自分を転生した世界の主人公だと思ってたら本物がいた×2   作:rikka

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第4話:ニーカ・エルスヴァル

「今回の次世代に向けた高難易度実務運営演習の班員としての選出、本当にありがとう。いやぁ、おかげでしばらく退屈しなくてすみそうだ」

 

 ビシッとした、一見役人と見えるスーツを着た女が気さくに二人のカスに挨拶をする。

 黒髪のショートヘアに黒いスーツ、それもパンツスーツにスレンダーな体系なので一見美男子にも見える彼女は、まるで執事のように一礼する。

 

「改めて。連合武装騎馬警察隊所属、ニーカ・エルスヴァル。この街にも繋がっている西部5番街道を中心に活動している者だ」

 

 ただしその腰にはやや細身の剣が下げられており。肩にはライフルバッグが掛けられている。

 主に国と国を繋ぎ、そのために物流が多く賊に狙われる事の多い大街道の保全や警備を担う連合国理事会直属の武装組織。

 それが連合騎馬警察。

 その名の通り馬に乗って街道を見回り、発生した賊や魔物の討伐に動く精鋭部隊の人間である。

 

「昨年我々の学校を卒業した後、連合治安維持軍の訓練校に入り優秀な成績で全課程をクリア。その後強い要望の声に応えて武装騎馬警察隊へ、と」

 

 商隊などを希望している非戦闘員の女の子をチームに入れる事に同意した二人。

 だが、そのためにはまず自分達二人が出張った時に女の子を守る人間が必要になると判断したのだ。

 

 そうしてリストを二人で挟んであれでもないこれでもないと話し合った結果、この女性が選ばれた。

 連合国家直属、国境に縛られず各国を繋ぐ主要街道を守る組織。

 

 武装騎馬警察隊というエリートの中のエリートである彼女をだ。

 

「騎馬警察は最近エラく忙しいだろう。誘っておいてなんだが、よく実習の候補者に立候補出来たな」

 

 武装騎馬警察隊の主要任務である街道警備は激務である。

 長大かつ商人の往来が多く、ゆえに街に比べて治安維持組織の監視の目に限界がある街道は盗賊団にとって美味しい狩場であるのだ。

 

 各商隊も、移動距離が伸びれば伸びる程荷物が増える。

 商人たちの食料、荷馬車を引く馬の飼料。その消費量を超える価値を生み出すための商品の数々。

 

 これらを狙う盗賊団と騎馬警察隊の捕り物、戦闘は今この瞬間にもどこかの街道で繰り広げられているだろう。

 

「ま、君達の言う通り騎馬警察は多忙。最近じゃ商隊用の宿駅の周りに住み着くようになった自由民の折衝もあって人手不足は加速。……あぁ、人だけじゃなく馬の調達も滞り始めてたか」

 

 いわゆる王子様系ヒロインといった容姿のニーカは、肩をすくめる姿すら嫌味には映らない。

 少なくとも色ボケ二人から見て今の所減点になる所が一切ない。

 

 なんならば髪に手櫛を入れたりため息を吐いたりという仕草一つ見せるたびに『10点! 10点! 10点!』と壊れたデジタル採点装置のようにひたすら加点しまくっている。

 

 二人揃って。

 

「そんな中で、君達の活躍がボクの上司の目に留まったのさ。クオン君、ユート君」

「僕とユート君の?」

「ああ、クオン君。近代屈指の魔術師。君は先日、この付近ではまず使う者のいない遠い異国の魔術を用いた盗賊団のアジトを突き止めた」

 

 本人としてはキャバクラやガールズバーでのトークネタを増やすくらいの感覚での勉強の賜物である。

 

「そしてユート君には先日仲間が世話になっている。商隊を逃がすために踏ん張っていた部隊の救出、加えて商隊を待ち伏せていた敵別動隊も斬り倒してくれた。おかげで無事に大商隊は隣国フラウロスに到着できた」

 

 本人としては合コン時にアピールするための見せ筋を育てる感覚で鍛えた結果である。

 

「で、まぁ君達も察しているだろうけど、なんとか卒業後にウチに来て欲しいっていう意見が上層部の中で増えたのさ」

「盗賊対策か」

「その前にやるべき事は山ほどあると思うんだが……まぁ、騎馬警察の仕事ではねぇな」

 

 突如として発生した魔物と戦う事もあるが、騎馬警察隊の主な相手は盗賊――すなわち人間である。

 

 本能のままに人や積み荷、馬を食い荒らす魔物も厄介者の代表である。

 

 だがそれ以上に隠れ潜み、機会を伺い、知恵を巡らして食料や交易品を狙う盗賊集団の狡猾さはソレを超える問題となっていた。

 

「戦力としてはそれなりの物になるという自負はあるが、まぁ入隊一年と少しの新入りで、かつ君達の学校の先輩だ。勧誘役としては妥当だと思ったんだろうさ」

 

