ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 本日2話目です。
 前話が前の方はそちらから。



第67話

 

 オラリオに衝撃が走っていた。

 否、それは衝撃どころではなく嵐である。

『猛者』オッタル。

 大剣操る剛剣士。

 特異なスキルや選ばれし血統などではなく、積み重ねた敗北による圧倒的な経験と血の滲むどころではない鍛錬、迷宮を潜り続けたステイタスにおいて最強の座に君臨する武人。

 その強さには隙がない。

 特異なスキルであれば発動条件などで攻略の糸口を掴めるだろう。

 だが、ただ強い。武人として強いだけの存在には手練手管で攻略することは困難。倒すには純粋に武力で上回るしかない。

 ステイタスが魔力以外はカンストしているレベル8に最も近いレベル7をだ。

 そんな馬鹿げた存在の、最高レベル3(リューのレベルは伏せてある)の戦争遊戯への参戦。

 それはオラリオの、ヘスティア・ファミリアを応援する者達、そして大穴狙いでヘスティアに賭けていた者達に悲鳴を上げさせた。

 

「どういうつもりや、色惚けぇ!!は、ここにはおらんからアポロン!!手段を選ばんにもほどがあるやろうがっ!!」

 

 バベル三十階。

 神々の集うその場でロキがアポロンの胸ぐらに掴みかかっていた。

 オッタルの参戦。

 これでは最初から勝負が成り立たないではないか。ヘスティアからゼノンの素性を訊こうとも、その実力を実感していないロキはあまりにもつまらない展開に、娯楽を楽しむ一柱の神として、遊戯を楽しむ観客として、何よりあまりにもヘスティアが不平等な目に合わされていることに憤っていた。

 

「そうだね。私もそう思う」

 

 アポロンは胸ぐらを掴まれたままそう頷いた。

 

「やったら、どうしてこんな反則を」

 

「フレイヤにオッタルを参戦させないとファミリアを壊滅させると」

 

「色惚けぇ!!何のつもりやおどれぇっ!!」

 

 此処で叫ぼうにも本神不在なので届く筈もない。だがそれはロキに限らず全ての神々の本心であった。

 

「ちょっと五月蝿いよロキ」

 

「何を平然としとんねんヘスティア。これは戦争遊戯を中止にしてもおかしくないことやぞ」

 

「ゼノン君は負けない」

 

 場の狂騒はヘスティアによるその一言で静まり返った。別に神威を発したわけでも神の力を開放したわけでもない。

 格。

 竈の神ヘスティア。

 ギリシャの主神ゼウスすら敬意を払うその存在が、眷族を、我が子を信じるという所謂徳の高い行為をしてしまうと、その神格が滲みでてしまうものだ。

 彼女と同格の主神より上位の大神などオラリオにはウラノス以外には存在しない。

 

「アポロン」

 

「はいっ!!」

 

「フレイヤからは悪意を感じなかったから君も彼の参戦を了承したんだろう?」

 

「ええ、フレイヤはオッタルの望みを叶えたいだけだと申しておりましたっ!!(でも私がベルきゅんに手を出したら送還する為に襲撃しそうなんだよなあ彼女)」

 

「なら、いいよ。  

 お菓子の人ゲフンゲフン、オッタル君は前々からゼノン君と戦いたがってたけど忙しいから引き返してたからね」

 

「「「「「(お菓子の人?)」」」」」

 

「そうやったんか」

 

「うん、ゼノン君はやりたいことは無理して全部やるタイプだからね」

 

 家事を代わろうとしたら悲しげな目を向けてきたからなあとヘスティアは呟いた。そしてゼノンは戦いに関してはかなり『やりたい事』の順位が下である。

 

「なら。ウチらが文句言う事やないか」

 

「すでにギルドには苦情がきてそうだけどな」

 

 ヘスティアの言葉により、神々はなんとか落ち着いたようである。

 オラリオ内では騒ぎになっているが、それも次第におさまることだろう。

 

「えっ?『猛者』の大剣を止めた?」

 

 鏡の向こう、決戦の場にてオッタルの猛撃をゼノンは右手に持つ剣であっさりと受け止めているのだから。

 

「頑張るんだよ、ゼノン君」

 

 本人が強いと言っても心配なことにかわりはない。だからヘスティアは祈るように見守るのであった。

 

 

 

 

「なんだ強いなオッタル」

 

