自分を転生した世界の主人公だと思ってたら本物がいた×2   作:rikka

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第9話:ファースト・インシデント

「山岳警備隊の人間が来ていない?」

 

 必需品の取引を終え、村の人間が思い思いに売買できる市を楽しんだその日の夜。

 宿として提供された屋敷の一室で、クオン達三人と教官のエリスは、イサカの話に眉をひそめていた。

 

「はい。先日の魔物の群れの事が気になりまして、売買の中で村の近況などを調べてみた所、定期巡回で来るはずの山岳警備隊が予定日を一週間過ぎても到着していないそうです」

 

 その名の通り山岳警備隊の役目は山岳地域の警備だ。

 クオンとユートは、ニーカへと視線を向ける。

 ここにいる人間の中では教官のエリスに次いで実務経験を積んでおり、かつ山岳警備隊とのコネクションもある武装騎馬警察隊の人間だからだ。

 

「もし巡回部隊に被害が出ているのであれば、不在の知らせが入り次第捜索・調査のための部隊が編制されるハズだ。とはいえ……もしその部隊が全滅、あるいは身動きが取れない状態であれば……」

「本部だか基地だかの人間が、そもそも異変に気付けない、か」

「緊急時は、味方を見捨てる形になってでも情報を知らせろって言うのが、ボクらや山岳警備隊でのルールなんだが……」

 

 クオン達三人と、その場にいたイサカは昨日の魔物の大群を思い出す。

 突然どこからか現れた、クオンやユートといった規格外でなければ軍隊を出動しなければ応戦すら難しい、災害に等しいそれを。

 

「魔物――特に昨日交戦したウォードッグのような、犬や狼のような存在は血の匂いに敏感だ」

 

 ニーカの言葉に、多くの魔物と交戦してきたクオン達とエリス教官は頷く。

 埋めるには量が多すぎたため、魔術制御に優れたクオンが焼却して灰にしていたが、血液の匂いは消せるものではない。

 

「寄ってくると思うか?」

「昨日見た群れが全てでなければね」

 

 ユートがチラリとクオンに目配せする。

 念のために村の周囲に結界と、探査魔法を撃ち込んでいるからだ。

 もし魔物が近寄れば、もし結界に触れれば、もしそれが破られれば、即座にクオンに伝わるようになっている。

 

 今のところは反応がないため、クオンは首を横に振る。

 ユートはそれを見ても安堵はせず、思考を深める。

 

(いよいよ最初のイベントが始まったな)

 

 ゲーム脳の思考の中に。

 

(……さすがだな主人公。油断はしないか)

 

 ユートのその仕草に、クオンは感心しながら思考を深める。

 

(そうでないと困るこれからのイベントが不安だったからな。いずれ引き摺り落としてみせるが、こういう時は頼もしい)

 

 下衆の思考の中に。

 

「そもそも、なぜ大量発生したんだ? ウォードッグの目撃報告は以前はどれほど?」

「……現地での採点官としてここらの情報には一通り目を通していたが、この山にはウォードッグやリザードマンの目撃報告はあまりない。山脈全体ではともかく……」

 

 今いる村があるこの山は、オーギュスト山脈という非常に長い山脈を構成する中の一つである。

 クオン達の学園やこの村が所属している『ナベリウス』と隣国『パロミラ』の国境にもなっているほどの長大な壁となっている。

 

「西部――パロミラ側の麓当たりには湧く事もあるそうだが、あそこにはそのウォードッグを食べる肉食の中型魔物もいるからそこまで増える事はない」

「逃げて来た個体がいたとしても、あそこまで大群になっているのはおかしいですね」

「……おいニーカ、そもそも魔物の大移動ってのはあり得るのか?」

 

 クオンとユートはこの場で――それどころか間違いなく世界でも最大クラスの戦力ではあるが、同時にただの学生でもある。

 教官という職業上行動範囲が制限されるエリス同様、外の知識には少し自信がなかった。

 

「……確かに珍しい事ではない。が、そういう移動の大群は大抵目につくものだし、元々そういう習性を持つものばかりだ。鳥や竜、いわゆる有翼種が多いかな……。ウォードッグのようなタイプは基本的に縄張りを張ってそこに居座るから……」

 

