ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
書けました。
貴賓室への扉をくぐった先は先程までいたホールとは一転してもの静か。ホールに見劣りしないほどの広間ではあるがホールとは違い客がごった返すことはなく(それでも普通のカジノより上品だが)空間を贅沢に使っていた。
黒服の給仕と華麗なドレス姿の美女達が、オーナーのテッドが言う所の冒険者風情が会うことすら叶わない金満家な客達を饗していた。
最大賭博場『エルドラド・リゾート』が貴賓室。世界の中心とされる迷宮都市オラリオで最も金が動く場所、最も欲深き者達の社交場。
(こんな連中に成りたかったんだよな)
外の富者よりも仕草も身嗜みも1段階上の招待客を見ながら俺はそう思った。
全てが欲しかった過去の自分。
その欲しかったモノの一つが、成りたかった存在の一つが此処にはあった。
(もうどうでもいいがな)
しかしそんな成りたかったモノを見ても今の俺の心は動かない。あの焦燥に似た身を焦がすような欲望はもう感じない。
こんな場所もある、こんな連中も居る、と欲しいものが手に入った今ではすっかり割り切れていた。
「さぁ、こちらのテーブルへ」
ドレス姿の見目麗しい美女、美少女達。おそらく、いや間違いなくテッドの戦利品である今回の面倒事のきっかけに目を向けたところで、席へと促された。
テッドが案内したのはカードゲームを楽しんでいる者達の席。親しげな様子からテッドの古くからの知り合い、お仲間のお零れを貰っていた存在なのは明白で、つまりは今頃全力で進軍している裏社会の面々のターゲットだ。
「今夜も楽しませてもらってますぞ、オーナー」
「ところでそちらの方は?」
「紹介します。今宵初めて我々どもの店に来られた、冒険者のゼノン。お隣にいるのはイシュタル・ファミリアのアイシャ殿です」
「紹介なんざいいわ。愉しいゲームはまだかオーナーさんよ」
あえてチンピラ然とした態度を取る。
一儲けし図に乗った冒険者、つまりコイツラにとってカモであるアピールは必要だからだ。
アバン先生に躾られた身としては場に合った態度を取らないことに抵抗はあるが、この場合は仕方ないだろう。
「クッ」
そんな俺の態度がツボに入ったのか纏わりつくアイシャが喉を鳴らす。
ビキリ、と笑顔でこちらを迎えていた招待客達も下等な存在であると見下している冒険者による舐めた態度に表情を変えぬまま器用に憤る。
貴族、大商会の主などの金満家な連中にとって冒険者など如何に功績上げようが魔石を掘る炭鉱夫、労働者に過ぎないのだろう。
「おっさん達よりこの綺麗所達を紹介しろよ?視界に入れんなら美しい方がいいからな」
美しいが感情の無い人形のような所作の戦利品達について触れる。
もはや爆発寸前のテッドは、なんとか外面を保つ為に自慢をすることにした。
「彼女達は私の愛人、俺の物だ。自分で言うのも何ですが多情な私めの求愛に真摯に応えてくれてね」
真摯って言葉を辞書で調べ直してこい。
そのツッコミを我慢していると、上機嫌になったテッドは独り占めしたら女神がどうとか自慢話を続けている。
つまるところ単なる自慢で下品な見せびらかしである。コレクターという人種は収集物に問わず所有し眺めて愛でるだけではなく、所有していることを他者に知らしめ持っている自分は凄いと見せたがるものなのだ。
「ふーん、色んな種族の美女美少女が居る見てえだが女神は居ねえのな」
だからこそさらに煽る。
カジノのオーナーに成り代わった底辺詐欺師の成功の証であるコレクション。あらゆる手段を講じて強引に手に入れてきた様々な種族の美女・美少女にいない存在があると告げる。
テッド本人もいずれはと狙っている獲物ではあるが、まだ収集できていない。
そしてその言葉によりテッドはさらに苛立つ。コレクターにとって一番腹立つことは自慢のコレクションを大したことはないと馬鹿にされることなのだから。
「綺麗所が揃ってるけど、やっぱ女神と比べたら格が落ちるよな」
「チッ」
煽りを重ねてテッド達を怒らせる。
リュー・リオンやシル・フローヴァのようなわかりやすい餌が無い俺では向こうからゲームを持ちかけさせる必要があるからな。
「そろそろお楽しみのゲームを始めるとしましょう」
「お、やっとか」
顔を真赤になりつつも強引に笑みを浮かべるテッドが切り出してきた。
それを俺はウキウキした態度を装って勢いよく席につく。
「ですが、ただの遊戯ではつまらないと思いませんか?」
「当然だろ?だからアンタみたいなおっさんの誘いにのったんだしな」
「(ギチリっ)賭博に勝った者は敗者に願いを聞き入れてもらう。勝者は求めるものを手に入れる。それでどうだ?」
「アンタらから欲しいもんなんてねえけど、まっリスクが高いのはやる気でるな」
・・・・・・でるわけないだろうに。
リスク?命懸けの戦いに身を投じてきた身として、賭博場でのリスクなど大したものではない。
なにせ生物として最大のチップ。命を常に賭けてきたのだから。
「じゃ、アンタらは何が欲しいんだ?」
予想はつくがそう返してやる。
「全てだ」
「あん?」
「我々のような高みに座す存在からすれば冒険者風情の持ち物など大した価値はないが、対価として貴様の持つ財産、技術を全てよこせ」
「へえ」
煽りまくった結果ずいぶん大口叩くじゃねえか。本来の予定ではコイツラの取引先が欲しがるアイテムや動く石像の作成を持ちかけるつもりだったろうに。
