ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
読者の皆さんの見識が深くて感想を見るのが毎日の楽しみです。
いつも本当にありがとうございます。
「ま、こんなもんだな」
「ゼノンは賭博でも強いんだねえ」
ドレスの方が普段着より露出が減る。
それはアマゾネスの特徴の一つだとよく言われるらしい。
けれど、肉感ある身体付きに引き締まったスタイルを誇るイシュタル・ファミリア屈指の美女であるアイシャ・ベルカは紫色の生地に華の意匠を施された、いわゆるチャイナドレスと呼ばれるドレスがよく似合っていた。
このドレスはアイシャの美脚が引き立つなあ。
俺はメダル状のチップを指でいじりながらそんな感想を抱いた。
そしてそんな俺の反応に嬉しそうに笑みを浮かべたアイシャは絡みつくように賭けに参加する俺へと背後から抱きついていた。
「またもや的中です!!」
ルーレット。
回転盤と共に回るボールの落ちる先を当てる賭博。シンプルかつボールの転がり具合で一喜一憂し盛り上がるその遊戯で先程から勝ち続けていた。
ボールの落ちる先の予測など造作もない。
大魔王バーンによる掌大のイオラ連打を経験した俺からすれば、熟練ディーラーによるボール捌きも大したものではない。
ボールは一つしかないし、投げられた後に追いかけてくるように軌跡を描くわけでもない。
回転盤の速度と台の傾斜とディーラーの投げ方さえ見極めれば簡単に勝ち続けることができる。
このカジノは以前見たことのある、小型のアルマジロ(球形になる小動物)を用いたボールの操作も行われてはないしな(オスがメスに惹きつけられる習性を利用して台の下にメスを仕込み、ボールであるオスの落下場所を操作する手法)。
連続で大当たりを的中させ続ける事、美女美少女が集まるこのカジノでも一際目を引くアイシャを連れていることで、俺は周囲から羨望と注目、さらには嫉妬を集めていた。
中には先日の戦争遊戯で俺の活躍を目撃し、なんとかお近づきになろうと迫ってくる者もいたがな。
「とりあえず目立って、テリーだかテッドだかの狩り場である、あの貴賓室に招かれることか」
いくつかのゲームテーブルを越えた先、ホールの奥。そこには特定の招待客しか出入りしていない、固く閉ざされた重厚な樫の扉がある。扉の左右には屈強な護衛が二人、門番のように近寄る者達に睨みをきかせながら佇んでいる。
大賭博場には大抵存在し、上客を招き入れ、より高い掛け金で賭博を行う専用の空間である。
もっとも、それは本来の大賭博場であって、この『エルドラド・リゾート』では異なるのだが。
「そうだねえ。イシュタル様宛、歓楽街の娼館主用の招聘状で入館したけど、あそこにはまだ誘われてないからねえ」
連中の食いつきそうな餌はいくつかチラつかせてはいる。
金、美女、注目。
そして、繁華街の連中が手を伸ばしたがっている歓楽街の人間であることと、戦争遊戯で目立った俺という存在。
(調べられた限りのテッドだかの性格、というか趣味嗜好は、そんな成功してるヤツを地べたに這いつくばらせること。ならばせいぜい調子に乗ってる演技でもするか)
ルーレットで勝ち続けながら、首に手を回しながらもたれかかるアイシャの優美な手から果実を啄む。ついでに彼女の指も咥えればその光景に周囲は盛り上がり、アイシャも頬を赤らめ悦ぶ。
(賭博なんて面白くもなんともないがな)
熱狂する周囲とは裏腹に俺の内面は冷めていく。確実に勝てる賭博なぞ単なる作業。
勝利よりも、勝利する準備や勝利する為の訓練が好きな俺は、勝つ度に気分は盛り下がるのだ。
(あと数回遊んだら、別のやつをやるか)
初見の賭博ならば攻略法を見つけるまでの時間は楽しめる。
その僅かな時間が、俺のカジノの楽しみなのだから。
「しかし、急がねえとな」
「ああ、まさかここまで動きが早いとはね」
俺達の視線の先には寄り添い歩く伯爵夫婦・・・・・・・・・に偽装した男女。否、男装したエルフと人に擬態した女神だ。
薄緑色の髪を品良くまとめ、とある鍛冶神のように巨大な眼帯で左眼から顔半分を覆いつくす。それでも傷つきだと醜さを感じさせないミステリアスな魅力を放つ、眉目秀麗な男性。へと男装した『豊穣の女主人』のウェイトレスにして、【アストレア・ファミリア】のレベル4冒険者リュー・リオン。
そして、別段切目が刻まれているわけではないが細い肩と背中は剥き出しで胸元の部分も開いた夜会着に身を包んだ同じく『豊穣の女主人』のウェイトレスにして実は神威を抑えて町娘へと擬態しているシル・フローヴァこと女神フレイヤ。
