ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
エルドラド・リゾート編のエピローグです。
あと1話やります。
悪党の末路とはいつだって無残なもの。
踏み躙ってきた者達の痛みが因果応報とばかりに本人へと返りズタボロとなる。
そして善人とは違い悪党には手を差し伸べて救ってくれる存在などいない。
悪党の付き合いに情などなく、近しい間柄の者達は勝ち続け利益を提供しているからこそ擦り寄り親しげに接するのだ。
ダイやアバン先生ならば手を差し伸べたのだろうか?ふとそんな疑問が湧き上がる。倒れた敵に手を差し伸べる彼らならばあんな連中にすら慈悲をみせてしまうのかと。
いや、考えるべきではないか。
テリー・セルバンティスに成り代わったテッドはかつて正義を掲げるアストレア・ファミリアに慈悲をかけられた。やり直す機会を与えられたのだ。
それを無碍にし唾を吐くように悪事を成した存在などにあの人達は関わるべきではない。
善意が届かなかった虚しさを抱きながら俺は到着した者達の後始末を眺めていた。
娯楽都市から派遣された武闘派に連行されていくテッドとその仲間たち(ついでに暴力担当の二人組、なんでも裏社会で有名な腕利きだったらしく裏の賞金首らしい、本人達は名前を騙っているだけと泣き叫んでいたが無視されている)、はギルドやガネーシャ・ファミリアに捕まれば良かったと思うような最後を迎えることになるだろう。
「俺はどんな末路かね?」
自分が悪党である自覚はある。
だからきっとザボエラやキルバーン(ピロロ)のような最後になると思う。
まあ一度黒のコアで爆散したから、二度目もそんな感じかもしれないが。
「お前らはこっちだ」
闘魔滅砕陣で捕らえたテッド達(抵抗したのでいくらか骨は折れてた)の連行が終わったら次。
強面な黒服達にテッドの戦利品である美姫達が誘導される。開放されると喜ぶ者達もいるが、顔面が蒼白となる者達もいる。
そう、この場合は蒼白となる者達の予想の方が正しい。
今回の俺達、イシュタル・ファミリアを含めた繁華街と歓楽街の上役の目的はギルドとガネーシャ・ファミリアの介入を防ぐこと。
すなわち事件を、迷宮都市オラリオ最大のカジノ『エルドラド・リゾート』の経営者が成り代わられていた事実を無かったことにしたいのだ。
裏社会とは何よりもメンツが大事。
ゆえに彼女らの被害もまた表沙汰にならない。
貴賓室に招かれたテッドの共犯者ではない客(薄っすらと事情は察しているだろうが)はいくつかの事情説明と口止めの取引で開放されるが、戦利品たる美姫達はそうもいかない。
中には高貴な家柄の者もいるが、今回の騒動のきっかけとなったアンナのように容姿こそ美姫と呼ぶに相応しいがそこまで裕福ではない者も多い。
ゆえにこれから彼女達がどうなるのか、それはあまりにも明白に過ぎた。
(・・・・・・ほっとくのも寝覚め悪いか)
幸いなことに今の俺はなんとかできる立場だ。裏社会の道理を踏まえても彼女らを救える。
トラブルを防ぐという建前もある。
ホールにいる二人が助けようとしている娘達の為に駆けつけてくるのは間違いないからだ。
裏社会にとってギルドやガネーシャ・ファミリアより警戒・恐怖されている存在、『疾風』リュー・リオン。彼女の存在をチラつかせれば向こうも引き下がるだろう。
そして何より個人的にも気分が悪い。
だから少しばかり手間だがなんとかするとしよう。
「ちょいまち」
リーダー格である黒服に声をかける。
「なんでしょうゼノン様」
その人物は神の恩恵の気配する中々の実力者。そんな男は自分達のこれからしなければいけないことに不快そうに見えた。
その反応にこれはいけるなと踏んだ俺は取引を持ちかけることにした。
「今回の件で俺はアンタらサントリオ・ベガから報酬を頂ける予定なんだが?」
後始末最中に報酬要求。
その不躾な所業に黒服達が顔を顰めるが、リーダー格となれば表情にすらださない。
「後日改めてお支払いいたしますが」
淡々と事務的に回答される。
そもそも報酬内容すら決めてないのだから後日なのは当たり前だ。だから、
「その報酬だけど・・・・・・」
俺はこれから口封じされる予定の美姫達を指差しながら告げる。
「そいつらでいいぜ」
「「「「「!?!?」」」」」
美姫達だが、驚く者、絶望する者、軽蔑の眼差しを向ける者、救いを求める者、意図に気づいた者と様々である。
「・・・・・・よろしいので?」
