ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
「ねえ、ゼノン君。ベル君ってもしかしてモテるのかい?」
「モテるのは強い冒険者って聞いてたんだがなー。俺は恋愛とかは縁がなくて詳しくねえし」
「なんでもできるって君の先生はそこら辺は指導してくれなかったの?」
「あの人(勇者アバン)、魔王から救ったお姫様(現女王フローラ)を十年以上放置してんだよなあ」
純愛かもしれんけど参考にならねえ。
「待ちぼうけお姫様伝説っ!?」
魔王倒した勇者はお姫様と結婚するもんじゃねえのかな?
やっぱり現実だとそう上手くいかねえのか、元勇者パーティーも隠居みたいな生活してたし。
大魔王バーンとの決戦以降には結婚してると良いけど。
「しかし、みつからねえな。よし二手に分かれるか」
怪物祭でサイフを忘れたシルを探すことしばし。
ヘスティアと合流した後に闘技場周りで観客の入場や誘導、【ガネーシャ・ファミリア】のサポートを行っていたギルド受付嬢であるエイナに尋ねたりしたがやはりわからないらしい(ベルの「お金に困ってそうなヒューマンの女の子」という説明だと伝わらんだろうに)。
幻霧呪文マヌーサでシルの姿形を見せようかと思ったが、ダンジョン外で非常時以外の魔法使用は問題になりそうだからやめておく。
いつかヘスティアとベルに小さな勇者ダイの物語を見せてやりたいものだ。
「でもサイフは一つですから持って無い方が見つけても意味ないような」
それはあるが、こんなに探しても見つからないなら本腰いれるべきだろ。つーか、
「一度【豊饒の女主人】に確認してくる」
もう祭りを見て回ってから大分たつ。サイフが無いことに気がついて店に戻ってる可能性は充分にあるのだ。
「それは確かに」
「うん、今まで買い物してないとか考えられないよね」
俺の言葉に二人とも納得して頷く。
二手に分かれて探す、ではあるが片方が店に確認しにいくなら無駄にはならない。
「俺ならお前らとの合流はすぐできるから、ちょっと確認してくるわ」
ベルに憑けたシャドーが居場所を教えてくれるからな。ベルの影を見れば了解したとグッと親指を突き上げている。
「じゃあ僕達は引き続きシルさんを探しますね」
「二人ともトラブルには気をつけてな(それとヘスティアはこのタイミングで渡しちまえ(ボソッ))」
「頼んだよゼノン君(ん、ありがとう)」
別れ際にヘスティアに耳打ちをする。せっかくのプレゼント、なるべくロマンチックに渡せると良いのだが。
さて、【豊饒の女主人】に行くつもりだが、その前に物陰で捜索呪文レミラーマを使うとするかね。案内用のパンフレットに書かれた簡易地図でどこまで分かるやら。
「ーー?」
なんだこの音は。
呪文を発動する瞬間、ひどく懐かしい、聞き覚えのある声が聞こえた。
つい数ヶ月前まではニワトリの朝の鳴き声よりも頻繁に聞いた。
「モ、モンスターだああああっ!!」
薄氷に過ぎない日常が砕け散る、音。
「面倒くさいことになってきたな」
さて【豊饒の女主人】の連中にはなんと言い訳するか。シル探索を一旦止め、この事態を収める為に現場へと向かう。
(雷鳴の剣、持ってくりゃよかった)
なんとでもなるが、あったほうがやっぱり楽なのだから。戦う義理なんてない、戦う義務は、恩恵刻んだからあるか?でも、なにもしないなんてありえない。俺は小さな勇者ダイの仲間だったのだから。
「ヘスティアとベルが心配だな」
一言呟いてから俺は駆け出した。
強靭な四肢を誇り高速移動する鹿のモンスター『ソードスタッグ』に接近し、拳を一打。
それはただの打撃ではなくアバン流牙殺法の技。モンスターは一撃をくらっただけの筈なのにそのまま灰とかす。
「【空】の技、相性良すぎだな」
思わずそんな事を呟いてしまった。
祭りの最中、闘技場から逃げ出したモンスターを葬ることしばし、俺は使った奥義とこの世界のモンスターとの相性について思い馳せる。
アバン流殺法【空】の技。
それは光の闘気にて邪悪なる形なき存在の見えざる核を捉え破壊する、氷炎魔団、魔影軍団に分類されるモンスター特攻の技である。
聞いた話によれば、ダイはアバン流刀殺法【空裂斬】にて氷炎魔団軍団長・氷炎将軍フレイザードを討ち取ったらしい(後に魔影参謀ミストバーンとのアレコレもあったが)。
つまりは【空】の技は【核】のあるモンスターには必殺技となり得る。
