異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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悪夢に出てきそう

「ウキキー キーウキキーキー ウキキーキーウキ ウキウキ ウキウキウキキー キーキーウキ!!」

 

「逃げろ!!」

 

 『暴風来』を使わずに『雨宿り』を開き、盾とする。今までほとんどやったことのない『雨宿り』による防御行動。しかしそのとっさの判断は、正解であった。

 

「ぐっ!?」

 

「キーキーウキキーウキ ウキキー!!」

 

 傘を開いてすぐに訪れる衝撃、アタルはその衝撃を認識する前に体が後ろに吹き飛んだ。

 

 気が付けば目の前には『夢電車』の顔が、吹き飛ばされたアタルに追いつきながら迫ってくる。さらにアタルを捕まえんと『夢電車』の腕が迫りくる。

 

 しかし、アタルを掴もうとしたその腕は、飛んできた火球によって阻まれた。

 

「や、やった……!!」

 

「レインコートさん、早く逃げて!」

 

「助かった! ……ぐっ」

 

 フレイムと少女による攻撃で『夢電車』がひるんだ隙に何とか脱出を試みようとするアタル。しかし立ち上がろうと右手を床についたところで腕に激痛が走り、よろけてしまう。

 

 そして、それを見逃すほど『夢電車』は甘い相手ではなかった。線路もないのにすごい勢いでアタルに接近し、掴もうとする。

 

「危ない!」

 

 そこでローリエがとっさにアタルの左腕を引き助けようとするも、逆に自分が引き込まれてしまう。

 

「きゃあぁぁぁあぁ!!!!」

 

「ローリエさん!!」

 

 アタルを助けた彼女は足を掴まれ、そのまま逆さ吊りにされながら『夢電車』の後ろの車両内に引きずり込まれてしまう。するとその車両の側面からいくつもの手が生えてきて、そのトロッコの中から押さえつけられながら必死にもがく四肢が見え隠れしている。さらに、他の腕がのこぎりや肉切り包丁のような刃物を取り出してきた。

 

「まずい、彼女を助けろ『濡れ羽鴉』!!」

 

「カァー!!」

 

 アタルは『濡れ羽鴉』を呼び出すと、急いでローリエに向けて飛ばす。『夢電車』は高速で移動し『濡れ羽鴉』をよけるも、とりあえず牽制としては機能したようだ。

 

「フレイム、お嬢! 足止め頼む!」

 

「りょ、了解!」

 

「わ、わかりました!」

 

「「『陰陽術:土克水』」」

 

 二人が足止めを行うも、『夢電車』はその範囲から逃れドリフトしながら二人に近づいていく。

 

「あぶねぇ!!」

 

 そこを親方が金槌で迫りくる腕を弾き、二人を守る。それを見て『夢電車』は嬉しそうに笑っていた。

 

「大丈夫ですかレインコートさん!? 『治療』!」

 

「ありがとう! でも危険だから親方の方に!」

 

「大丈夫!? 今行くよ! ……くっ!?」

 

 その間にアタルはフランシーヌに治療してもらい、危険だから親方の方へ行くように伝える。

 

 ギタリストもみんなと合流しようとするも、横から襲い掛かってくる『腐った歯車』によって分断されてしまう。

 

「みんな、助け…… うむっ!?」

 

 そうしている間にも、どんどんとローリエを抑え込もうとする腕は増えていく。どうやら口を抑えられた上に、四肢を抑える腕も増えてしまったようだ。刃物を持つ腕はローリエの歯車の腕と『濡れ羽鴉』の必死の妨害によりまだ振るわれていないが、それもいつまでもつかわからない。

 

「まずい…… フレイムとお嬢は引き続き妨害を頼む! 親方は皆を守って!」

 

「お前は!?」

 

「もちろんローリエさんを助ける!」

 

「ウキウキキーウキキー ウキキーウキキーウキ ウキキーウキ キーキーウキキーキー ウキキーキーウキ キーウキウキキー キーキーキー!!」

 

 二人に足場を沼地状態にしてもらい、『川の主の寵愛』で高速移動しながら何とか『夢電車』の動きについていく。しかし『夢電車』は嘲笑うかのような笑みを浮かべ、何かを叫び出した。

 

「静かにしててくれ! ……なっ!?」

 

「ウキキーキー キーウキ ウキキーキーウキキー! ウキキーウキウキウキ キーウキウキキーウキ ウキウキキーウキ キーウキ ウキウキ!!」

 

 何とか前方部分のトロッコにだけ『暴風来』をぶつけようとするも、見た目のわりに小刻みに左右に移動しながら動かれなかなか狙いを定めることができずにいるアタル。

 

 そうこうしているうちに、周囲から襲い掛かる気配を感じて見を翻すアタル。その正体は、『夢猿』の援軍であった。

 

「くそっ!? なんだってこんなことに……」

 

