ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない)   作:規律式足

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 オリジナル閑話です。
 しかし、ヘディンさんのフードに耳用の穴が空いてるのを見て、ハドラーのフードが二本角みたく上に伸びてるのを思い出しました。
 アレも角や髪じゃなく、上に伸びた耳なんですよね。



第82話

 

 その人物がヘスティア・ファミリアのホーム『竈火の館』を訪ねてきたのは、ベルが歓楽街から朝帰りして数日後のことだった。

 ベルによる奉仕作業。

 それはバニーフルセットを装備してヘスティアをオモテナシ・・・・・・することではなく、路地の清掃、魔石街灯の補填、荷物運搬、などのご近所さんに対する社会貢献だ。

 以前の廃教会ではなかった、いわゆるご近所付き合いというやつだ。

 もとより人の良い性格であるベルの働きの評判は良く、地域住民からは感謝の言葉を頂いた。

 ただその途中で、ベルに想いを寄せる、好意的に思っている女子たちにベルの娼館朝帰りがバレ、一悶着というか、全員口を揃えてもうそんな場所に行くなと説教されたとのこと。

 迷宮都市オラリオ。

 冒険者という無法者集う、暴力を至上とする力ある者達のパラダイスなのに、この倫理観はどうなっているのだろうか?

 まあそんなことはさておき、重要なのは眼の前の来訪者だろう。

 

「突然の来訪失礼する。そして貴殿らのホームに招き入れて頂き感謝しよう」

 

 種族はエルフ。

 肌の露出がない黒の戦闘衣。潔癖を現すような服の上には金の刺繍が施された白の腰巻きと白のケープ。

 容姿は金の長髪に細長く尖った耳。眼鏡をかけた理知的な相貌はもとの世界の知り合いにはいないタイプだった。

 いや、この本人から溢れる気配には覚えがあるな。そう一番近い印象の人物と言えば。

 

「(ラーハルト、か)」

 

 竜騎将バランが腹心、陸戦騎ラーハルト。

 こと槍使いとしては世界最強であろう魔族と人の混血児。

 大魔王バーンではなく竜騎将バランに忠誠を誓っていた武人。

 眼の前のエルフは、その男となんとなくではあるが似た印象を受けた。

 

「我が名はヘディン・セルランド。フレイヤ様にお仕えする眷族が一人だ」

 

【白妖の魔杖】と呼ばれるレベル6冒険者、【フレイヤ・ファミリア】の幹部である。

 

「フレイヤ・・・・・・・・・・・・様(凄く嫌そうな顔)の眷族ってことはベルの娼館朝帰りの件か?」

 

「他所のファミリアの主神に敬称をつける必要はない。さらにそこまで嫌そうな顔をするならばなおのことだ」

 

 この世界の一般人ならば神だからという理由で敬称はつけてしまうが、俺はそんな風には思えない。

 だが対面する人物が、狂信者しかいないとされるフレイヤ・ファミリアの幹部となればつける必要があると判断したのだ。

 

「その件については既にシル様から誤解だと聞いているとのことだ」

 

 いや聞いてるっていうか本人(神)。

 

「夜通し英雄譚や御伽噺で盛り上がった、という事実に嫉妬はされていたがな」

 

 面倒臭いな恋する乙女。

 

「じゃあ、いったいどんなご要件で?」

 

 今、このホームには俺しかいない。

 ヘスティアはバイト、ベル達はダンジョン、バーチェは孤児院。ただ一人、ガネーシャ像を彫っていた俺のみが居たのだ。

 まあかえって良かったかもな。

 他の連中が都市最強フレイヤ・ファミリアの幹部が訪ねてきた時に遭遇したら大パニックになるだろう。

 ただ眼の前のエルフは、大派閥の一員だからと貴族のように上から物を言うのではなく、きちんと挨拶をして今日は大丈夫かと尋ねてから来館した。

 礼を尽くしてくる相手を無碍に扱うわけにはいかんよなあ。

 

「まずは謝罪を。

 先日ウチの愚猪、もとい団長オッタルがそちらの団長の貞操が賭けられた戦争遊戯に強引に乱入したことを深く謝罪申し上げる」

 

 そんな謝られることはないと思うが、普通に戦争遊戯が中止になってもおかしくないくらい理不尽な所業だったらしい。

 俺の方が理不尽だからなんとかなった。だから問題にならなかっただけなんだとか。

 

「いや、それは日頃から組手を断ってた俺が悪いし」

 

「あんな地形破壊をする組手など断って当然だろうが」

 

 うん、それはそう。

 

「失礼。

 そしてオッタルがレベル8へとランクアップした。その件でフレイヤ様が感謝していると伝言を賜っている」

 

 オッタルのランクアップ。

 その事実で、二大巨頭とされていたロキ・ファミリアとかなり差が出たからな。

 ロキ・ファミリアの最高レベルが6である以上は、如何に戦略を駆使しようとももはやフレイヤ・ファミリアには勝てないだろう。

 俺にはよくわからないが、レベルが二つ違うということはそれだけの差なのだから。

 けど、

 

「アイツのランクアップ。

 お前らが遠征時に階層主討伐を邪魔しなければとっくに成されていたと思うんだが」

 

 ランクアップについては感謝されることじゃないと思う。オッタルはいつでもレベル8に成れたのだから。

 万全な状態で深層に赴くには如何にオッタルと言えど至難。

 だから団員引き連れていったのに、内輪揉めで台無しとか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。その二つの件でフレイヤ・ファミリアから感謝の品を受け取って欲しい。金銭は好まぬとオッタルより聞いていたので、希少金属のインゴットだ。無論、望まれるならばヘスティア・ファミリアに幾らかお支払いするが」