 驚いたようにゼノンは目を見開いた。  

 レベル7最強の武人による圧倒的膂力から振るわれる剛剣。

 それをゼノンは右手の雷鳴の剣で捌ききる。ゼノンの膂力がオッタルと同等だからできるのではない。無論闘気を修めたゼノンの力は決して負けることはないが、それを可能としているのは力の流し方を熟知しているからだ。

『武神流』拳聖ブロキーナの創り出した武技を極めたゼノンに暴威が如し猛撃を流すことなど造作もない。

 そもそもこと身体能力であれば、力比べであれば、モンスターであるギガンテスやトロルの方が上だろう。だがそんなモンスターをブロキーナは容易く打ち倒す。力が強いことは戦いで勝てることとイコールではないのだ。

 そしてオッタル。

 彼もまたブロキーナやゼノンほどではないがその域にいる。

 能力値が限界まで上がり、上昇の余地が今の『器』ではもうないことを悟ったオッタルは、ダンジョン探索にもフレイヤ・ファミリア名物『戦いの野』にも参加せずにひたすら鍛錬に明け暮れていた。

 その時間を確保できたのは主神であるフレイヤのシルへの変身が理由なのだが、団長らしい仕事をしろと下から苦情がくるのも当然だろう。

 相手と戦わず強くなれるのか?

 ひたすら型稽古をしていて強くなれるのか?

 モンスターを殺さなくて強くなれるのか?

 それを証明しているのが、拳聖ブロキーナと猛者オッタルである。

 己と向き合い、技と駆け引きを培うことで辿り着ける領域はあるのだから。

 

「やはり強いなゼノン」

 

 最強の冒険者は笑う。

 もはや迷宮都市には存在しない自分を強くしてくれる存在に再び出会えたことに、彼の心は沸き立った。

 

「そーかね?

 俺より強いヤツなんてきっといるんじゃね?」

 

 勝ちたい相手に勝ったことのないゼノンの自己評価は低い。

 自分よりも弱かった小さな勇者が、その相手に打ち勝ったのだからそうなるのも仕方がない。

 ゼノンの強さもまた鍛錬の末に辿り着いた境地。彼の人生もモンスター討伐や戦闘よりも形稽古や修練の時間の方が長いくらいだ。

 ただそれでもオッタルよりも若くして上の領域にいるのはその『極才』と『渇望』ゆえ。

 他者と同じ始まりで同じことをやっても上回ってしまう、理不尽極まりない才能。

 大魔道士マトリフや拳聖ブロキーナのような、その分野のみを極めた人物より劣っていると本人は思っていたが同じ時間を費やせば超える可能性はある。

 ただゼノンは今この場で超えたかった。

 だから及ばぬ分野以外にも次から次へと手を出して極めていったのだ。

 

「ゼノンよ、お前ならばバロールを単独討伐しなければ昇華しないだろう俺をさらに上の領域へと至らしめることができる」

 

「・・・・・・・・・我流でそこまでできんなら、流派一つ極めれば強く成れると思うがね」

 

 さらにオッタルとゼノンの差は『師匠』の存在。一から自ら切り開く者と、道筋を導かれた者では成長速度に差がでるのは当然である。

 とはいえ、その『師匠』で『勇者アバン』と巡り会えてしまう点もゼノンの才能なのかも知れないが。

 

「アバン流とやらか、お前に師事するのも悪くないな」

 

「忙しいから無理。つーか空裂斬以外なら似たようなこと出来るだろ」

 

 やはりアバン流の肝は空裂斬にあるのかも知れないとゼノンは思う。

 光の闘気放出と邪な力を見極める直感。

 これがあるからアバンストラッシュはあれほど強力なのだろう。

 言葉を交わしながらも剣をぶつけ合わせる。お互いに一歩も退かず向き合ったまま、必殺の間合いで剣を振るっているのだ。

『猛者』オッタルと戦う者でこのような戦い方をする者などいない。

 一撃当てては距離を取る、それが普通の戦い方だ。

 踏み込みによる加速を剣撃に乗せて放ち、オッタルの返撃を喰らわぬように距離を取る、身体能力と技と上回るオッタルにはそうすることが正解なのだ。

 だからこそ、オッタルとこうして鍔迫り合いをできることは実力があることの証明と言える。

 

「はじめてかもな、こうして誰かと剣を打ち合うのって」

 

「意外だな。お前とて偉業とも言える試練を乗り越えて強くなったのだろう。その中に強き敵がいただろう?」

 

「いいや」

 