 出会う事はなかったがね。と肩のライフルバッグを軽く揺らして見せる。

 

 万能型こそ主人公という思想の下に魔術を専攻したクオン。

 剣一本で勝ち抜いてこそ主人公という思想の下に剣を主に鍛え続けたユート。

 

 どちらも共通して最前線で動ける人間を目指したために、弓やクロスボウ、銃火器の扱いを主とする中衛タイプとの付き合いは薄かったのだ。

 

 そのため現在、二人はそちら方面の人脈作りを怠っていた事を全力で悔いていた。

 このレベルの女と知り合えるチャンスを見逃していたのかと。

 

 特に一応弓は使っていたユートは本気で悔いていた。

 

「僕は魔術一辺倒だったからね」

「ああ、こっちは剣だ。回復やら魔力付与(エンチャント)関係で術士とは多少縁があったが、銃士は……その、だな」

「銃士のボクが言うのもアレだけど、高価な上に当てづらいってイメージが根強いよね。実際初期投資からメンテナンスまでお金がかかるのは間違いじゃないし、弓術者に比べると精度には少し難がある」

 

 中距離から遠距離の、魔術への適正が低い人間が選ぶ武器としてはクロスボウの方が主流である。

 装填に時間がかかるという弱点こそあるが、弓に比べて調練が短くて済むというのが大きい。

 

「ただ、治安維持関連の武装組織だと騎馬警察じゃなくても馬に乗る事は多い。で、騎乗中に使う武器として銃はかなり使いやすいんだ」

「なるほど」

「言われてみればそうか。周りで馬に乗ってる奴は槍とか長戦斧(ハルバード)使う奴ばっかだったから思いつかなかったな」

 

 頑丈な木材と貴重な金属部品に加えて機構が難しいため整備性は悪く、魔術加工、物によっては魔力付与(エンチャント)まで付けた上に、手に合うようにカスタムまですればかかる資金は跳ね上がる。

 要するに銃とは、初期投資が馬鹿みたいにかかる武器なのだ。

 

「無論、騎乗射手だって珍しくない。けどボクはちょっと弓が苦手でね。地に足を付けてならともかく、馬上で揺られながらだとまずまともに当たらない」

 

 ただし、じゃあ弓はどうなのかと言えば当然問題がある。

 

「俺にはそっちの方がキツいな。矢の一本一本が結構な値段するじゃねぇか」

「だよね、僕も調べた時にはあまりの値段にびっくりした。最初は弓も鍛えておくべきかと思ったけどアレで手を引いて魔術に絞ったんだ」

 

 そう、矢が高いのだ。

 とにかく一本一本が高い。

 

 そのために販売目的で作成法を学び極めようとする学生も少なくない。

 常に量が求められ、しかも質によっては高値になるというのは制作(クラフト)方面で食べていきたい人間には美味しく見えるのだ。

 

 実際二人とも、小遣い稼ぎに矢作りを手伝っていたことがあった。

 材料の採取や運搬だけでもそこそこの稼ぎになるのだ。

 

「そういうことさ。弓の一射で銃弾一発の何倍もの金が飛ぶんだよ? それで当時の弓術教官に怒られ続けて、武器も持ち替えたのさ」

「……随分と騎乗戦闘というか騎馬警察にこだわりがあるようですが……なぜその進路を選んだんですか?」

「ああ、何と言う事はない。ボクの家が代々騎馬警察隊の出身でね。実際、馬術に関しては幼い頃から仔馬やポニーでお爺様から教え込まれていた」

 

 このニーカという女性は思っていた以上のお嬢様だったようだ。

 脳内チェック表に『家柄ヨシ!!』と二重丸を付ける二人は淑女の皆様にタコ殴りにされるべきである。

 

「そして仕事の話は父からずっと聞いていたんだ。飢饉が発生した地域へと運ぶ食料輸送隊護衛任務の話はとても記憶に残っている」

 

 この世界には、現代に比べて便利な所もあれば不便な所もある。

 その顕著な物の一つが食料問題とその保存、運搬である。

 

「そしてその大量の食料を狙ってきたのは当時計算高い事で悪名高かった盗賊団。それを父達が迎撃しその面々を討ち取った。その時の敵首魁の悔しそうな末路を臨場感たっぷりに演じてくれて――」

 

 恐らくはそれなりの名家なのだろう。

 二人の頭の中に勝手なイメージが沸き上がる。

 金持ちが住みそうな立派な屋敷の居間に、金持ちっぽい暖炉の前の金持ちっぽい立派なソファー。

 

「ボクも父の話のように――」

 

 そこに座る金持ってそうな髭の叔父様が、幼い彼女を膝に乗せて自分の武勇伝を話している。

 

「他人が一生懸命組み立てた計画を全力で踏みにじって、その悔しさ溢れる顔を見てやりたいと思うようになったのさ」

 

「「待って待って待って待って」」

 

 おっとぉ。

 

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