ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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「ねえ、フィン・・・・・・ベートに何があったの?なんであんな風に雑魚って人を馬鹿にするようになっちゃったの?」

 死にかけの雑魚と蔑んだアマゾネスの少女を抱きかかえたベートの姿にティオナはそんな疑問を抱いた。
 強さ至上主義の傲慢者。
 そんな人物とは思えない表情を彼はしていた。
 だからこそティオナはロキ・ファミリアのメンバーは気になった。
 あの狼人のその真意を。

「それはね・・・・・・」

 フィン、リヴェリア、ガレス、場所は違えどロキ・ファミリア三首領達から語られる彼の過去と秘められた想い。
 推察混じりのそれを聞いて、果たして彼ら彼女らは何を思うのか。


「(だからずっと説明してたのに)」

「(本人のいないトコで勝手に話してよい内容なのだろうか)」

 気づいていた治癒師の少女と、アマゾネスの少女を蘇生中の異世界の英雄はそんなことを思っていたとか。

 



第105話

 

 夜の歓楽街を【凶狼】が爪牙を振るい暗殺者共を狩りながら駆ける。

 血に塗れしその姿はまさに狩狼。

 クノッソスの鍵の回収、そしてロキ・ファミリアの戦力を減らす為に雇われた自らの死を厭わぬセクメト・ファミリアの暗殺者達はその役割を果たすことなく物言わぬ骸へと成り果てる。

 もう誰もやらせない。

 その想いがベート・ローガを駆り立てるのだ。

 歓楽街にいくつもあった闇派閥の拠点。

 それら全てが今回の件に関わっていたわけではないが、闇派閥との決別を決めたイシュタルにより一掃されつつあった。

 戦闘娼婦達からの襲撃に慌てて引き払おうとするも、自らの庭で逃げ道を残して置くほど歓楽街の支配者は甘くない。

 闇派閥の眷属達の多くは討ち取られ、闇派閥に所属する神々・邪神と称される者達も捕縛された(後日追放か送還予定)。

 しかしその中に、ベート・ローガを襲撃した主犯でありレナ・タリーの命の輝きを踏みにじった存在、闇派閥残党の首領格であるヴァレッタは居ない。

 かつてあの【勇者】フィン・ディムナの策謀から生き延びたしぶとさは半端ではないのだ。

 

「ここにも居ねえか」

 

 歓楽街から闇派閥が逃げることはできない。

 となれば遠からずイシュタル・ファミリアに狩り尽くされるのは目に見えている。

 なにせ戦闘娼婦にはあのフリュネがいる。

 最強のアマゾネスに勝てる者など闇派閥にはあの怪人くらいなものだろう。

 自分が何もせずにも終わる、けれどベート・ローガは納得できない。

 自らで始末をつけると決めた彼が再度動きだそうとした所で『ソレ』を見つけた。

 死体を無造作に引きずって残した血の標。

 いくつか角を曲がった先にあった闇派閥連中からの誘いを。

 

『凶狼、この先に来い!招待してやる!』

 

 血で描かれた共通語。

 さらに続く赤い矢印。

『罠』であることは明白、ベート・ローガの種族特性を警戒して場所は月の光の届かぬ地下だろう。

 死地に飛び込むも同義な状況だが今の彼がそれを躊躇うことは無い。

 

「行くのかい?」

 

 駆け出す背中に一つの声が届き、複数の気配を感じた。

 其処にいたのは全身鎧を身に纏い巨大な鉞のようなハルバードを両手に持つ、アマゾネスというよりメタリックカエル人にしか見えない最強のアマゾネスと砂漠の舞姫のような姿の武装したアマゾネス達がいた。

 ヴァレッタによる誘い。

 それは迂闊なことに彼女らも呼び寄せてしまったのだ。

 

「それがケジメだ」

 

 邪魔はするな。

 そう言外に語る狼人に戦闘娼婦達は雄の意地かとやれやれと呆れる。

 

「野暮な真似はしないさ。

 だが仕損じたらテメェ、スプラッシュじゃ済まないと覚悟しときな」

 

