異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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残り物には服がある

「気をつけろ、『暴風来』!!」

 

 列をなし羽虫の移動のようにアタルたちに襲い掛かってくる『衣替え』たちに向けて、『暴風来』を解き放つ。

 

 その暴風に巻き込まれていくつもの『衣替え』たちが巻き込まれ切り刻まれるも、いかんせん数が多い。かなりの数を打ち漏らしその勢いのまま襲い掛かってくる。

 

「危ない、『陰陽術:木生火』!」

 

 しかし、そこでアタルの背後から飛んでくる火球が『衣替え』の集団に着弾し、いくつもの『衣替え』が焼け落ちる。当たらなかったものたちも燃え移らないようにか、徐々にバラバラになって進路がずれていく。

 

「フレイム、助かった!」

 

「なんだよあいつら、何処に隠れていやがった!?」

 

「吹き抜けの下のところに…… くそっ、君は見ないほうがいい!」

 

 アタルが下に顔を向けると、先ほどまで球体があったところには人間の死体が転がっていた。

 

 全身がやけどのように爛れ、遠くからでも生きていないことが良く分かった。

 

「あいつらに囲まれたら危険かもしれない、気をつけろ!」

 

「レインコートさん! とりあえず中に…… きゃあ!?」

 

 フランシーヌがアタルを中に引き入れようとしたときに、店内の服たちも一斉に動き出した。よく考えればそれもそうだろう。奴らは服で、ここは服屋なのだから。

 

「みんな、逃げろ!」

 

 アタルが出口を確保しながら、全員が脱出するまで近づく『衣替え』たちを修復した『雨宿り』で追い払っていく。

 

 どうやら服の怪異らしく、どれだけ『雨宿り』で攻撃を加えてもダメージがあるように思えなかった。

 

「くそっ、『陰陽術:木生火』!」

 

「狭い室内で使うな! あたりに燃え広がるぞ!」

 

「ひゃっ、どうしてこんなことに!?」

 

「早く逃げて! 追いつかれますよ!」

 

「急いで! どっちからも来ます!」

 

 全員が店内から脱出すると、店内の『衣替え』たちも店の外に殺到し、ガラスをぶち抜きながら店の外に溢れ出る。

 

 同時に店の中に向かっていた、正確にはアタルたちに向かって襲い掛かってきた『衣替え』たちと正面衝突して激しい音が鳴る。

 

「うおっ!?」

 

「皆さん、大丈夫ですか!? 全員揃ってますか!?」

 

「全員揃ってるよ! 早く逃げないと…… あれ?」

 

 上を向いて固まるギタリストの視線を追って、アタルたちも視線をそこに向ける。

 

 そこでアタルたちは、衝撃的な光景を目にした。

 

「なんだ、あれは……?」

 

 『衣替え』たちは、空中でぶつかり合っていた。……いや、争っていた、という表現の方がいいかもしれない。

 

 立ち位置からして、球体になっていた服たちと、店内にいた服たちが争っているように感じる。いくつもの服たちが空中でぶつかり合い、落ちていく。

 

 その光景は、まるで羽虫同士の争いを地に這う虫視点で眺めているようだった。

 

「とりあえず、さっさと逃げましょう」

 

「はい…… あれ?」

 

 少女は返事をして殿を務めるアタルに目を向け、違和感を感じる。アタルの背後、床に落ちていった服たちが、ピクリと動いた気がしたからだ。

 

「あの、早く逃げませんか……?」

 

「あぁ、早くいきましょ…… っ!?」

 

 その時、アタルの背後から服たちが覆いかぶさってくる。振り払おうにも次々と落ちてきて動き出した『衣替え』たちがアタルに縋り付いてくる。

 

「レインコートさん!? 今助けに……」

 

「俺にかまうな! このままだとみんな捕まるぞ!!」

 

 そういいながらもアタルの身体はどんどんと服たちに埋もれていってしまう。こうしている間に、気が付けば顔以外が埋もれてしまった。

 

「くそっ、『陰陽術』……」

 

「ダメだ! 彼ごと燃やす気か!?」

 

「ならどうすれば……」

 

「俺はいいから、早く逃げ……」

 

 必死の抵抗虚しく、服の群れに埋もれてしまうアタル。身動きを取ろうにも隙間なく張り付く服たちにどうすることもできず、外の声もどんどんと聞こえなくなってくる。

 

「……ートさん、今……」

 

「……れ、どうしたら……」

 

「……やぁ、お願いし……」

 

「ぐっ……」

 

 徐々に消えていく声を聴きながら、必死に打開策を考えるアタル。体は動かず、この状態を打開できる術も持たない。

 

 さらに周囲で蠢く服たちの摩擦のせいか、徐々に内部の温度が上がっていく。内部の酸素も徐々になくなっていき、呼吸すらままならなくなる。

 

「……だよ、あいつ……」

 

「ひっ、あれは……」

 

「……ばい、あれはもしかし……」

 

 しかし、もはやどうすることもできないというところで、にわかに外の様子が騒がしくなっていることに気が付く。聞こえる声はどんどんと大きくなり、振動も大きくなっていく。熱も薄まり、空気も徐々に供給されていく。

 

 そして、身動きが取れるようになったころに、アタルの目の前に光が差し込んできた。

 

 

 

 

 

「みぃつけたぁ~♪」

 

 

 

 

 

「ひっ」

 

 それはおかめの仮面を被った、白い蜘蛛のような怪物であった。仮面の目の部分からは鮮血を流し、胴体の口からは生臭い息を吐く。

 

 さらにその頭上には、そいつの名前の書かれた画面が浮かび上がっていた。

 

 

 

『メサイアコンプレックス』

 

 HP 30/30

 

 

 

 その衝撃的な情報に固まっている間に、アタルの身体はその怪物に握られ宙に持ち上げられる。

 

「たぁすけてあげるからねぇ~」

 

 その怪物の口が大きく開き、アタルの眼前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 『レインコート』(雨野 中)

 

 HP2/23 MP8/14

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』

 

 状態 『川の主の寵愛』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』

 




『衣替え』

 彼らは比較的おとなしい部類で、人に着られたいと思いながらすり寄ってくるほど人懐っこい怪異である。

 基本的に人に着られると満足して何の変哲もない服に変わる、脅威度の少ない怪異であるが、群れている場合は別である。

 なぜなら、服とは基本的に同じ種類は一度に一つしか着ることができない。つまり同じ種類の『衣替え』たちにとって、人間に着てもらうのは早い者勝ちであると考えているのである。

 それゆえに彼らは争い、すり寄って来てもらおうとする。

 一つ難点を上げるとすれば、彼らは人間の耐久力について無知であるということだろう。
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