ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
でろりんの実力がダンまちだとかなり上位なんですよね。ダイの大冒険でもイオラ使える剣士なんてそういないから人類上位二十人くらいには入りそう。
血塗れの白兎みたいな少年が叫びながらギルドを爆走したらしい。
食堂は酒場ほどではないが情報収集にはうってつけ、空腹を満たす冒険者達は何気ない日常の刺激としてこういった面白おかしい噂話をしては思い思いの一時を過ごすのだ。
(つーかそれ、ベルじゃね?)
白兎=ベル・クラネル。
という連想はどうかと思うが、叫んだセリフが本人が世話になっていると言っていた「エイナ」なことからも明らかだ。
確か冒険者登録をベルと共にした際に担当してくれた人物だった、世話焼きな美人でベルをずいぶんと気にかけているようだが、俺はベルを一人でダンジョンに潜らせていることで大層嫌われている。
別に養ってもらっているわけではないのだが。
まあ端から見たら腰抜けに映るのだから仕方ないことだろう。
ベルの冒険に手を貸す気はない。
昔ならばともかく獣王クロコダイン、ブロキーナ老師の弟子であるチウ、オリハルコン生命体ヒム、神の涙ゴメちゃんを知ってしまい情が湧いたのか、金儲けの為のモンスター討伐に抵抗があるのだ。
襲いかかってきたモンスターに情をかける気はない。冒険者のモンスター討伐に異議を唱える気もない。だが自分で選べる範囲ならば殺さないで済むなら殺さないという手段を取りたいのだ。
まあ食うに困ったら殺るけどな。
店長から料理の腕前を評価されているから当面仕事に困らなそうだから大丈夫だが。
「お疲れ様でしたー」
仕事を終え、まかない飯をいくつか包んでから帰路につく。
ヘスティアファミリアのホームである廃教会地下は3人分の食事を用意するのは手狭なのだから。
(建て直すにも金がなあ)
屋根の大部分が崩れ落ちている教会。居住できる場所は棚の裏から入る隠し部屋の地下室のみ。地上箇所も使えれば良いのだが半壊している為それも難しい。大工の真似事くらいはやろうと思えばできるので直せなくはないが面倒でもある。
(いっそ教会そのものを暗黒闘気でモンスター化しちまうか?)
廃教会に暗黒闘気を注ぎ込めばうごくせきぞう、ゴーレム、どろにんぎょう、マドハンドに近いモンスターになりそうな気がする。
光と闇、両方使えた方が格好いい。
そんなノリで会得した暗黒闘気は中々に便利だ。使い方を工夫すれば、氷炎魔団と魔影軍団の大半のモンスターを再現することができるのだから。
(暗黒闘気を定期的に注ぐだけで自動修復し、防犯面でも意思があるから安全)
「アリだな」
「ナシだよ」
闘魔傀儡掌の感覚で右手に暗黒闘気を集中しだした所で俺の呟きに答える少女が現れた。
見た目だけは美少女のヒトとは異なる存在『神』だ。
「ただいまヘスティア」
「おかえりゼノン君」
神の眷属入りして良かったことの一つ、それがこの挨拶だ。生まれてからアバン先生に出会うまでは周囲は敵しかいなかったし、アバン先生に弟子入りしてからは別れて行動なんてなかったからこの挨拶はしたことがない。独立してからは一処に滞在する機会は少なく、親しい相手もいなかった。
帰れる場所、異世界へと渡り俺が生涯ではじめて得たものだ。
「それはそうと、なんか良くない気配を感じたからわざわざ出てきたけど、何をしようとしたの?」
帰ってきたことは嬉しいと態度で示しつつも表情を引き攣らせているヘスティア。
そうか暗黒闘気ってわかるやつはわかるのか。
「ちょっとこの廃教会をモンスターにしようかと」
隠すことではないので正直に話す。
「君がモンスターに嫌悪感がないのは聞いてるし、そちらの世界とは大分常識が違うのはなんとなくわかるよ?でもねこっちの世界だとモンスターを生み出すなんて魔王の所業だからっ!!」
ぶっちゃけエルフと魔族の違いがわからないし、動物の耳やら尻尾の生えた亜人には違和感を覚えていることは黙っておこう。
まあこっちの世界はモンスターには魔石の有無というわかりやすい基準があるのだが。
「何言ってんだ、俺の世界でも魔王の所業だよ」
モンスターを生み出すなんてハドラーとバーンやミストバーンくらいしかできないんじゃないか?
