ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 ゼノンが大地斬を見せてから、ベルは何度も見せて欲しいとせがむようになりました。
 どうせ石材を切り出す必要があるからやって見せましたが。
 剣と手刀どころか、槍、斧、鎖、弓、握り拳で同じことが出来るゼノンにベルは最終的に宇宙猫状態になりました。



第23話

 

「逃げ出すことしかできない、って言われたことを気にしてんのか」

 

 ああ。

 なんでこんなことを思い出すんだろう。

 

「気にすることはねえと思うがな。ダンジョン潜るなんざ利益目的なんだしよ」

 

 アイズさんとの訓練。

 その後にゼノンさんと話をしたことを。

 

「逃げるのがよくないってか?まあ追うやつに後ろ向けるなんて普通に危ないよな。背中に目なんてついてねえし」

 

 ゼノンさんは僕が気にしていることを、その悩みを理解はしても実感できないようだった。

 

「だったら、逃げれば一つ進めば二つ手に入る、と思えばどうだ?そうすりゃ逃げる抵抗なんざなくなるだろう」

 

 ゼノンさんは逃げることを気にしていない。

 そんなことを気にするのは周囲の目を気にする場所で生きてきたからだと、まるで一人で生きてきたかのように、村や町の集落で過ごしてなかったかのように言う。

 彼の過去。

 時折、まるで宝物のように語られる思い出に、そこに出てくる人達に嫉妬をしたこともある。

 だけど、

 宝物のような思い出以外の記憶は、きっと深淵のように真っ暗なんだと感じた。

 

「でもな、アイズは逃げ出すって言ってたけどよ」

 

 そんな過去を背負っているのに、背負っているからか。

 

「俺はお前が逃げるとは思えねえよ」

 

 ゼノンさんの言葉は、

 

「誰かがそこに居る時、お前は、ベル・クラネルは恐怖を噛み締めて絶対に一歩も下がらない」

 

 僕の心を支えてくれる。

 

「誰かの為に立ち向かう、俺の知る、俺の憧れたアイツラの持っていた物がお前にはある」

 

 だから僕は、

 

「本当の勇気ってやつがな」

 

『オオオオオオオオオッ!!』

 

「お前に立ち向かうっ!!お前に勝つんだ、ミノタウロス!!」

 

 死地にだって、足を踏み出せるんだ。

 

 さあ、冒険をしよう。

 冒険者ベル・クラネルが冒す、初めての冒険。

 勝てない。

 そんなことは田舎生まれな無知な僕にだってわかっている、理解している。

 でも関係がない。

 猛々しくダンジョンで雄叫びをあげる狂牛は、大剣手に持つ片角のミノタウロスは、まさに絶望だ。

 先人たちが自ら血と犠牲で見出し定めた適正レベルに僕は至ってはいない。

 それでも、

 

「僕はお前に勝たなきゃいけないんだ!!」

 

 リリが、他の誰かが、コイツに殺されないように、犠牲にならないように。この場にいる僕が立ち向かって倒さなければいけないんだ。

 

「逃げれば一つ進めば二つ、かあ」

 

 そうだ二つ得るんだ。

 

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「勝利とリリ達の安全、両方頂くよ」

 

 笑おう。

 大好きな英雄譚に出てくる憧れの英雄達のように。強がって笑顔をつくる。

 

「ファイアボルトオオオ!!」

 

 そして、まだ戦う姿を見たことのないあの人は、ゼノンさんは、きっと事もなげに越えてゆくんだろう。

 余裕あるその姿に僕は憧れているのだから。

 

 魔法をぶつけてミノタウロスの視線を遮り、その強靭な肉体へと突っ込む。

 

「リリ、逃げて。君は逃げるんだっ!!」

 

 彼女の持つ装備ではミノタウロスにダメージは通らない。かつて所持していたらしい魔剣でもきっと通じないだろうな、と思う。

 だから逃げてもらう。

 僕は見ててもらって勝てるほど、強くはないんだから。

 

「あああ、そうだ。助けを、助けを呼んできます、ベル様!!だから、だからそれまで耐えて、死なないでくださいっ!!」

 

 バックパックを放り捨てて彼女は駆け出した。止めどなく涙を流したその目に勝機という光を抱いて。

 足音が通路の奥に消えてゆく。

 接近した僕は、ブオンブオンと振り回される丸太のような腕を掻い潜るように避けていた。

 

(目を閉じるな逸らすな)

 

 ギュッと閉じそうになったら顎に力を入れろ。当たったら傷を負う、当たらなければ傷は負わない!!

 ミノタウロスは強い。

 確かに僕より強い。

 でもアイズさんなら当たり前のように出来た、僕に攻撃を命中させることを、コイツはまだ一度も出来ていない!!

 右手にヘスティア・ナイフ、左手にバゼラードを握り交差させながら前を見据える。

 

『ヴォオオオオオオッ!!』

 

 繰り出される左ストレートをバゼラードで横に叩き逸らす、追撃の大剣は片手では防げないので回避。

 前へ、前へ!!