「調査やら根回しやらで時間を食われたからな」
「外部の警備にガネーシャ・ファミリアの団長まで出張っていた。どうやら連中も騒ぎが起これば乱入し証拠の一つでも見つけたら検挙する気みたいだね」
そこまでガネーシャ・ファミリアが動いている程に、テリー・セルバンティスに扮したテッドやらはやらかしているのだろう。
本部の連中の到着も間近とはいえ、時間との勝負になりそうだ。
「厄介だな」
「まったくだ」
幸いなのは、見る限りリュー自身はそこまで賭博に強い方ではないことか。
シルの神の視点による観察眼は厄介ではあるが、対人戦の賭け事以外で馬鹿勝ちするには『幸運』も必要だからな。
そう、とんでもない『幸運』持ちでもいない限りは。
「ま、待ってください!?僕、やっぱりいいですっ、帰らせてくださいぃぃぃ!?」
情けない少年の声というか叫びが、よく聞き覚えのある声が耳に入った。
「いたよ『幸運』持ち」
「『疾風』のヤツも大概持ってるよねえ」
リュー・リオン。
冒険者時代に悲劇に見舞われ、心えぐられることも、不幸な出来事も多々あっただろうが、『出会い』と『人の縁』という点では恵まれているエルフなのだろう。
この短期間、ほぼ単独で動いているにも関わらず、目的を達成するまでの道筋が整ってしまうのだから。
「もう放置すっか?」
それでも円満に解決はするのだろう。
少なくともきっかけの夫婦と娘は救われる。
だが、
「裏社会の面子が立たないんだよなあ」
「準備にも手間をかけてしまったしね」
まあ依頼だし、出来る限りはするか。
テッドが貴賓室に、俺達かリュー達のどちらを先に招くかが、ヤツの末路を決定づける。
それもまたコイントスのような賭けだ。
「しかし、アンタの息子はなんでここにいるんだい?」
「招聘状ないと入れない場所だよな此処?あと息子じゃねえよ俺はまだ19だ」
アイズやティオナ、あとはオッタルなんかなら招聘状は送られそうだが、アイツらがベルをカジノに連れてくるのだろうか?
「だから、僕は春姫さんの為にお金を稼がないと。彼女の夢を応援してあげたいんですぅ。というか、こんな華やかで女の人もいる場所に来たことがバレたら、また神様や皆に怒られて」
「娼婦の身請けかあ?若いのにやるじゃねえか」
「あらん、積極的な子ねえ」
「意外だな」
「み、身請けだなんて、そんなんじゃありませんよお!?」
明らかに周囲から浮いている、レンタル品であまり質の良くない燕尾服に身を包んだベル。
だがこの服に着られてる感が初々しさを強調し、ショタ趣味な神々(ついでにシルに扮したフレイヤ)はジュルリとヨダレを垂らしていた。
そしてそんなベルの側にいる連中は、18階層でヘルメスに唆されてやらかした冒険者モルドとその仲間達だ。
彼らも一応は燕尾服を着ているが、如何にも冒険者らしい顔つき体つきをしているので、ベル以上に場違い感じが半端ない。
「アイツらレベルの冒険者でも入れるんだな」
「大手でもないと招聘状は来ない筈なんだけどねえ」
そして実力者はカジノよりダンジョンに潜る方が遥かに稼げる為、客として来る冒険者は稀である。
モルド達はレベル2に成り立てのベルを妬む程度の第三級冒険者。所属するファミリアもそこまでのランクではない筈だが。
「とにかく話しかけるか」
「この間は逃げられたから反応が楽しみだよ♡」
ベル以外にもモルド達も気になるので、俺はそちらへと向かった。
ちなみに常連らしい、現ギルド長であるロイマンの姿はなかった。
ここより最近は別の店にハマってるらしい。
今話は、ゼノンのカジノ到来からベル登場までです。なるべく早く動いたイシュタルですが、リューの人脈とシル・フレイヤのサポートが半端なくパッティングしてしまいました。
ゼノンは賭け事に興味がありません。
金ならもっと楽に稼げますし、大半のゲームが身体能力と観察眼でなんとかなりますから。
ルーレットのアルマジロ。
ドラゴンクエストアベル伝説ネタです。
アベルをあえて大勝ちさせてから最後に毟り取ろうとするディーラーのやり口が見てとるました。
ベルの春姫身請け。
ベル本人はそんな意図はなく、あくまで夢を応援したいだけです。またファミリアのメンバーを増やしたいという思いもあります。
モルドと愉快な仲間達。
なんか仲間の一人が、オーバーロードの裏組織の幹部の娼館担当に似てたのでオカマ口調に。
ちなみに彼らがカジノにいるのは、それだけカジノにお金を落とす上客だからです。