ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
感想で皆さんがアバンストラッシュを大好きなのが伝わってきました。作者も好きです。
リヴィラの街で大流行するアバンストラッシュですが、闘気操作がかなり難易度高めです。
ダンまち世界だと、ステイタスに闘気を使用してるイメージがあるのでスキルが発現しないと厳しいかもですね。
高い市壁の先で日没が終わり、都市は穏やかに闇の時間が訪れる。
夜こそが楽しみ、それをモチベーションにする冒険者達は多い。
酒場や広場からは昼間の物々しい装備を外した冒険者達が軽装となり陽気に歌と演奏、そして愛を奏でていた。
特に南のメインストリートに位置する繁華街は一層騒々しい。色とりどりの灯りが大通りを照らし出し、夜空に負けるかとばかりに光を放っている。
異世界からの来訪者が驚いた夜の時間。魔石を動力とした灯りにより昼間に負けない、昼間とは違う輝きがそこにはあった。
そんな大通りから折れた、路地裏の一角。
鳥や獅子など、様々な動物を象った看板が立ち並ぶ酒場の一つで、ベル・クラネルとリリルカ・アーデ、そしてヴェルフ・クロッゾは、ジョッキとグラスを掲げて重ねあった。
「「「乾杯!」」」
笑みと一緒にエールの泡が弾け、ぶつかりあったジョッキから少しばかり溢れるのは御愛嬌。誰か一つのテーブルでやれば特に祝い事がないのに他のテーブルでも乾杯をしだす。これもまた酒場のいつもの夜の光景だ。
【ファミリア】のエンブレムに似た、真っ赤な蜂の看板を飾る酒場『焔蜂亭』。繁華街の裏道に佇んでいるこの店は、ヴェルフ・クロッゾの行きつけの酒場である。店の名物は、店の名からわかるように紅玉を煮詰めたような蜂蜜酒、虜になり常連になる客も多いが、甘い物が苦手なベル・クラネルの口には合わないようだ。
路地裏の店だけあって、ベル・クラネルの行きつけである【豊穣の女主人】よりは少しばかり狭苦しい。本来あの店はレベル1や2が行きつけにするような安い店ではないのだが、ベル・クラネルはとあるウェイトレスの巧みな誘導により、それ以外酒場と縁がなかったりする。しかし移動に苦労するほどの沢山の丸テーブルや小汚い店の内装、そしてドワーフ(どたまかなづちを小脇に抱えて邪魔)を始めとした客達の笑い合う大声さえも、ベル・クラネルが憧れた冒険者らしい酒場として心を沸き立たせていた。
「ランクアップおめでとう、ヴェルフ!」
「これで晴れて上級鍛冶師、ですね」
「ああ・・・・・・ありがとうな」
今日の彼らの集まりはヴェルフ・クロッゾのランクアップ祝い。だからこそ【豊穣の女主人】ではなく【焔蜂亭】なのだ。ヴェルフ・クロッゾは普段の仏頂面ではなく、照れくさそうなはにかんだ仕草をしていた。その笑みは念願が叶って喜びを隠しきれない様子を示している。
先日の冒険。
中層での強行軍から18階層での激戦を経て、ヴェルフ・クロッゾはついにランクアップ、レベル1からレベル2へと至った。それにより『鍛冶』の発展アビリティ修得も遂に叶ったのだ。
主神たるヘファイストスにステイタス更新(団員が多く、ロキ・ファミリアとの遠征もあり、主神も多忙ゆえに事前に申請する必要があるが)を施され、ランクアップが判明したのが今日の朝であり、彼はいの一番に顧客にして仲間であるベル・クラネルとヘスティアとゼノンが住む廃教会へと駆けつけた。ゼノンのテントを見てギョッとしたが、事前に聞かされていた地下室への隠し扉を叩いてその一報を報せたのだ。すぐにリリルカ・アーデの下宿先に二人で向かい報告し、こうしてパーティメンバー三人祝賀会を開くことを決めたのである。
