ダンジョンにダイの代わりに爆死した兄弟子がいるのは間違っているだろうか(なおヒュンケルでもポップでもない) 作:規律式足
エルドラド・リゾート編の締め回です。
「さてベルはどこだ、と」
貴賓室でのアレコレ(というには大事過ぎるが)を終えた俺はもう帰るとベルに告げるためにホールを見渡した。
オーナーの偽物が捕縛されるという大騒動があったにも関わらずホールの一般(オラリオ内でも限られた存在)エリアは来店した時と変わらない喧騒のままだった。
これがガネーシャ・ファミリアによる大捕物だったら話は別だろうが、この件は何よりも発覚しないことが重要だからだ。
また同時にテッドのやらかしはごく一部の職員のみが関与していた証拠でもある。全員がグルならばここの職員も逃げるなり騒ぐなりしていただろう。
イシュタル・ファミリアで立場の高いアイシャは貴賓室で美姫達の指示をしているので、背後に貴族夫婦へ変装した酒場の店員二人組を引き連れて移動していた。
「お、いたいた」
ベルはリュー・リオン達の元金を稼いだ時のルーレットをそのまま続けていたようだ。
「?」
だがその姿を見て、正確にはベルの前の持ちチップを見て俺は疑問を抱いた。
あのまま稼ぎ続けたにしてはチップの山が妙に少ないからだ。
如何にベルの幸運であれ負けてしまったのか、ディーラーが何やら手を打ったのか気になったが、とりあえず声をかけることにした。
「おい、ベル」
「ゼノンさぁん」
俺に気づいたベルが涙目の表情をコチラに向けてきた。
「どうした?そんな顔しても変態が喜ぶだけだぞ」
涙目でプルプルと震える兎のような美少年。ショタ好きな連中には垂涎の逸品だ。
ただでさえそういった趣味の神々(そもそもコイツラが持ち込んだ文化らしい)が多いのだから、もっとキリッとした方が良いだろう(それはそれで需要がある)。
「ハァハァ、駄目ですよベルさんそんな表情したら、もっと鳴かせたくなるじゃないですかぁ」
「な、なんだこの感覚は。今のクラネルさんを見ていたら胸が高鳴ってしまう」
「もう帰れお前ら」
変態、止まれ。いや失せろ。
「うう、ゼノンさん。
僕は、僕は、さっきから」
『またまた的中!!【リトル・ルーキー】の連勝記録、またまた更新だあっ!!』
「勝ち続けるのが止まらないです」
「やっぱ反則だな【幸運】」
幾多の冒険者のサポーターを経験したリリルカから、ベルのアイテムドロップ率は異常とのこと。ダンジョンでもそうなら賭博をしたらこうもなるか。
賭けるチップは少なく、賭ける場所も赤か黒のどちらかにしているそうだ。
一目賭けなどしていないからそこまで儲けなかったのだろう。
近くのテーブルで【リトル・ルーキーはいつまで勝ち続けるか】で賭けすらおきるほど勝ち続けてるのにディーラーが強制終了させない程度でおさまっているのだから。
とはいえ少ないとはいっても一般庶民からしたら一攫千金と呼べるほどに稼いでいる。ただ周りの富豪達からしたら小遣いで済む額というだけだ。
(でもアレから勝ち続けたにしては少ないよな?)
