ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
本日2話目です。
まだの方は前話からどうぞ。
かつてここまで『どたまかなづち』の名を呼んだ作品があっただろうか(自画自賛)。
正月休みもあと今日を終えたらあと一日。
社会復帰できるかなぁ。
「ハァ、ハァ」
呼吸することがこんなに辛いのはじめてだ。
「フゥ、ハァ」
一歩踏み出すのがこんなにしんどいのもはじめてだ。
こんなことならもっと走っておけばよかった。こんなことになるならもっと体力をつけておけば良かった。
湧き上がる後悔を噛み締め身体に力をいれる。崩れ落ちそうな身体に折れそうな心。それらを両脇に抱える仲間達の存在が辛うじて保たせていた。
『怪物進呈』をされて逃げる為に飛び込んだ縦穴。そこから先も戦いが続く。
リリの矢が尽きてしまってからはヘルハウンドの火炎放射をヴェルフの対魔力魔法でしのぎ、僕達は前へ下層へと足を運ぶ。
途中に現れたミノタウロスはなんとか撃退できた、疲労は蓄積してたけど『大地斬』を使って倒すことができた。
でも、恐らく16階層の現在地でヴェルフは精神疲弊で、リリは体力の限界で気絶してしまった。
荷物を捨てる決断が出来たのは、エイナさんとリリとゼノンさんから冒険者の心構えを学んでいたからだろう。
取り返しのつくものに執着するな。一番大切な物を見誤るな。
そう、荷物なんていくらでも取り返しがきく。一番大切な物は『仲間』、リリとヴェルフの命だ。
二人を抱えて移動できたのは、リリが最後の力を振り絞って渡してくれた『力の指輪』と多分『どたまかなづち』のおかげだろう。
『力の指輪』を指にはめたらステイタスが上がったみたいに力が増したし、『どたまかなづち』を装備しているとゆっくりだけど傷は治り体力が回復してくるように感じるんだ。
安全地帯があればそこで、二人に『どたまかなづち』をかぶせて回復させたい。
けれど絶え間なくモンスターが出現するこの階層では足を止めたらすぐに囲まれてしまう。
崩れ落ちそうになったらなぜか誰かに支えられてるような感触がするし、リリを抱える時も誰かが握ってくれてるようにしっかり持てている。
足も無意識だと思うけどまるで誘導してくれてるようにモンスターを避ける進路に進んでいける。
「あと、すこし、すこしなんだ」
飛び出してきたモンスターはなぜかピタリと空中で静止したりするので、そこにどたまかなづちを当てて吹き飛ばす。
たとえ両脇に二人を抱えて両手が塞がっていても、どたまかなづちなら攻撃できる。
渡された瞬間はなんとも言えない感情に心が支配されたけど、ゼノンさんはきっとこんな事態の為に僕に『どたまかなづち』を用意してくれたんだ(勘違い)。
戦闘を切り抜け、目当ての縦穴を見つけて飛び込み。先の見えない暗闇でも足を止めることよりは希望がある。だから僕は止まることなく進み続けた。
上手く着地できず無様に倒れ込む。両腕から離してしまい前方に転がる二人へとすぐに駆け寄る。
地に投げ出されたリリ達の体を抱え薄闇の洞窟へと足を運び続ける。
17階層、そこについてからモンスターが現れない。そう階層全体があまりにも静かすぎるんだ。
モンスターの気配はある。けれど獲物である僕に襲いかかってこようとしない。
そして僕に手助けしてくれてるナニカも警戒してるようにそんな風に感じる。
その理由に心当たりがあった。
事前に学んだ知識からそうなる原因が推察できた。だから僕は、だから僕は、進んではいけないという本能を捻じ伏せてより恐怖が強くなる先へと走る。
巨大な怪物の為に用意されたような大通路を、脇目も振らず突っ切っていく。
そして、辿り着いた。
広大な、あまりにも整い過ぎた大広間。
天然の洞窟を思わせる今までの広間とは違う、直方体の部屋。
そしてその先にソレはあった。
美しく、石工達が手がけた壁面のような不自然で異様な壁。
特定のモンスターを産み出す巨大壁。
「『嘆きの大壁』」
見惚れてる暇なんてない。
そんな余裕は僕にはない。
リリが教えてくれたタイミング、この階層に入ってからの静けさが、今どんな状況かを示している。
「急げ、急げっ!!」
まだだ、まだ間に合う。
既に産まれていたらどうしようもなかった。
だけどまだ産まれてない今なら進める。
視界の奥、あの壁の真ん中に空いている洞窟に辿り着ければ、逃げ込めれば。
そんな僕の望みを砕き断つように、バキリと音が鳴った。