 ファイアボルトが決定打にならないなら下がる意味はない。下がっても牛のモンスターであるミノタウロスの突進なら追いつくなんて容易い。

 前に出て、短剣で切り裂いて、そこにファイアボルトを当て続ける。

 今の僕にはそれ以外の勝機なんてないのだから。

 ミノタウロスの鋭い両眼と僕の双眸が交差する。至近距離でお互いしか見えてない状況、まるでダンスを踊ってるみたいだと、らしくないフレーズが頭に浮かぶ。

 大剣が地面を揺るがす度、砕かれた鋭い石片が肌と黒いインナーをボロボロに傷つけていった。

 全身鎧なら大丈夫だったかな?

 いや、全身鎧だとここまで動けないから大剣で斬られて終わっているよね。

 防具に正解はない。

 ゼノンさんの言ったとおりだ。

 ミノタウロスの呼吸が荒い。攻撃の当たらない僕に業を煮やしているみたいだ。

 僕の呼吸もそうだ。汗だって何度も頬を伝う。喉の渇きも最高潮に達している。

 

「でも下がらないよ。下がってたまるか」

 

 僕の中にはゼノンさんが見つけてくれた、真の勇気があるんだから。

 

『ウヴァアアア!!』

 

 僕は前に踏み出せる!!

 

 それからどれくらい時間が流れたのか、一瞬なのか一分なのか十分なのか一時間なのか。

 避けて、斬って、魔法を当てて、避けて、斬って、魔法を当てる。

 アイズさんとの訓練が、散々殴られ蹴られ吹き飛ばされ自慢(?)された経験が、そこで身体に染み付いた成果が、僕を生かし続けた。

 攻撃を受け続けたバゼラードは半ばから折れ、今はお守り代わりだと渡されたパプニカのナイフを左手に握っている。

 リリには後で謝らないとね。

 そんな些細なこれからやりたいことが、僕を生かす原動力になる。

 

「ベル様ァッ!!」

 

 そんな時に声が聞こえた。

 逃がした筈の彼女の声が。

 そしてそっちに目線を向けたら、あの人がいた。

 

「・・・・・・」

 

 澄んだ黄金の金髪。蒼色の鎧。銀の長剣。

 あの日と武器こそは違うけど、助けられた時のように彼女はいた。

 

『ォ、ヴォオ゙・・・・・・!?』

 

 そして彼女を認識したのはミノタウロスも同じ。自分よりも小さく細いその生き物から溢れる生物としての格の違いが、恐ろしい狂牛を怯えさせていた。

 

「いたぁ!アイズゥー!?」

 

「チッ、つまんねえことに振り回されてんじゃねえっての!」

 

 続々と駆けつけてくる足音と声。

 覚えのあるその声の主達が誰か僕は知っている。ああそうか、今日だった。

 ロキ・ファミリアの遠征日。

 だからそれを思い出したリリは全力で駆けていけたんだ。助けになる存在の当てがあったから、たった一人で必死に何階層も走って。

 

「・・・・・・ねえ」

 

 そんな凍りついたような、動きの止まった場に、静かな声が反響するように響いた。

 

「・・・・・・大丈夫?ベル」

 

 その言葉に。

 ズクン、と心臓が打ち震える。

 あの時とは違う距離感の僕と彼女。

 まるで姉と弟みたいだな、とゼノンさんにも笑われた。

 

「・・・・・・手伝ってあげようか?」

 

 ははっ。

 なんだよ、

 適正レベルにあってない。ミノタウロスは僕よりも格上なんだぞ。

 なのに、この人は、剣姫アイズ・ヴァレンシュタインは!!

 手伝うとか言っといて僕が勝てると、当たり前のように思っている!!

 

「冗談っ!!」

 

 その信頼が胸を熱くする。

 頭に火がついたようだ。

 

「僕の獲物だ、邪魔しないでよ」

 

 感情が一掃され頭がクリアになる。

 一つの感情が全身を駆け巡る。

 そうだ、僕は。

 

「進んで二つ、手に入る!!」

 

 さあ勝負だ。

 良く言ったといわんばかりの態度で腕を組むアイズ・ヴァレンシュタインと心配そうだがどこか期待をのせた眼差しのリリを背に、僕は離れた距離を詰めるように前へと踏み出した。

 

 二振りの短剣で振るわれる大剣を捌く。

 ぶつかり弾く刃は、バゼラードのように折れることはなく大剣を受け止める。

 それでもミノタウロスの膂力には力負けして、僕は後ろへと下がらされる。

 下がった分だけ前へ、助走すらも威力へ乗せる。

 それでもミノタウロスの強靭な肉体を打ち破るには足りない。今までの攻撃すら、命を脅かすには到底足りない。

 中層域のモンスターの中でも群を抜いて特化したその力と耐久力が、ミノタウロスを冒険者から恐れさせてきた。

 

『ヴゥムゥウウウンッ!』

 

 奇跡的にミノタウロスの攻撃は致命打にならない。避けきれない攻撃は、何故か突然止まったり、僕の身体が引っ張られるようにかわせてしまう。

 

「づっ!」

 

 生まれ持った肉体性能の差が僕を追い詰める。決定打がない以上はジリ貧だ。

 でも僕にこんな硬い身体を破る手段なんて。

 

「極まればこんなことができる」

 

 その瞬間、僕は思い出した。

 ゼノンさんが見せてくれた、その技を。

 そうだ、僕にはある。

 その手段が、ある!!

