ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 ザボエラとゼノンの関係はお互いを認め合う同類。みたいな感じでした。
 自身にないモノ(ザボエラは魔族の戦士らしい強靭な肉体)を追い求め手段を選ばない点が好印象だったとか。
 ちなみに、ゼノンに魔導書を与えていたのは『どうせ魔王軍につくから手柄をあげさせつつ邪魔なヤツ排除させよう』という思惑があったからです。名声が高いほど勧誘に成功した自分の功績になるからですね。豪魔軍師ガルヴァスなどザボエラからしたら邪魔ですし。




第55話

 

 漂う香りに意識が覚醒する。

 導かれるように眠りから覚めるこの一瞬が僕は大好きだ。

 地下室のキッチンの通風口から流れてくるこの匂い、それは教会の上部でゼノンさんが朝食を作ってくれていることを教えてくれる。

 誰かが自分の為に朝食を用意してくれる。

 そのありがたさと幸せに気づいたのはいつからだろう。

 お祖父ちゃんがいなくなった日か、おじさんと叔・お義母さんがいなくなったあの日か、あるいはそれからしばらくしてポツンと一人取り残されたと自覚した瞬間か。

 手間暇の問題なんかじゃない。

 起きてから料理を作らずにすんでラクができるから、そんな理由なんかじゃない。

 自分の為に、誰かが料理してくれる。

 その事実が幸せなんだ。

 心がポカポカするくらい幸せなんだ。

 さあ、寝間着を着替えて顔を洗って身嗜みを整えて上に行こう。

 そこで朝食を用意してくれているゼノンさんに「おはよう」と言ってから手伝いをしよう。

 神様が起きてくるまで手伝って、起きてきた神様に「おはよう」と言って皆揃って朝食をするんだ。

 それが僕、ベル・クラネルのささやかな幸せ。

 手伝った時にゼノンさんに褒められることが、毎日のささやかな、

 

「僕の楽しみがあああああ!!」

 

 崩れかけた教会上層部。

 天井が落ちて朝日照らすその場所を掃除した後に木箱を幾つか並べ上にテーブルクロスを敷き食卓とする。

 その上に朝食を配膳する僕の役割(楽しみ)は見知らぬ白髪の、なんか凄い格好の女の人がやって(奪って)いた。

 

「おう、おはようベル」

 

「はじめまして、おはよう」

 

「おはようございます。・・・・・・誰ですか?」

 

「バーチェ・カリフという。これからゼノンの妻として世話になる」

 

「妻じゃねえけど、多分まあ長い付き合いにはなるんじゃねえかな。生粋のアマゾネスで世間知らずだから色々教えてやってくれ」

 

「え、妻?アマゾネス、ティオナさん達と同じアマゾネス?え、魚採りに行ってたのに帰ってきたら嫁?」

 

「殴ったら惚れられた」

 

「殴られたから惚れた♡(ポッ)」

 

「何をやらかしてんですか、ゼノンさん!!」

 

 理由がわからない状況に叫びを上げると、ガチャリと扉が開く音がして、そこからノロノロと神様がでてきた。

 

「おはよう二人とも。もうベル君、ゼノン君が帰ってきて嬉しいのはわかるけど朝から叫びすぎだよ、君の声が地下まで響いて・・・・・・・・・っ誰えええ!!」

 

 そして神様はバーチェさんを見て僕と同じ反応をした。

 

「賑やかなところだな」

 

「ああ最高の家族(ファミリア)だよ」

 

 コトリコトリと食卓に朝食を並べながらゼノンさんとバーチェさんは微笑ましいとばかりに笑い合っていた。

 今日の朝ご飯は、焼いてほぐした魚とハーブを混ぜたおにぎりと魚のアラのミソスープ。

 魚を用いた極東風朝食だ。

 

 極東風の食事作法「いただきます」をしてからもぐもぐとおにぎりに齧り付く。

 おコメを使ったご飯の時は大概この素手で食べられるおにぎりにしてくれる。

 極東風の食事は箸の方が食べやすいらしいけど、慣れない僕とヘスティア様を気遣ってこの形式にしてくれるのだ。

 天日干しにした魚を焼いてほぐした混ぜたおにぎりは塩気が効いて美味しい、さらに加えられたハーブが脂のしつこさと魚の生臭さを打ち消してくれる。

 合間に啜るミソスープも出汁がじんわりと滲み出て野菜と溶け合いなんかほっこりした気分になる。

 

