ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 今回で終わらせるつもりでしたが、なんかキリがよかったのでここまでです。



第69話

 

 ベル・クラネルにとってこの雷鳴の剣は憧れの象徴であった。

 ゼノン本人は既に忘れているだろうが、オラリオに到着するまで相乗りさせてもらった行商人。彼との旅路に置いて途中で出会ったゼノンは襲い来るモンスターを一刀のもと斬り伏せたのだ。

 今思えば大したモンスターではなかったのだろう。ダンジョンの外のモンスターの強さはダンジョン内のモンスターとは同種族であろうと遥かに弱いとされている。

 けれどそんなことは当時は知らなくて、そんなことは関係ないくらいゼノンは格好良かったのだ。

 確かにベル・クラネルはかつてゴブリンに襲われた自分を助けてくれた祖父を英雄のように尊敬している。

 確かにベル・クラネルは実家に山のように積まれた英雄譚の登場人物達に憧れている。

 けれど眼の前で容易くモンスターを倒す姿を見るのはこの時が初めてであり、そんなゼノンを英雄のように思ったのだ。

 オラリオに到着してダンジョンに一切興味を持たずに食堂で働きだした時は驚きのあまりズッコケたものだが。

 ヘスティアに拾われ恩恵を授かり冒険者になってから様々なことがあった。

 基本的に戦うことに興味を示さないゼノンだったが、それでもベルの憧れが揺らぐことは無かった、

 修行をつけてもらい、アバン流を伝授され、そしてあの『アバンストラッシュ』を18階層で見た時に、その憧れはより強まったと言える。

 そんな存在に認められ、そんな人物が使っていた武器を譲られた。

 その事実に背に刻まれた恩恵が燃えるかのように熱を発し、全身が焼けるように滾っていた。

 そしてその熱はそのまま、ヒュアキントスとの戦いに反映されていた。

 憧憬をこの手に掴んだ少年は、冒険者としてさらなるステージに昇る。

 

「これが成り立てのレベル2だと言うのか!」

 

 ヒュアキントスは波状剣を薙ぐ。  

 その一刀はベルの雷鳴の剣に受け止められる。

 

「これがゼノンが鍛えた少年なのか!」

 

 レベル1のまま生涯を終える冒険者の数を考えれば、レベル2とて充分に選ばれし者だ。

 その上のレベル3など、第二級冒険者と呼ばれはしても、一つの派閥の団長になれるほどの存在である。

 生涯かけて到れるか分からない立場に、若くして到達したのはヒュアキントスとて同じ。

 けれどベル・クラネルは、さらにその先をより早く、誰よりも早く駆け抜ける。

 

「ヒュアキントスさん、貴方は強い。

 けど、僕を鍛えてくれた人達は、ゼノンさんやベートさんやアイズさんはもっと強い!!」

 

 叫びと共に振るわれた雷鳴の剣は、武器としての性能の差もありヒュアキントスの波状剣を両断した。

 武器破壊。

 言うは容易く、実際は困難な所業。

 それを成せる実力を身につけるとはどれだけ修練を積んだのか。

 

「フッ」

 

 ましてやヒュアキントスの愛用の波状剣はアポロン・ファミリア団長が持つに相応しい業物。

 予備の短剣を抜き放ちながら、それでもヒュアキントスは決着がつくまで諦めることなく相対する。

 全ては愛しきアポロンの為に。

 

 

 

 オッタルとゼノン。

 まるで違う両者の始まりは意外なことに似通っていた。

 ただ、

 オッタルは女神に名を与えられ。

 ゼノンは勇者に手を引かれた。

 そんな二人は今、なんの因果かこうして巡り合い、剣をぶつけあい戦っていた。

 

「強いなゼノン」

 

「楽しそうだなオッタル」

 

 覇黒の剣、階層主ウダイオスのドロップアイテム『ウダイオスの黒剣』を素材に作り出された大剣がオラリオ唯一のレベル7の剛剣士に怪力で振り払われる。それは最早斬撃などという代物ではない、猛獣の突撃がそのまま一閃となったような威力がある。

