ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
原作とは違う、ベルとアイズの関係をどうかお楽しみください。
空を見たんだ。
どこまでも広がる果てしない空。
ずっと見上げていると、呑まれてしまうんじゃないかと思うくらい、どこまでも高く高く続いていた。
そこに一つの光が昇っていったんだ。
名残り惜しむようにゆっくり、ゆっくりと。
僕はその光をよく見ようと目を凝らした。
なぜか、そうなぜか。
そうしないといけないと感じたから。
しっかりとその淡い輝きの光を見る。
そしてその光の中にあるものが、その光がなんなのかを理解してしまった。
「どたまかなづち」
僕に気付いたのか、光は、どたまかなづちは、こちらを振り返り、そして満足そうに笑った、そんな気がしたんだ。満足そうに笑って、僕にメッセージを残してくれた。
頑張れよって。
「ありがとう、どたまかなづち」
僕は天に昇っていくどたまかなづちを両目から涙を流しながら見送り、共に冒険を乗り越えた相棒にお別れの言葉を告げた。
「・・・・・・って夢を見たんです」
「エリクサー飲む?」
夢から覚めた独特の浮遊感を振り払いながら身体を起こす。
混乱した意識のまま、僕のパプニカのナイフを弄りながら看病してくれていたアイズさんに夢、あるいは現実の別れの光景を伝える。
大丈夫かコイツ?
そう言わんばかりの表情は、たとえ想い人からのものでも心に痛みが走り冷や汗をぶっかけられたように精神を冷静にさせ、その痛みと冷たさで意識が完全に覚醒した。
見上げた先は青空ではなく布地。
ゼノンさんの寝室と同じテントだ。
周囲を確認する余裕ができたところで僕は、何よりも大切な存在を思い出す。
「リリ、ヴェルフ!!」
決して手放したくないと掴み続けた大事なモノ、それがこの手に無いことに焦燥感が湧き上がり慌てて身体を起こす。
傷は治っている。
体中に巻かれた包帯と薬の匂いから治療を施して貰えたことを察する。
礼をアイズさんに言わなくちゃと一瞬頭によぎるけれど、それ以上に仲間達がどうなっているかが気になってしまう。まるで切り離された体の一部がどこかにいってしまうんじゃないか、そんな焦りがあったんだ。
「そっち」
コソコソとパプニカのナイフを鞘にしまい何事もなかったように振る舞うアイズさんは僕の隣を指差した。その先には、毛布を被せられたヴェルフが寝かされていた。そしてさらにその奥にはリリの姿もあった。
「よかった〜〜」
瞳を閉じて寝息を立てている二人を確認して、僕は激情から開放されどっと力が抜けた。
本当に良かった。
全てが終わってしまうかもしれない。
そんな絶望を切り抜けられたことをようやく実感して、心底安堵した。
「二人とも大丈夫。リヴェリア達が治療してくれたから、なぜかリリルカさんは所々処置されてたけど」
あの、手助けしてくれるナニカさん。ヴェルフも仲間なんだから処置してあげてください。
なんか、そのナニカさんから身内以外にはドライなゼノンさんらしさが滲みでてくるんだよなあ。
「ベルは比較的軽傷。というかなんか治ってたよ?変なアレを外したら止まったけど」
「どたまかなづちは変なアレなんかじゃありません(キリッ)」
「地上に戻ったらアミッドに診て貰いなよ」
どういう意味ですか、まったく。
「でもさ、ベル」
「アイズさん?」
「頑張ったね」
アイズさんがそっと労るように僕の頭を撫でだした。よしよしとその細くて柔らかい指で優しい力加減で。ここまで来た経緯を知らなくても、僕が冒険したことを、大変な目にあったことを察して。
彼女は、アイズ・ヴァレンシュタインは、憧れの人は、僕を労って、褒めてくれた。
「ベルがミノタウロスに立ち向かった姿を見た皆がアレから張り切ってたよ、私はなぜか怒られたけど。ティオナがアルゴノゥトだって言って、ベートさんがウサギ野郎に負けれるかって」
僕がミノタウロスと戦った時に遭遇したロキ・ファミリアの皆さん。
レベル2に成り立ての僕からしたら遥か先に居るあの人達に何か影響を与えたと思うとこそばゆいような照れ臭いような嬉しさが湧き上がる。
あの人達ならミノタウロスなんて敵じゃない、低レベルな戦いでしかなかったのに。
というか、アルゴノゥトにウサギ野郎呼び。
「あの戦いも凄かったけど、今回もそんな冒険を切り抜けたんだね」
「はい、冒険でした。心折れそうなくらいの大変な冒険でした」
どうなるかわからない不安と、二人を失うんじゃないかという恐怖、全身に走る痛みと押しかかる疲労、極限状態な中、微かな希望を頼りに踏み出した一歩。