「それでバーチェ君は、色々あってゼノン君の妻になりにきたんだって?」

 

「はい」

 

「うん、ボクとしては娼館通いするゼノン君が落ち着いてくれるなら大歓迎だよ」

 

「はい!!」

 

「えっ?俺はまだ遊んでたいから結婚とか嫌だけど。19だし」

 

「ゼノン君は後で説教」

 

 どうやら神様としてはバーチェさんを大歓迎らしい。前々からゼノンさんの娼館通いをよく思ってなかったからなあ。

 

「それで改宗もしたいらしいね?」

 

「はい、カーリーからは許可を得ています(泣いて縋りつかれたけど姉妹で張り倒した)」

 

「家族が増えることは大歓迎さ!!住環境はちょっと整ってないけどね。というかカーリーのトコの子供だったんだね君」

 

 住環境はちょっとじゃないかな?

 リリなんか別の所に下宿してるし。

 

「大丈夫だ、テルスキュラでは石畳に藁を敷き詰めた寝床だったから気にならない。ゼノンと同じテントで良い」

 

「狭いから俺が嫌だよ、新しいの買いに行くか宿屋に泊まらせるからな」

 

「イケズだな」

 

 ゼノンさんって優しいけど、嫌なことは嫌だとはっきり言うタイプだよね。

 

「それじゃあ、ご飯の後に恩恵を刻もうか。一応訊いておくけどレベルは幾つなんだい?」

 

「6だ」

 

「そっかー、それは随分とた、かいね・・・・・・・・・」

 

「「レベル6ーーーーーーっ!!」」

 

 その桁違いのレベルに僕と神様は驚きのあまり叫んでしまった。

 廃墟地帯だから迷惑にならなくて良かったけどご近所迷惑な朝の一幕。

 とりあえずバーチェさんの改宗は、冒険者事情に詳しいリリかギルドアドバイザーのエイナさんと相談してから決めることにした。

 レベル6。

 冒険者の本場ダンジョンを抱える迷宮都市オラリオでも一握りの存在。

 ロキ・ファミリアの団長であるフィンさんを含んだ幹部達とフレイヤ・ファミリアの幹部ぐらいしか到達していない領域。

 これより上は、レベル7はフレイヤ・ファミリアの『猛者』オッタルか、オラリオ外の英雄『ナイト・オブ・ナイト』しか存在しない。

 

「駄目なのか?」

 

「冒険者、ファミリアにはランクとか面倒なことがあるらしいからな」

 

 改宗を保留されたバーチェさんは首を傾げ、あまり冒険者事情に詳しくないゼノンはそう呟く。いや僕と神様もそれほど詳しくはないけどレベル6加入を勝手に実行したら怒られるんだろうなという確信があるんだよね。

 

「そうか、残念だ」

 

「うグッ。なんかバーチェ君が可哀想だから改宗して良いかな?」

 

「待って神様、気持ちはわかりますがコレ絶対相談しないと不味いですって。改宗しなくても家族にはなれますから!お母さんができて嬉しいなー」

 

「お父さんは誰だ?」

 

「貴方(ゼノンさん)だよ」

 

「俺はお父さんじゃねえ、まだ19だ」

 

「私は27だが、お母さんで良いぞ?」

 

「この場合、ボクの立ち位置はなんだろう?ベル君の嫁だよね?そうだよね?」

 

「神様は神様ですよ(キョトン)」

 

「ベルくーんっ!!」

 

 ワイワイガヤガヤと過ごす楽しい時間。

 一人増えただけでこの騒ぎ。

 もっと大きなホームでリリとヴェルフも僕の仲間達も一緒に同じ時間を共有出来れば良いのになと僕は思った。

 

 そして、その願いが近い未来で叶うことをこの時の僕はまだ知らなかったんだ。

 

 

 

「ダメですね」

 

「そうなのか」

 

 賑やかな朝食が終わりリリを呼びに行ってファミリア会議。

 今日はヴェルフが鍛冶をする為ダンジョンに潜らない予定だったんだ。

 バーチェさんの改宗についてリリに相談したらあっさりと今はまだ無理だと告げられた。

 