 ロン・ベルク以降の戦闘での初の敗北は竜騎将バランが相手。その時もオリハルコン製の世界最強剣・真魔剛竜剣とは碌に打ち合わずにギガブレイクとゼノンウィンザードをぶつけ合い竜闘気を僅かに破り傷を付けることに成功するもエクセリオンブレードを砕かれ負けてしまったのだ。

 

「圧勝か、敗北、それしかなかったからな」

 

 辛勝無き強者ゼノン。

 その事実が本人の劣等感を大いに刺激したものだ。

 

「そうか、ならばお前の実力の底。引きずりだしてみせる」

 

「いや俺の底って手段選ばないクソ外道だからな。キルバーンだぞキルバーン」

 

 アイツみたいに普通に鍛えても無敵に成れるけどつまらないからやらない、とは言わんがな。

 いやアレは人形のセリフだったか、と過去を懐かしむ。勧誘はクソウザかったし、性格心根も下衆外道の極みだが嫌いではなかった。

 殺して当然の存在だったが、ザボエラと並び妙な喪失感のあるヤツだったとゼノンは思う。

 今の彼だから、そう思えるのだ。

 

「ウオオオオオオオオ!!」

 

「あ、雷鳴の剣だとそろそろヤバイな」

 

 吠えるオッタルと軽口を叩きながらも揺るがぬゼノン。剣戟により生じる火花、鍛冶場の鍛造に劣らぬ熱をその武技で作り出していた。

 そしてその戦場をオラリオの住人達に、神々に、冒険者に、尋常ではない衝撃と未知とゼノンという英雄の実力を見せつけていた。

 

 

 

 ロキ・ファミリアホーム。

 

「ゼノンさん、凄い」

 

「ハハハハハハ」

 

「フィンよ、笑うしかないのは分かるが」

 

「あのオッタルと純粋な剣技であそこまでやれるとは。その上、解毒魔法に治癒魔法に催眠魔法、いったいどれだけの手札があるというのだ。あの自動人形についても訊ねるつもりだが他にも訊きたいことが山程あるぞ」

 

「ゼノンって本当に『英雄』だったんだ」

 

「あのオッタルの絶対防御と同じ域にいるなんて」

 

「チッ、あれだけの強者が料理人なんてしてんじゃねえよ」

 

「あの・・・・・・レベル1なんですよねあの人?神の恩恵って強くなるのに関係がないんですか?」

 

「でも、オッタルさん楽しそう」

 

「むう、アヤツのあの顔もいつ以来かの」

 

「あの寡黙な武人が笑う、か」

 

「ケッ」

 

「ゼノンもいつもより楽しそう。戦いなんて単純作業だから怠いって嫌がってたのに」

 

「両方とも戦う相手に飢えてたのかもね」

 

「でも、ゼノンさんはまだまだ余裕(フンス)。まだアバン流も呪文もエクセリオンブレードも使ってないし」

 

「「「「あれで手加減っ!?」」」」

 

「ねえ、あそこまで辿り着いた英雄でも倒せなかった大魔王ってナニ?そしてそんな大魔王を倒した小さな勇者ってなんなんだ。さすがに見ていて堪えるよ」

 

「大丈夫だフィン。そんなお前を私が人肌で癒そう」

 

「アルガナ、テメェ!!」

 

「「「「「「今日だけは止めてマジで!!」」」」」」

 

 





 神々の会話とオッタル対ゼノンです。
 なんか長くなったので切ります。これで終わりにしたかったけど意外と長引きまして。
 オッタルも技と駆け引きを磨いたタイプ。
 シルさんにフレイヤ様がなってたからその時間を鍛錬に当ててたんですね。団長としての仕事もしてくださいマジで。
 形稽古は実戦に及ばない、という理屈もありますが。スポーツとしての戦いと実戦ならばともかく、命のやり取りを見据えた鍛錬ならばそう差はないかなと。
 ちなみにゼノンは鍛錬でレベル上げまくってからシナリオを開始したパターンです(笑)。
 なので基本的に戦闘は楽で、バランに敗北したのがかなり後を引きました。
 ロキ・ファミリア以外にもフレイヤ・ファミリアも書きたかったんですが、まだ理解が足りないので断念しました。ただ下手したら幹部達はゼノンに挑みに来るかもしれません。来たとしてもゼノンはラリホーして落書きして尻に武器をを突き刺して戦いの野に吊るすでしょうが。
 
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