「ついでに貴様の主神であるあの芋臭い女神も貰おうか?私のコレクションに比べたら大したことはないが、一応女神は女神だしな」
ブチリ。
自分で煽っといてなんだが、付け足されたその言葉に今度は俺がキレていた。
勝手は承知だが腹立つもんは腹立つのだ。
「いいぜ。
じゃ、俺もテメェらの全部を頂くわ」
激情を堪えながら了承する。
あの連中が到着するまで適当に遊ぶつもりだったが、徹底的に潰すか。
ヘラヘラした笑みを貼り付けて手段を選ばず遊戯をすることに決めた。
ゲーム内容はポーカー。
参加者はオーナーであるテッドと愉快なお仲間達。既に処刑台に足を踏み入れるどころかガッツリ乗っている連中にトドメを刺すとしよう。
さぁ、ゲームの時間だ。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
ゲーム開始から五回目のロイヤルストレートフラッシュ。特殊札を加えた最強手役を俺は容赦なく出し続ける。
「「「「「はああああああ!?」」」」」
賭博の類はカードの枚数、プレイヤーの数、順番などから数学的に確率計算が可能だ。
否、数学という概念を知らずともそう簡単に揃わない手役などは誰にでもわかる。
だからこそポーカーで手役により強弱が成り立つのだから。
「んだよ、どこが面白えゲームだ。
つまらねえじゃねえか」
退屈だと全身で示しながらそう告げる。
そのありえない手役の揃い具合にテッド達から3回目の段階でイカサマと騒がれもしたので、今の俺はタキシードを脱いで上半身シャツ姿だ。
ポーカーのイカサマと言えば手札カードのすり替えが基本。服の袖、リストバンドなどにカードを仕込みそうとわからないように手札と入れ替えるのだ。
だからそれを防ぐために脱ぐように告げられ(脱衣ポーカーか?勝ってるのは俺なのに)、俺は余裕たっぷりの態度で受け入れた。
鍛え抜かれ引き締まった地肌すら見えるタンクトップタイプのシャツ姿の俺を見た周りの女達が頬を赤らめ、アイシャが興奮から唇を舐める中、それでも俺は続くゲームで最強手役を出し続けた。
「勝ってばっかで面白くねえから、もうお前ら手を組んだらどうだ?
そうすりゃ少しは楽しめるだろ」
これもまた挑発だ。
ポーカーで手を組む。
手札の情報を共有する。
カードの枚数が限られているポーカーにおいては枚数が多いだけで有利なのだ。
そしてこれが挑発になるのは、テッド達がディーラーとゲストを含めた全員で最初から手を組んでいるからだ。
手合図、目配せ、発言の一部、自分達だけでしか分からない暗号を交わし情報共有し、最も強い手役の者が獲物を負かしにかかる。
それがテッド達の必勝法だったのだ。
(ま、関係ないがね)
俺にとってどんなカードがこようと問題はない。ゲームをする気のない俺は手段を選んでなどいないのだから。
「ず、ずいぶんと運に恵まれているのですな」
もはや青ざめて冷や汗を掻き出すゲストの一人が震えながらそう言った?
「勝利の女神ってのは良い男にしか靡かねえのさ」
なんとかイカサマを見破ろうと必死みたいだが意味はない。
せめてフィン・ディムナレベルの目の利く熟練の冒険者が居れば別だったろうが、護衛だか荒事担当だかのテッドの背後に控えるヒューマンと猫人の男達程度は無理だ。
「ほれ勝ちだ」
もはや配られた手札すら見ない。
俺がテーブルに広げた配られたカードをそのまま裏返せば、
「ロイヤルストレートフラッシュ!?」
「やっぱりつまんねえな、賭博」
ベルのような天然の幸運で揃っているのではない。当然イカサマで種も仕掛けもある。
手役の確認が視覚のみであるカードゲームなどカードの柄を変えてしまえば確実に勝てる。
種は幻霧呪文マヌーサをカードの表面に貼り付けるだけ。カードを魔力を弾くように加工していなければ防ぎようがない。
手役に矛盾がないように連中の手札をシャドーで確認しているから同じカードが被ることもない。
「馬鹿なああああ!!」
「馬鹿はテメェだよ」
ありえない敗北に絶叫するテッド。
冒険者と遊ぶならばせめて同レベル、同じだけの実力がなければ成り立たない。
ましてや知らないモノを見破るのならばより慎重に注意深く観察しなければならない。
勝ち確定だと驕り高ぶる連中にそんな緊張感を持つなんて不可能なのだ。
「さーてどうすっかな?」
予定より早くゲームは終わった。
徴収でもするかねと立ち上がった所で、
【ご到着されたようです】
タイムオーバー。
見張らせていたシャドー達が終了を告げた。
「愉しいお遊戯、いやお芝居も終わりだよ」
唾を飛ばし叫びながら護衛であるならず者冒険者をけしかけてくるテッドに向けて哀れみを込めて呟いた。
「闘魔滅砕陣」
とりあえず拘束はしておくか。
大魔王バーンの影、魔影参謀ミストバーンが必殺技。光の闘気を扱えなければどうしようもない、これだけで今のオラリオにいる冒険者達に勝てそうな妙技。
蜘蛛の巣、網の目状に暗黒闘気の糸を広げ、砕き殺さないように力加減をしてテッドを含めた共犯者共を捕らえるのであった。
補足・説明。
闇のゲーム的な駆け引きを期待されていた方はすいません。作者はそこまでおつむの出来がアレなんで。
マヌーサでこんなことできるのは当作オリジナルです。ただ魔力の類はステイタスで身についてないと察知すら出来ない設定です(リュー・リオンが居たら違和感を感じた)。
なおホールでは面倒だからやらず普通に勝ってました。
次回は後始末です。