 だがその人外の一刀を、破壊の剣は容易く受け止める。先ほどまでの力の受け流しなど必要はない、アレは強度に不安のある雷鳴の剣の為にわざわざ行ってきたこと。

 ゼノンの持てる技術を全て費やして創り上げたこの破壊の剣は、戦う上での武器への配慮を一切必要とはしないのだ。

 

「(少しは労れや)」

 

 本人(剣)はその扱いに不満タラタラではあるようだが。

 剣に気を遣わずに全力で振り回すことができる。それがどれほどのことなのか、おそらくはゼノン以外だとダイくらいしか実感できないだろう。なお全力を出したら剣どころか自身の腕まで破壊していたロン・ベルクはまた別枠である。

 ゆえにゼノンの攻撃全ては先程までの、雷鳴の剣の時より遥かに重く鋭くなり、『絶対防御』と謳われたオッタルの技量を破りその身に傷を刻みつける。

 

「かあああっ!!」

 

「フンっ!!」

 

 鍔迫り合いの衝撃もまた先程の比ではない。

 さながら大砲をぶつけ合ったように埒外な轟音が鳴り響く。

 

「【銀月の慈悲、黄金の原野】」

 

「へえ、それがこっちの詠唱かい?」

 

 剣閃交わしつつも、猛者は唱う。

『並行詠唱』、如何に最強のオッタルであれその身はあくまで戦士。

『疾風』リュー・リオンのように攻撃、移動、回避、詠唱の四種を同時展開する技量はまだない。

 どこまでも不器用な彼は、鍛錬により磨き上げた『絶対防御』とのみその高等技術を使用することができる。

 

「【この身は戦の猛猪を拝命せし】」

 

 ゼノンはそれを見て少しばかり悩んだ。

 いっそ攻撃を止めて、その技を受け止めてみるのも面白いかも知れないと。

 学ぶことに貪欲なゼノンの悪癖。

 それは初見の技をつい観察してしまう事だ。

 

「【駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】」

 

 でもまあそれは失礼かとオッタルの魔法が発動するその瞬間まで手を緩めることはなかった。

 しかし、オッタルもまた只人に非ず。

『絶対防御』を超える斬撃を受け、自身の血が噴き上がり足元を赤く染める中であろうと、

 攻撃を止めるような戦士ではない。

 

「【ヒルディス・ヴィーニ】」

 

 生じる光輝。黄金の毛皮を纏いし黒大剣の渾身の一刀。『威力』の単純強化という属性が、オッタルの化け物じみた膂力と組み合わさって生まれる黄金の斬光。

 

「凄いな」

 

 闘気の放出をなさずに至ったオッタルの境地にゼノンは心から感嘆し、逆手に持った破壊の剣に闘気を込める。

 

「ならこちらも見せてやるよ」

 

 尊敬する先生より伝授された技。

 かの冥竜王を討伐した竜の騎士すら称賛した、勇者アバンが魔王ハドラーを討つ為に完成させた奥義。

 

「アバンストラッシュアロー!」

 

 大地を斬り、海を斬り、空を斬り、全てを斬るに至った人の技の極み。

 黄金の斬光と勇者の奥義は打つかり合い、荒野に激しい光と衝撃を巻き散らした。

 

 

 

 オラリオ内【豊穣の女主人】

 

「みゃーっ!?あのシルのお気に入りも凄いけど、黒髪兄はなんなんにゃっ!?」

 

「ウチにはあまり来ないけど冒険者じゃなくて料理人よね?」

 

「え?彫刻家じゃ」

 

「ジャガ丸君も売ってたような」

 

「とにかくなんなんにゃーっ!!というか急遽始まった賭けでこのまんまだとミャーの大損にゃーっ!!」

 

「どっちに賭けたのよ」

 

「確実に勝てるオッタル」

 