疑問に首を傾げていたら、そういえばベルを誘ったモルド達が居ないことに気がついた。
「あ、モルドさん達もカジノを楽しみに行きましたよ。チップはその時の僕の勝ち分を四等分しました」
「ベルのチップ量の理由とオチがわかったわ」
四等分して稼ぎ直したらこの程度だよな。
そしてモルド達がどうなったかは想像するまでもないわ。
換金してから四等分すれば良いものを、いやアイツラも儲けにきたのではなく楽しみにきたから我慢できないか。
「それでなんで涙目なんだ?」
「・・・・・・こんな大金をあっという間に稼いで怖くなっちゃって」
「心が小市民過ぎるぞ」
ベルがガクガクプルプル震えてる理由は、思わぬ大金を得てしまったかららしい。
「だってゼノンさん。神様の時給三十ヴァリスなんですよ?神様が何日も働いても稼げないお金をこんなあっさりと得てしまうなんて・・・・・・怖いです」
「言ってやるな、ヘスティアとついでにタケミカヅチが泣くぞ」
言われてみればそのとおりだが、金ってのは動かした額が大きいほど転がるもんなんだよ。
「それに僕って行商人さん相手にぐらいしかお金使わないような田舎出身ですから」
「地方の村々は物々交換が基本だからな」
金は便利だが使わない場所や場面も多い。
都市部には必須ではあるが金が一般流通してない場所もザラにあるのだ。
「だからこんな大金を持っているかと思うと落ち着かないんです」
ダンジョンの稼ぎも一攫千金だろうにと思ったがそちらは命懸けの戦いの結果だからまだマシだそうだ。
冒険者としてそんなんで大丈夫かと思うが、この反応ならカジノにハマることはないだろう。
「んじゃ、俺は要件すんだし帰るわ。お前はどうする?」
「帰ります!!置いてかないでぇ」
その言葉にベルはとびつくように反応する。
「「「「「え〜〜〜帰るの?!」」」」」
残念そうな客達を振り払い、チップを換金してくれとディーラーに頼んで俺達はルーレット台を後にした。
「あ、モルドさん達は?」
帰ろうと受付に向かうとベルが自分を強引に連れてきた三人組のことを気にしだす。
「ん?ああ、連中なら多分すぐに会うだろ」
ベルの勝ち分で賭博。
となればどうなったかは明白だ。
「?」
「ほれ」
そしてエルドラド・リゾート玄関。
通行するためのゲートとチップ換金の受付に、アイツラはいた。
三人揃って堂々と雄々しく両腕を組みながら立っていた。
・・・・・・パンツ一丁姿で。
「・・・・・・だよなぁ」
「モルドさぁ〜〜〜っん?!」
「ランクアップした冒険者様ですから引き締まった筋肉ですね」
「アワワワ」
予想通り過ぎて納得の俺と、驚きの叫びを上げるベル、身体を鑑賞するシル・フローヴァ(フレイヤ)と、男の身体に慣れてないのか顔を赤くするリュー・リオン。
そんなそれぞれの反応の中、モルド達はやりきった、どこか満足げな表情で言う。
「スッたぜ(グッ)」
「一目瞭然だ阿呆」
どうやらディーラー達はベルによる損失回収の為にエゲツないレベルで毟りとったらしい。
エルドラド・リゾート。オラリオ随一の大賭博場の名は伊達ではないようだ。
ちなみにパンツ一丁という普通なら一目引く格好なのだが、賭博場ではよくあることなのですれ違う人々も忍び笑いか自分達は勝つぞと気合を入れていた。
「あー、俺の勝ち分からコイツラのタキシードを返してやってくれ」
つーか毟りとっても需要あるのかタキシード。
「承知致しました」
換金場で職員にそう告げると恭しく頭を下げて、脱ぎたてホヤホヤのタキシードを取りに向かわれた。
「だ、旦那ぁ」
「何気に高かったから助かるな」
「モルドが見栄を張るから」
「エルドラド・リゾート記念だから仕方ねえだろ!!」
普通の冒険者はタキシードなんて必要ないから買うもんじゃないしな。
タキシードが必要なパーティに参加する冒険者なんてオラリオ全体でも一握りだろう。
そんなモルド達の会話を聞きながら、チップをどうするか職員に言う。
余ったチップは受付で保管してもらい次の来店時に使用できるが来る予定はないしな。
「換金してイシュタル・ファミリアに送ってくれ」
とりあえず美姫達はイシュタル・ファミリア預かりとなっている。
ならばその諸経費にまわして貰おう。
「ベルはどうする?」
ヴァリスに換金することもできるし、希少なアイテムや宝石類や装飾品に交換もできる。
「あ、じゃあヴァリスに」
