ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
実はゼノンの『ジゴスパーク』に詠唱は必要ありません。
ポップがラナリオンを使用した時に唱えていましたが、そちらは精霊に語りかけていたので。
なのでその場のノリで詠唱していました。
破壊の剣さんはそれを聞いてて内心で爆笑してたりします。
光が晴れた後に現れたのは雷鳴の剣を振り抜いた姿勢のベル・クラネル。
一拍たった後に光輪を砕かれたヒュアキントスが地面に崩れ落ちる。
光輪との激突で威力を減じられ、さらにヒュアキントスの衣類が防具として優秀だった為、凄まじい打撃が腹部を走った程度ですんだようだ。
ベル・クラネルはアポロン・ファミリア団長ヒュアキントスをこの手で打ち破ったのだ。
『ーーーーーーーーーーッッッ!!』
オラリオの上空に、大歓声が打ち上がった。
古城跡地に激しい銅鑼の音が、オラリオに大鐘の音が鳴り響き、決着をこの戦争遊戯に関わる全ての者達に知らしめる。
観衆である多くの者達が『神の鏡』に映る少年へと興奮の叫びを飛ばした。
またベル・クラネルと親しい者達は喜びと祝福と安堵で胸がいっぱいになっていた。
『戦闘終了〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?』
実況者イブリが拡声器へ叫び散らし、解説のガネーシャが「ベル・クラネル少年からは憧れの存在への強いリスペクトを感じましたね」と象の仮面の上から眼鏡をつけてコメントする。
それを発端にオラリオ各所の酒場でもまた勝者と敗者が生まれていた。
『『『ヒャッハァーーッッ!!』』』
即ち、明らかに分の悪いヘスティアの勝ちへと大穴狙いで賭けた者達と。
『『『ちくしょおおおおっ!?』』』
確実に勝てるだろうと無難にアポロンに賭けた者達とで。
「おっ、嬢ちゃん!?お前も勝ったのか!」
その勝者の中には18階層でアレコレあったがすっかりヘスティア・ファミリアのファンと化しているモルドと、「(グッ)」とある薬舗の犬人店主もいた。
「「っしゃあ!!」」
「にゃあああ!!ヘスティア・ファミリアは勝ったけど、『猛者』は負けたにゃあああ!!」
西の大通り『豊穣の女主人』では、アーニャ、クロエ、ルノアのウェイトレス三人娘がそれぞれ反応していた。他の従業員や厨房の猫娘達も手を取り合い笑い合っていた。
よく来店するベル・クラネルを、この店の者達は顔見知り程度の者もいるがよく知っており、彼と彼の率いるファミリアの勝利を皆喜んでいた。
「・・・・・・ベルさん」
シル(交代要員)もまた演技ではなく心から湧き上がる想いに喜びの微笑を浮かべる。
酒場が忙しいのはこれからだ。
勝った者達は泡銭をテンションのまま盛大に散財し、負けた者達は自棄酒に走りはじめる。
明日がくるまで、ジョッキを傾けながら戦争遊戯について熱く語り合い飲み合うだろう。
「・・・・・・フッ」
ホームの外からも内部からも響いてくる歓声を聞きベート・ローガは笑みを浮かべてから応接室に背を向けて歩き出した。
「ベート、どこへ行くんだい?」
「さあな」
団長であるフィンの言葉に取り合わず狼人の青年は姿を消そうとして、
「あー、きっとアルゴノゥト君をお祝いしに行く気だあー!!」
「ベートの足なら馬車で1日かかる古城跡地までも数時間でつくものね」
「抜け駆け?師匠気取り狼が」
「アイズさんッ!?!?」
そんな姦しいやり取りに足を止めた。
「ケッ、誰が祝うかよ」
そして祝う気などないと吐き捨て、
「勝って当然。
ベルは俺が鍛えたんだ、アレを耐えきったアイツが、あんな気迫を見せたアイツが、負けるわけなんざあるわけねえだろ」
そう続けて去っていった。
「ツンデレ?」「ツンデレか」「ツンデレじゃな」「なるほどアレがツンデレか、次は私もフィンに試してみよう」「待てアルガナ、団長にツンデレするのはわたしだ」
ロキ・ファミリア年長レベル6組がベート・ローガをツンデレ認定し、恋するアマゾネス達がツンデレを学び恋に活かそうと画策していた。
「しかし、ベル・クラネルも凄かったがそれ以上にゼノンがとんでもないな」
「うむ、今頃はオラリオ中で大騒ぎじゃろうて」
「私としてはゼノンも凄まじいと思うが、オッタルの全力にも驚嘆した。アヤツの全力が彼処までとは」
「アレが最強か。だが今回の一戦でヤツは殻を破るぞ。故郷で見た、敗戦から成長する姿によく似ている」
「さらに一段階、上に行かれるか。
