って本来の持ち主のところに戻ってよかったと胸をなでおろすアタル。

 

「あの、もしかして…… 中身、見ちゃいましたか?」

 

「すいません、誰のものか一応確認しておこうと思いまして…… 免許証以外は確認してないので、安心してください」

 

「そうですか、その…… バッグもさっきのことも、ありがとうございます」

 

「あぁ、いえ…… どういたしまして」

 

 少しぎこちなく会話をする二人。

 

 少し顔を赤らめながらアタルの顔をチラチラとみる広子の様子を見て、アタルはバッグの中身を勝手に見たのはまずかったと反省する。

 

「その、ご存じかと思いますけど、私は和泉 広子と言います。あの、貴方のお名前は……」

 

「あぁ、俺の名前は雨野……」

 

 アタルは自分の名前を答えようとして、途中でハッとする。

 

 そういえばおじさんに名前を名乗るときは本名ではなく偽名を名乗るようにと忠告されていたのだった。

 

「アメノ?」

 

「えっと、とりあえずレインコートって名乗ってます。この場所では名前は重要なので、なるべく人に名前は教えたらだめなんですよ」

 

「そうですか……」

 

 とっさにいい名前が浮かばずとりあえず身に着けているものを偽名にするアタル。こういうところがネーミングセンスのないところである。

 

 広子はアタルに偽名を名乗られたことで、少しショックを受けたのか落ち込んでいる様子だった。

 

 その様子を見て胸を痛めるアタルだが、とりあえずおじさんの言いつけは守らないといけないと自分に言い聞かせた。

 

 少しの間落ち込んでいる様子だった広子だが、ふと何かを思いついたのか覚悟を決めた様な表情で顔を上げる。

 

「……その、私だけ名前を知られてて、貴方の名前だけわからないのは、不公平だと思います」

 

「うっ」

 

「それに…… 命の恩人の名前がわからないのは、少し寂しいです」

 

 そう涙目で訴える彼女を見て、心が揺れるアタル。

 

 やがて罪悪感とおじさんの教えを天秤にかけ、一方に傾く。

 

「……雨野 中です。でも名前を呼ぶときはレインコートと呼んでくださいね?」

 

「わかりました、レインコートさん! ……えっと、私も偽名を名乗った方がいいですか?」

 

「そうですね、できれば一発で偽名とわかる方がいいみたいです」

 

「なるほど…… では、フランシーヌなんてどうでしょうか? 私、子どもの頃にそういった名前に憧れてた時代があったんです」

 

「……たぶん、大丈夫だと思います」

 

 明らかに人名だが、服装はともかくザ・大和撫子って感じの見た目の広子の名前がフランシーヌだとは誰も思わないだろうとアタルは判断した。

 

 すると、彼女は少し顔を赤らめもじもじし始めた。

 

「……えっと、レインコートさん。その、私と一緒にいてくれますか?」

 

 そういって握手を求めるように手を差し出す広子。

 

「えぇ、もちろんですよ。フランシーヌさん」

 

 アタルはそれを聞いて、もちろんこんなところで一人にするわけにはいかないと即答し、握手する。

 

 広子はそんなアタルを見て、とてもうれしそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たぁすけぇて、あげぇるからねえぇ」

 

 その様子を、遠くから何かが見つめていることにも気付かずに。

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP11/18 MP12/12

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』

 

 

 




『現代地下迷宮』

 地下鉄やその周辺の地下道を模した大迷宮。

 異界にしては珍しい、比較的多くの出口を内包した場所である。

 ……しかし、出ていく人間が多いということは、入ってくる人間も多いということでもあるのだ。
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