一度いくらか減りはしたがヘスティア数百日分の稼ぎを超えるヴァリスをベルは受け取った。
「追いついたよゼノン」
するとそこに諸々済ませたアイシャが合流した。
「済んだのか?」
「ああ、数日内に全部終わるよ」
俺には抱きつき口づけできそうな距離でアイシャはそう呟いた。
ならこれにて一件落着だ。
「あ、あのっ!!」
あとはベルをウチまで送ってからアイシャとしっぽりと考えていたら、ベルがアイシャに声をかけてきた。
緊張しているのか、けっこう大きな声で周囲の注目を集めてしまう。
「どうしたんだい?リトル・ルーキー、もしやこのあとに三人で・・・・・・」
「「「羨ましい」」」
「あらあらウフフ」
「駄目ですよクラネルさんっ!!」
いやベルがそれをお願いするのはありえないだろ。だから不機嫌になるなよフレ・・・・・・シル・フローヴァとリュー・リオン。
「これで春姫さんを身請けさせてください!!」
ベルはそう叫びながら大金詰まった革袋を差し出すのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・手続きの仕方、きちんと訊いとけば良かったな。
ベル・クラネルはなんとか春姫の夢を叶えて上げようと周囲に注目を集めながらとんでもないことを叫んでしまったのた。
(確かにアイシャはイシュタル・ファミリアでも幹部格で春姫と親しいけどよ)
「プッ、この額なら足りるね。了解」
イシュタル様には私から伝えるよとアイシャは笑いながら受け取るのであった。
「やるじゃねえかリトル・ルーキー」
「リトルなのにやることはビッグだぜリトル・ルーキー」
「歳の割には早熟なのねベルきゅん」
「あらあらウフフ(怒りで周囲が歪んでいる)」
「(ショックで白目)」
明日にはオラリオ中で噂になるな。
やり遂げたことと、大金を手放せた開放感から爽やかに汗を拭うベルを見ながら俺はそう思うのであった。
イシュタル・ファミリア本拠地【女主の神娼殿】。
アイシャはベル・クラネルから受け取った春姫の身請け金を自ら主神イシュタルへと渡した。
「さすがはゼノンの息子、剛毅だねえ」
そう笑いながらイシュタルは春姫の身請け、改宗を含めて了承する。
いくつか条件はつけるが春姫の身請けは渡された額もあって問題はない。
「じゃアタシはこれで」
春姫に一言伝えてやるかとアイシャが席を外そうとするが、イシュタルは少し待ちなと制止する。
「なんだい?春姫に一言告げてからゼノンとやるつもりなんだけど・・・・・・」
と振り返れば、イシュタルは副団長であるタンムズに何やら運ばせていた。
その包みを机の上に置くと覆ってある布を剥ぎ取る。
「それは・・・・・・」
見覚えのある物体。
かつて春姫の為にこの手で壊した物。
変わる前のイシュタルが用意したフレイヤ・ファミリアに対する切り札。
カーリー・ファミリアと同様、用意はさせていたがもうイシュタルには不要になった物。
血のように紅い拳大の宝珠。
その名を【殺生石】という。
「好きにしな」
そう告げてイシュタルはタンムズを引き連れて部屋をでた。
希少な魔法具、否、呪具である殺生石。
財力に任せて二度も手に入れたが、三度手に入れることは不可能。
だから、
「ありがとねイシュタル様」
春姫の為に壊せと言外に告げたのだろう。
そしてそれをアイシャに任せたのはかつてやらかしたことの償いのつもりなのかもしれない。
アイシャは全力で拳を握り、そして力いっぱい振り下ろした。
こうして春姫を縛るものをまた一つ破壊されたのであった。
補足・説明。
これにてエルドラド・リゾート編は終わりです。長くかかりましたがぶっちゃけリューさんの扱いに悩みました。
結果として賭博場にはガネーシャ・ファミリアが踏み込まず、ギルドの影響はでないという形で終わりました。
そしてベル君はモルドさん達(カモ)により利益回収されたので出禁にはなりません。
まあ本人が苦手な為来ないでしょうが。
そして稼いだヴァリスは春姫身請けに使われます。
フレ・・・・・・シルさんはブチギレて、リューさんは気絶してしまいましたが。
最後のシーンはどこにぶちこみか悩んでましたが、春姫移籍前にはしたかったことです。
イシュタルの変わりぶりがよく分かるかなと(あと闇派閥にバレると不味いので処分しました)。
次回は春姫の加入のアレコレから、ロキ・ファミリアによる人工迷宮に移りたいのですが、原作を読み返す必要があるので未定です。