ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
2先生ですが、全ての課題を突破して追い詰めると全身からエネルギーを放出したモードになります。
名称はスーパーハイテンション、覚醒、バースト、狂化、など悩んでいます。
これは、ピンチになっても覚醒して勝利したダイ達の底力を再現したモードです。
ラウル達は泣いていい。
「ーーーできたっ」
狭い厨房から黒い煙が上がっている。
様々な食材、様々な調理器具が焦げたその惨状は、料理の迷走のほどを物語っていた。
前掛をかけた少女(正体はフ◯イヤ)、薄鈍色の髪を揺らすシルは厨房で満足げに笑みを浮かべる。
同僚の店員や女将のいない厨房の中で、彼女は完成した料理、微妙な色付けのミートパイや危うい香りが漂うサンドイッチを味見もせずに容器に詰めていく。
詰め終えたそれらを更に大きなバスケットの中にしまった。
その後、鼻歌混じりに着替えバスケットを持って部屋から出ていった。
「今日は喜んでくれるかな?」
想い人の可愛らしい顔を思い浮かべ、恋する乙女は外に出かけるのであった。
「(あの食材でなんであのメニューに!?)」
それらを見届けた護衛担当の都市最強冒険者であるお菓子のおじさんはその調理風景に恐怖に似た戦慄をして、去ってゆく彼女の護衛を同胞に引き継いでから厨房の掃除を開始するのであった。
本来はフレイヤ・ファミリアの非戦闘員が行う役割であるが、極稀に状態異常が起きてしまう場合があるので毒耐性のある幹部陣が厨房の掃除(後始末)をするようになっていた。
「(ミアが来る前に片付けねば)」
レベルでは自身が上ではあるが逆らえない存在。そんなオカンな元団長が仕込みを開始する前にオッタルは大急ぎで調理器具の焦げを洗うのであった。
あと差し入れ対象であるベル・クラネルと味見役の孤児院の子供たちとこの店の店員達に胃薬と高級菓子を差し入れすることを心に決めていた。
「黒いミノタウロスに冒険者の装備を奪うモンスターねえ」
ギルド本部で今月の税金を払いに行ったベル達がそんな噂話があったと伝えてきた。
ギルド本部のロビーにある巨大掲示板。
冒険者依頼の羊皮紙や各商業系派閥の新商品告知の報せが張り出されるそこは自然と冒険者達が集まる。
掲示板自体も情報収集にはありがたいが、集まる冒険者達の何気ない会話からも得られる情報は多い。だからベル達もギルド本部に行くたびに必ず寄るそうだ。
新商品告知だがウチのうごくせきぞうを載せても良いのだが掲示板に貼り付ける広告代はかなりの額なのでやっていない。
しなきゃいけないほど売上に困っていないという理由もあるが。
「目撃情報は『下層』が主らしいのでまだ遭遇することはないと思いますが」
「気をつける必要はあるか」
「俺も客からそれとなく聞いてみるわ」
今のお得意様であるガネーシャ・ファミリアなら何か知っているかもしれないしな。
俺の言葉にベル達は真剣な表情で頷いていた。
ベルから散歩に誘われた。
どうやらベルはヘスティアやヴェルフ達に「最近潜りっぱなしだから、たまには休め」と注意されて強引に休暇となったそうだ。
ダンジョンに毎日のように潜ることはどうやら普通ではないらしい。
憧憬対象であるアイズに追いつく為に頑張るベルのその行為は注意される行動だったようだ。
「そんなもんかね?」
休む。
という行為は俺にとってもあまり馴染みがない。昔からやりたいことだけをしていたからだろう。
かつての俺のようにひたすら修行し地力を上げようとするベルの行動は理解できるが、休息なんて考えたこともなかった。
そんな俺の考えを告げたら俺まで一日仕事禁止を言い渡され暇となり、ベルとぶらりと街を歩くことになった。
まあ、皆が俺のためにはりきって夕飯を作ってくれるというのは楽しみではあるが。
「住んでるのに知らない場所ばっかりです」
「ベルはホームとダンジョンの往復ばかりだったからな」
オラリオに来てから三ヶ月。
俺は色々やるからオラリオの町並みは把握しているがベルはそうではない。
すれ違う顔馴染みに挨拶しながら興味深げにアチラコチラを見るベルの後を追った。
「黒白兄弟のオラリオ巡り、尊い」
なにやら興奮する変態もチラホラいるが。
「美味しいです、ゼノンさん!」
散策しながら道端の露店で串焼きなどを購入し歩きながら食らう。そういえば昔は外面気にしてやらなかったよなと過去を思い出す。