「現在ヘスティア・ファミリアはレベル2のベル様、レベル1のリリとゼノン様の3人という小規模ファミリアです。ダンジョンには他のファミリアであるレベル2のヴェルフ様とパーティを組んで潜りますが、未だ中層の序盤までしか行けません」

 

 あの事件で18階層まで行ったけど、それ以降はそこまでの無茶はしていない。

 安全に安定した状態で徐々に攻略しているのだ(それでも普通より圧倒的に早いペースである自覚なし)。

 

「そこにレベル6のバーチェ様が加わることは戦力増強になりますが、実力に差があり過ぎて連携がとれると思えません。ゼノン様はダンジョンに潜りませんし」

 

「ならバーチェもダンジョンに行かなきゃいいんじゃねえか?」

 

「それは無理なんです(フー)」

 

 パーティが崩れるなら残念だけど組まなければ良いし、ダンジョンに潜らない選択もある。

 けれどリリはそれは無理だと言う。

 

「ファミリアに等級がありまして、功績や攻略階層で決められるのですが、一番の要因は眷属のレベルなんですよ」

 

 ファミリア等級。

 オラリオにどれだけ貢献したか、どれだけの冒険をしたかの格付け。

 その等級が高ければ得られる情報やファミリアに個別依頼を斡旋してくれたりするんだ。

 

「利点は、ささやかながらありますが。一番の問題はギルドから課せられる義務と税金なんですよ」

 

 オラリオでも一握りのレベル6の眷属。

 そんな強大な存在が加入すれば、他のメンバーではついていけない義務、稼ぎが間に合わない税金が課せられてしまうらしい。

 ギルドはレベルの高い眷属にはなるべく下層を攻略して欲しい。

 だから高い税金で潜らざるを得ない状況にしているそうだ。

 ただこれがロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアのようにギルドの要請を跳ね除けられるくらいの立場があれば問題はない。

 けれど僕達みたいな出来立て小規模ファミリアがギルドに逆らうことは不可能なのだ。

 

「またバーチェ様がレベルは高いけど、ダンジョン経験が無い点が問題です」

 

 テルスキュラという特殊な環境でレベル6に到ったバーチェさんは戦闘ならオラリオでもトップクラスに匹敵するらしいがダンジョン攻略は素人。

 悪辣な罠の犇めくダンジョンに挑むには知識と経験がまるでないのだ。

 そんな状況では、レベル6眷属が所属するファミリアランクの税金を収められるくらい稼ぐのは当分は難しいだろう。

 

「ただ強ければ良いわけではないのだな」

 

 強さこそ至上であるとされるテルスキュラでは経験したことのないしがらみだとバーチェさんは呟いた。

 

「じゃあしばらくは客人という形で改宗は保留かな?レベルが高いとオラリオから出るのは大変らしいけど、中で過ごす分にはなんとかなるでしょ」

 

「ですね。その間にダンジョンについて勉強をしていただくべきですね。

 ただバーチェ様を勧誘しようとするファミリアが大量に押し寄せてきそうですが」

 

「ヒリュテ姉妹もそうだったらしいからな」

 

「その場合は全て撃退するさ。なに、こんな毒女を受け入れる奇特な存在なんてそうはいないだろう」

 

 バーチェさんは『毒』の付与魔法を操るそうだ。仮にパーティを組んだとしても一緒にいたら巻き込まれるだろうと自嘲気味に寂しそうに笑っていた。

 

「ほれ、『破毒のリング』。これがあれがそんなもん気にならんだろ」

 

 そんな彼女の為にゼノンさんはストックしていた指輪を加工してマジックアイテムを作り僕達に配ってくれた。

 

「ゼノン」

 

 バーチェさんは嬉しそうに手を合わせて瞳を潤ませ見つめていた。

 こういうトコだよなあゼノンさん。

 元から気にしてないけど、これがあれば僕達もバーチェさんの『毒』の影響を受けないで冒険できる。

 

「素晴らしい気遣いですが、レベル6の毒を無効化できるとんでもない代物を渡されるリリの胃も慮ってください」

 

 そしてリリは何故か受け取った後に胃を押さえながら俯いていた。

 

「ベル様、エイナ様には説明をお願いします。リリは胃薬を買いにナァーザ様のお店に寄りますので」

 

