自分を転生した世界の主人公だと思ってたら本物がいた×2   作:rikka

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第10話:生徒たちから見た彼ら、『彼女』から見た彼ら

 ウチの学校には、恐ろしいくらいに強い上級生徒がいる。

 基礎訓練期間でもある最初の一年を乗り越えて個々に武器や方向性を選び始める二年時あたりで、周囲の同期や先輩が嘯いていた噂の一つだ。

 

 曰く、詠唱無しで戦術級攻撃魔術を連発できる。

 曰く、剣を一振りしただけで賊徒が吹き飛んだ。

 曰く、デュベル砦の魔術結界を指一本で壊してより強固な物に貼り直した。

 曰く、王都聖騎士団三小隊を相手に剣一本、たった一人で勝利した。

 

 そんな世界で五指に入る強者が学生としているという話を、生徒達は笑い話として話半分に聞いていた。

 

 居るはずがない。

 そんな騎士物語の主人公のような――あるいは倒されるべき化け物のような人間など、いるはずがない。

 

 イサカ・クェスターの山間御者実習に同行する形での護衛訓練を受けていたその三回生の男子生徒は、昨日までそう考えていた。

 

「しかし、飽きもせずに結界に触れては燃えているというのに……クオン君、出力に問題はないのかい?」

「山の地脈を利用して術式を構成しているから、まず途切れる事はないよ。二か月ほど常に隙間なく体当たりを続ければ弱まるかもしれないが、まぁこの程度で破るのは無理さ」

「焦げた仲間の肉食って満足して帰ってくれりゃ楽なんだがな……おいニーカ、ベーコン焼けたぞ」

「ああ、有難うユート君」

 

 自分達では為すすべない魔物を文字通り一蹴した、偶然同行しただけの三人の最大戦力が、村の周囲を囲んでこちらに襲い掛かり――すぐさま焼死する無数のウォードッグ達を前に平然と朝食を取っていた。

 

「まぁ、そういうわけだ。護衛諸君も警戒は必要だけどもう少し余裕を持ってくれていい。念のために地下や空中からの奇襲も警戒して、円ではなく球状に張っている」

「ついでにいやぁ、武装している人間がガチガチになってりゃ村人が不安に思うぜ」

「ユート君の言う通りだ。こういう時こそ堂々としたまえ、学生諸君。警戒状態ではあってもすぐさま交戦とはならない」

 

(そりゃアンタらくらい強けりゃそう言えるだろうよ!!)

 

 騎馬警察のえらい美人は、焼いたパンにバターナイフで切れ込みを入れるとそこに焼き立てのベーコンを詰め込んで、小さな口を大きく開けてかぶりついている。

 

 二人ほどではないが、それでも滅茶苦茶強い一人である。

 

「しかし……今いる群れを蹴散らすのは容易いが、さすがにコレは一々帰って再調査とはいかない。すぐに調べて、可能ならば巣かそれに値するものを破壊する必要がある」

 

 そして問題の二人。

 クオン・D・ハーヴェイ。

 

 ニーカの食べ方を真似して――だが軽く炒めたほうれん草やタマネギを更にねじ込んで食べている男。

 

 何と言う事のない、田舎の宿屋の次男という話だった。

 だが余りに強力すぎる魔術師である事から、実は貴族の血筋なのではないかとカゲで噂されている男。

 人気があるにも関わらず、それでも深く繋がろうとする人間が少ないのは恐らくそのためだろう。

 変な血筋問題は、場合によっては容易く多数の命を奪う事態になりかねない。

 

 だがこうして味方であれば、その存在は余りにも頼もしすぎる。

 

「だな。問題はコイツラがどこから湧いてんのか……。逃げ帰る素振りを見せてくれれば後を付けるんだが」

 

 そしてもう一人。

 多少の強化魔術を併用しているとはいえ、剣技のみで戦術級の戦果を上げて見せる大剣士。

 

