ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
閑話です。
オリジナル設定があるので閲覧注意です。
カン、カンと鎚を打つ音が鳴り響く。
館の裏庭、その一角に建てられた石造りの小屋。ヴェルフ専用と俺専用の『鍛冶工房』である。
日頃から使用するわけではないので俺専用の鍛冶工房なんて必要ないと言ったのだが、ロン・ベルク方式にアバン先生の魔道具作成技術を組み合わせた俺の鍛冶術はかなり特殊であり、真っ当な鍛冶師であるヴェルフと同じ鍛冶工房を使用するわけにはいかないのだろう。
ヴェルフに専用鍛冶工房を与えてやりたい、というヘスティアの想いもある。同性の中で誰よりもベルに入れ込み、ベルの命綱である装備品を担当するヴェルフにはできる限りのことはしてあげたかったのだろう。
また先行投資という意味でも価値はある。ネーミングセンスは少しばかりアレだが、ヴェルフの技量で拵えられる装備品を店で買うとなるとかなりの出費となる。それが材料費、資材費のみともなればこれからどれだけ利益があるかわからない。
さらにヴェルフの魔剣にしても、ロキ・ファミリアなどから依頼されて臨時収入になるだろうしな。
エルフから忌み嫌われる『クロッゾの魔剣』ではあるが、ロキ・ファミリア団長であるフィン・ディムナはその有効性を見誤るような無能な指揮官ではない。
ダンジョン攻略、さらには彼らが対処している都市内の問題にしても必要な『力』になると判断することだろう。
まあもっともヴェルフ・クロッゾに専用鍛冶工房を用意した一番の理由は、ヘスティアの恩しかない友神にして彼の元主神であるヘファイストスから「あの子に出来る限りのことをしないと許さない」という強い圧力を受けたからだそうだが。
隻眼男装の鍛冶神ヘファイストス。
彼女は彼女でフレイヤとは別の意味で面倒臭いタイプの恋する乙女、なのかもしれない。
そんなわけで二つある鍛冶工房の内の一つ、俺専用の鍛冶工房に火が灯り、現在武器を打ち上げてるというわけだ。
「ゼノンの旦那、此処に居たのか。ちょいと命のことでって、鍛冶していたのか」
すると木製の扉が開き、ヴェルフが俺に用事があるのか声をかけてきた。
「どうした?」
鍛冶を止めるわけにはいかないのでヴェルフの方を向かずに言葉だけを返す。
「終わってからでも、って思ったが伝えておくな。あの千草って娘が訪ねてきてから数日、命のヤツがソワソワと落ち着かないみたいでよ」
その件か。
何やらあるなと察した、千草と命の一件。
カサンドラの予知夢では(なんかベルが酷い目にあいそうな感じの)歓楽街に関わることみたいなんだよな。
本人達の性格気質からしてその日のうちに事を起こすと踏んでいたが、下調べでもしていたのか数日たった今日に動くらしい。
「けどどうやら今日の夜、動くらしい」
命のソワソワというか落ち着かない様子は感情の機微にやや疎いベルにすら何かあると確信させるものだった。
ゆえにパーティメンバーとしてはその件を、命の隠し事を調べようというのだろう。
心配、という仲間への思いやりの気持ちが第一にあるのが間違いないだろうが、ヘスティアのような借金ネタだったら大変だからな。
「俺も動くか?」
調査か、いったい何時ぶりだろう。
魔王軍の侵攻が始まってからは表舞台で戦ってばかりでそういった裏方の仕事までこなす余裕はなかった。
だが透明呪文レムオルに気配を消す体術を併用すれば尾行は容易だろう。
「いや、旦那はホームにいてくれないか。やっぱりパーティメンバーのことは自分らでなんとかしないとな、って思うしよ」
なるほど、ベル達からしたら俺に頼り切りはよくないという考えか。
同じファミリアでもパーティを組むメンバーは特別な絆で結ばれるのだと聞く(というか仲が良くないと組まない)、だからこそ自分達でというわけなんだな。
頼られないことに少しばかり寂しいと思わなくもないが。
自分達でやりたいと言い出したことは尊重すべきなのだろう。
頼られないことに少しばかり寂しいと思わなくもないが。
「了解、リリルカが居るとはいえ気をつけろよ。割とベルはトラブルを引き寄せる才能があるから、何か起きるかもしれん」
「あー、そうかもな。
今回は俺とベルとリリスケで追跡するつもりだったが、ダフネとカサンドラにも頼むかな」
そんな大人数での尾行は難しいだろうに。
ベルにトラブルを引き寄せる才能がある、という言葉に思い当たるトコのあるヴェルフは天井を見上げながらそう呟いていた。
まあカサンドラはともかくダフネはうってつけだと思うけどな。
「・・・・・・と、そんな予定とそれを伝える為に旦那を探していたんだが、ちょっと訊いていいか?」
「なんだ?」
ヴェルフは興味深そうに俺の鍛冶作業を見つめる。そういえば前々から俺の鍛冶作業を見たいと言っていたっけか。
「誰の武器を作ってんだ?