その露店でベルを【リトル・ルーキー】だと気づいた獣人の店主がオマケしてくれたりと色々ありながら、俺達は休暇を満喫する。
「・・・・・・・・・よく考えたらお前アイズ誘ってデートすれば良かったんじゃ」
「そんなことできませんよっ!!」
オラリオ中央広場の隅にあるベンチにて小休止していた俺はふと冷静になってそう呟いた。
休日にはデート。
どこかで聞いたことのあるフレーズを思い出しながらベルに言えば顔を真っ赤にして無理だと叫ぶ。
他派閥ではあるがなんやかんやあって親しい間柄なのだから不可能ではないと思うが。
「まあアイズのことだし、じゃが丸君屋台巡りになりそうだが」
想像したら口の周りと手がテカテカしそうなデートだな。
「僕はまだアイズさんの隣には立てませんよ」
一歩ずつ前には進んでいるがまだ遠いその場所にベルは思いを馳せていた。
「だったら首輪とリードをつけてベルがアイズの前を歩けば」
「デートが何か知ってます?」
いやだってアイズが割とベルをお気に入りのペット認識だから。
そんなガヤガヤと会話をしていると、ベルが白のワンピースと麦わら帽子姿のシルを見つけた。
あの姿の方がフレイヤ(女神)フォームより自然だよなあと思っていると、ベルが好奇心にかられてシルの後を追おうと言い出す。
なんでも先日の『豊穣の女主人』でリュー達店員がシルのプライベートは住んでる所すら知らず色々と謎だらけだから気になると言われたらしい。
正体を察してる俺からしたらそらそうだろとしか思わないが、気にはなるようだ。
こちらを窺うベルに好きにしんしゃいと告げて、シルを尾行する姿をのんびりと追った。
しかし今日の護衛は副団長のようだ。
鋭い敵意がこちらを刺し貫いてきている。
速さ自慢の槍使い。
誰かさんを連想させる使い手だ。
敵意は向けてくるが襲いかかってはこないようなのでこちらも反応しないようにつとめる。
シルを尾行することしばし。
貧民街であるダイダロス通りの中にある建物、かつてのヘスティア・ファミリアホームを思い出させる『教会』へと辿り着いた。
「なにを祀ってるのかねえ」
元の世界の教会では名称不明な『人の神』だった。しかし神だらけのオラリオではどの神を信仰しているのやら。
シルが教会の中に入ったのを確認し、すこししてから後を追う。「失礼します」とベルが呟くながら入ると中はかなりの広さ。急事態には避難所になるのも納得の間取りである。
「・・・・・・だれ?」
すると金髪エルフの少年がベルに話しかけていた。貧民街に子供、か。
これまた昔を思い出すな。
「おいっ、ルゥ。でていったらシル姉ちゃんに見つかってっ、誰だっアンタら!?」
アレは子供達になにをしでかしているんだろう。見つかったらヤバい状況なのが本人の必死さから伝わってくるのだが。
「シルの彼氏とその保護者です」
「なにを言ってんですかゼノンさん!?」
自己紹介は大事。アバン先生も言ってた。
それにたまにはシル(フレイヤ)を応援してやるのも悪くないだろう。
「シル姉ちゃんの彼氏・・・・・・・・・・・・」
「違うからね!?」
ライと呼ばれたその少年はベルの(誤)情報をゆっくりと咀嚼し、
「お前が元凶かアアアっ!!」
必死さ極めた全力の叫びを上げたのだった。
「何のですかっ!?」
「試食じゃね?」
暴力を振るわれた形跡がないのに逃げようとするならばそれぐらいしか想像できない。
こうして俺とベルの休日の残り時間は、マリア・マーテルという年配の女性が開く孤児院で過ごすことになった。
というかここ、バーチェが読み聞かせに来てる孤児院だったわ。
「お前が、お前がっ!!」
「えっ?えっ?」
泣きながらベルへと掴みかかるライ少年の姿を見ながら今度バーチェに差し入れ持たせようと俺は決めた。
補足・説明。
原作8巻のシル編(?)です。
彼女のメシマズ被害者さん達の叫び回でしたね。
原作では、シルという謎の少女とベルの物語で、当作ではゼノンがフレイヤと察しているため苦労してる人達の描写が加わります。
省こうか悩みましたが、この孤児院ってウィーネ編で重要なんですよね。
ちなみに豊穣の女主人の同僚の皆さんも試食被害者です(笑)。
孤児院。
施設出身者は皆冒険者となり寄付をしてくれてましたが、今は生きて帰ってきた者はいないそうです。
今の子供たちはだから『学区』入学を目指しているそうです。
ゼノンは実は恋する乙女を応援するスタンスです。だから派閥大戦で彼らしくなく辛い思いをする羽目になります。