 ユート・ヴァレンシュタイン。

 

 蒸したジャガイモを潰した物をナイフとフォークで器用にベーコンで巻いて、口へと運んでいる男もまた、クオンに並ぶ大戦力。

 

 一見野生児のような見栄えであるが、同時にカトラリーの扱い方や食べ物の口への運び方から品を感じさせる男は、軍隊でも踏みつぶされかねない大群をぼんやりとした目で眺めている。

 

 恐怖は一切感じさせない。

 他の二人と同じく平然と朝食を取って、白湯で喉を潤している。

 

「さて、それじゃあそろそろ始めるかい?」

 

 三人は飲み干したそれぞれのカップの水気を雑に切り、それぞれのザックやポーチに放り込む。

 そして立ち上がった三人は、すぐ側で同じように朝食を取っていたイサカに声をかける。

 

「イサカ、狩猟用の弓は使ってもいいんだな?」

「ええ、ユートさん。売れ残った商品ですし、この緊急事態ならば生還のための損切分として無料でお渡ししても減点にはならないでしょう」

 

 採点役のエリスが頷いたのを見て、イサカがやや大きな木製の弓と矢筒を用意する。

 

 山の人間は農作以外にも狩猟で生計を立てる人間が多い。

 国によっては投げ槍や投石といった手段を使う所もあるが、このナベリウスでは狩猟具として弓が好まれている。

 

 イサカも昨夜の市で、古くなったため買い換えたいと五張りの弓を売って儲けを出している。

 

「でも、大丈夫なのですか? 本当に普通の弓なのですが」

「問題ねぇ。そうだろう、クオン?」

「ああ、当然だとも。任せてくれ」

 

 それなりに上質な木材と弦で作られているが、それでもただの丸木弓。

 射手の腕が良ければウォードッグの急所を射抜き、絶命させる事もできるだろうがそれだけ。

 矢が尽きればすぐに無用の長物になるだろう。

 

「弓と矢を貸してくれ。……あぁ、矢は矢筒ごとで構わないよ、イサカさん」

 

 だが、その常識を覆す男がここにいる。

 

「ユート、リクエストはあるかな?」

「貫通力重視で、出来れば範囲も上げてくれ」

「……放つ際の魔力調整が少し難しくなるが構わないかい?」

「ああ、大丈夫だ。一度試射がいるかもしれねぇが、合わせてみせる」

 

 クオン。

 回復術こそ重視しているが、それ以外の大抵の魔術も余裕で扱いこなせる男だ。

 

「分かった。ならば風をベースに――セット、エンチャントスタート」

 

 その魔術師が右手に持つ矢筒ごと矢を、左手に持つ弓を同時に魔術強化していく。

 

「弦に風、本体の弓幹(ゆがら)には土の属性を同時に流して硬化強化も並行して……弦と矢のエンチャントを……よし、つながった」

 

 緑と金の輝きを浴びて、ただの弓矢が一瞬にして魔弓と化す。

 本来魔術職人が最低でも一週間はかけて施す強化を、クオンは仮とはいえ一瞬で終わらせてしまう。

 それだけでとんでもない大金を稼げる技術を平然と使い、強化され――だからこそ扱いが恐ろしく難しくなった魔弓。

 

「頼んだよ」

「はっ! 任せなぁ」

 

 それを、ユートはなんの気負いもなく平然と受け取る。

 軽く弦を指ではじき、調子を確かめる。

 余りに強力なエンチャント魔法によって、もはや常人では引く事すら敵わない強度だ。

 

「俺は確かに剣士。剣一本で切り抜けて来た野郎だけどよぉ」

 

 それに魔法の輝きを受けた矢を番え、もはや黒い波と化したウォードッグの群れに矢の先を向ける。

 

「安心しろ。それが武器であるなら、なんだって使って見せらぁ」

 

 難なくそれを引き絞り、弓を握る者が調整しなくてはならない微細な魔力調整を終わらせる。

 