ダンジョンには意思がある。
ダンジョンに潜る冒険者は誰もが口を揃えてそう言う。
そしてその意思は悪意に塗れているとも。
最悪の事態にさらに最悪をたたみかけてくる、それがダンジョン。
だからこそこのタイミングでの誕生は、希望が見えたと思った矢先に階層主が出現するのは、それはきっと必然なのだろう。
一瞬何も考えられなくなったが、すぐに切り替えて体力温存を無視した全力で走り出す。
こちらを焦らせるようにゆっくりと響き広がる罅割れ音。それがなにかの嘆くような産声のように変わったところで悟る。
階層主が、迷宮の孤王が産まれたのだと。
ヒューマンを巨大化したその姿。
黒い髪と牙を生やした巨人『ゴライアス』。
隔絶した力の差が畏怖となる。
だが、僕は足を止めない。
こんなものは怖くないと強がる。
思い出せあの人を。
あのアイズ・ヴァレンシュタインはあんなに綺麗で手も柔らかいのに、アレより強いのだと。
僕は、そんな存在に散々蹴り飛ばされて気絶されまくってきたのだと。
だから怖くない。
あの人に比べたら大したことはないんだ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
完全に誕生したゴライアスが雄叫びを上げる。背後から迫る音を聞きながら僕は走る、走る、走る。
広間が縮まるように景色が変わる。
目的地に近づくだけ世界は狭まる。
けれど大きさの差は歴然で、デカいやつは鈍間であると同義ではない。
人の一歩が蟻の百歩であるように、その距離はまたたく間に縮まる。
『オオオオオオオオオッ!!』
間に合わない。
その未来を僕は察した。
このままだと巨人の握り拳に三人揃って叩き潰される、そんな未来が見えてしまった。
だから、
だから僕は起死回生の一手にでる!!
いつの間に聴こえていた鐘の音と共に、残りの力全てを首に込め、ファイアボルトをありったけ『どたまかなづち』にぶち込んで、
「うらああああああっ!!」
振り降ろされる巨拳へと叩きこんだ!!
爆発音が響いた。
それはぶつかった衝撃じゃない。
あまりの威力に耐えきれなくなった『どたまかなづち』が爆散したのだ。
僕は二人を抱えたまま、ぶつかりあった衝撃と爆散した衝撃で吹き飛び、何かに引っ張られるように洞窟へと吸い込まれていった。
背中から地面にぶち当たり、下り坂を転がる球のようにシッチャカメッチャカに転がる。
手から離れたヴェルフが同じように転がる姿を朦朧する視界にとらえ、小柄なリリはどこかにいかないようにしっかりと抱きかかえる。
あらゆる角度から襲ってくる衝撃と、打ちすえられる痛みに耐えながら、下方へ落ちていくことを僕は感じていた。
「ぅ!?」
ずしゃあっと出口らしき穴から吐き出され、勢いよく草地に投げ出された。
抱えたリリをできる限り優しく離し、うつ伏せの体勢で倒れ込む。
もう体は動かない。
槌の部位が砕けたどたまかなづちは、それでもさっきよりゆっくりとだが身体を癒やしてくれる。
意識を途切れさせてはいけない。
此処が安全地帯だとしても、危険がないとは限らない。消える寸前のロウソクのように頼りない意識をなんとか燃やし続ける。
動け、消えるな、助けろ、治せ、被せ。
言葉が繋げられない。
しなければならないことが単語にしかならない。
「・・・・・・ベル?」
声が聞こえた。
聞きたかった声が。
ずっと聞いていたい声が。
「ア、イズさ、ん」
「どうして此処に。けどそれよりも」
流れる血で赤くなった視界でその人に手を伸ばしながら懇願する。
「仲間をっ、助けてくださいっ!」
何よりも自分よりもそれが一番大切なことだから。
「良いけど、どうしたのその頭?」
彼女は当たり前のように受け入れてくれて、前方の金具が取れて、側面の木部が花のように広がるどたまかなづちを指差しながら言う。
「ゼノンさんが僕の為に創ってくれました」
日常に戻れたそんな空気に、いつものように、パプニカのナイフを自慢した時のようにアイズさんにドヤ顔をしてみせた。
「それは・・・・・・・・・いらないかな」
彼女のなんとも言えない顔を見て、そんな顔も綺麗だなと思いながら、僕は意識を手放した。
さようなら、どたまかなづち。
また会う日まで。
ベル君サイドの安全階層に辿り着くまでです。
ところどころシャドー達が頑張ってますね。
ただ出張り過ぎたのでなんとなくベル君は気づきだしてます。
ゼノン製魔石無しモンスターだとは想像すらできませんが。