異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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鬼ごっこ

「レインコートさん!」

 

「逃げるぞ!!」

 

 アタルはローリエを抱えて走り出し、そのあとを『夢電車』や『腐った歯車』たちが襲い掛かる。フランシーヌたちは少し距離が離れており、明らかに怪異たちの方がアタルたちに早くたどり着くであろう。

 

「『陰陽術:水克火』!!」

 

 その時、周囲に白い煙が発生し怪異やアタルたちを包み込む。肌にまとわりつく感触からおそらくは水蒸気のようなものが、周囲の目が覆い隠される。

 

「レインコートさん、こっち!!」

 

「わ、わかった!」

 

 アタルは握られた手に導かれながらその場を離れる。妙に認識しにくい霧の中で相手を見つめると、その相手はフレイムであった。

 

「認識を弱める水蒸気の煙幕だ、あいつに襲われたときのもう一つのとっておき!」

 

「フレイム、ありがとう!!」

 

「とりあえず狭い路地の方へ! あの電車もたぶん通れないはず!!」

 

 フレイムに連れられながら、『腐った歯車』たちが飛び出してきた路地の方へと向かっていく。向かった先では親方たちが待っており、アタルたちの後ろからはフランシーヌとギタリストが追ってきていた。

 

「みんな揃ったか!?」

 

「これで全員! でも電車はまだしも猿やゾンビは来るはずだ! 俺の煙幕もそこまで高性能じゃない、見つかる前に早く逃げよう!」

 

「レインコートくん、彼女はボクが担ぐ、殿を頼めるかい?」

 

「わかった、行くぞ!」

 

 先頭は親方が進み、ローリエを抱えたギタリストを真ん中に、後方にフレイム、殿はアタルが務めることとなった。

 

 フレイムが路地に『陰陽術:土克水』を発動し足止めを行ってからその場を脱出する。

 

 しかしすでに霧を抜けた怪異たちが血眼になってアタルたちに襲い掛かってくる。

 

「いきなりなんなんだよあいつら!?」

 

「ローリエさんのHPが0になってた! 多分それが関係あるかもしれない!!」

 

「なっ、早くHPの回復を……」

 

「とりあえず、食べるか寝るか!」

 

「うっ……」

 

「ローリエさん!?」

 

 どうやら気を失っていたローリエが意識を取り戻したようだ。

 

 ギタリストの背中で目を覚ました彼女は、震える声を響かせる。

 

「ごめ…… なさい……」

 

「ローリエ君、無理にしゃべらないで!」

 

「あいつらの、ねらいは…… 私、だから……」

 

「あしで、まといなんて、見捨てて……」

 

「そんなこと、するわけないだろ!!」

 

 ギタリストの叫びは、この場にいる全員の気持ちでもあった。常に冷静な彼の叫びに、ローリエが思わず体を震わせる。だが、しばらくしてその思いが伝わったのか涙をこぼした。

 

「あり、ありがとう……」

 

 彼女の感謝の言葉に、全員が必ず助けると改めて決意する。

 

「しっかし、いったいどこまで逃げるって言うんだ?」

 

「とりあえず、怪異のいない場所へ! そこでHPの回復を急ぎましょう!」

 

「今回復させることはできないんですか!?」

 

「わからない! とりあえず出来る限りのことはしよう! 『霊術:雨上がり』!」

 

 背後から迫りくる『夢猿』や『腐った歯車』たちに向けて光の矢を放つ。『腐った歯車』はともかく、今までだったらよけていたであろう『夢猿』すらも、よけるよりもアタルたちに追いつくことを優先してそのまま奥に貫かれていた。

 

 生存よりもローリエを狙うその悍ましき姿に、アタルは思わず戦慄する。しかし、それよりもここを切り抜けるほうが先だと意識を切り替える。

 

「あの飛んでる服たちがいた場所はどうだ!? あそこならまた助けてくれるかもしれないぞ!」

 

「『衣替え』のいたところですか!? 確かにあそこなら、行ってみる価値はあるかもしれません!」

 

「でも場所は分かるの!?」

 

「私分かるかもしれません!!」

 

「嬢ちゃん、わかるのか!?」

 

「はい、こっちです!!」

 

 親方の問いかけに、少女は頷く。そのまま先頭が彼女に切り替わり、アタルたちを先導していく。背後の怪異たちはアタルやフレイムが必死に減らしているものの、むしろ数が増えていっていた。

 

「くそっ、どんだけ来るんだよ!?」

 

「まずい、そろそろ追いつかれるぞ!?」

 

 必死に走り抜けるも、このままではじり貧だと理解しながらもどうすることもできないと歯がゆい思いをするアタル。その間にも怪異たちはどんどんと迫ってくる。

 

「皆さん、もうすぐです!! ……きゃあ!?」

 

「どうし…… ぐはっ!?」

 

 その時、アタルたちを衝撃が襲う。

 

 少女の行き先を先回りしていた『夢電車』が襲い掛かって来ていたのだ。奴の突進で吹き飛ばされる一同、そしてローリエが投げ出された場所には、一匹の『腐った歯車』が立っていた。

 

「まずい、ローリエさん!?」

 

 『腐った歯車』が倒れて動けないローリエに食らいつく。

 

 その瞬間、異変が起きる。

 

「……えっ?」

 

 歯車が、回り出す。

 

 錆び切ったはずの歯車は、油をさしたかのように動き出し、以前よりも綺麗に、滑らかに回り始める。それはその瞬間、活力を生み出し、背中に巨大な歯車を出現させる。

 

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!!!!」

 

 

 

 『動き出した歯車』

 

 HP3/3

 

 

 

 命を喰らった怪物が、今動き出す。

 

 

 

 

 

「やぁくそくどぉりぃ、たぁすけにきたぁよぉ!!!!!!!」

 

 そして、その場にさらなる絶望が訪れる。

 

 『メサイアコンプレックス』

 

 この場に最も存在してほしくない、怪物が乱入した。

 

 

 

 

 

 『レインコート』(雨野 中)

 

 HP14/31 MP1/18

 

 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』

 

 状態 『川の主の寵愛』『救済対象』『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』『糸の呪い』

 

 

 




『怪異とHP』

 怪異たちはそれを渇望する。

 人への羨望か、肉体への渇望か、それとも義務感か……

 彼らは望み、その機会を虎視眈々と狙っている。

 もしその時が来たならば、他の一切を放り投げて喰らいに行くだろう。

 たとえ得たとしても、人になることなどできないというのに。
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