ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
書けました。
けど話は進みません。
翌日、夕刻。
食堂の仕事を終え帰宅した俺の前にはヘスティアを問い詰めるベルの姿があった。
なんでもステイタス更新による成長幅が半端なかったので気になったそうだ。
ベルに恋愛感情に似た執着を持つヘスティアは、初恋から生まれたスキルについてベルに教えようとはしない。教えた結果さらにダンジョンで無理をするという危惧もあるだろうが、一番の理由は嫉妬だ。
そんなスキルが出るなら自分を想って発現して欲しかったというのが本音なのだろう。
「ふん、ボクはバイトの打ち上げに行くもんね!!ベル君は綺麗な女の子に誘われた酒場で豪華な食事でも楽しんできたらいいさ!!」
スキルについて誤魔化すと同時にステイタス向上値からそれだけアイズ・ヴァレンシュタインを想っていると見せつけられて不機嫌になったヘスティアはそう言って飛び出していった。
「あー、行ってら?」
神様を怒らせたと落ち込むベルには外食の予定があるらしい。なら俺は今日の分のまかない飯を一人で食うとするか。
「一緒にいきましょうよ!!なんで普通に行かない気なんですか?!」
食堂の雇われ料理人が別の店に行くのは営業妨害になるのでは?と思ったのでつい。
稼げたから奢りますというベルに手を引かれ、俺はまかない飯を清潔な箱に氷結呪文ヒャドで生みだした氷と共にしまい、シルという店員の働く『豊饒の女主人』へと向かった。
「この辺りだったよな」
日が沈み、街が昼間とは違う喧騒へと変わっていく中でベルの記憶を頼りに店へ行く。
落とした魔石を拾ってもらったことをきっかけで話かけられ弁当までもらった。その見返りとして食事しにくることを要求されたそうだ。
たちの悪い客引きでは?と思わなくもないが、そんな口約束を律儀に守ろうとするのもベルらしいなと思い、キョロキョロと探す後ろについて行った。
「あ、ここだ」
他の商店と同じ石造りの、二階建ての奥行きのある建物。周りの他の酒場よりも立派に感じた。
恐る恐るとベルが入口から店内を窺えば、何を見たのか慌てて下がった。
「どうした?」
「働いてる人がお、女の人だらけで」
「酒場だから当たり前だろ」
大概の酒場の店員は女だ。
ならず者でしかない冒険者が野郎からの接客を望むわけがないだろうが。
ハーレムやら出会いとか抜かしながら女に免疫の無い田舎出身のベルは怖気づいたように入店するか悩みだした。
「ベルさんっ」
そんなベルに逃さぬとばかりに現れた少女。薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこから一本の尻尾が垂れたポニーテールの亜種みたいな髪型の、純真そうで可愛らしい少女だ。
「?」
そんな少女から感じる気配に違和感を覚えた。まあヘスティアも働いていたし、この少女らしい存在が酒場で働いていてもおかしくはないのか。
誘ってきた店員が現れたことで観念したのか、痙攣する頬を無理やり下手くそ笑みへと変えて入店を決めたようだ。
ま、ベルの意思とは関係なく俺が腹減っているので入る気だったけどな。
「お客様二名はいりまーす」
店員は俺に軽く視線を向けてから澄んだ声を張り上げた。その目立ちかねない行動に、色々と慣れてないベルは捕まった白兎のようにびくびくと身体を縮こませて続いていった。
「ではこちらにどーぞ」
「は、はい」
「どーも」
案内されたのは部屋の隅の二人がけのテーブル席。ベルと向き合いながら椅子に腰掛ける。
「アンタがシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」
ドワーフ、だったか。元の世界では見たことのない種族の女将は豪快にそう言った。
(強いな)
まさかこの世界で一番の実力者が酒場の女将とはな。まだ数ヶ月足らずとはいえ、この女将が今まで見てきた人類で一番強い。力を封じてるらしい神はまた別枠なのだろうが、こと戦闘者としてならば文句無しに最強だろう。
引退した冒険者かね?