けれどこの提案に、誰よりも目の前のリーダーが救われたような眼差しを向けてきた。
誰だって口封じなんかで罪なき美姫を始末なんてしたくないのだから。
「イシュタル・ファミリアもウチ(ヘスティア・ファミリア)も人手が足りてなくてな」
イシュタル・ファミリアは娼婦はアマゾネスや流れてくるベテランで足りるが、ナデナデ屋などの事業拡大により手が足りていない。
また、アマゾネス達が襲って食ってしまうので男性従業員を雇えない。
掃除、洗濯、炊事、給仕、仕事はいくらでもあるのだ。
なおウチ(ヘスティア・ファミリア)だが俺が創り出した『モンスター』手は充分過ぎる程ではあるが『人』手は足りていない。
人がいないのにピカピカと綺麗な館なんて不自然過ぎなのでガチでメイドを雇って誤魔化す必要がある。
「それならば、お願いいたします」
リーダーは実直な態度で頭を下げ、テッドの金庫から取り出してきた美姫達に関わる書類・債権の類を差し出してきた。
そしてさらに一度深く頭を下げると手早く次の作業へと取り掛かる、有能だな。
自らの心情だけではなく、有益な取引先となる俺の不興を買わないほうが組織の為になると計算しての選択なのだろう。
受け取った書類に軽く目を通す。
どうやらテッドは幸福な家族を台無しにする趣味があったらしい。
どんな取引があったのか目で追うだけでその悪趣味ぶりが読み取れる。
これならば美姫達にテッドの協力者などいないだろう。綺麗なモノを汚したい(つーかこれアストレア・ファミリアに追われたことがきっかけで開花した性癖じゃね?)のであって美姫達の中にテッドの共犯者はいないようだ。
ただ、騙され嵌められ脅されやむなくとはいえ家族に借金の形にされたのは事実。
そんな家族の元に帰りたいのかは、血縁者の存在を知らない俺には推し量れない。
「あ、あの」
「ん?」
さて美姫達にどう話すべきかと悩んでいると、まだこの場にきたばかりの娘、アンナ・グレーズが勇気を振り絞ったような様子で声をかけてきた。
「わ、私達はどうなるのでしょう?」
その目には警戒と恐怖、さらには落胆?の色が見えた。あらためてその顔を見てそういえばこの娘とは面識があったことを思い出した。
食堂でのバイト、市場での買い出しで見たことがあるのだ。
(もっと早く気付けよ)
多忙だったのは間違いないが、顔見知り(町ですれ違う程度)が不幸になっていたことに気付かないとはあまりにも情けない。
「あー、お前らは個人の財産とかあるか?」
アンナだけではなく美姫達全員にそう問いかける。テッドが与えた彼女らを着飾らせるドレスや装飾品は彼女らの財産になるのだろうか?
屋敷に囲われた愛人の扱いなんて貴族ではないから知らないのだ。
「いえ、その物は都度与えられるだけですので」
彼女達からいくつか説明を聞く。
食事の類は豪勢ではあったこと。
普段着はいくつか与えられている、
ドレスや装飾品類は、給仕やテッドとのアレの前に渡されていた。
個人的に欲しい物は借金に加算されていた。
「・・・・・・おう、ありがとな」
なんとも自由のない生活ということだけは理解できた。
「そんじゃ、お前らの今後だが」
メラと唱え指先に小さな火球を浮かべる。
「帰る家と手段がある者はここで解散。
金がない者は俺がだすから準備して帰れ。
帰りたくない者はイシュタル・ファミリアでの仕事を紹介してやる、ああ娼婦以外にも仕事はある、なんなら恩恵貰って冒険者やるのも有りだ」
「「「「「「「え?!」」」」」」」
その言葉に美姫達、ついでに周りの黒服や金持ちも驚く。
オラリオの住人ならそのまま帰れるし、渡す資金はカジノでの勝ち分で充分足りる。
家族に思うところがあり帰りたくない者は、まだ若いんだし(多分)第二の人生を始めるのもありだろう。
「あの・・・・・・それって」
「んでコレは、もういらねえな」
渡された借金の証文。
彼女達の人生を縛る紙切れ。
経緯はどうあれ支払い義務のある正式なソレを火球を押し当てる。
見た目に反して威力はメラゾーマ級(大魔王バーンのこれは余のメラだ発言は敵ながら格好良かった)の火球はボウっと一瞬で証文の束を灰と化す。
「ただし、今回のテッドの件は秘密だぜ?」
俺が美姫達をカジノの勝ち分で買い取った。
表向きはそうする方が都合良い。
「ゼノンさん」
いたずらっぽく笑う俺に、アンナをはじめとした幾人もの美姫達は頬を赤らめるのであった。
その後一旦解散。
彼女達に与えられた部屋の荷持つやら着替えをまとめさせにいった。