 

『ゴアアアアア!!』

 

 ミノタウロスが大きく大剣を振り下ろす。

 今まで酷使してきたその刃を。

 

「アバン流刀殺法」

 

 ゼノンさんは言っていた。

 この技は大地を斬る一閃だと。

 力、技、見極め、全てを合わせた一刀だと。

 今の僕にはできない。

 全てが未熟だが、何よりも力が足りない。

 だからこそ重ねる。

 右手のヘスティア・ナイフと左手のパプニカのナイフを同時に振り抜き交差させ一閃とする!!

 

「大地斬!!」

 

 本来ミノタウロスが持ち得ないその大剣は、その一撃で半ばから断ち切られた!!

 

「「「「「「「!?!?」」」」」」」

 

 驚いた気配がした。

 成功したのは幸運。

 酷使されてきたからこそ大剣を斬るべき箇所を僕は見極めることができ、それがこの感覚を掴むきっかけとなった。

 確信がこの手に握られた。

 僕はもう、コイツを斬れる。

 

「ありがとう」

 

 なんでその言葉が口から溢れたのかはわからない。それは、ゼノンさん、神様、リリ、エイナさん、アイズさんの誰に向けたのかわからない。

 いや、今のは。

 

「君に、かな?」

 

 今まで生きてきて、此処まで真剣に向き合ってきた存在が他にあっただろうか?

 

『ヴォオオオオオオ!!』

 

 大剣を失い、自らの角とその巨躯で僕を打ち倒そうと叫びながら突進してくるミノタウロス。

 

「ファイアボルトオオオ!!

 アバン流刀殺法大地斬!!」

 

 迎撃し打ち破る為に前に出る僕は、勢いを削ぐべくファイアボルトを大地斬と同時に放つ。

 だがその時にある偶然が起こった。

 ファイアボルトはヘスティア・ナイフとぶつかり大地斬の威力をさらに跳ね上げた。

 この時の僕はそれが魔法剣。火炎大地斬と呼ばれる技であることは知らなかった。

 

 一拍。

 

 激突する筈だった僕とミノタウロスはすれ違い、先程の立ち位置とは入れ替わるように立ち止まる。

 ガクリと僕が膝をつき、それを視たロキ・ファミリアの面々が動きだそうとするが。

 ズルリ、とミノタウロスの身体が巨躯に走る二本の線からズレだし、その身体が4つに分かれた。

 分かれた肉片は、一つの角を残して消えていった。

 

「勝った、僕は勝ったんだ」

 

 勝利を実感した途端、力と意識が抜けていく。やはり無理はしていた。限界を超えた反動が強制的に休みをとらせようとしていた。

 閉じゆく瞼には泣きながら駆け寄るリリと、驚愕するロキ・ファミリアのメンバーに「ベルは私が育てた」とドヤ顔で胸を張るアイズさんの姿が見えた。

 

 所要期間、約一ヶ月。

 モンスター撃破記録、三二〇七体。

 Lv.2到達記録を大幅に塗り替えた、世界最速兎誕生の、二日前のことだった。





 逃げれば一つ進めば二つ。
 これは言わずと知れた某ガンダムの主人公の名台詞というか座右の銘だが、この場合は適していたので採用しました。

 ベル・クラネル。
 訓練の成果が地味にでています。
 大地斬に関しては手本何度も見たこと、大剣と打ち合うことで一番困難な見極めがやりやすくなってたことが成功の理由です。
 火炎大地斬は、似てますが闘気はのってないので原作の技に近いです。
 あとレベルアップはします。

 アイズ・ヴァレンシュタイン。
 ゼノンの影響でベルと距離が近く、その為かベルが勝てると最初から思ってます。
 それが最後のセリフに繋がっています。
 ただ、アバン流刀殺法に関しては問い詰める気満々です。
 
 ロキ・ファミリア、フレイヤ様の反応。
 描写はしてませんが、原作よりほぼ同じに驚き増している感じです。
 何よりもスキルではない技に驚愕しました。
 ちなみに服は原作より破れてませんが、チラリとSSの字が見えたりしてます。

 ミノタウロス。
 原作より弱く見えますが、強さ多少上です。ただベルが大地斬を知っていたから優位に立ちました。
 いつか必ず、獣王会心撃を体得させたいです。
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