「これでヴェルフ様はヘファイストス・ファミリアのブランド名を自由に使うことができるのですか?」
「自由、ではないな。文字列を刻めるのは、ヘファイストス様と幹部連中が認めた武具だけだ。あの女神の名は汚せないからな」
ヘファイストス・ファミリアではレベル2、上級鍛冶師となれば、自身の作品にヘファイストスの名を刻むことが許される。
それはこのオラリオ、否世界的にも優れた武具である証。ゆえにヘファイストス・ファミリアに所属した鍛冶師はランクアップすること、『鍛冶』の発展アビリティを得ることに尽力するのだ。
魔剣鍛冶師、家名と魔剣作成能力のみで有名だった(ネーミングセンスについてでも一部で有名)ヴェルフ・クロッゾだが、これからはその名声が一気に広まることだろう。
しかし、その喜ばしいことで、祝っているにもかかわらず、ベル・クラネルとリリルカ・アーデの表情はどこか暗いものがあった。
「でもこれで・・・・・・パーティ解散だよね」
ヴェルフ・クロッゾのパーティ加入は、彼が『鍛冶』の発展アビリティを手に入れる為。それが叶った今、彼は鍛冶師としての仕事に専念し、ダンジョンに潜る理由がなくなるのだ。
わかっていた別離、想定していた決別。けれどその期間はあまりにも早かった。その悲しみは短期間でここまで惜しむくらいの関係を築けた証拠でもあるが。
ベル・クラネルの寂しそうな表情、リリルカ・アーデの困ったような顔に、ヴェルフ・クロッゾはやれやれと後頭部をその手でかく。まるで弟の面倒を見る長兄のように、どこか照れ臭さを隠すように苦笑していた。そこには二人から別れを惜しまれている事実に喜びを感じていたからだ。
ヴェルフ・クロッゾにとって、リリルカ・アーデほどではないがパーティ解消は何度もあった。同じファミリアの同期連中、声をかけた冒険者。
だがその全てが喧嘩別れのようなものであり、こんな暖かい悲しみははじめてのことなのだ。
「そんな捨てられた兎みたいな顔をするな」
全世界の兎はなぜそこまで自分らの表情が知れ渡っているのか疑問に思いそうだ。
ジョッキを手で軽く回しながら、ヴェルフ・クロッゾは言葉を続ける。
「お前達は恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」
「えっ・・・・・・」
「鍛冶には打ち込むさ。でもダンジョンに潜る時はいつでも誘ってくれ、これからも一緒に潜ってやるさ」
そもそも俺はベルの専属鍛冶師だしな。とヴェルフ・クロッゾは快活に笑った。
その言葉に、パーティを解散しないという発言に、まだ一緒に冒険できる事実に、ベル・クラネルはうれしくなって破顔する。リリルカ・アーデも隣で目を細める中、もう一度笑い合い、三つの酒坏を打ち付けた。
「それにしても、ヴェルフ様がパーティに加わって二週間、ランクアップするのもあっという間でしたね。リリは半年とか年単位を想定してましたが」
「お前達と組むまでも、それなりの修羅場をくぐり抜けて経験を積んできたつもりだったけどな。それでもこんなにすぐとは思わなかったぞ」
「あはは、中層では大変だったからね」
酒場の喧騒に包まれる中、彼らは気の赴くまま会話に興じた。
ちなみに、この宴会にヘスティアも参加しようとしたがヘファイストスに釘を刺されバイト中である。共に冒険したものだけの祝いの席というものはあるのだ。
「そういえばゼノンの旦那はどうした?あの人なら一緒でも構わないんだが」
「数日くらい出かけているよ」
「ゼノン様は料理人として依頼があって、メレンの港町に新鮮な魚を採りにいってます。なんでも宴席が盛り上がる一品が必要らしくて」
