異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~ 作:名無しの権兵衛
「僕バンドやってるんで、良かったらライブ来てくださいよ」
「へぇ、俺そういう場所行ったことないから、一回言ってみたいんですよね」
「そうね、元の世界に帰れたら、みんなで見に行きましょう!」
「すいません、お待たせしました~」
アタルたちが雑談をしているところで、フランシーヌたちが戻ってくる。
手にはいくつか無事だったお饅頭やせんべい、ドリンク等を抱えていた。
「よかった、こっちでもいくつか用意しておいたから、せっかくだしみんなで食べよう」
そういって机の上に置かれた総菜パンや栄養バー等を示すアタル。
なるべく多く持ち運べるように袋のまま持ち運んでいたが、今回はHPがかなり少なくなっていてたためギタリストやローリエにも補充を手伝ってもらうことになり、今後は実体のままでも持ち運ぼうと考えるアタルであった。
「よかった~、俺もうちょっとがっつり食いたかったんだよね」
「そうだな、いくら食っても菓子類だけじゃ食った気にならん」
「でも、食べれるものも限られてますし、ちゃんと食べないとですね」
みんなで口々に話しながら、席に着く。
さすがに机に座ったままでは食べられないので、ローリエが持っていたウェットティッシュで机の上を拭いてから机の上に食事を並べ、アタルやギタリスト、親方が立ったまま食事をすることにした。
最初は戦闘で疲れているだろうからと椅子をすすめる他メンバーであったが、まだ元気だからと3人はそろって頑固だったため、そのまま食べることとなった。
「それにしても、初戦闘がうまくいってよかったよ」
「本当に! フレイムとお嬢ちゃんが良くやってくれたものね!」
「へへっ、それほどでも!」
「そんな、私なんて……」
「何言ってんだよあんた、あんたが一緒にやってくれたから俺も出来たんだぜ! こういう時は胸を張らないと!」
「そ、そうかな……」
「二人とも随分嬉しそうだね、レインコートさんたちもほとんど怪我がなくてよかったです」
「僕と親方さんは大丈夫だったけど、レインコートさんは大丈夫だった? なんかHPが随分ボロボロ見たいだけど……」
「大丈夫ですよ、元々減ってましたし、受けた傷は自爆みたいなものでしたしね」
「そういや、あれはどうなってたんだ? 傘開いたら爆発みたいになってたが……」
「あぁ、あれはですね……」
7人で和気あいあいと話しながら食事をすすめていく。
彼らより長いことこの異界を彷徨っているアタルにとって、このような他者との交流は懐かしく、嬉しいものだった。
ルルがいた時とは別種の温もりを感じながら、食事をするアタル。
少なくとも怪異と言う名の脅威に対抗できることが分かったからか、みんな表情が明るい。
だからこそ、もし再びあの蜘蛛のような怪異に出会ってしまったら……
アタルはそこまで考え、頭から振り払う。現状あの怪異と出会ったのは一度のみ、それをわざわざ話したとしても、余計な混乱を生むだけ。それに、今までも一度見かけても出会わなかった怪異も多い。この明るい雰囲気に水を差す必要もないだろう。
「そういえば、あの『腐った歯車』だっけ? あいつらが結構色々なものを落としてたよね?」
「あぁ、結晶のほかにも歯車をいくつか落としてましたね」
「たしか、あれって駅のホームで戦った時も落としてたよね? 確か拾ってたけど……」
食事も終わりを迎えたころ、ふと思い出したのかローリエが『腐った歯車』が落とした戦利品の話題を出す。
そこで今まで拾ったものをみんなで出し合い、机の上に並べる。
そこには大小さまざまな結晶が10個に、大きさの不揃いな歯車が計8個置かれていた。
「とりあえず、結晶は『守り』のものが多いですね。後は『力』と…… 『耐火』?」
『願いの結晶:耐火』
そこそこの大きさの結晶。 この結晶を使用し物品や肉体を強化すれば、火に対する守りの力を増幅させることができる。
使用の際には強化したいものに結晶を合わせて、念じれば成功することであろう。
『腐った歯車』は燃え盛る自らの身体から逃れようとしながら、呆然と考える。
なぜ燃えるのか? なぜこれほどまで熱いのか?