「……っ、さすがクオン。魔力が強くて反発がすげぇ、が……っ!」

 

 狙いを定めたまま、自分の魔力を弓のエンチャントに絡ませ、魔弓を自分の手足の一つと化す。

 

「ぶち飛べ!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 轟音と、突風が吹き荒れる。

 

 たった一射。

 

 少し前までごくごく普通の弓だったその一撃によって、先日同様黒い群れに大きな穴が開く。

 

(……見事)

 

 その光景に驚き、どよめく護衛や村人の面々を眺めながら、イサカ・クェスターは驚いている振りをしながら二射目に入ろうとしている男を、そしてそれほどの武具を一瞬で用意してみせた者を観察する。

 

(先日のような大技では結界に影響が出かねない。結界範囲から飛び出して斬り込んでも最初は結界の側で戦う事になるから同じく。だから弓矢を……)

 

 轟音と共に第二射が放たれる。

 先日の両者の一撃に勝るとも劣らぬ、だがしかし先日と違い地面には全く被害が出ない攻撃。

 

 結界を張った本人によるエンチャントだ。結界に対しても対策してあるようで、中からの魔術射撃を阻むことなく結界の外へと飛び出し、黒い波を掻き分け、二つに割っていく。

 

「目の前でバッタバッタと仲間が死にゃあ慌てて逃げてくれると思ったんだが、むしろ仲間を喰いだすとはな」

「だね。まぁ、昨日と同じといえば同じ――そういえば、昨日の群れも同じように共食いを始めていたな」

 

 ただ暴力に優れているだけではない。

 わずかな違和感を見落とさず、見聞きした情報を精査して組み立てるだけの頭がある。

 

「……しまったな。昨日の時点で倒した彼らをすぐに処分せず、解剖して胃袋を確認するべきだった」

「なら、今度は確かめられるだろうさ」

 

 優秀な戦闘技能者が数いる、あの学園での主席と次席は伊達ではない。

 

「餌が無くなっての大移動だとすると、野生動物もかなり襲われている可能性がある」

「とりあえず今ある矢の数だけ打ち込んで、それでも逃げなかったらまた俺達で暴れるしかねぇ。なんとか今日中に縄張りの中心を見つけねぇとな」

 

 正しく状況を解決するために力を振るうための知性も兼ね備えていた。

 

(欲しいな。この二人)

 

 絶対強者。

 そんな言葉が似あう二人だが、さらには『将』としての才まで兼ね備えているやもと、イサカは思わず期待してしまっている。

 

 この絶対的な危機をものともせず、そして焦りを一つも見せずに解決の道筋を作っていく事で、周囲の村人たちも落ち着きを取り戻しているのだ。

 

 先ほどまでは『早く何とかしてくれ!』と喚き散らす事しか出来なかった者達を、治めている。

 

(愚民めが。やはり民衆には、強く導く王が要る。連合を組んだ事で堕落し始めた愚王ではなく……!)

 

 イサカ・クェスターは貴族である。

 

(父があのまま謀反を起こしていても成功はしただろうが、それでは何も変わらん!!)

 

 イサカ・クェスターは貴族であった。

 

(愚かな貴族階級を一掃し、愚民を民として導くには父のやり方では駄目なのだ!!)

 

 己の手であえてその道を閉ざし、家の裏を知る者を全員消し、そして家そのものを潰してこの国へと来た。

 

(もともと父が決起に使うつもりだった隠し金の確保と共に私のための人員、人脈を探すためにナベリウスへと落ちたが……)

 

 そしてついに、見つけたのだ。

 

(クオン・D・ハーヴェイ、ユート・ヴァレンシュタイン)

 

 最強の盾を、最強の剣を。

 

 二つ揃えば出来ないことなど何もないと思わせる程の勇者を。

 

(お前達こそ――)

 

 

 

(このイサカ・クェスターの覇道を彩るに相応しい!)

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