ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 サクサク進めたいのに書いたら長引く不思議。オリジナル設定ありありのアイズとのお話です。



第48話

 

「ゼノンさん?」

 

「アイズ、か?」

 

 オラリオの海の玄関口、港街メレン。

 異界の英雄・ゼノンと剣姫・アイズ・ヴァレンシュタインは湖岸沿いに形成された入江でまるでドラマのワンシーンのような再会を果たしていた。

 なお、ロキ・ファミリアが紹介された穴場よりこの漁場は少しばかり離れている。

 泳ぎの練習が嫌になったアイズが逃亡した結果、ここまでたどり着いてしまったのだ。

 

 

 

 道化の神ロキ率いるロキ・ファミリア女性陣が港街メレンを訪れたのは目的あってのこと。

 ダンジョンの再深階層更新と調査の為の遠征、その休息をとる為の慰安旅行である。

 無論、奸智策謀に長けた悪神たるロキの目的はそれだけではない。

 自身が選出し、磨き上げた麗しき乙女達に神々が下界に齎した発明の中でも三種の神器と呼ばれるものが一つ『水着』を装着させる為である。

 なおオラリオにおけるこの呼び方に、某神話の神々はブチギレていて三種の神器フル装備の末っ子剣神を神威全開で派遣させようとした事もあったそうな。そこにはかの神話が褌文化である理由もあるかもしれない。

 セクハラ主神のそんな策謀に水着を渡された乙女達は抵抗がなかったわけではないが、彼女らの普段の装備デザインにすらセクハラ主神の要望が絡むのは毎度のことであり、海(正確には汽水湖)の開放感もあって装備してしまうのであった。

 なお普段から格好が大差ないアマゾネス姉妹などは気にもせず、ロキ・ファミリアの母役にしてハイエルフは水着を見て固まってしまったそうな。

 艶やかなこの世の楽園とも言える水着乙女だらけの湖水浴。

 揺れる胸、くねる腰、食い込んだ水着を直す仕草。それらをぐふふと悪神は堪能する。

 だがその最中、ロキの一番のお気に入りである剣姫アイズは一人、浜辺の隅で所在なく佇んでいた。その姿は孤高の剣姫ではなく、打ち寄せる白波にうろたえる子供のよう。

 そう、彼女は泳げない。

 だから足のつく水辺ならともかく深い水辺が怖いのだ。そんな事になった理由は母親役であるリヴェリアによる特訓があったりするのだが詳細は不明である。

 

「じゃあ泳げるように練習しようよ!」

 

 とティオナが提案しその両手を握るが、幼少期の苦手意識を引きずるアイズには酷な話。

 それを利用してセクハラをしようとする主神が傍にいるから余計にである。

 泳ぐ練習は悲惨の一言。

 仰向けになり脱力すれば浮くこと自体は可能だったが、そこから泳ぎに移行しようとすれば直ぐ様沈む。水辺に近づけない、水自体が怖いではなく、泳ぎという行動をしようとすると浮けなくなる。

 その現実を危ういと考えた団員達は様々な手段を試すものの効果はなく、そして必死になり普段とは違う幼子(ゼノンから見たらアイズは常時幼子だが)のような姿に【かわいい】と思うのであった。

 

 

 

「・・・・・・・・・そんな皆の視線に耐えきれなくなって魔法を使って湖面を走ってしまい、気がついたら此処へ」

 

 と浜辺でがっくりと項垂れるアイズは語った。

 

「大変だったな」

 

 貝類と海藻を煮出したスープを差し出しながらゼノンは言う。

 スープをかき混ぜる桜花もアイズに同情の眼差しを向けていた。

 孤児でありタケミカヅチにより寺で育てられた中で年長である桜花は、年下の孤児達に泳ぎを教えたこともある。その中で水が苦手、泳ぎが苦手な者はいなかったわけではないが、ここまでの者はそうはいない。

 よほど最初の水練で苦手意識が生まれたのだろう。

 

