ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 旧アニメ版のどたまかなづちを装備してさまようよろいを格好良く(?)叩き潰すダイの姿は作者の目に焼き付いております。
 ドラクエシリーズにある攻撃力は高いけど挿絵を見たら使いにくそうな武器(オオバサミなど)の一つですね。原作者の先生曰く、2つの機能を合わせて微妙になった道具をイメージしたそうです。そんな道具ってけっこうあって、作者の実家の収納スペースの肥やしになってます。

 とある種族に独自設定あります。



第30話

 

 絶望した表情。

 それはリリルカ・アーデにとってひどく馴染み深い、親の顔よりよく見た表情である。

 なにせ彼女の人生はその生まれからして絶望しかなかった。

 神酒に溺れ金を稼げというだけの親、自身の種族・自身の才能ゆえにままならぬ現実、振るわれる暴力、取り上げられる希望、光明の見えぬ未来。

 そんな日常の日々、鏡に映る自身の表情は常に冥く沈んだ絶望に彩られていたからだ。

 さらにそれだけではない。

 魔法の発現によりサポーター兼盗人として活動してきた際、貴重な魔剣や道具を盗まれた冒険者は総じて、絶望の表情を浮かべていたものだ。

 何度も何度も見た、その表情。

 様々な状況で見た、その表情。

 だが、

 そんな来歴持つ経験豊富な彼女であっても、このような状況でその表情を見たのは生まれて初めてであった。

 

「これが今のお前にピッタリな武器『どたまかなづち』だ」

 

 年齢としては兄貴分。

 その雰囲気から父親のように自身も慕う存在。

 さきほど自分には改良した『リトル・ボウガン』と貴重過ぎて表沙汰にできない胃が痛くなる装備『力の指輪』、そして万が一モンスターに囲まれた時に投げろと言われた拳大のボール『魔法の球』を渡してくれた、この人オラリオに来るまで何してきたんだろうと最近気になりだした人物ゼノンは、自身の命の恩人にして手を差し伸べてくれた王子様にして信頼するパートナーにして想い人であるベル・クラネルに、とんでもない代物を自信満々に差し出していた。

 それは兜であった。

 帽子のように被り顎にバンドで固定するタイプの兜である。

 だが兜という防具なのに、それを武器だとゼノンは言う。

 兜の頭頂部に輪っかがあり、そこに細長い樽のような木材と鉄の金具を用いた槌が固定されているのだ。

 どたまかなづちではなくきづちでは?

 一周回って冷静になったリリルカ・アーデの頭はそんなツッコミが思い浮かんだ。

 けれど全て鉄製では重くて装備することができないのだろう。

 だからこそ大部分は木製で先端を金具にしたのだろう。

 だが今まで数々のドロップアイテム、冒険者の装備を見て触れてきたリリルカ・アーデにはわかる。その木製パーツがただの木切れ、日常的に使うカップなどに用いるものではないと。冒険者の装備、槍の持ち手や棍棒に用いるきちんとした素材である。

 軽量化しつつも硬度は損なわない。

 どたまかなづちはそんな工夫を施された逸品だったのだ。

 なんだろう、この明後日の方向に全力を注ぐ人を見た時の脱力感は。

 リリルカ・アーデはそう感じた。

 話を戻そう。

 そんな性能は高いけど見た目がネタにしか思えない装備品を、俺はやったぜ!!と目の下にドギツイ隈を拵えながらやりきった表情で笑う兄貴分から託されたベル・クラネルは。

 

「ありがとうございます」

 

 絶望の表情をなんとか強引に笑顔に変え、しかし両眼を底のない虚無の淵にした状態で受け取るのであった。

 

(お労しやベル様)

 

 心からベル・クラネルを慮る。

 けれど、「中層攻略頑張れよ」と告げてからヨレヨレと寝床であるテントに入っていく、疲れ切った様子のゼノンを批判することは、彼を慕うリリルカ・アーデにはできなかったのだ。

 ゼノンという人物は、自分が一緒に潜らないからとこちらに気を遣って無理をしすぎている。

 そんな風にリリルカは思うのだ。

 

「あの、ベル様?」

 

「大丈夫だよ、リリ。ゼノンさんがからかってたり、悪ふざけで渡したんじゃないってわかってるから」

 

 誂ったりしないわけでも、悪ふざけしたりしないわけでもない。

 でも命の関わる場でする人ではないとベルとリリルカはその人となりを信頼していた。

 

「本気だからこそ、よりタチが悪いのでは?」

 

「それは本当にそう」

 

 慕う人物の新たな一面を知れた喜びはあるが、別の形で知りたかったと二人は思った。

 

