異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~ 作:名無しの権兵衛
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんだっ!?」
地下鉄のホームまで続く道を下りる途中、突如響き渡った叫び声がアタルたちの耳まで届く。
声の響く方向からして、おそらくアタルたちの降りている階段の裏側の方だ。
「フランシーヌさんはここにいて!」
「えっ、レインコートさんは!?」
「俺はさっきの人を助けに行ってくる!」
広子にそう告げたアタルは、急いで叫び声のする方向に向かって走り出した。
『失せ物漂着場』のように地面が濡れていないため高速移動ができないことにもどかしさを覚えつつ、間に合ってくれと心の中で祈りながら全力で走り出す。
「見えた! 『濡れ羽鴉』!!」
ようやく見えてきた一団を見つけ、『腐った歯車』と書かれたウィンドウの表示されているスーツ姿の存在に『濡れ羽鴉』を召喚して飛ばす。
どうやら集団のようで、男性二人が必死に『腐った歯車』を抑えているようだった。
「そこの二人、離れて!!」
「えっ?」
「ぅぅう…… ぐげぇ!?」
『濡れ羽鴉』の鋭い嘴が『腐った歯車』の身体に突き刺さり、金属をすり合わせた様な不協和音が鳴り響く。
そしてよろけた瞬間に男性二人を『腐った歯車』から引き離し、何とか間に合ったアタルは『腐った歯車』の頭を『雨宿り』で思い切りフルスイングする。
よろけた『腐った歯車』はそのまま倒れ、スーツの中から錆び切った歯車をまき散らす。
「ふんっ!」
人型と言うだけあって躊躇しそうになるも、これは怪異だと割り切って『雨宿り』を振り下ろす。
倒れた『腐った歯車』の頭に『雨宿り』を突き刺すと、灰となって結晶と歯車だけが残った。
「ひっ、人が……!?」
「こいつらは人間じゃありません! だから……」
「まだだよ!」
ピアスをした男の声と共に、殴打音がする。
アタルの後ろから襲い掛かるもう一体の『腐った歯車』に対して、ギターケースで殴りつけていた。
「なっ、ありがとうございます!」
「気を付けて、まだ来そうだよ!」
先ほどの音につられてきたのか、さらに2体の『腐った歯車』が下りてくる。
その目は血走り、よだれを垂らしながら歯をむき出しにしている。
「くそっ、皆さん! この階段の反対側に別の階段があります! そっちにもう一人いるので、彼女と合流して逃げてください!」
「おい兄ちゃん、あんたはどうすんだい?」
「この数なら俺一人でも大丈夫です、それより危険なんですぐに逃げてください! 『濡れ羽鴉』、目くらましだ!」
『腐った歯車』の片方の顔面に向けて片方を足止めしながら、先ほどギターケースで殴られ倒れている『腐った歯車』を殴りつける。
灰となって結晶と歯車だけが転がる、だがアタルはそれに目もくれずに『雨宿り』を腕にかけ弓を構えるポーズをとる。
その間に集団のうち3人が逃げ出し、ピアスの男性と頑固そうなおじいさんだけが残った。
「あなた達も逃げてください!」
「いや、君だけじゃ危ないでしょ? 他に来るかもだしボクも戦うよ」
「若いもんだけに体張らせるわけにはいかんからな、ワシも戦う」
「あぁもう! 気を付けてくださいね! 『霊術:雨上がり』!」
ギターケースを構える男性と、金槌を構える老人を見て驚きながらも戦うことを決めたアタル。
『霊術:雨上がり』を放ち、光の矢が『腐った歯車』のうちの一体を貫き、結晶を残し灰となった。
「おじいさんは下がってて!」
「大丈夫だ、若いもんには負けん」
『濡れ羽鴉』が目くらましをしている『腐った歯車』の身体をギターケースが吹き飛ばし、その頭部をトンカチが砕く。灰と結晶をまき散らしながら『腐った歯車』は消えていった。
躊躇なく人の頭を砕く老人を見て、自分のことを棚に上げてドン引きするアタル。
その様子を見て老人は不思議そうな顔をする。
「こいつらは人間じゃねぇんだろ?」
「まぁ、そうですけど……」
「なら、躊躇する必要はねぇ。お前もそうだろう?」
「あっ、はい」
アタルは自分の考えを見抜かれているようで驚きを隠せないでいると、ピアスの男が口を開く。
「……もう追加は来ないみたいだね、とりあえずみんなと合流しようか」
「はい、そうですね」
「色々と聴きたいこともあるし、もちろん一緒に来てくれるよね?」
「もちろんですよ」
アタルは二人と一緒に他の3人が逃げた階段の方へと向かっていく。
どこまで説明をすべきか、頭を悩ませながら……
『レインコート』(雨野 中)
HP11/18 MP9/12
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』
状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』
『腐った歯車の部品』
茶色く錆び切った大きめの歯車、遠くから見れば腐った肉のようにも見える。
一つのままでは何もできないが、他の歯車が組み合わさればひとりでに動き出し、回転し始める。
それは常に回り続ける、一つ一つは小さな力でも、合わされば大きな力を引き起こすことができる。そして大きな力がさらに合わさり、やがては巨大な力となる。
だからそれは回り続ける。くるくる、くるくる、くるくると。