「「(湖面を走るより泳ぐ方が簡単だろうに)」」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインが風の魔法を使うことはオラリオでも有名ではあるが、その活用方法に聞いている男達は絶句した。

 

「帰らないといけないけど、泳ぎの練習はもうしたくないです」

 

 そう呟く彼女の傍に小さな少女が両手でバツの字を作り拒否している姿が見えた。ベル・クラネルに時折見えるウサ耳と兎の尻尾と似たようなものかもしれない。

 

「まあ、此処にいるのは構わないがそれだけじゃせっかくのバカンスが台無しだよな」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインはゼノンと桜花に、ロキ・ファミリアによる慰安旅行だと伝えてある。遠征帰りだと知っている両者はそれをそのまま信じているようだ。

 そもそも、現在ギルド、ロキ・ファミリア、デュオニュソス・ファミリア、ヘルメス・ファミリアが行っているダンジョンの異変調査などはヘスティア・ファミリア、タケミカヅチ・ファミリアなどの小規模零細ファミリアには無関係なことで、オラリオの裏側で暗闘が繰り広げられていることを知る者はごく一部なのだ。

 ゼノンに至っては知ろうと思えば知ることができるが、王族貴族ザボエラキルバーンとの付き合いからその手の陰謀には敏感で、身内に被害があったり依頼がない限りは関わらないように立ち回っていた。

 

「そうだなアイズ」

 

「なんですか?」

 

「教えてやるよ、空の飛び方をな」

 

 だからこそ、せめて休暇の時くらいは、頑張る彼女が笑顔でいられるようにしてあげようとするのかもしれない。

 

「飛空呪文・トベルーラ。アイズ、お前も風を足に纏うんだ」

 

「はい、【目覚めよ】」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインの超短文詠唱により発動される『風』の付与魔法。

 それをさっき無我夢中でやったように足に纏わりつかせる。

 そうすると、不安定ながらも湖面に立てるようになっていた。

 

「もう殆どできているか。なら後は飛ぶ感覚に慣れればいけそうだな」

 

 そうゼノンは言うと、おっかなびっくりバランスを取るアイズの手を優しく引く。

 

「ゼノンさん?」

 

「行くぞ」

 

「ハイッ!!」

 

 ゼノンに手を引かれたアイズはそのまま湖面をゆっくりと滑るように歩きだし、次第に高度を上げていく。このような移動方法は今までしなかったわけではない。ゴライアスなどの迷宮主、巨大なモンスター相手に飛び跳ねて接近戦をするのは彼女ら前衛ならば当たり前のことだ。自身の魔法での急加速もまた、いつもやっていたことである。

 けれど、こんなふうに、湖面をゆっくりと踊るように飛ぶことは、彼女にとってはじめての経験であった。

 そして、戦闘以外で自身の魔法をこんな風に使用することもまた、はじめての経験だった。

 それからしばらくの間、ゼノンはかつて大魔道士マトリフに習った時のようにトベルーラで移動する感覚をアイズに教えるのであった。

 飛空様式は違うがアイズが空中移動に慣れてきた頃、ゼノンは今までより高く高く空へと飛んだ。

 

「わあ」

 

 ゼノンのトベルーラの飛空能力はアイズの魔法とは桁が違う。瞬間移動呪文ルーラ、海を隔てた大陸間すら一跨ぎする移動呪文の応用なのだから当然ではあるが。

 だから手を引かれたアイズは今まで経験したことのない高度まで連れられ、その景色を汽水湖ロログ湖より遥かに先まで眺めることが出来た。

 

「綺麗」

 

 彼女らしからぬ、彼女を人形姫と呼ぶ者達は想像できない一言を呟いた。

 そう世界とは、この果てなき舞台は美しいのである。空へと連れてきたゼノンもその絶景に唸る他ない。かつて元の世界のあらゆる場所を巡り歩いたが、当時の彼はそれを美しいと感じる感性を持ち得ていなかった。景色は景色、その認識だった。