そしてこの世界のモンスターにはほぼ全て、暗黒闘気や魔炎気の身体でなくとも、魔石という核がある。
ならばどうなるかは自明。
モンスターに接近しひたすらアバン流牙殺法【空迅拳】を放てばそれで終わりだ。
アバン流殺法は、刀(剣)、槍、斧、弓、鎖、牙に分類され、それぞれ奥義がある。
ちなみに鎖は鞭などの縄状の武具全般を指し、牙は拳などの無手の殺法だ(爪やドラゴンキラーなどの特殊な形状の武器も含む)。
どの殺法も、地、海、空の基本道理は変わらないが、威力や間合い攻撃回数などそれぞれ利点欠点があり、使い分けると奥が深い。
尤も全てを会得したのは、師であるアバンを除けば俺ぐらいなものだろうが。
(冒険者としては使えないな)
冒険者の主な収入はモンスターを討伐した時に残るモンスターの核である魔石だ。ドロップアイテムなる素材もでるらしいが低確率とのこと。
アバン流殺法【空】の技は、その核である魔石のみを破壊する。
必ず殺せるが収入にならない。
冒険者泣かせな技というわけだ。
というか、モンスター討伐の証明すらできないのではないかと思う。
報酬欲しさではないから問題ないが、ベルに下手に仕込んだらトラブルの種になりそうだ。
「そろそろ切り上げて、ベル達を探すか」
戦闘音はここだけではなく、それも終結しつつあるようだ。他の冒険者が対応してるならオラリオでは最下層冒険者のレベル1である俺が戦っているのはやっかみを買うだけだろう。
そう思い身を翻そうとした所で、その戦闘が目に入った。
石畳を押しのけて生える、植物のようで蛇のようなモンスター、それと戦う少女達の姿。
それは先日【豊饒の女主人】にて遭遇した高位冒険者とされる者達だった。
「チッ」
魔法使いらしきエルフは負傷、褐色肌の姉妹は得物がない無手、高速で剣を振るっていた剣士はその武器を今、失った。
武器を失ったことで呆然とした少女が植物モンスターに襲いかかられる寸前、俺はその少女、ベルの想い人であるアイズ・ヴァレンシュタインを荷物のように小脇に抱えて攻撃を回避した。
「え?」
「うそ、今の動き」
「私達にも見えなかった」
植物モンスターは早いという程ではない。俺が知る最速の槍使い陸戦騎ラーハルトに比べたら止まってるようなものだし、一時期素材目当てで追いかけ回したメタルスライム達とは比べるまでもない。
だがこの程度の速度ですら、この街では驚かれるようだ。
「やるか」
任せてられんよな。
抱えていたアイズ・ヴァレンシュタインを褐色姉妹に放り投げ、この植物モンスターを仕留めることを決める。
攻撃呪文は論外。
この世界ではアンタレスとかいうサソリモンスターにしか使用していない為、威力の見積もりができておらず徒に都市を破壊するだけ。
アバン流牙殺法。
これも厳しい、先程のモンスターとは違い核である魔石が見つけにくい。接近し打撃を叩き込むのは無用なリスクを負う羽目になる。
あーくそ、やっぱり雷鳴の剣を持ってりゃ良かった。やはり武器はきちんと装備しておかないと駄目だな。
となればあとは一つだけ。
俺は祈るように両掌を合わせそこに闘気を一点集中する。
「なんで、ですか?なんで私達を」
そんな俺にアイズ・ヴァレンシュタインは声をかけてきた。
「あー、この人って打ち上げの時の」
短髪の少女が思い出して声を上げる。
「あの『ベートの尻スプラッシュ事件』の人ね」
長髪の方も気づいて呟く。
「あの日、仲間を笑った私達をなんで助けようとしてくれるのですか・・・・・・?」
エルフ少女は怪我で辛そうな声でそう言った。
理由、理由ねえ。
闘気は光る球体となり俺の魂と合わさりイメージにそって形を変える。
「「修行で得た力は他人の為に使うべき」、そう師匠に、一生の恩人から習った」
思い描くのは漠然とした勇者のイメージ。
光輝く剣を振るい、邪悪を討つ存在。
「綺麗事だよなあ。俺もそう思う、そう思い続けていた。馬鹿らしいだろ?しんどい思いして得た力を他人の為に使うなんて」
さらに浮かぶのは鳳、聖なる鳳だ。
最強の生物とはドラゴン。
けれどドラゴンは強すぎるあまり、最強ではあるが時に厄災としても語られる。
だからこその鳳。
勇者を導く聖鳥ラーミア、界渡りの神鳥レティスだ。そう聖なる存在として語られるのはいつだって鳳の方なのだ。
「でもな、アイツ等を、綺麗事を命懸けで貫く勇者達を見ている内に理解したんだ」
イメージは固まり、俺は闘気の光球を握りしめて振り抜いた。