「凄いよリリ。これ付けても全然負担にならない。ズレたりしないし、動きも阻害しない、重さもそれほどじゃないよ」

 

「無駄に高性能ですね」

 

 ナイフの使い手であり一撃の威力に欠けるベル・クラネルを補う装備。

 しかし普通の重量武器のように両手が塞がらないように頭部に付けたのだろう。

 そこでなんで頭部に付けたのか開発者を問い質したい気持ちはあるが、元はパプニカという国にあった武器らしいので、ゼノンが考えついた発想ではないのだろう。

 

「おーい、ベル!!リリスケ!!」

 

「あ、ヴェルフだ」

 

「リリスケはやめてください」

 

 道行く人々から奇異の眼差しで見られると判断し、どたまかなづちを一旦外して小脇に抱えるベル・クラネル。ダンジョンでは装備する気なのは貰い物を使おうとする律儀な彼らしい点である。

 ギルド前にて待ち合わせていた大剣を肩に乗せた着流し姿の鍛冶師ヴェルフ・クロッゾと合流する。

 

「今日は中層に挑戦だよな。ワクワクするぜ」

 

「うん、僕も楽しみにしてた」

 

「準備万端ですが、気を抜かないでくださいね」

 

 連日行動を共にしたおかげか、3人の空気は穏やかである。ヴェルフ・クロッゾに思うところのあったリリルカも、パーティでの冒険が楽しくて仕方ないとウサ耳とうさぎの尻尾(幻覚)を振るベルの様子からすっかり絆されていた。

 

「そんで、その武器?防具はなんだ?」

 

「どたまかなづち、ゼノンさんの新作」

 

「ほおおお、ベルのナイフを鍛えた人の作品か、ちょっと見せてくれ!!」

 

 以前からゼノンに興味を持ち、関わりを、或いは教えを乞いたがっているヴェルフだが、ゼノンが多忙を理由に断っていた。

 なおそれは口実などではなく、食堂では料理人として働き、注文されてる石像を彫り、ミアハ・ファミリアの半ポーションの件でフレイヤ、イシュタル・ファミリアと話し合い、ベルとリリルカの装備品を作成し、リリルカ用にシャドーを創り出していたので、ゼノンは凄く忙しかったのだ。

 ベルから渡されたどたまかなづちをあらゆる角度から見て、様々な箇所を触れたヴェルフはその出来に感嘆の声を上げる。

 

「凄えな、頑丈でありながら重量を感じさせない、さらにどんな効果があるか分からないが内部に術式を刻んでいる。ゼノンの旦那は神秘のアビリティ持ちなのか?これもうマジックアイテムの類だぞ」

 

「「(そんな技術をこんなものに)」」

 

 ベル・クラネルに『ファイアボルト』を発現させたアイテム『魔導書』。それと同様に本来ならば『魔道』と『神秘』の希少スキルを極めた者しか創れない代物らしい。否、この場合はさらに『鍛冶』の発展アビリティが必要かもしれないが。

 

「ベル様、ゼノン様ってレベル1ですよね」

 

「そうらしいし、詳しい事は聞けば教えてくれそうだけど、神様がまだ早いと教えてくれないんだよね」

 

 前々から思っていたが、ゼノンとは何者なのだろうか?気にはなるが、知るのも少しばかり怖いなと二人は思った。

 

「見た目はちょいとインパクトあるが良い武器だな。デザインもドワーフは好きじゃねえかな」

 

((ちょいと?))

 

「ホレ付けて行くぞ、時間は限られてんだしな」

 

 ガポリとどたまかなづちをベルにかぶせ、ヴェルフを先頭にダンジョンの入口でもあるギルドへと入っていった。

 

 

「おい見ろあのガキ」

 

「あれが『リトル・ルーキー』、一ヶ月でレベル2になったという。なんだアレ?」

 

「あの剣姫の記録を超えた世界最速兎か。どんなカラクリがありやがる。そしてあの頭部はどうした、イジメか?」

 

「斬新なもん装備してるな。さぞかし苦労してんだろう」

 

「たまにいるよな、ああいうの創る鍛冶師」

 

「いるいる、機能性と威力ばかりでデザインと使いやすさをガン無視するタイプ」

 

「アレがランクアップの秘訣か」

 

「生意気なガキに世間の厳しさを教える気だったが」

 

「「「苦労してんだろうなあ」」」

 

「カッチョよいの。どこで売ってんじゃろ?」

 

「ナウいデザインじゃ。ヘファイストス・ファミリアかゴブニュ・ファミリアの新作かの。後で確認しにいくか」

 

