異界ダンジョンに行こう! ~神隠しにあったけど、このダンジョンのすべてを知り尽くして幸せになります~   作:名無しの権兵衛

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おやすみ

「せめてこれだけでも、持って帰ってやらないとな」

 

 血に汚れた生徒手帳を拾い上げ、せめてこの遺品だけでも彼女の家族に届けようと決意するアタル。

 

 生徒手帳をビジネスバッグの中にいれ、振り返る。

 

「ありがとう、ルル。今回も助かった」

 

 後ろでアタルのことを見上げていたルルに目を合わせ、頭を撫でてやる。

 

 それを大人しく受け入れ嬉しそうにするルル。その様子を見ているとアタルも心が温かくなる。

 

「さて、それじゃあそろそろここを出るか」

 

 部屋を出て、階段を下る二人。もちろん傘やビジネスバッグ、ビニール袋は忘れずに回収していく。

 

「それにしても、少し疲れてきたな。どこかで休むことができればいいんだが……」

 

 もうすでに数時間も雨の中を歩き続け、2度も戦闘を行っているアタルがすでに疲労困憊状態になっていた。

 

 そもそも、この場所にやってきたのは仕事終わりである。元々疲れがたまっているうえにこの異常事態だ、今まで動き回れていた方がすごいのだ。

 

「あれ……?」

 

 そんなことを呟きながら階段を降りると、何故か扉が開いていた。

 

 アタルの記憶が正しければ、そこは先ほど訪れたコンビニがあった場所だ。

 

「……何かあったのか?」

 

 なんとなく開いた扉から呼ばれているように感じたアタルは、念のため傘を構えながら扉へ近づいていく。

 

 ルルもアタルの後ろに隠れるように引っ付いていった。

 

「お邪魔しまーす…… あれ、特に変化はなさそうだけど……?」

 

 扉から覗いたところ、特に店内に変化は見られなかった。

 

 ひとまず店内を散策する二人、アタルが周囲を見ている間、ルルはおかしの袋に夢中になっていた。

 

「それにしても、相変わらず商品はまばらだなぁ」

 

 商品棚に置かれたものは少しだけ、それでも以前きたときにはなかった商品もあるし、逆になくなっている商品もある。

 

 前回はあまり重視しなかったが、食料だけでなく生活雑貨や日用品もあるのは場合によっては嬉しいだろう。

 

 雑誌の方はというと、明らかに1世代は昔の雑誌ばかりであった。試しに手を取ると、アタルはほとんど知らない漫画ばかりであったが、少年時代に読んでいた長寿漫画の1話目が掲載されていて驚くほかなかった。

 

 そのほかはというと、かつて何者かの口があった壁は味気ないコンクリート壁のままだし、天井の電灯は割れ、床はガラスや汚れまみれであった。

 

「呼ばれた気がしたけど、なんだったんだ……? あっ」

 

 そして店内を一通り見た後に、レジの奥でアタルはある発見をする。

 

「あれ? あんなところに扉ってあったか?」

 

 アタルが見つけたのは、レジの奥にある扉だ。以前ここを探索した時にあっただろうかと疑問に思うも、そもそもレジのあたりはあまり探索していなかったため事実かどうか自信もなかった。

 

 そんなあったかどうかも分からない扉が開かれ、アタルたちを誘いように向こう側の明かりがひとりでにつき始める。

 

 その向こうには、少し古めの仮眠室のようなものがあった。

 

「……もしかして、ここで休んでいけってことなのか?」

 

 アタルの言葉への返事なのか、仮眠室の電気が二度瞬く。おそらくは、肯定だろう。

 

「一応聞くけど、イエスなら2回、ノーなら3回瞬いてくれ」

 

 アタルの言葉に再び電灯が二度瞬く。

 

「なにか条件や代償はいるか」

 

 三度瞬く。

 

「そうか、ありがとう」

 

 二度瞬く。

 

 アタルはここにいる何かに、素直にお礼を言う。

 

 なんとなくではあるが、ここにいる何かは、そこまで悪い奴には思えなかった。

 

「そうだ、せっかくだし……」

 

 仮眠室を使わせてもらうのに何もしないというのも居心地が悪いと感じていたアタルが、先ほど見つけた日用品の棚からタオルを持ってきてレジに置く。

 

 すぐさまレジに通されて表示された550円を支払い購入する。

 

「それじゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」

 

 レジの裏へと回って、仮眠室へと向かうアタル。その後ろをトコトコとついてくるルル。

 

「ルル、ちょっと動くなよ」

 

 そして部屋に入る前に振り返ると、先ほど購入したタオルを取り出してルルの体…… レインコートを拭き始めた。

 

 最初は驚いて抵抗しようとしたルルであったが、やがて気持ちよくなってきたのか抵抗をやめた。

 

 その様子に微笑ましい気持ちになりながらも、全身を拭いてやるアタル。今までこういうことはしてこなかったのか、白かったタオルがどんどん黒くなっていく。

 

「よし、これで終わりだな」

 

 やがてルルの全身を拭き終わるころには、タオルは真っ黒になりルルのレインコートは少し明るい黄色になった気がした。

 

「これだけ綺麗なら、一緒に寝れるな」

 

 四畳ほどしかない和室の仮眠室へと上がり、濡れた服を脱いで下着姿になるアタル。どうやら汚れなんかは修復をする際に一緒に消えてくれるらしい。

 

 濡れた服はハンガーにかけて、乾くのを待つ。汚れたタオルに関しては、とりあえず水道とタライがあったため水につけておくことにした。

 

「おやすみ、ルル」

 

 ルルを抱き枕にしながら布団に包まるアタル。そんなアタルを、ルルも抱き返して眠りにつく。

 

 度重なる異常事態に体が思った以上につかれていたのか、アタルは一瞬で意識を手放し、泥のように眠りにつくのであった……

 

 

 

 

 

 『雨野 中』

 

 HP8/12 MP7/9

 

 術式 『霊術:霊傘』

 

 状態 『赤い雨の呪い』『御使い狐の約束』

 

 




『想いの結晶:癒し』

 少女の亡骸を弔った際に残った、感謝のしるし。

 己の望みを、自らが傷ついてまで叶えてくれた恩人に対するせめてもの償いと、これからの彼の旅路に幸あれと願った想いの結晶。

 この結晶を使用し物品や肉体を強化すれば、癒しの力を増幅させることができる。

 使用の際には強化したいものに結晶を合わせて、念じれば成功することであろう。

 その癒しの力が、肉体と精神、どちらに作用するかまではわからないが……



 優しき少女は、死してなお誰かのためを思っていた。

 両親、友だち、そして願いをかなえてくれた人。

 彼に救われた少女は、最期の時に彼の助けとなれるものを残そうと願った。

 この力はきっと、彼の旅路の助けとなることだろう。
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