アレが冒険なんだ。
あんなモノに冒険者達は立ち向かって、夢へと未知へと挑戦し続けているんだ。
経験したからこそ、そんな彼らと同じ冒険者でいる自分が誇らしい。
とても誇らしいと思ったんだ。
「ところで」
「はい?」
あの冒険を思い出して涙が頬を伝いだした僕を微笑ましい表情で見ていたアイズさんは突如グリンと顔を近づけ、怖いから距離をとろうにもまだ痛い身体がいうことをきかない。
「アバン流刀殺法って・・・・・・・・・・・・何?」
黙秘は許さねえ。
綺麗だけど無表情な顔をズイっと顔同士が触れてしまいそうな程に近づけてアイズさんは僕を問い詰めてきた。
なるほど、それが知りたかったのか。
こういった時にどうすれば良いのか。
教えてくれたゼノンさんは特に口止めしたりはしなかったけど、アイズさんとの訓練中ではなく、わざわざ二人きりで教えてくれたんだ。
つまりこれは僕とゼノンさんだけのこと。
独占したい気持ちもあるし、技術的に秘密にしなければならないことかもしれないから言えない(胃を押さえたリリにゼノンさんから渡されたモノ、教えられたことは不用意に口にしては駄目と注意されてるし)。
だからアイズさんに伝えられない。
ならばこの状況をどう切り抜けるか。
そうだ、アレを試してみよう。
神様から伝授された作法を使うんだ。お願いする時、謝罪する時は土下座。そして誤魔化す時、隠し事する時は。
「ひ、み、つ、♡」
人差し指を揺らしながら焦らすように笑みを浮かべながら告げる、この仕草だ。
「(イラァァァ)、・・・・・・・・・生意気(怒)」
あ。
「痛い痛い痛いやめてやめてアイズひゃん」
ムニィィィィィィ。
額に怒りマークを浮かべたアイズさんに僕の頬がゴムみたいに左右に伸ばされています。伸びる伸びる頬が伸びて痛い、凄く痛いです。
「なにそれ舐めてるの?・・・・・・ウサギが、弟子ウサギが」
ムニィィィィィィ。
「違うんでひゅ、舐めてるとか、そんなんじゃなくて、ゼノンさんに神様が」
「内緒とか・・・・・・・・・生意気(怒)」
「生意気ってえええ」
言っていいのかわからないだけなんですぅぅぅ。独占したい気持ちはあるけどおおお。
追求はアイズさんが、ロキ・ファミリアの団長さんから僕が起きたら連絡するように言われていたと思い出すまで続きました。
ううう頬が痛いよお。
「大丈夫。奇跡の剣でモンスターを半殺しにしたら治る(ドヤ顔)」
痛いと呟く僕にアイズさんはそう言った。
さらに一撃で仕留めたら治らないから注意がいるよと自慢げに教えてくれた。
ゼノンさん、貴方はアイズさんに何てシロモノを渡してんですか?(注、作り手の意図しない使用例)。
「わ・・・・・・・・・!?」
アイズさんに手を引かれてテントから出た僕の眼の前に広がる光景。
それは大規模な野営風景だった。
テントは普段から見慣れているし、野営だってオラリオに来るまで乗せてくれた行商の人達と経験している。
それでも圧巻だと感じてしまった。
緑の木々が疎らに生える開けた森を連想させる場所で、いくつもの天幕が設置されていた。
そこいる人達はロキ・ファミリアの冒険者達、ヒューマン、ドワーフ、エルフ、女性の団員が心なし多く見られる中、それぞれ作業に従事したり、談笑したりしていた。
この場に居る全員が僕より強くて凄い冒険者。これが都市を代表する最強の冒険者集団、ロキ・ファミリアなんだ。
手を引かれながら邪魔しないように縫うように歩いていると、ロキ・ファミリアの皆さんが僕達に気づく。そして様々な感情をのせた視線を向けてくる。微笑ましいモノを見る視線、かわいそうなモノを見る視線、そして敵意や殺意の視線。
いや、なんで?
最後についてはアイズさんが甲斐甲斐しく世話をしてくれたからだとわかるけど、なんで同情されてるんだろう(答、アイズが修行と言う名の気絶リターンをしていたと知っているから)。
「あ、そういえば僕の『どたまかなづち』を知りませんか?ナイフは三本ともあったけど見当たらなくて」
ヘスティア・ナイフ、牛若丸、パプニカのナイフは荷物としてまとめられていたけど、一番目立つどたまかなづちが無かったんだ。
「・・・・・・椿が持っていったよ。
「なんか違いません?というか誰ですか」
「・・・・・・ゴメンネ」
別れを告げた筈のどたまかなづち。
果たして一体どうなっているんだろうか。
まあ気にはなるけどアイズさんが言うにはその人はヴェルフの上司に当たる鍛冶師さんらしい。だからどたまかな(残骸)は大丈夫だよきっと、もしかしたら直るかもしれないし、なんかバラバラにされてそうな気がするけど、大丈夫大丈夫、大丈夫だよね?