最早、ダンジョン攻略以外で二大ファミリアの面子を保てそうにないね」
「そちらはしばらく安泰じゃろう」
「女神フレイヤが一喝でもしない限りは内部争いは尽きないだろうからな」
そしてゼノンとオッタルの争いへと話は進んでいった。会議のようでもあるその語り合いだが、いつの間にか酒盃と肴も用意されていた。どうやら彼らもまた夜通し語り合う気のようだ。
「でも・・・・・・やったねっ」
「うん・・・・・・」
そんな年長組を見て、つい先程まで誰よりも騒いでいたティオナがアイズへと振り返り、にししっ、と満面の笑みを浮かべていた。
頷き返すアイズは、『神の鏡』の向こうで仲間達(動くアポロン像含む)に囲まれるベルの姿を見て、顔を綻ばせた。
「おめでとう・・・・・・。でもアバンストラッシュについては後で問い詰める」
「あ、それはあたしも参加するね」
「お二人とも・・・・・・」
祝う気持ちと追求したい気持ちが同居する尊敬する二人にレフィーヤはなんともいえない顔になっていた。
兄貴分のヴェルフに髪をかき回されながら、仲間と喜びを分かち合う少年の姿が大通りの巨大な『神の鏡』に映し出され、都市はお祭り騒ぎに包まれた。
神々が集うバベルでもそれは同じことで、彼ら彼女らは銘々に子供たちを褒め称え、批評し、好き勝手に戦争遊戯の総括を始め出す。
「よくやってくれた、我が愛し子達よ」
そんな中で敗者となったアポロンは、自身の眷族達の健闘ぶりを称え、恩恵の繋がりが切れてないことから死者が一人もいないことに安堵していた。
『神の鏡』の向こうでは力無く両膝を地について自身に詫びる者達もいたが、ヒュアキントスとの決戦を制し、人数差を覆したベル達を称賛する者達もいる。
「・・・・・・アポロン」
これまで沈黙を続けていたヘスティアがそんな敗北してなお沈まぬ太陽神へと声をかける。
その顔には涙が流れたような跡がある。
ヒュアキントスとベルの決着前の言い合い。そこで大切な、大切な、愛しい少年が言ってくれた言葉が、ヘスティアに喜びの涙を流させたのだ。
そのシーンはヘスティアだけではなく、多くの神々の心を震わせた。まさしく主神冥利に尽きる、自身らも眷族達から贈られたい言葉だったからだ。
「ああ、わかっている」
アポロンはどこか満足し、憑き物が落ちたような、ホッとするような笑みを浮かべ、ヘスティアからの身勝手な理由で強引に戦争遊戯を申し込んだ相手からの沙汰を待っていた。
「今回の件、確かに迷惑だったけど得るものも大きかった。だから最低限の要求で手を打ちたいんだけど」
これがベルを虐げられたり、ホームを破壊されたり、オラリオ中を追いかけ回されたり、悉く見下されたりしていたら出来る限り苛烈な要求をしただろう。
だが、アポロンは真正面からベルに告白し、戦争遊戯も堂々と申し込んできた。
理由ときっかけと目的は変態チックなアレだが、誠意を尽くした者に、法外な要求をするような性格では彼女はないのだ。
「いいや」
だが、アポロンがそれで済ませる性格ではなかった。彼もまた悪癖に呑まれなければ善神寄りの人格者。
けじめは取るべきだと、自らが口にした対価は払うと引き下がらない。
「ホームを含めた全財産は全て君に、君たちに渡す。『ファミリア』も解散し、私はオラリオから去るよ」
「今回の戦争遊戯を観戦した皆はそんなことを望んでないよ?ボクもそんな要求したくない」
「『外』でやりたいことができたんだ」
だからこれで良いとアポロンは笑う。
そんな彼の態度に引き下がらないなこりゃとヘスティアは溜息をついて、勝者の利益を嫌々受け取ることを決めたのであった。
どっちが勝者かわからないな。
そう言ったのは誰なのか。
戦争遊戯での勝敗で主神間で、千年先まで残るような遺恨が生まれ無かったのは良かったが、スッキリしたような満たされた顔のアポロンと、利益を得ることに納得いかずにぶーたれるヘスティアという、勝敗と真逆の姿がそこにはあった。
もっとも後味の悪くない遺恨の残らぬ結末であるが故に、この一幕もまた、きっと明日には笑い話になるだろう。
戦いが終わった古城跡地。
城壁や玉座の塔、他にも多くの建物が壊れた城内で、ヘスティア・ファミリアは勝利に浸っていた。アポロン・ファミリアの無事な面々は残った動くアポロン像達と共に仲間の救助と治療、瓦礫の撤去などの後片付けを開始していた。
「本当に、あれほどの【ファミリア】に勝ってしまったんですね」
「まさにジャイアントキリング、ってとこだな」