「それができる自分を君自身はおかしいとは思わないのかい」
「あの短い期間で奇跡を見まくってたから何がおかしいのか麻痺はしてるな」
勇者ダイの歩んだ道は何か一つでも違えていたら半ばで潰えていたであろう奇跡の旅。
強いから勝ち続けた俺の旅とは違うのだ。
「とにかく廃教会のモンスター化はやめておくれ。いや君を地上部で寝かせている僕が悪いのだけど」
「気にするな、俺の人生は屋根のある場所で寝る方が少なかった」
スラムの物陰も、テントの布も屋根とは言わん。
「罪悪感で殺す気なのかなっ?」
「あと俺は朝が早いからな」
床で寝ても良いが、毎朝の鍛練の際に寝てる二人を起こさぬように外にでるのは手間だ。
「ううう、僕はベル君を溺愛してる自覚はあるけどゼノン君を蔑ろにする気はないんだよお」
申し訳なさそうにうなだれ特徴的なツインテールをへたらせるヘスティア。
同時期に眷属とした二人。
けれどヘスティアがベルにべったりなのは誰の目にも明らかだからなあ。
「聞く限りだと運命的な出会いみたいだからしょうがないだろ?それに俺は眷属にならなくてもそのまま生活できたし」
ベルに誘われて一応は眷属となったが、食堂の店長には止められたくらいだしな。危険なことをするくらいなら住み込みで働かないかって。
「ほれ、あんまり話していても仕方ないだろ?まかない飯も貰ってきたから下で食事にしようや」
「ジャガ丸君ばかりですいません」
「責めてねえよ、美味いだろジャガ丸君」
崩してミルクで溶けばスープになるし、チーズをかけて焼けばグラタンにもなる。
落ち込むヘスティアの首を猫のように掴みながら地下へと向かった。
「あとね、ベル君が浮気したの」
「寝てから言え」
お前とベルはポップとマァムとメルルのような微笑ましい関係にすら辿り着いてないだろ。
ベルはヘスティアを異性より母親みたく思ってるフシがあるしな。
「僕はベル君と寝るぞゼノン君!!」
「ハイハイ」
実行した所で恋人というよりそれは兄妹が寝てるようにしか見えないだろう。
その後、ヘスティアから今日ベルにあった出来事と発現したスキルについて教えてもらった。
【憧憬一途】
ミノタウロスから助けてくれた少女への想いから生まれた力。
懸想が続く限り早熟するという成長しやすくなる反則のような能力。
今日のベルの冒険はそれだけのことだったんだろう。
まあ成長に関係するレアスキルらしいが聞く限りだと共に大魔王達と戦った俺の仲間ならけっこう発現しそうなスキルだと思う、ポップに命懸けで惚れてる占い師のメルルとか。
「下界の子供達は本当に変わりやすいんだね、不変の僕達神とは違って」
「恩恵を与えてるのはお前らだろ」
機会があれば人は変わる。
スラムの子汚いガキが、勇者に手を引かれて英雄と呼ばれるようになったように。
その後、地下に行きヘスティアとベルと三人で食卓を囲い、団欒の一時を過ごした。
翌日、ヘスティアと同衾していたベルが大慌てで走り出す姿を朝の鍛練時に見かけた。
「若いねえ」
ゼノン(十九歳)。
恋愛経験はないが女性経験はある青年。
ヘスティアとの関係は悪くはなく、帰る家をくれたと感謝している。
ヘスティア自身もダンジョンに潜らないことを尊重している、ただちょっとはベル君を助けてほしいなあ。とは本音では思ったりする。
実は暗黒闘気も体得していて、氷炎魔団系、魔影軍団系、さらには不死騎団系モンスターを作成可能。
ベル・クラネルが本当に強くなりたいならそのうち訓練相手として作ってやろうかと思っている。
もっとも、岩すら斬れない実力では教える段階にすらないと判断している。
多才かつ、英雄願望によりあらゆる分野に手を出していて暗黒闘気もその一つ。
なお暗黒闘気に忌避感は一切ない。
光のように心まで綺麗な人は存在するが、人間という種を綺麗だと思ったことは一度もない。