 

 気まずそうに沈黙すんなや。オッタルにはきちんと謝れよお前ら。

 そして感謝の品にインゴットか。

 深層で採取された貴金属、ヴェルフにやっても良いが俺がこれでナニカを創るのもありだな。

 

「金銭についてはいいさ。

 ウチも得たものがある戦いだったしな」

 

 久方ぶりにジゴスパークを放つことができた。そんな機会はそうそうないしな。

 

「それでは、我らの面子が立たん。

 ゆえに、使用人の紹介をしたいのだが」

 

「使用人?」

 

「今のヘスティア・ファミリアの人員ではこのホームの清掃管理は困難だろう?信頼できる使用人をこちらから斡旋できるのだが」

 

 そういえばリリルカが必要とか言ってたな。ベルがメイドさんからご奉仕と妄想したから、しばらくはやめておくということになったが必要ではあるな。

 そう告げて、わざわざ似顔絵の書かれた羊皮紙の紹介状を差し出してきた。

 

「シル・フローヴァ、という気立ての良い娘でな。普段は酒場で働きつつ・・・・・・」

 

「お礼に見せかけて自分の欲求押し通そうとするのやめてくんない?」

 

 言ってる、というか言わせられてるヘディン自身も顔をそらしながら説明してんじゃねえか。

 想い人の自宅に合法的に潜り込もうとしてんぞこのストーカー(神)。

 つーか、護衛のフレイヤ・ファミリア幹部までセットだろ。警備面では確かに安全になるなオイ。

 

「是非とも検討してほしい」

 

「ストーカーを自宅に招く阿呆がいるか」

 

「そこをなんとか」

 

 これ、別に使用人雇わないと延々と来そうだな。どうしよう。

 

「そうだ。

 使用人になるからには料理の腕を見て欲しいとシル様から手料理を預かっている。

 どうか試してもらえないか?」

 

 するとヘディンは持ってきた荷物の中から、頑丈そうな金属の箱に何重にも鎖で縛りつけられ、さらには札まで貼られ封印された物を取り出した。

 さっきから感じていた禍々しい気配の正体はそれ(手料理)かい。

 

「・・・・・・・・・いつもの数倍気合が入られてな」

 

 愚猪と愚猫が寝込んでいるが、なんとかその程度の被害ですんだ。

 だからオッタルではなくお前が来たのね。

 

「使用人になるには料理の腕が必須。

 どうか試して欲しい」

 

「試すまでもなくね?」

 

 開封するのすら厄災が飛び出しそうで怖いレベルだよ。フレイヤって邪神か何かか。

 ズイとテーブルに出された禍々しい気配の箱。なんで手料理が大魔王バーン並の圧を発してんだよ。

 一応パカリと開封したが、そこにはごく普通の、見た目だけはごく普通のジャガ丸君が二つ皿の上に並んでいた。

 こんなものがあんな気配を、と一瞬思ってしまったがコレがザボエラ以上の毒を含んでいると俺には理解できる。インパス使ったら文字化けしそう。

 だが試さ(処分し)ないわけにはいかない。

 だからパンパンと手を叩いてある存在を呼び出した。

 

「ほいお食べ〜」

 

 俺は葛藤の末、人(ミミック)に押し付けると決めた。

 

 ミミックはシルの手料理を差し出された。

 ミミックは恐る恐る口にしようとして、生命の危機を察知して逃げ出した。

 逃げられない。

 しかしまわりこまれた。

 ミミックは絶望してシルの手料理を口にした。

 ミミックは毒になった。

 ミミックは幻に包まれた。

 ミミックは身体が痺れた。

 ミミックは混乱した。

 ミミックに999のダメージ。

 ミミックは眠りについた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「じゃ、採用は見送りってことで」

 

「料理以外ならば・・・・・・完璧だぞ?」

 

「料理だけでマイナス振り切るわ」

 

 ミミックという尊い犠牲の結果。

 両者合意の元、ヘスティア・ファミリアでシル・フローヴァを雇用する件は見送られた。

 そもそもヘスティアとリリルカがベルに近づく女性を雇うことはありえないのだがな。

 

「そうか、本日は時間を頂き感謝する。

 ただシル様は少しばかり不満が溜まっているので、せめて『豊穣の女主人』にはもう少し足を運んで欲しい」

 

「ま、そんくらいなら」

 

 彼処の料理は普通に美味いしな。

 ただヘスティアとリリルカが恋敵がいるからと行きたがらないんだよ。

 

 そうしてヘディンは帰っていった。

 最後に個人的な質問として自分がジゴスパークを覚えることは可能かと訊かれたが。

 たとえ泥を被ろうが忠義を貫く白銀の意思を宿すコイツに暗黒闘気など一雫も存在せず、ゆえに不可能だと伝えた。

 雷の魔法の使い手として残念らしいが、その説明に納得はしてもらえた。

 生来の雷使いの時点で俺からしたら羨ましい話だがな。

 

 しかし、使用人か。

 いっそ春姫でも身請けしようかね。

 また手料理携えて突貫されたらたまらんし。





 今話はオリジナル閑話となります。
 歓楽街数日後の日常のワンシーンです。
 オッタルのやらかしたアレコレについてと、シル(フレイヤ)の行動力の話ですね。
 ミミックは犠牲になったのです。

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