自分を転生した世界の主人公だと思ってたら本物がいた×2 作:rikka
あれだけの数が三分の一ほどに減ってから、ようやくウォードッグ達は退却を始めた。
魔術強化された矢で倒れた仲間の肉を食らって、満足したという事なのかもしれない。
「ユート君一人で大丈夫なのかい?」
倒れていれば同種だろうと食べるのを散々見て来た以上、大量の死骸を処分しなくてはならなかった。
でなくば再び血と肉の匂いに釣られて、三度あの大群が来るかも分からない。
ならば当然素早い処分が必要で、それが可能なのはこの場に一人しかいなかった。
「彼なら大抵の事態はどうとでもなるさ。さっきの大群も、やろうと思えば彼一人で切り抜けられた」
魔術師のクオンが先日同様、血液を浄化しながら死骸を集め、高火力で燃やして灰にしていく。
「それに、ニーカは村の住人から人気なんだ。一安心したとはいえまだまだ不安な彼らを安定させるには、君の存在も必要だしね」
(あれで手こずる程度なら俺はこんなに悩んでいねぇんだよ! クソッ、追跡ミスったりして点数落としてほしいけどそんなタマじゃねぇしな!!)
出来る事なら失敗してほしいが必ず成功させるだろうという確信がクオンにはあった。
なにせ相手は主人公――だと思っているからだ。
(むしろこっちこそ気を抜けねぇ。主人公と別行動していた連中が面倒な目に合って、それを主人公が助けるってパターンはよくあるからな。いざと成れば逃げ切るだけの馬術持ってるニーカはともかく、イサカや他の連中は絶対に死守せねばならん!)
だからこそ、クオンという魔術師は一切の油断を殺してこの場の死守に全力を尽くしていた。
鍛え抜いた自分でも対処しきれない、それこそドラゴン種上位が群れで強襲してくるといったような最悪の中の最悪に備えて結界を二重三重に張った上でいつでも動けるように備えていた。
(いざという時は殿として最後尾を守りながら村人逃がさなきゃならん。犬だけで済んでくれればいいんだが……)
自分が主人公ではなかった。
ショックではあるが、それを事実としてクオンは飲み込んでいた。
うん。
そもそも勘違いではあるんだけれども。
(主人公になるというのならば、俺はあのイキリ剣士を越えなきゃならん)
やはり主人公の証である剣を鍛えるべきだったかと内心後悔しながら、敵の早期発見用に広範囲に破られても問題ない魔力をあまり込めない結界を展開する。
(となると、狙うは一つ)
(必死に奴に食らいつきながら、奴が隙を見せたらそれをフォローしながらマウントとって主導権を握ってヒロインの目を独り占め! これしかねぇ!!)
カスがよぉ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(一人で囲まれても斬り抜ける自信はあるけど、こうして完全に単独で山を走るのは怖いなぁ)
腹が膨れたのか、あるいはある程度腹を満たした上で傷が深いのか逃げ帰っていくウォードッグの群れの痕をユートは足音一つ立てずに追っている。
剣士であろうとも――いや剣士だからこそ、こういった
他の生徒に比べて当然の如く頭抜けた能力を持つユートはもちろん、着いてきていた学生剣士でもある程度は出来るハズなのである。
剣を持つという事は、槍を持った兵士に比べて目立たない。
目立たないように最前線まで出向き、情報を持って帰ると言うのは剣士ならではの仕事の一つである。
(しかし、真っ直ぐ帰ってる感じだな。血が流れている個体もいるなら群れを別けたり、どこかの水場や湿地で泥浴びて誤魔化したりするものだけど……)
ウォードッグに限らず、魔物という物は極めて高い知能を持つ。
正しく言葉にするならば人間が優先的に駆除をしている以上、生き残った個体が経験を積んで狡猾になっていくという方が正しいのだが。
(……とにかく、真面目に仕事をしなきゃいけない。背後から奇襲なんて事が無いように、戦力で気配を探りながら慎重に尾行を続けなきゃ)
自分が主人公ではない。
その事実はユートに軽いショックを与えながら、それでもユートは受け止めていた。
お前もか。
(クソッ、早く巣に辿り着けよ! お前らの巣を突き止めるのは遅くなればなるほど主人公とイサカちゃんの時間が増えちゃうじゃん!!)
出発の際に『どうか、お気をつけて』と手を握って自身の無事を祈ってくれた少女に、ユートは心を射抜かれていた。
…………。
うん。
(本音を言えばここでコイツら全員斬り飛ばして片づけたいけど、明らかな異常事態だからこそ剣で片づけるわけにもいかないしなぁ)
主人公がヒロイン……かどうかはともかく、候補らしき相手と一緒に行動するのは問題ない。
だからこそユートは、目の前の任務に全力で挑んでいた。
(主人公を超えるには、主人公以上の働きをしなくちゃ。その上で主人公あるあるの窮地でなんとか活躍出来るタイプの奴になって!)
それフラグ。
(いい奴ポジを確保しつつイサカちゃんを守るんだ!!)
まごうことなきフラグ。
(――って、おっと?)
犬たちの動きが突然遅くなる。
足を緩めた――というよりは前に行きたいのに進めない、といった感じだ。
足を止めて、改めて風向きを確認する。
犬に万が一にも自分の匂いを嗅がれないように風下を確保して、音を立てずに手頃な樹の上に昇って犬が詰まっている先を確認する。
(……なる……ほど)
その先にあった物を視認して、ユートは静かに頷いていた。
(これが僕たちのパーティのファーストダンジョンか)
その先にはポッカリと、ウォードッグが同時に三匹か四匹ずつしか入れない程度の横穴が開いていたのだ。