興奮冷めやらぬといった様子で命とヴェルフが言葉を交わす。大多数との戦いで防具と着流しに傷はついていたが二人の胸は達成感に満ちていた。
「皆ありがとう。僕だけだったらここまでは辿り着けなかったよ」
「ベル様」
「本当に、ありがとう」
英雄譚の登場人物ならば一人で全て解決できたであろう。
誰かに助けられてようやく成し遂げた自分はまだ英雄ではないんだろう。
でもベル・クラネルはそれが誇らしかった。
助けてくれる仲間達と掴んだ勝利がなによりも嬉しかった。
「しかし、ゼノンさんはどこへ。
それと先程から感じていた、下層の階層主を遥かに超える力同士のぶつかり合いはいったい?」
そんな中この場で冒険者として一番経験のあるリュー・リオンが未だに合流しないゼノンと、暗黒期の最終決戦を彷彿とさせる膨大な力について言及する。
彼女はその力を感じた瞬間、戦争遊戯を中断し、ベル達を連れて逃げるべきだと思った。
アポロン・ファミリアとの戦いを切り上げて、その場所へと向かうか悩みもしたが、実力差から来る畏れと、行けば巻き添えを食らうという予感から足が動かなかったのだ。
「悪い、遅れた」
今は落ち着いているが未曾有の厄災があるかもしれないと続けようとしたリュー・リオンの言葉を遮るように、肩にオッタルを担いだゼノンが現れた。
「「「ゼノンさん(様)!!」」」
「旦那、肩のそいつは」
「まさか、『猛者』!?」
登場したゼノンに驚くベル達と、登場したゼノンが担いできた存在に驚くリュー。
「何があったんだ旦那?」
ヴェルフの問いかけに、ゼノンはなんと答えたものかと顎に手を当てて考えだすが、なんか面倒くさくなったのかこう告げた。
「色々あったんだよ。
何、大したことじゃないさ」
「色々って」
「大したことじゃない?あの、その方はフレイヤ・ファミリアの団長で」
「えええ!?お菓子のおじさんがっ!?」
「・・・・・・ベル様。そしてゼノン様が来た方向なんですが、荒野がずいぶんと見通しよくなってますね」
「『猛者』のこのような安らかな寝顔などはじめて見ました」
「し、死んでねえからなオッタル(焦り)
ジゴスパークに押し負けたけど、なんとか威力を減衰できたから原型は保ってて、ギリギリだったけど何度もザオリクとベホマを繰り返して命は繋いだからな」
「何をやらかしたんですか。怒らないからリリに話してください」
「色々あったんだよ」
「ゼノン様あああ!!」
リリルカ・アーデの叫びが夜の深まる空に響き渡る。
「おーい、お前らも飯にしねえか!?」
正午から始まった戦争遊戯。
もうすっかり日も暮れ、オラリオに帰るのは明日にすべきだろう。
展開していた『神の鏡』も消えたようで、今日はこの古城跡地で一泊となる。
幸い、アポロン・ファミリアの3日分の籠城に備えた物資があるので食料に困ることはなかった。
戦争遊戯の後なのに両者に蟠りはない。
ベルはまだルーキーなのに凄かったともみくちゃにされ、リリルカは指揮役の才能があると褒められ、ヴェルフと命もその健闘ぶりを称えられた。素性を曝すわけには行かないリューは夕食を受け取るとその場から離れた。親しく話していても勝者と敗者、万が一の為に警戒する者はいるべきだろうと。そんな必要はないと悟っているが、この一時を眺めるのも悪くないと彼女は覆面の下で笑みを浮かべていた。
ゼノンはゼノンで動くアポロン像を譲ってくれ、売ってくれと迫られたり、ダフネに評価が高過ぎだと文句を言われたり、カサンドラに素敵でした(夢で見ていた)としなだれ掛かられたりしていた。
戦争遊戯は【ヘスティア・ファミリア】の勝利で幕を閉じた。
激しい戦い、遊戯とはいえ戦争。
勝敗はつき、そこに勝者と敗者は生まれた。
だが、時には決着後に笑いあえる結末だってあるのだ。
お互いを称え合い、わかりあえる決着が。
戦った者達による月下の宴を夜は優しく見守っていた。
そして、穏やかな満たされた表情で寝息一つ上げずに熟睡するオッタルとヒュアキントスは、ヒュアキントスを倒したベル同様に器を昇華させていた。
その驚愕の事実にオラリオに激震が奔るのはもう少しばかり先の話となる。
ちなみに魂の輝きっぷりを存分に堪能したフレイヤは眼精疲労となり、濡れタオルを目に当ててベッドに寝転んでいたとか。あと少しばかり興奮由来の鼻血のあともあったそうな。
今話は戦争遊戯決着後のシーンです。
先へて繋がるエピローグまで書きたかったんですが、長くなったので次にエピローグを書いて原作6巻は終了となります。
色々原作とは違いますが、ゼノンという人物の影響が各所で見受けられますね。