「我が身を省みず他人を救う、そんな綺麗事を貫く姿は、なによりも格好いいってな」
そこにあるのは身の丈ほどの片刃の大剣。翼が如き刀身と鳳の頭を模した鍔のついた剣。
世界最高の名工、ロン・ベルクが『才牙』と名付けた俺オリジナルの技。
エクセリオンブレードはここに顕現した。
「終わりにするか」
この剣はその重厚な見た目に反して重さを殆ど感じさせない。
そこに俺の機動性も加われば、その動きは光の速度と称されるほど。
一閃。
少女達が見えたのはただそれだけ。
次に目に映ったのは地面から切り飛ばされ宙に浮いた食人花の破片。
「跡形もなく消えろ。
ゼノンウィンザード」
移動とともに切り払った食人花に向けて自身の必殺技を放つ。
アバンストラッシュアローと同じコンセプトの闘気放出攻撃。
それが食人花を欠片も残さず滅ぼし尽くした。
(地面に暗黒闘気も気配も残ってねえ。始末しきったな)
どうやら都市全体に身体を生え巡らす伝説のヘルバオムのようなモンスターではないようだ。
本体が隠れている様子もない。
(平和な世界だと思っていたが、存外そうでもないかもな)
エクセリオンブレードを血振りするように払った後に消す。光球をしまうように胸に押し込みながら俺はそう思った。
(さて後始末かね)
興味を持ったのか突っ込むようにこちらに来る少女達の姿に俺は疲労を感じてため息をついた。
とりあえず、傷ついてるエルフ少女にはホイミをかけてやるとしよう。
「てなことがあってな」
数日後【豊饒の女主人】。
怪物祭にて起きた騒動は無事鎮静化された。【ガネーシャ・ファミリア】とギルドを含めた他組織の迅速な対処が被害を最小限にとどめ、死者はもちろん怪我人も無し。いや怪我人に関しては俺がホイミしまくった記憶があるんだが。
そして俺がモンスターを葬ってる間に、ベル達もまた冒険をしたらしい。
シルバーバックという自身より格上のモンスターから主神を守り戦い抜くという冒険を。
「ゼノンさんって強かったんですね」
「ま、最強に届かん二番手程度だがね」
先日のモンスターはその遥か格下だった、それだけのことだ。
食人花と呼ばれるモンスターを討伐後、英雄譚が好きらしい褐色少女はエクセリオンブレードについてしつこいくらい尋ねてきた。エルフ少女もまた面倒で、傷を治したホイミに関して何度も訊いてきた。それらを適当にあしらったら褐色少女姉が、この件は個人的な借り、という形で終わらせてくれた。
まあ冒険者として生きる気のない俺に、ロキ・ファミリアとの借りを使う機会なんざないだろうが。
ただ気になることが一つ。
去り際にアイズ・ヴァレンシュタインが俺を見て、英雄、と呟いたことだ。
その思い詰めた表情から、彼女もなんか抱えているのだと推察できる。
「でも無事で切り抜けられて良かった。今日はそのお祝いだああああ!!」
ヘスティアの言葉に俺とベルは顔を見合わせ、手に持つグラスをカチンとぶつけ合う。
「そういえばベル、俺は前ここで言ったな。『冒険者なんてゴロツキは、功績上げたら英雄と称えられ、しくじり一つで笑い者になる』ってな」
周囲の客から聞こえた話題から俺はベルに笑いながら言う。
「その、なんでその時の話を」
この店での辛い記憶。
それを蒸し変えされて、お祝いに水をさされた気分になったベルは責めるようにこちらを見る。
「なあに、今のお前はどっちだろうなと思ってな」
その言葉で、ベルも周りを気にしだす。そして、【少年冒険者が危険を顧みずモンスターを打ち倒してくれた】と自身が称えられてることに気づいた。
「あっ」
涙腺が緩みだすベル。
前回とは違って喜びで。
「やったじゃねえか、英雄」
グラスを傾けながら称賛する。
一歩乗り越えた英雄候補を。主神であるヘスティアもまた誇らしげに涙を溢す眷属を見守っている。
今宵の酒は格別に旨い。
待ちぼうけお姫様伝説。
フローラ姫によるカール王国立て直し物語。
勇者なんてしっかり捕まえておかないと、すぐにどこかにいってしまう、は彼女の人生そのものを現しているように思う。
アバン流、空の技。
モンスター特攻だが、収入特攻。
儲けは死ぬ。
アバン流殺法、オリジナル技募集。
思いついた方は作者にメッセージを。
ベルとシルバーバック。
原作どおりです。
ステイタスは若干上かも。
ソードオラトリア介入。
レフィーヤはごめんなさい。
ティオナはゼノンに興味を持った。
ティオネは警戒。
アイズは、どうだろう?
この借りはすぐに使うことになります。