もし火が燃え広がらぬような頑丈な体があれば……
空っぽの頭ではそこまで明確な思考はできなかっただろう。しかし、燃え盛る炎から逃れられる体を求めたことだけは真実であった。
「なるほど……」
アタルは『願いの結晶:耐火』の説明を見て、納得する。
つまり、フレイムたちの陰陽術で燃えた個体から落ちたものがこれだったのだろう。
「すいません、この『願いの結晶:耐火』ってやつ、俺が貰ってもいいですか? どうやら耐火性を増やせるものみたいで…… このレインコート、見た目通り火に弱いんです」
「今のところ火を使う奴はいなさそうだし、こんなところで使いそうなのもいないでしょ。大丈夫じゃないかな?」
「いや、それよりもその画面どうやって出してるんすか!? もしかして『鑑定』ってやつ!?」
「えっと、そんな感じだけど……」
「すげぇ、ちょっとやってみよ。『鑑定』!」
フレイムは興奮気味に置いてある歯車の詳細画面を表示し、その横でローリエも興奮気味に、少女はそんな二人を不思議に思いながらも一緒に画面を覗いていた。
ギタリストは詳細画面を駆使しながら結晶を『守り』と『力』に仕分け、親方はついていけないのか悩ましそうな表情で腕を組んでいた。
「すごい! 本当に勝手に歯車が回り始めたわ!」
「いくつ繋げられるか試してみようぜ! ってうわっ!? こいつめんたまついてやがる!?」
「わっ!? 落としたら可哀そうだよ?」
「いやっ、こんなキモいのに可哀そうもくそもあるかよ!? うわっ、瞬きした!?」
「えっ、そうかしら? よく見たら結構愛嬌があるよう見えるけど……」
「ローリエさん、結構悪趣味っすね……」
「えっ? そんなことないわよね? ちょっと! なんでフレイム君だけじゃなくてお嬢ちゃんも目を逸らすの!?」
ローリエたちがわちゃわちゃやっている横で、アタルたちは真剣な表情で話し合いをする。
「とりあえず『守り』の結晶が7つ、『力』が二つだね。どう分けよっか?」
「『守り』ってのは全員に1つずつでいいだろう、『力』ってのが良くわからんが……」
「たぶん武器の攻撃力…… 破壊力みたいなのを増やすんだと思いますよ? レインコートくんの傘みたいな感じで」
「どういう原理だそりゃ?」
「とりあえず、ギタリストさんと親方さんで武器を強化してください。俺は戦闘に関しては十分なんで」
「君、色々な攻撃方法持ってるもんね、でも何でもかんでも譲ってばかりじゃダメだよ?」
「そうですね…… それじゃあ、もし今度『力』が落ちたら俺ももらいます。今回は二人が強化してください」
「まぁ、それもそうだね」
話がひと段落着いたところで、全員に確認を取ってから結晶の配分を行った。ちなみに歯車については目玉付き以外は欲しがるものが二人いたため真剣勝負(じゃんけん)の結果ローリエの総取りとなった。他の者たちは山分けすればいいのにと思っていたが、当事者たるローリエとフレイムにとってはそうもいかなかったらしい。
「とりあえず、皆さん今後について話しをしませんか?」
アタルの声に、その場の全員が向き直る。
その視線を受けて、アタルはまず自分の考えを語る。
「ひとまず、もし今後も戦闘が続くようでしたら安全な拠点を探すのがいいかもしれません」
「出口の前には『守護者』なるものがいて、教えてくれた人の言い方的に戦闘は避けられないと思います」
「なので、万全の状態で戦えるように、十分に休息が取れる場所を見つけるのは必要だと考えます」
アタルの話にその場の全員が頷く。
そして、何か話があるのかギタリストが口を開く。
「確かに、そんな相手がいるならみんなで強くなる必要があるもんね」
「いや、その人曰く俺一人でもこのまま強くなれば倒せるらしいから、みんなが戦う必要は……」