 基本的に魔物とは、長い年月をかけて魔力などの影響を受けて狂暴化した野生動物の総称である。

 そのため、種の習性を引き継いだ物も多くおり、魔物を専門に研究しているものは同時に野生動物の行動習性から研究をする者も珍しくない。

 

「まぁ、あり得そうなのならば、縄張りを他の群れに追い出されたとかかな。でもそれなら、やはりあれほどの数がいるのはおかしい」

「……縄張りの範囲が一気に広がった、という事はないかな?」

 

 主に対盗賊戦で経験を積んで来たユートに対し、クオンは対魔物戦で経験を積んで来ているため少々知識がある。

 実践訓練も兼ねて積極的に受けていたクエストの中には、縄張りを広げたか、あるいは移したかで姿を見るようになった魔物の一団を駆除――あるいは間引いて欲しいという依頼は秋頃の恒例なのだ。

 

「移動するのは大抵餌がなくなった時だから時期的におかしいし、でも数が増えて縄張りを拡大させたとすれば、余りに山岳警備隊やボクら騎馬警察が愚かでない限りまず見落とさない」

 

 つまり、やはり先日の群れは不可解な存在なのだ。

 教師であるエリスとしても、山岳での活動を教え込む実習として使うこの辺りの一定の安全は確保しておきたい。

 

「では、イサカ君の御者実習の帰りの護衛を終えた後、我々で一度この山の調査に入るというのは決定。で、いいんだよね?」

 

 クオンは、ユートが主人公だと思っている。

 ゆえにまずは彼の意思を確認しようと目配せする。

 

「ああ、問題ねぇだろ。あれだけの群れが万が一山を下りたら大問題だ。この山はティナス川の水源の一つだ。水場を伝っていけばデカい農村にブチ当たる」

 

 ユートは、クオンが主人公だと思っている。

 ゆえにその意向に逆らうのではなく、上手く乗ろうとしている。

 

(イサカのイベントが始まるとなれば、一度学園に戻ったあたりで私も着いていきます的なイベントが出るかもしれねぇ!)

 

 おう。ゲームならな。

 

(これを逃せば主人公にそのままポイントが流れるかもしれないしちゃんと動かないと! それに仮に別れるとしても学園のどこで活動しているか知れれば、山の調査を終えた後のイベントフラグが立つかもしれない!!)

 

 おう、ゲームならな。

 

 とはいえ二人は大真面目だった。

 これまでのやり取りから『イサカ・クェスター』という少女に何も引っかかる所がなかったからだ。

 可愛らしく、それでいて頭の回転も悪くなくて気配りも上手い。

 

 可能ならば彼女をパーティメンバーとして迎え入れたいとすら思っている。

 

「ふむ、ならば山を下りたら一度騎馬警察の支部に行ってくるよ。これだけの異常事態だ、ボクの所属する277だけじゃなく、他の部隊も連れて来れると思う」

「助かる、ニーカ。戦力はあるに越したことがないからね」

「せっかくだから大勢連れて来いよ。そうすりゃついでに村の連中も潤うだろうさ」

 

 なんだかんだで二人共ニーカとは上手くやっていた。

 良い所のお嬢さんという事もあるのか、距離の掴み方が上手いのだ。

 思っていたヒロイン感はなかったが、徐々に悪友のような立ち位置へと落ち着きつつある。

 

 今のチームに、二人が当初抱いていた不安はないのだ。

 

(あとは――)

(普通のヒロインさえいればなぁ……)

 

 この一点以外は。

 

「ハハハハハ。どうしたんだい二人とも、私の顔を見てため息ついて」

「待て、分かった。分かったニーカ、僕達が悪かったから――」

「ライフルバッグに手を伸ばすんじゃねぇよ!」

 

 

 

 そして翌日。

 夜明けと共に目覚め、日課の鍛錬をこなし朝食を口にした実習生一同は――

 

 

 

 再びウォードッグの大群に囲まれていた。

 

 

 

 村ごと(・・・)

 

 

「やれやれ、結界の外は犬・犬・犬か。あぁ、ベーコンをもう三枚頂いてもいいかな」

「てめぇはよく食うな、ニーカ。……まぁ、身体が資本だから当然か」

「それは僕たちも同じさ、ユート。さ、コカトリスの卵でオムレツ焼くから好きな具材を言ってくれ」

 

 

 

「「「「「いや先輩たちは落ち着きすぎですよね!!!!!?????」」」」」

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