 『夢猿』に囲まれてそちらの相手をしなければならなくなったアタル、嫌らしいことに『夢猿』たちはアタルにまとわりつき妨害に終始していた。

 

「ウキキー キーウキキーキー ウキキーキーウキ ウキウキ ウキウキウキキー キーキーウキ」

 

「むぅーーーーっ!!!!!」

 

「ローリエさん!?」

 

 ついにさび付いたノコギリがローリエの肌に食い込み、くぐもった絶叫が鳴り響く。

 

 『夢電車』は『夢猿』や『腐った歯車』の相手で手一杯な一同に見せつけるように、動きを止めてのこぎりを動かし始める。

 

「いやあぁぁぁ!!」

 

「ローリエさん!?」

 

「てめぇ、ふざけやがって!!」

 

「嬢ちゃんを離さんかいエテ公がぁ!!」

 

「貴様、よくも!」

 

 その光景は、全員の怒りを爆発させた。しかし怒りにとらわれた人間の相手ほどやりやすいものはない。10数匹にも及ぶ『夢猿』の群れが『夢電車』に近づこうとする一同を食い止め、嘲笑う。

 

「んんんんっ!? んんーーーー!!!!」

 

 そして『夢電車』はじっくりと見せつけるようにローリエの足を切り落とした後、その足をこれ見よがしに持ち上げてから、噛り付いた。

 

「……『暴風来』」

 

 そして、それを見せられてアタルの怒りが頂点に達した。

 

 ローリエを巻き込むかもしれないと躊躇していた『暴風来』を解き放ち、強化された暴風が鎌鼬となって『夢電車』の前方車両を切り刻み後部車両が切り離される。それと同時にアタルはまとわりついていた『夢猿』ともども吹き飛ばされるも、すぐに治療して残されたローリエを助けに向かった。

 

「大丈夫ですか、ローリエさん!?」

 

「はぁ、はぁ…… 助かったの?」

 

「えぇ、とりあえず止血を……」

 

 足場のおかげで高速移動してローリエを回収したアタルは、とりあえず怪異から離れてローリエの治療をしようとする。

 

 彼女の足は右ひざから下が切断されて、大量に出血している。切断された足が生やせるかわからずとりあえず止血をしようとしたところで、ローリエが目線を自らの足に向けて、状況を理解してしまった。

 

「えっ、あっ…… 私の足、私の足がぁぁぁぁっ!?」

 

「ローリエさん、落ち着いて!! すぐに治すから!!」

 

「治す!? 治すってどうやって…… そうだ!! 『治療』『治療』『治療』『治療』!!!!」

 

「落ち着いて、ローリエさん落ち着いて!! ……えっ?」

 

 半ば狂乱しながら自らの足を『治療』し始めたローリエを落ち着かせようとしている間に、アタルは目の前で起こった現象に驚愕してしまう。

 

 そう、彼女の足がトカゲのしっぽのように生えてきたのだ。

 

 他の肌の色より少し白っぽい見た目をしているが、明らかにもう片方と同じような足だ。ある意味これまでで一番驚愕してしまったアタルは、目の前でぐったりしてしまったローリエに気が付き、すぐに気を取り戻す。

 

「ローリエさん? 大丈夫ですかローリエさん!? そうだ、『ステータス確認』!」

 

 とりあえず息や脈はあることを確認するも、意識はないようだった。そこで何か異変がないかステータスを確認しようとする。

 

 

 

 『ローリエ』

 

 HP0/14 MP10/10

 

 

 

「……えっ?」

 

 HPが、0だった。

 

 こんな状況で初めて起こる事態に、悪寒が走る。

 

 そして、あれほど大変な状況だったというのに、怪異が襲ってこないことに、そして静かすぎることにようやく気付いた。

 

 周囲に目を向けると、あれほど暴れていた『夢電車』や『夢猿』、『腐った歯車』たちがこちらを凝視していた。

 

 そこには、先ほどまでの嘲りも、喧騒も、喜びすらなかった。

 

 彼らの目に浮かぶのは、飢え。

 

 果てしなき渇望で目を見開き、先ほどまでのずる賢さなど、欠片も見当たらなかった。

 

 周囲の人間には目もくれず、その眼は真っ直ぐにアタルのことを…… いや、彼が抱える極上の餌(ローリエ)を見据えていた。

 

「■■■■■■■■!!!!!!」

 

 声にならない雄たけびが木霊し、アタルたちに殺到する。

 

 アタルはすぐにローリエを抱えて彼らから逃げ出す。

 

 今から、地獄の鬼ごっこが始まる。

 

 

 

 

 

 『レインコート』(雨野 中)

 

 HP14/31 MP4/18

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』

 

 状態 『川の主の寵愛』『救済対象』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』

 

 




『HP』

 それは、人間である証、人間しか持ちえぬもの。本来は……

 それは守り、それは証明、それは生命……

 それは、決してすべて使ってはならない。

 それがなくなることは、彼らの前に剥き身でさらされることと同義であるのだから。
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