 だが今は違う。

 あの日…黒のコアを抱えて飛んだ時の、最後に見た景色ほどではないが、見惚れるほどに世界は美しい。

 

「空なんざコツさえ掴めば容易く飛べる。エネルギーの放出さえできれば風の流れに乗ってバランスを取ればいいだけだからな。アイズの魔法ならすぐにできるように成るだろうよ」

 

「・・・・・・はい」

 

「ダンジョンなんて穴蔵に潜ってちゃ見られない絶景。堪能できたか?」

 

「綺麗です。本当に世界は、とても」

 

 思えばアバンもまた、こうやってゼノンに世界を見せていた。海の先に日が沈む景色を、夜空を埋め尽くす煌めく星々を。

 メレンにバカンスにしにきたというアイズに、空の飛び方を教えながら景色を見せたのは、ゼノンがアバンにしてもらったことをやってあげたくなったからかもしれない。

 

「さて、そろそろ仲間に合流しないと心配させちまうよな?」

 

「残念ですが、そうですね」

 

 この景色を忘れない。

 復讐の黒い焔が渦巻く彼女の魂に、この一時の思い出が焼き付いたのであった。

 

 

 

 なおそんな、湖面で空中飛行の練習をして景色を眺める両者に対して、採った魚でオラリオの仲間達へのお土産用の天日干しを拵えていたタケミカヅチ・ファミリア団長カシマ・桜花は、

 

「(多分感動的な一幕なんだろうが、ゼノンが褌姿だから台無しだよな)」

 

 と、思っていたそうな。

 

 水着姿のアイズ・ヴァレンシュタイン(十六歳)と湖上にて舞う、褌姿のゼノン(十九歳、胸に巨大なバツ字の傷がある目つきの鋭い黒髪青年)、傍から見たら完全に事案である。

 

 そんなヤバめな現実はさて置いて、地上の浜辺へ降り立ったアイズは仲間達の元へと帰還した。

 ゼノン達と別れる際に、ゼノンが両断して凍り付けにして流氷の如く湖に浮かぶ食人花を見つけたので仲間に知らせると告げて持っていくことになった。

 縄を括り付けた凍り付けの食人花を湖面を飛び跳ねながら引っ張るアイズを見たロキ・ファミリア女性陣は口をあんぐりと開けて驚いたそうな。

 

 余談だが、アイズは訓練時にもし水に沈んだらどうしたら良いと尋ねた。

 沈まないように飛ぶ技術は身につけても、沈んでしまったら意味がないからだ。

 するとゼノンは浜辺に刺した銛を握って一閃。瞬間、ロログ湖は二つに断たれた。

 アバン流槍殺法・海鳴閃。

 沈んだら水を斬ればよい、とゼノンはあっけらかんと答えるのであった。

 





 ゼノンとアイズのイベントでした。
 心温まるふれあいですが、格好で台無し。
 桜花さんは干物作りに没頭して見ないようにしてました。
 ちなみにゼノンの胸の古傷は、バランのギガブレイクとバーンの光魔の杖の一閃です。逆方向に袈裟斬りにされてかなり目立ちます。

 アイズの飛空能力に関してはここまでできるかは不明です。けど彼女は景色を見る為に飛んだりはしないのではないかと思いまして。
 山頂からの景色などを見た時の胸にこみ上げる感情はなんと表現すれば良いのでしょうね。

 水が怖いなら水面を歩いたり、水を割ったりすれば良いじゃん。
 絶賛バカンス中の某聖人男性もした解決方法です(笑)。

 三種の神器。
 ダンまちだと神々が人類に齎した代物をそう言ったりとか他にも、獣耳カチューシャ、スパッツ、ブルマ、ストッキングなどがある。
 元ネタだろう神器(勾玉、剣、鏡)を保有する、極東の三貴神は多分ブチギレているか納得している。
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