「「ああ」」

 

 シルとリュー不在の豊穣の女主人。

 そこで働くそこらの冒険者より遥かに強いウェイトレス達は、賭けに弱いと定評のある音痴兵器猫娘の言葉に、都市最強冒険者オッタルの敗北を確信した。

 

「おらっ!!サボってないで働きな馬鹿娘共!!」

 

「こんなイベント時の飲食店って」

 

「稼ぎ時だけどなんか損した気分」

 

「ミャーの給料があああ!!」

 

「ふん、昔みたいな顔しやがって猪坊主が」

 

 酒場の喧騒に耳を傾け、時折戦争遊戯に目を向けながら、フレイヤ・ファミリア前団長ミア・グラントは、団長の座を託した強くなることしか出来ない不器用な後輩の全力を尽くす楽しそうな姿に、フッと笑みを浮かべるのであった。

 なお客に混じって賭けに参加した猫娘はきちんと折檻する模様。

 

 

 

 オラリオ最大の鍛冶ギルド。

 ヘファイストス・ファミリアホーム。

 

「ぬおおおっ!!『どたまかなづち』でわかっていたとはいえ、ゼノン殿がアレほどの鍛冶師であったとは」

 

「ねえ椿、『どたまかなづち』で評価されてると聞くとこちらの力が抜けるのだけど」

 

「?なんでだ主神殿。『どたまかなづち』はウチで扱うように許可されてドワーフ達に大評判ではないか」

 

「『どたまかなづち』のカスタム依頼でドワーフ以外の鍛冶師が頭を抱えているのよ?」

 

「そうそう主神殿、『どたまかなづち』の新シリーズのこの『どたまアクス』など、どうだろうか」

 

「先ずは頭から離れなさい」

 

 ハァ~と溜息をつく眼帯をつける男装の主神。この戦争遊戯を彼女は仲間の為に改宗していった一人の青年を見守るつもりだったのだが、オッタルの参戦という反則じみた展開から予想外の方へと話が進んでいった。

 無論、とある青年ヴェルフ・クロッゾの活躍にはきちんと胸をときめかせた乙女でもあるが。

 

「しかしあの破壊の剣、デザインは些かアレだが、紛うことなき名剣。是非ともじっくりと見せて頂きたいものだ」

 

「それ以外にも収納していたペンダントも気にはなるわね。そっちはあの『万能者』の領分でしょうけど」

 

「しかし、主神殿からしたら複雑ではないのか?」

 

「ああ『ヘスティア・ナイフ』の事?そっちは別に気にならないわね。アレは創り出した時点で私の手を離れて成長していく武器だから」

 

 自身の作品でありながら、自身の作品とは言いたくない。ベル・クラネル次第で成長する武器とはそんなものなのだ。

 

「むしろヴェルフの作品を使いなさいよ、と言いたいわね」

 

「・・・・・・主神殿もヴェル吉が大好きだのう」

 

「そ、そんなんじゃないわよ!?」

 

 オラリオ最高峰の鍛冶師二人はホームにてこのような会話をしていたとか。

 

 ちなみに魔道具作成者である『万能者』とウラノス腹心の某骸骨は、自動人形登場で吠え、それらを収納していた魔法の球に気づいて叫び、破壊の剣としまっていたペンダントの存在に発狂しかけていたそうな。

 

 





 今話はベルとヒュアキントスの戦い、ゼノンとオッタルの戦い、豊穣の女主人、ヘファイストス・ファミリアホームの話でした。

 意外と似ていたゼノンとオッタルの境遇。
 ただオッタルはフレイヤに恩返しの為に生きますが、ゼノンは渇望を埋めるために生きていました。
 まあフレイヤもアバンも恩返しは望まないタイプな気もしますが。

 かなり集団単位で固まるダンまちは、こういった別サイドの会話を書きやすいですが、話がゆっくりになるのが難点ですね。

 さて、次回こそは戦争遊戯編を終わらせたいですね。
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