この時の僕は鍛冶師という人種の底しれぬ探究心をまだ知らなかったのであった。
気を取り直して周りを見れば、此処は森のようだと故郷の山を思い出して懐かしい気持ちになる。
葉の隙間から木漏れ日まで差し込んでいた。
ここは陽の光が届かないダンジョンの筈なのに、と不思議に感じた。
光源、太陽があるのかな?と枝葉の先を見つめてしまう。
「気になる?」
振り返ったアイズさんが僕の疑問に気付いたように聞いてくる。
「はい、暗い洞窟を越えた先にこんな光があるなんて」
上を見上げながら言う。
多分、アドバイザーのエイナさんや中層について調べているリリなら知っているだろうけど、まだ教えて貰っていない。
中層攻略も徐々にしていく予定だったから、初日から安全階層まで説明する必要もないよね。
「教えてあげる」
ドヤっとなってからアイズさんは目的地から進路を変えて、野営地から離れていく。道なんてない森の中をする抜けながら、金の長髪揺れる後ろ姿を右手に柔らかい掌の感触を感じながらついていく。
ややあって、いきなり目を奪われる光景に出くわした。
水晶だ。
透明な蒼い輝き宿す、美しいクリスタル。
それらが至るところに点在してるのだ。
神秘的で幻想的。
コレを見る為だけに此処まで来たくなる。そう思わせてくる。
だがそれはほんの一部に過ぎなくて、小川や段差を越えた先の森を抜けた場所で。
「・・・・・・すごい」
僕は心震わすモノを見た。
モノではない。
見える先全てが一つの作品のような、美しく完成された世界。
「アレって」
「うん、全部クリスタルだよ」
呆然とする僕に、アイズさんが答えてくれる。
彼女の言葉通り、18階層の天井は光り輝く水晶で埋め尽くされていた。
アレがダンジョンの太陽であり青空なんだ。
「時間が経つと、クリスタルの光は消えていって・・・・・・ここには『夜』もやって来る」
クリスタルの輝き加減が時を刻む。
ただ地上とは微妙に時差があって、遠征帰りだと生活リズムが崩れて困るとアイズは呟く。
「・・・・・・」
安全階層18階層。
水晶と、大自然に満たされた地下世界。
別名、『迷宮の楽園』。
『嘆きの大壁』と迷宮の孤王ゴライアスを超えた者達が見ることの出来る、オアシス。
大草原と湖、そして空が浮かぶ壮大な景観を、僕はアイズさんと並んで一望した。
地獄のような冒険を乗り越えたご褒美みたいな、夢のような時間を過ごしたんだ。
「コイツが魔界にもあればな」
そうすれば大魔王バーンとも違う道を歩めたのだろうか。天井に張り付いている蒼水晶を眺めながら異世界英雄ゼノンは思う。
大魔王バーンが焦がれた、恵み与えし尽きぬ光『太陽』。それをコレほどまでに再現した鉱物。
光なき魔界に太陽を。
スケールのデカ過ぎる大魔王の野望。
アバン先生との出会い、ダイ達の存在がなければ俺は賛同し従っていただろう。
けれどこの蒼水晶があれば、大魔王バーンとて黒のコアによる地上爆破消滅など企まなかっただろう。
(考えても仕方ねえか)
今はベル達が優先だ。
魔法の球にぶち込んでいたさまようよろい達は暗黒闘気が切れて古びた鎧に戻り散らばっていた。
持ち歩く余裕がなく放置された荷物と一緒にランタンに入ったフレイムを回収した。
ベル達は先に居る。
その確信を得た俺は『嘆きの大壁』に出現していた迷宮の孤王を、アバン流鎖殺法が地の技『地砕輪』で瞬殺し、18階層『迷宮の楽園』へと到達していた。
「さて、ベル達はどこだ」
安全階層だろうと冒険者はいる。
ならばやたら目立つベルでは安全とは言い難い。さっさと見つけて帰還呪文リレミトで帰りたいが、桜花達にも知られたらヤバいよな。
「おらあと少し、気張れテメェら」
「うん!!」
「おう!!」
「「はい!!」」
元気に返事をするヘスティアとタケミカヅチ・ファミリア三名。
だが他一柱と二人は、何やら俺をじっと見ていた。
「厄介かもな、彼」
伝令神のそんな呟きは誰にも聞こえることなく消えていった。
明日から仕事です。
さらば長期休み、長いと思っていてもあっという間でしたね。
ベルとアイズは主人公とヒロインですが、この作品だと弟と姉みたいですね。
これから男女の仲になるのか、他の相手とくっくかは作者も考えてません。
どたまかなづち(残骸)は椿さんに持っていかれました。どんな目にあっているのやら。
ゼノンからしたらこの階層はかなり複雑な気分になります。
ただ、この蒼水晶があったら大魔王バーンなら冥竜王ヴェルザーと同様に地上征服して、天界を滅ぼそうとするだけかもしれません。