解体ショーってなんだろね?ついて行きたかったんですけどねー。とベル・クラネルとリリルカ・アーデは零す。
「あの実力で料理人って」
呆れを通り越してドン引きしながらヴェルフ・クロッゾは言う。
英雄になれる、英雄そのものの実力があるにもかかわらず、日常に埋没しようとするその姿は、この冒険者の街オラリオにおいて【豊穣の女主人】の女将のような例はあれどかなり異端である。
「ベルはランクアップしなかったのか?」
「うん、僕はまだ」
ヴェルフ・クロッゾから話を振られ、素直に答えるベル・クラネル。本来ステイタスは身内であろうと秘すものだが、彼はそんなことは気にしない。
中層にとどまった約4日間、能力値の上昇はあれど次の段階には至らなかった。
「レベル1とレベル2では獲得する経験値の基準も、昇格に必要な総量も違うのでしょう。まあ、最後の戦闘はかなりリュー様が獲得されたでしょうが」
ゼノンによる一閃を除いた最後の戦闘。
強化された階層主との決戦。
ベル・クラネル達にリヴィラの街の冒険者達も加わった一大決戦のその参加人数は百以上。召喚されたモンスターの大群(なぜか矢で穿たれた死体が多かったらしいが)を請け負った者達を加えたら五百を超える。
集団戦の法則により、手に入る経験値は戦闘に参加した者達で分散する。けれど、ゴライアスを食い止める為に命懸けで近接戦闘を繰り広げたアスフィ・アル・アンドロメダとリュー・リオンの負担と活躍は神の恩恵システムに著しく評価されただろう。
レベル5、あるいはそれ以上の階層主に真正面から立ち向かった美しいエルフの、その英雄譚の一場面にも等しい戦いぶりを思い出し、ベル・クラネルは肩を震わせた。同時にそんな人物と共に戦えたことが誇らしかった。
なお貢献という意味合いならば、冒険者全員を最終的に無傷まで治したゼノンが一番大きいが、彼はストレスによる胃痛があっても、一つたりとも能力値は上がらなかったらしい。
あのゴライアスであれ、本来は剣一振りで倒せたのだから当然ではあるが。
その後、黒いゴライアス、ギルドからの罰則などの話題に移った。
なおギルドからのヘスティア・ファミリアのペナルティについてだが、ゼノンがヘルメスに借りを返せと武器を握りながら迫り、ヘルメスの手回しにより説教のみですんだ。
罰金でファミリア資産の半分となると、ゼノンの稼ぎが大きいので笑えない出費(ギルド長である豚エルフはそれを狙った)になるところであった。
なおヘスティア・ファミリアの分まで負担したヘルメスはかなりの額を払い、真っ白になったとか。
そんな笑い話(実はヘルメスの印象は総じて良くない)をしながら彼らの楽しい夜は過ぎていった。
「アレが、アポロン様が次に見出した世界最速兎か」
「良いのか団長?因縁ふっかけなくて」
「構わん。これから身内になる存在とわざわざ揉める必要もなかろう」
「身内ねえ」
「アポロン様はどうしてもあの兎にウサ耳と兎の尻尾を付けて広場で戯れたいらしい。くっ、命じてくだされば私がやったものを」
「心の奥底からあのガキに同情するし、そしてアンタの発言にドン引きだよ」
酒場の一角。
某ファミリアの団長と団員の小人族がそんな会話をしていたそうな。
原作6巻導入回です。
酒場でのベル達のやり取りですね。
基本的に原作と一緒ですが、アポロン・ファミリアは喧嘩を売らず、小人族の彼は同情とドン引きをしました。
なおなんでアポロンがウサ耳と兎の尻尾を知っているのかはゼノンのせいです。
ゼノンは現在メレンの街ですが、
某パーティで頼まれた料理の為にタケミカヅチ・ファミリアで聞いた料理を試そうとしています。