剣、ってのはわかるが今のところ必要なヤツなんていねえよな?注文品か?」
「ああ俺用だ。
雷鳴の剣をベルにやっちまったから普段使い用がなくなったからな」
いやまあ無きゃ無いでなんとかなるが、攻撃呪文は街中で使用するには威力高めだし、エクセリオンブレードは疲れるし、素手だとつい殺り過ぎてしまうんだよなあ。
「破壊の剣じゃ駄目なのか?」
愛用の最高傑作なんだろ?とヴェルフは壁に掛けられた破壊の剣を指差しながら疑問を口にする。
「よく見ろよ、その剣」
「すげぇ剣だな。あのオッタルの覇黒の剣にすら勝ってるんじゃないか?」
壁に近づき真剣な表情で破壊の剣を見定めるヴェルフ。見るだけではなく触れて調べてみたいと思っている様子が伝わってくる。
「(ヤンノカコラ)」
破壊の剣はなんか喧嘩売られてると感じたようだが。
「手にとって触れても構わないぞ。
ただ気をつけろ、噛むから」
「噛むのかっ!?」
刀身の先端側にある髑髏の装飾。
モンスター化したせいで動いて噛むんだよなあ。戦う相手の剣を受け止めたり武器破壊もできるから便利ではあるが創り手持ち主である俺にすら噛みつくからな。
「破壊の剣が最高傑作なのは事実で、オッタルレベルともなれば他の武器だと頼りないから使うが普段使い用に持ち歩くのがなあ。
幅広いし、装飾過多で不便だろ?」
剣先の斧部位のせいで横幅も広く、装飾により厚みもある破壊の剣。
鞘なんて作るとバックパック並みの荷物になるから常日頃持ち歩きたくないのが俺の本音だ。
それに破壊の剣が必要な敵もそうはいないみたいだしな。
「(キレそう)」
「そんな身も蓋もない。
でもダンジョンに長期遠征の為、質は落ちても持ち歩きが便利な武器の需要ってかなりあるんだよなあ」
鍛冶師としては不満だけどなとヴェルフは溢す。
最強の武器はかならずしも最高の普段使い用の武器でも、最高のダンジョン攻略用の武器でもない。
それぞれ用途に合った最高の武器があるんだろう。短期決戦だった、大魔王バーンとの戦いとはまた別なのだから。
だからコレが出来たらまたペンダントに収納だな。魔法の筒とは違い、しまう時に手間がかかるが切り札っぽくて良い感じだろう。
「(キレそう)」
「よし出来た」
カン!!
と最後に一際大きな音を立ててからその剣を持ち上げる。
繊細な細工と意匠の施された片手持ちの柄。
反り返った光り輝く刀身。
「ライトシャムシール。そう銘をつけるか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、その魔力で構成された実体ない刀身をなんでカンカン打ってたんだ旦那」
ライトシャムシールの刀身は魔力。
解除すれば柄のみとなる携帯に便利な剣だ。
「必要な手順ではあったぞ?
刀身のイメージを固定することで無駄な魔力放出消費を防げるしな」
理力の杖より使いやすく、光魔の杖より負担の少ない武器を目指して打ち上げた剣。
魔力刃の形成は光魔の杖と同じだがアレほど、大魔王バーンの超魔力すら枯渇するほど吸い上げられたら死ぬからな。
刀身に必要な魔力は一定。
だが凡百の剣より鋭く硬い逸品というわけだ。
何より携帯面が素晴らしい。
「途中から見てたが何をしてたのかわからなかったなあ」
ヴェルフが残念そうに呟く。
それは魔剣を打てない鍛冶師がヴェルフに思う感情と同じものなんだろう。
言語化できない感覚の領域が技術というものにはあるのだがら。
「さて、後はいくつか仕上げるか」
打ち上げたいのはライトシャムシールだけではない。ロキの言葉から何やら騒動があるのは間違いない。
それに備えて用意はしておくべきだろう。
ヴェルフはそんな俺の武具を打ち上げる姿を自ら糧にしようと目を見開いてじっと見つめ続けるのであった。
今話はオリジナルとなります。
普段使いできない破壊の剣の代わりを打ち上げる話ですね。
冒険向きの武器、その選出はかなり大変かなと思います。長期遠征だからこそ、いくらステイタスのゴリ押しが可能でも使いやすさ持ち運びやすさは重要かなと。
その点、ライトシャムシールはかなり便利な剣です。まんまビームサーベルですが。
魔力消費は抜き放った時のみ。
定量の魔力が刀身となり、光魔の杖よりかなり使いやすいです。威力は比べものになりませんが。
破壊の剣はこんな扱いだからゼノンが大嫌いなわけです。