 方針は決まったので何やら良い雰囲気になったゼノンさんとバーチェさんをその場に残して解散した(神様は途中からバイトに行った)。後学の為に見たい気持ちもあるけど邪魔しちゃ悪いよね。

 胃を押さえるリリと別れて僕はギルドへと向かうのであった。

 

 説明したら叫んでから胃を押さえだしたエイナさんの姿を見る羽目になったけど、バーチェさんの扱いはしばらくそうした方が良いらしい。

 本来年度ごとの税金にしても、ランクが上がると差額を払わないといけないそうなので(冒険者のレベルは普通は年単位で上がる為、また高レベル冒険者の移籍もファミリアが壊滅しない限り普通はない)、収入が見込めるまでは止めといた方が良いそうだ。

 そのアドバイスに感謝していたら、エイナさんからゼノンさんのことが冒険者とギルドの間で噂になっていると教えて貰えた。

 エイナさんも上司から調べろと言われたそうで、問題ない範囲で教えて欲しいと言われた。

 

 ゼノンさんについて語って良いんですね!!

 その言葉に僕は嬉々として僕の知るゼノンさんについて語りだした。

 

 

 半日後、心ゆくまでゼノンさんについて語った僕は、真っ白に燃え尽きたようなエイナさんと応接室で別れて帰路についた。まだまだ語れるけど今日はこのくらいにしますねと告げたらエイナさんはもういいからと遠慮しだした。

 残念だけどまたの機会にするかと思っていたら、

 

「ベル・クラネルで間違いない?」

 

「ゼノンさんの言ってる通りの見た目だね」

 

 気の強そうな短髪の少女とおどおどした長髪の少女が声をかけてきた。

 

「あの、これを・・・・・・」

 

 そして上目がちに一通の手紙を差し出された。いや、これは招待状?

 上質な紙に封蝋が施されており、差出人がわかるように徽章が刻印されている。そして刻まれているのは、弓矢と太陽のエンブレム。

 

「ウチはダフネ。この娘はカサンドラ。【アポロン・ファミリア】の眷属よ」

 

「よろしくね、お母さんと呼んでね」

 

 アポロン・ファミリア?そしてまたお母さんが増えた!?

 

「この馬鹿のことは置いといて、アポロン様が【宴】を開くからその招待状だよ」

 

 べしんっとカサンドラさんの後頭部をダフネさんは叩きながら告げる。

「あうっ」とうめき声を無視する彼女に二人の関係性がなんとなく伝わってくる。

 

「必ず貴方の主神に伝えて。いい、しっかりと渡したからね?」

 

「わからないことはゼノンさんに訊いてください」

 

「はい、わかりました」

 

 念を押され了承するとダフネさんはじゃあねと告げてからカサンドラさんの手を引いて立ち去っていった。ゼノンさんの知り合い、例のお得意様かな?

 短い髪を揺らす彼女は、その去り際こちらに向かって呟いた。

 

「ご愁傷さま」

 

「仲間になったら毎日美味しいニンジン料理作ってあげる、あうっ」

 

 え?と僕が聞き返す前に余計な事は言うなともう一度カサンドラさんを叩いてからダフネさんは踵を返して歩いていった。

 立ち尽くした僕は、手もとの招待状を見下ろした。

 





 バーチェの処遇と宴までのお話でした。
 レベル6の加入は大事なので見送りです。
 税金云々はオリジナル設定ですが、基本的に眷属レベルで計算されていて年度ごとです。
 ランクアップは普通は年単位なのですが、ベル・クラネルという例外の為、差額を払う羽目になります。加入改宗して増えても普通は追加されませんが、レベル6は普通ではないので。
 バーチェがパーティに加われない理由もいくつか書きました。毒の魔法はパーティ連携で致命的ですね。
 破毒のリングであっさり解決するゼノンはぶっ飛んでますけど。
 こんな押しかけ嫁のようなバーチェは有りでしょうか?
 なおリリルカの胃が大変なことになってます。

 アポロン・ファミリアとの戦争遊戯はします。ちなみにゼノンがベルの話ばっかりするので大半の眷属は知っていたりします。
 カサンドラは予知夢を肯定されてる為、嫁になりたがるレベルでゼノンに懐いています。
 1話で二人お母さんが増えそうなベル君です。

 
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