 ベート・ローガを行かせはする。

 だが仕損じたら自分らで片付ける。

 フリュネはそう告げて暫し待つことに決めた。

 

「(スプラッシュ?)仕損じねえよ。一匹残らず引裂いてやる」

 

 待ってくれるアマゾネス達に内心で感謝し、憎き敵の待ち構える場所へと向かった。

 

 

 

 歓楽街に未だに残る廃墟。

 巨大なソレは歓楽街の利権争いの末にイシュタルに敗れたファミリアのホームである。

 神が送還された場所でもあることから縁起が悪いと住民達からの忌避されたその地を闇派閥は拠点の一つとしていた。

 濃厚な血痕という導に従い、地下へと足を進めればそこには柱廊の如く太く長い柱が林立する広大な空間となっていた。

 

「よく来たなぁ、【凶狼】!!」

 

 影に潜む不快な気配を察知していたベートのもとに、女性とは思えないでかい肉声が響き渡る。

 フィン・ディムナへ報復することこそを第一とするイカれた女ヴァレッタ。

 

「テメェ・・・・・・」

 

「ちゃんと一匹で来てくれて嬉しいぜ!やっぱり怒り狂った畜生ほどやりやすい相手はいねぇなぁ!!」

 

 狼人の殺意も狂女を喜ばす刺激となる。

 その殺意が無力なまま散ることを女は確信しており、その瞬間こそが最高の娯楽であるからだ。

 

「・・・・・・怒り、か」

 

 その感情はベート・ローガの中に確かにある。溢れ出る激情が心を飛び越えその身を焦がすかのようだ。

 だが、

 それでもどこか醒めた、冷静な意識もある。

 

「そいつは、無力な自分にだよ」

 

 その激情が自らにも向いているから。

 

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!!さぁ、てめえを殺し、その死体を飾り立てて彩ってフィンの野郎に届けてやるよ!!」

 

 その叫びが開戦の合図となり同時に左右の壁から闇派閥が使役するモンスター『食人花』が飛び出す。

 ロキ・ファミリアの二軍すら手を焼くモンスター。それらが複数匹同時に襲いかかれば第一級冒険者すら危うい。

 ・・・・・・筈だった。

 空気を弾くような乾いた音が地下空間に響き渡る。

 

「アバン流牙殺法【空迅拳】」

 

 ベート・ローガの呟きと共にその拳・牙から打撃と闘気が放たれる。

 そしてそれはモンスターの核、食人花の魔石を一寸の狂いなく打ち砕く。

 

「な、なあっ!?」

  

 魔石を失い崩れ落ちる食人花の群れを前にヴァレッタと部下であるタナトス眷属達は後退る。

 

「・・・・・・てめぇらのおかげだよ」

 

 握られた拳を見ながらベートは語る。

 

「この手からアイツの命が、生命の輝きが溢れ落ちたから、見えたんだ」

 

 アバン流【空】の奥義。

 その真髄たる生命エネルギーの感知。

 ベート・ローガはソレを、命の輝きの喪失により掴んだのだ。

 

「だから今の俺は」

 

 ベート・ローガの生涯は喪失ばかり。

 その歩みは傷だらけ。

 そして彼は、

 

「全てを斬れる」

 

 傷を負うごとに強くなる。

 だってベート・ローガは歩みを止めないから。その傷ついた身体で今度こそは失いたくないと戦場に身を委ねるのだから。

 ゼノン作の『炎の爪』を装着した右手を突き出し、ベート・ローガは自身の魔法を謳いだす。

 

「【戒められし、悪狼の王】」

 

「【一傷、拘束。二傷、痛叫。三傷、打杭。飢えなる涎が唯一の希望。川を築き、血潮とまざり、涙を洗え】」

 

「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りと憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

 

 その詠唱をヴァレッタは闇派閥は止められない。戦闘の最中で使われる並行詠唱ではない、目の前で構えて行われるソレを止められない。

 隙だらけのその姿を前に動けない。

 

「【世界を憎み、摂理を認め、涙を枯らせ】」

 

「【傷を牙に、慟哭を猛哮に、喪いし血肉を力に】」

 

 それは何もおかしくはない。

 そう、

 

「【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

 