そういった連中は身体の欠損やらの理由があるもんだが彼女はそうではないようだ。
可愛いという言葉に自覚はあるのか表情を暗くしたベル。渡されたお冷やに口をつける俺を見定めるように見てから女将はさらに口を開いた、ベルを絶望させる一言を。
「なんでもアタシ達に悲鳴を上げさせる程の大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃんお金を使ってくれよぉ!」
「!?」
その言葉に度肝を抜かれたベルは、ばっと背後を振り返り元凶であるシルという店員を見た。どうやら嵌められたようだ。
「そうか、それなら普段のまかない飯だと足りなかったよな。今度からもっと用意してやるから」
「ゼノンさんまでのらないでくださいよ!」
こういったからかいや悪ノリも酒場のお約束だ。コレを楽しめるようにならなければ冒険者としてまだまだってもんだな。
ワーギャーと店員に叫びながら、夜のはじまった酒場に喧騒を添える。
女将にしても最初からわかっているらしくイタズラっぼく笑っていた。
奢る、そう言ったから自分はなるべく安いものをとメニューを真剣ににらみつけるベル。
金なら気にしなくても良いのだが。
装備品に消耗品のポーションと、とにかく冒険者は金がかかる。安全の為になるべく良い物をというのはわかるのだが、収入支出を考えると割の良い仕事ではない。
ましてやこの世界では低ランク回復呪文のホイミすら使える者はいない。傷を癒やすには割高なポーションだよりなのだ。
(目立つなって言われるわけだよな)
この世界で驚いたことの一つが魔法についてだ。元の世界では契約の魔法陣を試し、契約できれば誰でも使える呪文だが、この世界ではエルフなどの限られた種族以外は神に恩恵を刻まれてステイタスに発現しなければ使えない。
その魔法にしても、本人の資質・経験を元に創り上げられるモノで大半が本人だけの一点物だ。
そんな中でもヒーラーなんて役割として分類できるぐらいには回復魔法は発現できるのだから、魔法としてはそう珍しいものではないのだろう。
だがそれでも、田舎の村でも一人くらいはホイミを使える元の世界と比べたら圧倒的に少ない。
ムームーとメニューとにらめっこするベル。
使える呪文の契約魔法陣は全て覚えている。ならばベルに試してやっても良いとは思う。
けれど試したところで異なるこの世界で使えるようになるかは定かではなく、魔法に憧れを持つベルに変な期待をもたせたくはない。
なにせ元の世界でも呪文の契約をできる者はごくわずか。田舎のホイミを使える者だって、教会で呪文契約ができて神父として修練を積んだ者ばかりなのだから。
ホイミが契約できたら一生食いっぱぐれない。そんな風に言われてたもんだ。
悩んだ末にパスタをベルは選んだ。
酒場にしては洒落たメニューばかりなのは、引退した冒険者の趣味の店だからなのだろう。
俺も同じモノを頼み、勧められた酒も一杯だけ注文する。ちなみにベルは酒を断っていたが女将が有無を言わさずエールをだしていた。ま、酒場だしな。
「なかなか」
トマトソースのパスタ。茹で加減はちょうどよく、ソースも大量発汗労働者である冒険者向けに濃い目の味付けだが野菜の味を殺さぬくらいの絶妙さ。
エールも悪くない。
安酒場のエールとは名ばかりの色のついて泡立ってるだけのナニカとは違い本物の酒だ。
「楽しんでいますか?」
慣れぬ場でホームでの食事とは違い口数少ないベルにシルというウェイトレスが寄ってきた。
「圧倒されています」
そんな彼女に皮肉をこめてベルは言った。
「お連れ様は余裕があるみたいですけど」
俺とベルを見比べながら彼女は言う。
「たしかに慣れてますよねゼノンさん。やっぱり経験豊富なんですか?」
「たかが酒場で緊張しても仕方ないだろ?別に取って食われるわけでもないのだし」
取って食う為に人に擬態するモンスターだっていないわけではない。けどそれを切り抜けられる実力はあるつもりだ。
この世界で自分に匹敵する実力者なんて見たことはないが、それでも護身用の剣はきちんと用意して常に身につけている。
キルバーンなんて最悪のトリックスターを知ってしまったからか警戒心が強まっていけない。
このウェイトレスも女将同様に興味深そうに、それでも周囲に悟られぬ程度に俺を観察しているが(というか働いてるウェイトレス全員がそんな感じ)、どうやらベルを大層気に入ったのか、わざわざ椅子を用意してまでベルの横に陣取った。
(ハーレムね、案外素質あるかもな)
知り合ったばかりの美少女(多分)と酒場で同席して談笑するという所業。美少女ウェイトレスの一人を独占しているからか周囲の女と縁の無さそうな厳つい冒険者の妬みやら僻みの視線を集めていた。
こんなことができるのだから、夢は夢で終わらずに済むのかもな。
二人の話す姿と、まだ目新しく感じる他種族入り混じる酒場の風景を肴に俺はエールに楽しんだ。
ダイの大冒険の呪文について。
覚えたい契約魔法陣を用意して、その呪文と契約できるかどうかが戦士職か魔法職か判定する。
基本的に、低ランクの基本呪文と契約できなければ魔法職の素養はなく戦士職を目指すか、家業(農民、猟師、職人、商人など)を継ぐ道を選ぶ。
基本呪文も大抵素質で分かれており、メラ系が使えたら魔法使い、ホイミ系が使えたら僧侶候補として教会に囲われる。それ以上となると指導中に契約魔法陣で増やすか、自力で契約魔法陣を調べ上げて契約することになる。
ダイの大冒険の呪文とは、世界との契約。
この呪文を使いますよと世界そのものに許可を貰う形で成り立つ。そのため分類としては精霊魔法となる。
なお一部魔法使いは、契約した魔法をアレンジして独自の形にするがそんな事は普通は不可能。
大魔道士マトリフのメドローア、大魔王バーンのカイザーフェニックスなど個人で世界を超えた証明であるといっても過言ではないのだ。
なおこの世界でも呪文の会得は可能。
主人公ゼノンは自身が体得した呪文の契約魔法陣全てを正確に記憶しており(頭おかしい)、この世界の魔法職ならば素養のある呪文と契約できる。
もっとも世界的変革になりかねない騒動が起きるだろうと想像できるため、よほどのことがない限り広めることはないだろう。(この世界の魔法職が神の恩恵で得た魔法の大半が基本呪文より強力であり、便利ではあるが覚える意味が殆どないという理由もある)。