「ワシならあれにスパイクつけるな」

 

「俺は先端尖らせる」

 

「斧と盾構えてぶちかましてから頭部で追撃、胸が熱くなるのお」

 

「かあー、敵に向かって撤退したいわ!」

 

「「「わかるわかる」」」

 

 ギルド内には冒険者が溢れていた。

 それぞれの用事をすませる彼らだが、今話題の冒険者であるベル・クラネルの登場に視線を向けだした。

 

「やっぱり注目されるな。流石は世界最速兎」

 

「僕はヒューマンで兎じゃないよお」

 

「・・・・・・極東では兎は月で餅という食べ物を臼と杵で作るらしいですよ」

 

「何が言いたいのかな?リリ」

 

「いえ何も」

 

「どたまかなづちって杵みてえ」

 

「ヴェルフ!!」

 

「言っちゃった」

 

 冒険者が自分らをネタに話し出すのを見ながら手続きをすませる。

 なおベル・クラネルの頭部を見たエイナ・チュールはそのあまりのインパクトある見た目に普段の出来る女然とした態度を維持出来ずに吹き出した。

 

「ひ、ひ、ひ、ぐふ、ゲホ。べ、ベル君、冒険者は冒険しちゃいけないを忘れないで頑張ってね」

 

 ツボに入った彼女は笑いつつも仕事はきちんとこなしてくれた。

 そんな受付を通り過ぎた後。

 

「エルフには大ウケでしたね、どたまかなづち」

 

「だな」

 

 エイナに限らず、どたまかなづち装備ベルを笑ったのはエルフ族である。

 

「ドワーフには別の意味で大ウケだったね」

 

「だな。つーかウチ(ヘファイストス・ファミリア)に注文きたらどうしよう」

 

 どたまかなづちを見て目をキラキラと輝かせたのはドワーフ族である。

 

「鍛冶系二大ファミリアとなると無断でパクるとかできないですもんね。帰ったらゼノン様に相談します」

 

「頼むわリリスケ。つってもウチのファミリア、団長をはじめ腕利きがロキ・ファミリアの遠征についていって不在だから帰ってすぐにはいかないだろうがな」

 

「またゼノンさんの仕事が増えるね」

 

「楽しんでいるようですが、寝る時間を削るのはどうかと思います」

 

 

 

 軽口を叩きながら警戒は怠らずに進む。

 その足取りは軽く、これから自分達に何が起こるのかをまだ知らない。

 これはベル・クラネル達が、タケミカヅチ・ファミリアに怪物進呈される少しばかり前のことで、

 異世界の英雄であるゼノンがダンジョンに潜るきっかけとなる出来事である。

 

 余談だが、後にどたまかなづちはドワーフの種族全体に広まり一大ブームとなる。

 どたまかなづちを使った競技、格闘技まで生み出されてしまうとか。

 そしてベル・クラネルは『英雄』でありながら『どたまかなづち』を最初に装備したヒューマンとして歴史に名を刻むことになる。

 





 いつもとは違う感じの語りでした。
 ベル君、笑いながらもとんでもない目になってたりします。
 ただリリルカもそうですが、ゼノンの様子にツッコむことができませんでした。

 ベル・クラネル。
 どたまかなづちを(思うところはあるけど)装備できる心優しい少年。ゼノンの新たな一面を知り、さらに親しみを抱いた。

 リリルカ・アーデ。
 ゼノンの状態を心配している小人族の少女。明らかに過労じゃね?と思ってたりする。どたまかなづちについてはないわーと思ってる。

 ヴェルフ・クロッゾ。
 どたまかなづちの性能に心底感心した鍛冶師の青年。ゼノンと関わりたいが、多忙を理由に断られて不満げ。だがミノたんを褒められたと聞き喜んだ。

 どたまかなづち。
 ダイの大冒険屈指のネタ武器。
 旧アニメ版ではダイが格好良く使うシーン(想像)がある。ポップ曰く「脳みそでそう」。新アニメ版ではベンガーナのデパートで山売されていた。今ならもう一つおまけらしい。
 ちなみに刻まれている術式は治癒と固定。どたまかなづちによるダメージはこれで癒やされる、奇跡の剣ではなく神秘の鎧仕様。また固定により付けてる間はズレたりしない。
 こんなものを創ってるから寝不足なのか、寝不足だからこんなものを創ったのは不明。
 エルフは爆笑。
 ヒューマンは苦笑。
 獣人はスルー。
 ドワーフは大ヒット。
 小人族はゴミ認定。
 と反応がわかれたりする。
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