「それは、君一人の場合でしょ? 君は結晶を俺たちに回してくれてる分成長が遅くなってるし、わざわざ一人で抱え込む必要はない、そうでしょ?」
「そうですよ、私たちがいますから……」
「みんな……」
その場の全員の優しい表情にアタルは目頭が熱くなるのを感じた。
確かに、仲間がいるのならすべてを一人で抱え込む必要はない。みんなで一緒に戦えばその分リスクは減るし、勝ち目もぐっと上がるはずだ。
だが、そのためには気をつけなければ、ならないことがある。それが話していいことかどうかはわからないが、いずれわかることなら知っておいた方がいいだろう。
「でも、みんなで強くなるにあたって大切な話がある」
「えっと、なんですか?」
そこで、アタルは全員に話す決意をする。自分が経験した中で、特に戦闘を避けなければならないと思った出来事について。
「実は、怪異を倒すことによって、呪われることがあるんです」
「呪い……?」
「はい、説明的に同じ種族の怪異を何度も倒したりすると、呪われることがあるみたいで……」
「なるほど、現状襲ってくるのは『腐った歯車』だけ、このままだと呪われるかもってことか」
「なんだそりゃ? 自分から襲っておいて呪うだなんて、てめぇ勝手にもほどがあるだろ!」
アタルの説明に親方が憤る。それについてはアタルも同じことを思ったことはあったが、話が脱線するため口には出さなかった。
「その、呪われるとどうなるんですか?」
「おそらくですけど、その種族の中でも強力な個体が出現し、襲い掛かってきます。今まで二度そういった相手と戦ったことはありますが、かなり強かったです」
『悪意に濡れた獣』に関しては、戦う場所がよかったこともあるだろう。あれがもしも『雨切大鴉』と同じように開けた場所であれば、当時のアタルたちに勝ち目があったかは疑わしい。
そんなアタルの話を聞いて、全員が息をのむ。特に年少組は怯えた様子で、アタルはそれを見て慌てて口を開く。
「そうはいっても、現状では呪われてないよ!? 俺の時は倒したときに『呪い結晶』ってやつが落ちて、それから色々あって強化個体と戦うことになったって感じだから……」
「とりあえず、なるべく戦闘を避ける方針には変わらないってことだね?」
「まぁ、そうだね……」
「ひとまず、今後の方針としては『出口と守護者を見つける』『安全な拠点を探す』『なるべく戦闘は避ける』ってことでいいかな?」
「とりあえず、私は異論ないわよ」
「私も、大丈夫です」
「俺も俺も!」
今後の方針に関しては、特に異論はなさそうだ。
アタルたちは後片付けをしてから店を後にする。
「よし、とりあえずはさっきと同じ隊列で探索をしようか」
「りょーかい! ……あれ?」
店から出た後、フレイムがふと店の奥の方に目を向けると、何かが動いている様子が見えた。
「なんだろ、気のせいかな?」
それは毛むくじゃらの獣の一部のようにも思えたが、見間違えかと特に気にせずにみんなの後を追うのであった……
「ウキッ」
『レインコート』(雨野 中)
HP12/20 MP10/13
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』
状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』
『腐った歯車の眼』
目玉の埋め込まれた歯車。目玉は赤く充血し、歯車は他と同様茶色く錆びている。
時折瞬きし、目玉に触れると痛がるそぶりをする。生意気にも目玉部分はジャイロ回転しており、歯車が回っても目が回ることはない。
それは、ただ回る部品から少しでも抜け出そうと目玉を作り出した。視野は広がり、より多くのことを知ることができて、歯車は感涙する。
結局目玉が生えても、部品は部品のままだというのに……