異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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凝縮された呪い

「ウキキーウキ ウキキーウキウキ キーウキウキキー ウキウキキーキー ウキキーウキウキ キーウキ キーウキキーウキウキ!!」

 

「うるさい!」

 

 足を取られて動けなくなっている『夢猿』の頭を思い切り殴り飛ばしたアタルは、最後の『夢猿』が灰となったことを確認して『雨宿り』を杖にして息を整える。

 

「み、みんな、大丈夫ですか……?」

 

「は、はい……」

 

「何とか、大丈夫そうだよ……」

 

 これまでの『腐った歯車』の襲撃に加え『夢猿』たちの襲撃も加わったため、アタルたちの消耗はかなり激しくなっていた。まだ『夢猿』との戦いから1日しかたっていないのに、『夢猿』とは3回、『腐った歯車』とは1回戦闘を行っている。そのうち1回は『夢猿』に寝込みを襲われての戦闘だ。

 

 さらに『腐った歯車』はこちらを見かけたら襲い掛かってくるのに比べて、『夢猿』は明確にこちらを狙って襲い掛かってきている。そのため襲撃の回数が明確に増えたのだ。

 

 不幸中の幸いにも、『夢猿』と『腐った歯車』は敵対関係にあるようで連携して襲ってくることはなかったが、それでも『夢猿』たちの執念深さは彼らを確実に疲弊させていた。

 

「わりぃ、腕をやられちまった……」

 

「大丈夫ですか!? 今治療しますね、『治療』!」

 

 そして、そうなれば怪我をし始める者もあらわれる。ただでさえ素早く厄介な『夢猿』の相手である、それが何度も休む暇なく襲い掛かってくるのだ、さすがに無傷とはいかず戦闘のたびに怪我をするものが出始めた。

 

 親方の負傷をフランシーヌが治療する。親方の傷はすぐに塞がったが、疲れはとれていないようでフラフラしていた。

 

「なぁレインコートさん、やっぱりこんなにあいつらが襲ってくるのはおかしいって! さっさとあんな不吉なやつ捨てちまおうぜ!」

 

「そうは言うけど、こいつを捨てたらさらにヤバそうな感じがするんだ」

 

 アタルはそう言って、ポケットに入れていた呪い結晶を取り出す。禍々しい煙を放つ小さな結晶は、心なしか大きくなっているような気がする。

 

 フレイムがそれを見て眉をひそめていると、ギタリストがやってきた。

 

「フレイムくん、気持ちはわかるけどここは話を聞いておこう。こんな場所を一人で生きのびた彼が言うんだから、余計な行動は止めた方がいい」

 

「まぁ、一人ってわけじゃなかったけどね」

 

「それは、そうだけど…… まぁ、そうだよな」

 

 ギタリストが説得すると、フレイムは渋々受け入れた。アタルもみんなを納得させられるように説明出来たらよかったが、理由が自分の直感だけで満足に説明することができなかった。

 

「そういえば、レインコートくん、これ使ってよ」

 

「えっ、どうしたんですかいきなり……」

 

 ギタリストから渡された結晶を受け取り『詳細』で確認すると、それは『望みの結晶:刃』という名前だった。どうやら切断に関する力を強化できる結晶らしい。

 

「これ、今のところ切れるものを持ってる、ていうか切る技を持ってるのが君だけだからさ」

 

「そうですね、ありがたく使わせていただきますね」

 

 確かに、現状切断に関する攻撃は『雨宿り』の『暴風来』しかない。そう考えればこれは自分が使うのが良いだろうと考え、『雨宿り』に使用することにした。

 

「ありがとうございます」

 

「まぁ、とりあえず今日は休もう。さすがにみんな疲れてるし」

 

「そうですね、とりあえず今日の寝る場所を探しましょう」

 

 

 

 

 

 さすがに戦闘が重なり、全員が疲弊している。クタクタとなった一行は休息する場所を探すもそう長く行動することはできず、結局近場にあった駅のホームで一晩を過ごすことになった。

 

「今日は俺が見張りをしますよ、たぶん今日は皆さんの中で一番疲れてませんから」

 

「わかりました、でも無理はしないでくださいね?」

 

 この日はアタルが見張りをすることとなり、他のメンバーは全員疲れていたのかすぐに眠ってしまう。そんな中、アタルは椅子に座りながらポケットから呪い結晶を取り出し、静かに眺めていた。

 

 この結晶がどういうものかはいまだによくわかっていない。だがこれのせいで『夢猿』たちが襲ってきているのであれば、早く使って彼らとの関係を清算した方がよいかもしれないと考える。

 

「……」

 

「何してるんですか、レインコートさん」

 

 そんなときに、アタルの背後から声がかかる。思わず振り返ると、そこにはフランシーヌが立っていた。

 

「フランシーヌさん」

 

「それ、使う気ですか? 自分だけで解決しようとしてますよね?」

 

「いや…… ごめんなさい」

 

 アタルは自分の考えが見抜かれたことに驚きながらも、素直に謝ることにした。その姿を見て、フランシーヌは呆れたようにため息をつく。

 

「そうじゃありません、もっと私たちを頼ってくださいよ」

 

「それは、そうだけど…… でも、これは本当に危険なんだ」

 

「それでも、ですよ。みんな、本当にあなたのことを心配しているんですよ」

 

「……はい」

 

 落ち込むアタルの姿を見て、フランシーヌは隣に座ってアタルの手の上に自らの手を重ねる。

 

 それにアタルが驚いていると、彼女はしっかりとアタルの目を見つめてきた。

 

「アタルさん、ちょっと皆さんに遠慮していますよね?」

 

「えっ、そんなことは……」

 

「でも、フレイム君やお嬢さん以外では、皆さんに敬語を使ってますよね?」

 

 それに年少組への言葉遣いもまだ硬いし、と付け加えるフランシーヌ。アタルにとって、それは少し図星であった。アタルは人付き合いは苦手ではないが、それでもすぐに人と仲良くなれるほど器用でもなかった。特に命のかかっているこの場所で関係がこじれないようにと言う不安と、他の人よりこの世界に詳しいため頑張らないといけないという使命感のようなものがあり、それが余計に壁を作っていた。

 

 しかしフランシーヌはそれをなんとなく察したのか、優しい笑みを浮かべる。

 

「もしすぐにはなおせないのなら、私で練習しませんか? とりあえず、お互いに敬語は無しで!」

 

「えっと…… はい、いや、うん、わかったよ?」

 

「ふふっ、それなら、これからよろしくね」

 

「あぁ、よろしく」

 

 そういってフランシーヌはアタルに握手を求める。それを見て、アタルはこれを契機ととらえその手を握ることにした。

 

 もっと仲間を信じるためにも、みんなで一緒にここから脱出するためにも、もう少しみんなと打ち解けようと張り切るアタルであった。

 

 

 

 

 

 『レインコート』(雨野 中)

 

 HP23/30 MP4/17

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』

 

 状態 『川の主の寵愛』『救済対象』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』

 




『夢猿の小凝縮呪い結晶』

 『夢猿』の群れによる怒りの想いが呪いとなって凝縮された邪悪な結晶。

 使用すればその者は『夢猿』に呪われることとなり、特定の対象であればその呪いはより強大になる。

 『夢猿』たちは怒り狂っている、自分たちの怒りを受け入れないことに。

 いつまでたっても解消されず、煮えたぎり、くべられる怒りの炎は徐々に業火へと変じていく。

 まさか今更、逃げられるとでも思っているのか……?
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