客である金持ちの中にはそんな彼女らを手に入れようと画策してる者もいそうだが、そこは黒服達が牽制してくれている。
できれば一度イシュタルの庇護に入ってくれることが望ましい。
歓楽街の女主人の眷属に手を出す者はそうはいないのだから(あと自衛の為に戦闘力もあると良い)。
ちなみに、何人かは俺の愛人を希望する者もいたがそれは丁重に断った。
んなことしたらヘスティア達に叱られること間違いないからだ。
「ん?」
もう終わりでこの後どうするかと考えていたら、カツカツと足音がした。
あえて音を立ててこちらの注意を引いたようだ。
「どうやら私は・・・・・・貴方のことを誤解していたようだ」
「もー、だからそう言ったじゃない」
現れた二人は、変装して貴族夫婦を装っていたリュー・リオンとシル・フローヴァ(フレイヤ)。俺の賭けが始まった辺りからこっそり侵入して様子を窺っていたようだ(気づいてはいたが、だって美姫を引き取ると言った時に殺気飛ばされたし)。
申し訳なさそうに頭を下げるリュー・リオン。知らぬ振りして帰ることもできたのにわざわざ謝罪しにきたらしい。
「気にしなさんな。イシュタルから頼まれなければ何もしなかったしな。
夫婦の話を聞いて動いたお前さんとは違うよ」
自分は何もできなかった。
そんな風に落ち込んでいるリュー・リオンに俺はそう告げる。
ぶっちゃけイシュタルからしたら迷惑でしかない動きだがそれでも美姫達をこれからの被害者を救うことになったのは、彼女が動きだしたからなのだから(それぐらい悪名高い『疾風』に何もして欲しくなかったらしい)。
「フッ、その露悪的な態度。
かつての仲間を思い出しますね」
「・・・・・・・・・正義の神の眷属だよな?」
どんな仲間かは知らんが、俺ほど正義とかけ離れた存在はいないと自負しているが。
「だからこそ私は、貴方が苦手で嫌悪していたのでしょう」
好ましくない男が大事な仲間と似通う所がある。それは確かに不快だわな。
「好き嫌いは誰にでもあるだろ」
俺も潔癖なエルフは苦手に感じていたからな。取り繕い勇者や英雄を気取っていた昔なら耐えられたが、今の自分では面倒に感じるのだ。
「なんでクラネルさんがあんなにも貴方を慕うのか、今ならわかりますよ」
なんで慕うのか俺はわからねえんだけど。
ダイといいポップといいベルといいリリルカといい、まっすぐに慕われてこっちが直視できねえよ。
「流石はお義父さんですねえ〜」
「お父さんじゃねえよ、俺はまだ十九だ」
シル・フローヴァのからかいの言葉に俺はいつものように返すのであった。
あと今、お父さんのニュアンス違わなかった?
仕事も終わり気の緩んだ俺達はそう笑い合うのであった。
(あとはベル達を拾って帰るか)
『豊穣の女主人』に働くもので何かとソリの合わなかったリュー・リオン。
この一件でその関係は改まることになった。
娼館通いには苦言を呈されるが、そこはほら生真面目だから個性のウチだろう。
だが俺は、
後に彼女から「息子さんをください」と頭を下げられることになることを知る由もないのであった。
「あ、あの人達をメイドに雇うなら私も雇ってくださいね」
「(毒殺されたくないから)嫌です」
そして数日後、裏社会で猛威を振るっていた『賞金稼ぎ』と『暗殺者』である『黒拳』と『黒猫』を討伐したと娯楽都市にて正式に発表され、オラリオのとある酒場で働く二人(本物)が驚きの叫びを上げることになる。
補足・説明。
テッド達の末路。
あえて描写はしませんでしたが、財産回収からのブラックラグーン的な末路です(あの双子が玩具にするような感じ)。
報復ザマァは作者も好きですが、最近はな◯うでもカク◯ムでも描写が過激でして食傷気味なのです。期待されていた方はすいません。
ただ原作より酷い目にあったのは間違いないです。
テッドの愛人達。
原作ではギルド・ガネーシャ・ファミリアに保護されたので手厚い保護を受けて帰れましたが、危うく口封じされるとこでした。
またもう家族と関わりたくない人もいるかなと。
帰りたい人はゼノンの勝ち分で帰れるのでカジノとしても費用が浮いて助かってます。
イシュタル・ファミリア眷属になる人もいて、愛人を断られた人は娼婦としてゼノンに関わる気です。
リュー・リオン。
どうするか悩みましたが、関係改善に展開をシフトしました。
これからは今までよりは親しくなります。
黒拳と黒猫(本物)。
今回一番の被害者。
なんか世間では死んだことになりました。
あと1話ベルとの話をやって、この章を終わらせます。