 大きく口を広げ、今まさに食いつかんとする猛獣を前に生物としての差を感じた弱者達が動けるはずも無い。

 

「【その炎牙をもって、平らげろ】」

 

 もっとも動けてベート・ローガを傷つけても事態を悪化させただけだろう。

 

「【ハティ】」

 

 この魔法はそういうモノだから。

 詠唱の長さに比べ短い魔法名。

 しかし発動したその魔法は膨大な灼熱となり怯え萎縮した闇派閥達を絶叫すらさせぬまま焼き滅ぼす。

 

「な、なああああああ!!!?」

 

 汚い悲鳴が灼熱地獄と化した地下空間を震わす。けれどその悲鳴に答える者はもう残り僅か。

 

「うるせえ」

 

 ベート・ローガの牙が動く。

 闇派閥の眷属達はそれだけで死に絶える。

 かつてより威力の増した炎。

 それはゼノンによる修行が原因であることは明白だった。

 

「ふ、ふざけんな。ふざけんなよ【凶狼】オオオ!!」

 

 ヴァレッタの張り巡らせた幾つもの罠は何も意味を為さずに焼き消える。

 生き汚くしぶとい狂女に死の足音が迫ってくるように感じた。

 

「まだ、だ。あのスカした勇者に、フィンの野郎にまだ何もやれてねえ!!こんなところで死んでたまるかよっ!!」

 

 灼熱に焼かれながら逃げ惑う女の命乞いのような叫び。

 これがレベル5に至った女傑とは思えぬみっともない姿。

 

「誰だってそうだ」

 

 けれど如何に哀れな姿であろうとも、こればかりは同情に値しない。

 

「テメェに殺された連中にも、

 やりてえことはいくらでもあったんだ!!」

 

(こんなクソと一緒にいたいとかな)

 

 この数日まとわりつかれたアマゾネスの少女の姿を脳裏に過ぎらせ、ベート・ローガは構えをとる。

 ゼノンから習ったアバン流の奥義、

 その先の技を。

 

 

「アバン流で一番とんでもないトコはさ。

 奥義すら進化の余地があるってことだ」

 

「【地】【海】【空】三つの道理を極めた先の全てを断ち切る必殺技。

 けれどその奥義にさらに工夫ができる。

 ダイのギガストラッシュやアバンストラッシュクロス、俺の四大奥義。

 アバン流を極めたその先がある」

 

「だからまあ、【空】の技を極めて、アバンストラッシュができると確信したら試してみろよ」

 

「ベート・ローガだけの必殺技(ストラッシュ)をな」

 

 

 習った奥義に自らの魔法を重ねる。

 自らの身を焼きし炎が、贈られた武器へと集まる。

 そうこれが、

 

「【ヴァナルガンド・ストラッシュ】!!」

 

 牙むく炎の巨狼が一閃となって解き放たれる。

 ベート・ローガだけの必殺技。

 大炎哮がヴァレッタの身体を飲み込み、瞬く間に漆黒の灰となって燃え尽かせる。

 その一閃は地下空間をぶち抜き空まで届き、オラリオを覆う雨雲を消し去った。

 

「終わったか」

 

 再び傷を負い強くなった狼人。

 報復を為したその姿はかつてと同様達成感と同時に虚脱感に包まれていた。

 

 

 





 補足・説明。

 終わりませんでした。
 でもキリが良いのでここまでです。
 あとはエピローグを書いてようやく終わりですね。
 原作よりあっさりめなヴァレッタ達。
 原作よりも強くなったので当たり前ですが、もう少し描写すべきか悩みました。
 でも書いても苦しみシーンや叫ぶとこばっかなんですよね。

【空】の技、習得。
 消えゆく生命の輝きが見えたからです。生きてますが(ネタバレ)。

 アバンストラッシュ。
 できるけどその先にしました。

 ヴァナルガンドストラッシュ。
 ハティを纏うストラッシュです。炎の爪だとギリギリ耐えられます。
 なお獣化したらさらに威力あがります。
 
 アイズ。
 実は後方でスタンバってますが、なんか大丈夫そうだからフリュネの背中にしがみつきながら見てました。
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